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ネットワーク中立性講義 その8 日本における通信法との関係

米国の議論を例にして、広くみたときには、ネットワーク中立性の問題は、①利用者の権利とテイクダウン、責任の問題(ブロッキング、帯域制限の問題)②利用者の利用行動の了知の問題題③利用と対価の公平性の問題 ④サービスの質と超過価格⑤契約における透明性の問コンテンツによる区別的取扱⑥ 接続サービスと公平な競争 ⑦その他の問題  が議論されていることになります。

①利用者の権利とテイクダウン、責任の問題
これは、違法有害トラフィック (わいせつ、チャイルドポルノ、その他の違法有害情報)、著作権侵害トラフィック(Winny・ビットトレントその他)に関して、帯域制限、遮断などをすることができるかという論点です

  ②利用者の利用行動の了知の問題

   これは、DPI技術を利用して、インターネットにアクセスしている利用者の行動履歴を収集し、それを分析し、広告に利用することが許容されるのか、という論点で、わが国においても、議論されていましたが、米国でも、特に2000年代後半に議論されています。

③利用と対価の公平性の問題

これは、少数のヘビーユーザのために、多数の一般ユーザが、多額の利用費を支払っているのではないか、それは、非効率的ではないか、という問題です。米国の議論においては、特に明確に議論されることはないかと思いますが、帯域制限などとは、裏表の関係にあるので、ひとつの論点として議論することが可能かと思います。

(平成29年7月5日追加)ということを書いていたら、総務省は、「携帯契約プラン払いすぎ解消へ 総務省、改善策を検討 」という記事がでています。これについても、具体的に利用者の「ひじをおす」という政策をとることになりそうです。ここまでいくと、ネットワーク中立性の概念でしょうか、という気もします。

④サービスの質と超過価格

 これは、米国において、有料優先サービスの問題として議論されている問題です。料金を払うことで、速度の速いインターネットサービスが提供されるということでいいのか、ということになります。

⑤契約における透明性の問題

 これは、インターネット通信における契約条項が明確になっていないのではないか、消費者が理解するのに困難な条項になっているのではないかという問題点です。特に、2014年以降、透明性原則等の名目のもとで、オーダーでの議論対象となっているということは、ふれたところです。

⑥コンテンツによる区別的取扱

 これは、例えば、ゼロレーティングにするなどの問題です。ネットワークに接続する市場において、市場力をもっている業者が自らの関係する会社を利用する場合に、パケット量を計算しないなどの取扱は、違法になるか、という問題です。また、日本においては、チャットツール市場において、LINEは、非常に力があるので、その市場を利用して、接続市場での競争を有利にすることは許されるのか、という問題になります。

⑦ その他の論点

 米国においては、その他の論点として、プライバシーについての監督権限のあり方、インターネットとユニバーサルサービスの関係、などがあり、これらの論点も、具体的な問題としてわが国で検討しなければならないでしょう。

 これらの問題は、きわめて現代的な問題であり、米国や、その他の世界において重大な問題を惹起しているのは、ある意味、当然ということができます。しかしながら、わが国においては、あまり、注目を浴びていないともいえます。(もっとも、今年になって、この議論が再燃しているとしている論文として 立石聡明「Network Neutrality 再燃」があります)

上の論点のほとんどが、日本においても議論されています。そして、それらについて、一定の枠組みが提案されていて、問題としては、いわば、解決済みとなっているということができます。それらを具体的にみていきましょう。

①利用者の権利とテイクダウン、責任の問題

 この問題についていえば、我が国においては、電気通信事業法4条の「秘密の保護」の条文との関係で議論が整理されてきました。電気通信事業法4条の詳細な解釈については、個々では、省きますが、それらも念頭に、違法有害トラフィック (わいせつ、チャイルドポルノ、その他の違法有害情報)については、「インターネット上の違法・有害情報に関する総務省の取組について」が、具体的な対応がまとめられています。

米国においてタイトルⅡオーダーでも議論されている帯域制御・ブロッキングの問題というのは、わが国では、すでに電気通信事業法4条の解釈論のなかで、整理されていて、「中立性原則」という形で議論する意味はないということがいえます

