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ゼロレーティングを電気通信市場における競争という観点から考えてみましょう。
この問題については、総務省と公正取引委員会の「電気通信事業分野における競争の促進に関する指針 」(以下、電気通信ガイドラインといいます)というガイドラインがあります。
(なお、公正取引委員会は、「携帯電話市場における競争政策上の課題について」という報告書も公表しています。が、これは、MVNO(Mobile Virtual Network Operator)の新規参入の促進の観点からのもので、ゼロレーティングに直接コメントしているものではありません)。
まず、電気通信事業分野について、競争環境を考えるのは、なぜかというのが、最初の問題になります。
この点については、電気通信ガイドラインの1ページめに① 不可欠性及び非代替性によるボトルネック独占の可能性 ②ネットワーク効果 ③ 市場の変化や技術革新の速度が大変速いことといった事情があげられています。(もっとも、この3点の指摘は、きわめて重要です。IBM、マイクロソフト、グーグルまで、独占と、その弊害が問われているのは、これらの事情とも関係します)
まさに、電気通信事業分野(インターネット分野まで広げた)ときに、市場の健全な競争がきわめて重大な意味をもってくるのは、これらの事情によるものです。
市場における健全な競争が、きわめて重要なのは、いうまでもないのですが、細かく考えていくと、「市場」って何、健全な競争って何という問題が起こります。そのような大きな観点は、とりあえずさて置くとして、具体的な問題について考えていきましょう。
ちなみに、競争の問題というと、まずは、独占禁止法が思い浮かびます。
独占禁止法がどのような観点から、市場の健全な競争を維持するために規制を準備しているか(違反要件)というと(1) 私的独占(2)不当な取引制限(3)不公正な取引方法の3つの観点から規制を準備しています。これらの具体的な趣旨については、公正取引委員会の「独占禁止法の規制内容」が参考になるでしょう。
(2)不当な取引制限は、カルテル等なので、理解しやすいかと思います。
が、(1)「私的独占」というのは、独占状態自体を規制しているわけではなく、「競争相手を市場から排除したり、新規参入者を妨害して市場を独占しようとする行為」(排除型私的独占の場合)のように、具体的な行為を問題にしているということは留意しておくことが必要になります。独占的状態は、それ自体として、公取委が競争回復措置を命じることができますが、実際には、適用されていませんし、そのような状態に到達すると、イノベーションの手を抜くのが、合理的な競争行動になるので、規制としても合理的なものとはなかなかいえないというのが、一般的な理解に思えます。
(3)「不公正な取引方法」は、独占禁止法2条9項で、具体的な行為を定め、さらに、そのうちの6号については、公取委の指定がなされています(平成21年改正によって変わっています)。電気通信事業については、一般指定の適用が問題とされるので、取引拒絶、排他条件付取引、拘束条件付取引、再販売価格維持行為、ぎまん的顧客誘引、不当廉売などが問題となります。
でもって、一般指定が、どのような趣旨から、どのような行為を規定しているのか、特に、電気通信事業ではどうか、ということを考えることになります。
「不公正な取引方法」に定められている行為は、
第1は、自由な競争が制限されるおそれがあるような行為で、取引拒絶、差別価格、不当廉売、再販売価格拘束などです。
第2は、競争手段そのものが公正とはいえないもので、ぎまん的な方法や不当な利益による顧客誘引などです。
第3は、自由な競争の基盤を侵害するおそれがあるような行為で、大企業がその優越した地位を利用して、取引の相手方に無理な要求を押し付ける行為がこれに当たります。
に分けられるとされています。
このなかで、公正な競争という観点からみるときに、上の「優越的地位の利用」というのは、すこし、毛色が違っています。基本的に、公正な競争というのは、多くの競争者が存在する、資源の可動性に対する制約が少ない、主体の情報量が豊富で、情報の取得に対する制約がすくない、市場において、取引参加者が、自由な意思決定のもとに取引を行うことをいうと考えることができます。(この公正な競争のところは、来生新「経済活動と法」-市場における自由の確保と法規制-110頁を参照しました)(判決例的には、東宝新東宝東京高裁判決。自由な意思決定というのは、人と意思を通わせることなくということで、自由市場の前提です。労働組合は、古典的な市場モデルでは、それ自体違法で、その違法性を阻却したのがタフト・ハートレー法だったはず)
そのように考えると、この「優越的地位の利用」というのは、この市場の3要素との関係では、関係が薄いということがいえるでしょう。そうはいっても、実際の競争状態は、上のような公正な競争状態とは、異なっています。その場合に、取引が合理的ではないとしても、新たな取引先・新たな取引市場をもとめて、機動的に活動せよ、というのは、合理的ではない(種々のコストがかかりますね。その意味で市場の合理性は、常に限定的なものです)でしょう。そのような状態を認識して、それにいわば「つけ込む行為」を規制することは、広い意味での「公正」な競争という概念に合致するものと考えられます。(労働基準法が、一定の規律を定めてエンフォースするがごときですね)
ここで、もう一度、ゼロレーティングの関係図をみてみましょう。
消費者から見たときに、スマートフォンを利用して、映像のストリーミングを楽しむ、音楽を楽しむ、SNSを楽しむ、というのが、市場や競争の概念との関係で、どのような意味をもつのか、また、エントリを新たにして、考えていくことにしましょう。