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アンブレラとしての「ネットワーク中立性」の概念-寺田 麻佑「ネットワーク中立性規制の現代的課題」

寺田 麻佑「ネットワーク中立性規制の現代的課題」という論文が、情報通信政策研究に掲載されていますので、ちょっと読んでみたいと思います。

個人的には、「通信の秘密」の分析関係のいくつかの論文を書いていた(総括的なのは、「インターネット媒介者の役割と「通信の秘密」」、詳細なのは、「-ネットワーク管理・調査等の活動と「通信の秘密」-」など )ので、ネットワーク中立性という用語については、興味もありましたし、また、研究もしていました (総務省 「情報セキュリティ対策等の課題への対応のための電気通信サービスの通信の秘密に係る諸外国の法制度等規制の在り方に関する調査研究の請負」(平成26年2月)とかでも、そのような観点からインタビューとかもしています)。

ところで、我が国でも、米国や欧州の議論を受けて、「ネットワーク中立性」の議論がなされるようになりました。その当時、

事務所のブログですが、「ネットワーク中立性講義」として

  1. 背景
  2. エンド・ツー・エンド原則と議論の契機
  3. 米国の議論(2008年まで)
  4. 米国の議論(2014年まで)
  5. 米国の議論 (ゼロレーティングの包摂)
  6.  米国の議論(トランプ政権前)
  7. 米国の議論(トランプ政権の動き)
  8. 日本における通信法との関係
  9. 競争から考える(1)
  10. 競争から考える(2)
  11. 競争から考える(3)
  12. 競争から考える(4)
  13. 競争から考える(5)
  14. ゼロレーティングと利害状況(1)
  15. ゼロレーティングと利害状況(2)

にわけて検討したものです(2017年7月頃)。

上の「日本における通信法との関係」で触れていますが、七つの問題が、「ネットワーク中立性」という概念の中で論じられていることになります。ちょっとイラストにしてみました。

 

 

 

 

 

 

 

ということで、寺田論文を見て、この一連のブログの続きの勉強をしようという感じです。寺田論文は、1.はじめに―ネットワーク中立性の検討の必要性―、2.日本におけるネットワーク中立性に関する規制の検討、3.米国におけるネットワーク中立性に関するインターネット規制、4.EUにおけるネットワーク中立性の規制の動向、5.ゼロレーティングの具体的問題、6.おわりに:今後の検討課題について から成り立っています。これらの内容を見てみます。

1.はじめに―ネットワーク中立性の検討の必要性―

ここでは、

インターネットの中立性とは、一般的には、「インターネット上を流通するさまざまなトラフィックの『公平な』取扱いの保証」といった意味で考えられている。また、ネットワーク中立性の提唱者のTim Wu教授によれば、ネットワークの中立性(ネット中立性ともいう)は、ネットワークの提供者(アクセスの提供者やネットワーク事業者)が、すべてのインターネットトラフィックを平等に取り扱うこととされている。このネットワーク中立性について、現在、世界中で検討が進められている。

という定義が紹介されています。そして、オバマ政権、トランプ政権、バイデン政権の動向について簡単にふれられていて、

本稿においては、ネットワーク中立性を巡る日本における検討状況や現状を確認した後、米国におけるネットワーク中立性規則の撤廃に至るまでの経緯及びその後の動向、関連するEUの規制をみることによって、ネットワーク中立性を巡る規制の現状と課題に関する検討を行う。

という問題提起です。

2.日本におけるネットワーク中立性に関する規制の検討

ここでは、通信の秘密の規定(電気通信事業法4条)、また、不当な差別的取扱の禁止(同法6条)への簡単な論述がなされたあと、

  • 「IP化の進展に対応した競争ルールの在り方に関する懇談会」(座長:林敏彦放送大学教授)
  • 「ネットワークの中立性に関する懇談会」(座長:林敏彦放送大学教授)
  • P2Pネットワーク実験協議会(会長:浅見徹東京大学大学院情報理工学系研究科教授、総務省はオブザーバーとして参加)
  • 「帯域制御の運用基準に関するガイドライン」
  • 「インターネットのサービス品質計測等の在り方に関する研究会」