②利用者の利用行動の了知の問題

これも、具体的な利用者の行動を了知して、広告等に利用するという問題については、「利用者視点を踏まえたICTサービスに係る諸問題に関する研究会・第二次提言」(2010年5月)」において、同意の問題として整理されています。

③利用と対価の公平性の問題

この問題は、いわば、優良なユーザが割を食っているということになるわけですが、それらは、契約の条項が、具体的な利用量等におうじて対応すればいいわけです。そうだとすると、電気通信事業法6条の「電気通信事業者は、電気通信役務の提供について、不当な差別的取扱いをしてはならない。」という文言の解釈になるということかと思います。解釈論としては、「国籍、人種、性別、年齢、社会的身分、門地、職業、財産などによって、特定の利用者に差別的待遇を行う」ことが禁止されるということになります。逆に言うと、「合理的な根拠に基づいて取扱に差を設けることまで禁止されるものではない」ことになります。特別の区分に基づく契約条件を設けるというのであれば、別ですが、むしろ、通信にかかる量に比例するような料金体系をとるべきだということはできないでしょう。その意味で、すでに、この「利用の公平」の規定に反するものではないということで決着がついているように思えます。

④サービスの質と超過価格

 これも法的には、③の問題と同様でしょう。

⑤契約における透明性の問題

 電気通信事業法は、26条で提供条件の説明として、「総務省令で定めるところにより、当該電気通信役務に関する料金その他の提供条件の概要について、その者に説明しなければならない。」と定めています。この部分については、電気通信事業分野における消費者保護施策、「電気通信事業法の消費者保護ルール に関するガイドライン」でも詳しく述べられています。

⑥コンテンツによる区別的取扱

 これは、なかなか、困難な問題です。解釈論としては、上記電気通信事業法6条に解釈論と独占禁止法上の解釈論の問題がでてきます。また、ともに重ねて適用されうるのか、両法の関係は、どうか、という問題もでてきます。(FTCとFCCの関係は、どうなの?という米国とも、似ているのかもしれませんが)

 幸い、この問題点については、総務省と公正取引委員会がともに「電気通信事業分野における競争の促進に関する指針 」を公表しています。非常に、興味深い指針であるということができるので、また、別のエントリで検討してみることにしましょう。

⑦ その他の論点

 プライバシについての監督権限のあり方、インターネットとユニバーサルサービスの関係、あと、ネットワーク産業に対する投資を増加させるための通信政策のあり方とか、むしろ、このネットワーク中立性の議論でわが国の観点から興味深いのは、この「その他の論点」のように思えます。

 米国において、プライバシ(通信の秘密)が、情報セキュリティの確保や産業としての投資促進との関係では、トレードオフの側面があるという認識があるように思えます。この理屈はわが国においても、そのとおりなはずですが、プライバシといったとたんに、トレードオフについての思考が停止しているように思えます。ネットワーク中立性の議論のなかで、そのような観点まで議論が発展していくとわが国でも注目されるべき視点になりそうな気がします。

いま一つは、インターネットに接続することのできる地位は、ユニバーサルサービスを受けうる地位なのではないか、という指摘です。そのためには、積極的に公共の支援が正当化されるのではないかということです。ただ、この点は、現在では、固定による接続とモバイルによる接続では、性質も違うでしょうし、そもそも、ユニバーサルサービスといえるものなのか、という点についても、まだ、そこまではいえないようにも思えます。電話がないと生きていけないでしょうというのは、そのとおりの感じなのですが、インターネットがなくても生きていけそうです。(そのほうが、ゆったりと過ごせるとか)。

もっとも、公共の支援が正当化されるのではないかという分野があるのは、そのとおりに思えます。ネットワークの管理を行う作業とか、セキュリティを守る作業、公共機関からの要請に応える作業などを考えることはできるでしょう。ここまでいくと、それらを考えるときに、ネットワーク中立性ということが妥当か、という定義の問題に帰着していくように思えます。

 

 

 

 

 

 

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