などが紹介されています。これらの研究会は、総じて

①消費者が、ネットワーク(IP網)を柔軟に利用して、コンテンツアプリケーションレイヤーに自由にアクセスすることが可能であること、②消費者が、技術基準に合致した端末をネットワーク(IP網)に自由に接続し、端末間の通信を自由に行うことが可能であること、③消費者が、通信レイヤーおよびプラットフォームレイヤーを適切な対価によって、公平に利用することが可能であること

という見方をベースにしていて、(日本的には)通信の秘密とかの論点も「ネットワーク中立性」の重要な議論なんだけどなあ、という私の立場からは、不十分な検討に見えたのを覚えています。

そして、2018年から2019年にかけての検討が紹介されています。「ネットワーク中立性に関する研究会」(座長:森川博之東京大学大学院工学系研究科教授)になります。

もっとも、この検討事項は、

(1) 電気通信事業者、コンテンツプロバイダ、オンライン・プラットフォーマー、利用者など、関係者間におけるネットワーク利用及びコスト負担の公平性の在り方
(2) 新たなビジネスモデルに適用されるルールの明確化
(3) 利用者に対する情報提供(透明性確保)の在り方
(4) その他

ということだったので、広範な「ネットワーク中立性」の概念を幅広く洗い出して、国際的に分析するというものではありませんでした。それでもって、寺田論文において、具体的に検討がなされています。具体的には

  • 2.2.1.ネットワーク中立性検討会(2019 年)中間報告書の内容
  • 2.2.2.ゼロレーティングやスポンサードデータに関して
  • 2.2.3.モニタリング体制の整備とトラヒックの効率的安定的処理のための体制整備
  • 2.2.4.共同規制と国際会議の場への提案

などです。

3 米国におけるネットワーク中立性に関するインターネット規制

これについては、私の上の「ネットワーク中立性講義」でも触れているところです。バイデン政権の成立とネットワーク中立性規則の復活の予定(3.6)が、個人的には、興味深いところではありますが、寺田論文においても、あまり詳しく触れられているというわけではありません。

4.EU におけるネットワーク中立性の規制の動向

これは、上の「ネットワーク中立性講義」では触れていなかったところです。ちなみに、令和2年度の総務省の調査では、ネットワークセキュリティにおけるISPの役割の報告書をまとめましたが、そこでは、検討しました(これは、追って、エッセンスは、ブログにしましょう)。

基本的には、オープンインターネット規則になります。寺田論文は、オープンインターネット規則を紹介したあと、

  • 4.1.EU の中立性規則について
  • 4.2.Regulation(EU)2015/2120
  • 4.3.コロナ対応と BEREC、ネットワーク中立性
  • 4.4.ゼロレーティングサービスが争われた事例において、欧州のネットワーク中立性規制を保護する欧州司法裁判所の判決

へと論を進めます。この部分は、要点だけの記述という感じがしますね。

5.ゼロレーティングの具体的問題

ここでは、「ゼロレーティングサービスの提供に係る電気通信事業法の適用に関するガイドライン」に触れられています。このガイドラインは、「「ゼロレーティングサービスの提供に係る電気通信事業法の適用に関するガイドライン(案)」及び「電気通信事業法の消費者保護ルールに関するガイドライン」の改定案に対する意見募集の結果及びガイドラインの公表」でもって、令和2年3月27日に公表されています。

6.おわりに:今後の検討課題について

この部分では、

ネットワークの中立性についての検討は、各国の実情に合わせて行っていく必要がある

とされていて、

ネットワーク中立性規制の緩和撤廃と(おそらく同時並行で行われる)オンラインプラットフォーム(市場)規制強化の今後の状況をこれからも注視していく必要がある

とか、

トラフィックの調整を図ることは EU においても事業者に対して認められている状況の中で、どのような規制が適切なのかといった問題は、我が国にも共通する課題となると考えられる

という指摘がされていますし、また、プラットフォーム規制との関係も示唆されているところです。

私の「ネットワーク中立性講義」では、「ネットワーク中立性」という用語が、きわめて広範なアンブレラ概念であることを指摘しました。ブロッキングとかも「ネットワーク中立性」の概念で論じられることになります。また、競争との関係で論じられる場合には、具体的な競争との関係で考えなければならないのではないかという問題指摘をしたところでもあります。

ここで、EUのオープンインターネット規則、BERECガイドライン等も触れないといけないなあとか考えたりしています。その前に、わが国の「ゼロレーティング」のガイドラインの検討をしないといけませんでしょうか。

 

 

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