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「公然性ある通信」再訪-「電気通信サービスにおける情報流通ルールに関する研究会- 報告書」(1998年)を読む

1月4日のMPAセミナーで、著作権によるサイトブロッキングの問題と通信の秘密の関係について、発表することになりました。その旨のアナウンスは、「お知らせ」でもでています。

の準備をかねて「プロバイダ責任制限法の数奇な運命-導管(conduit)プロバイダは、プロバイダ責任制限法における情報の停止についての違法性阻却をなしうるのか」というエントリで、「「インターネット上の情報流通の適正確保に関する研究会- 報告書 -」を読んでみました。「インターネット上の情報流通の適正確保に関する研究会」(1999年5月から2000年)というのは、堀部政男先生が座長で、苗村先生、濱田先生とかが構成員でした。

そして、この研究会の前に郵政省電気通信局が、

  • 「電気通信における利用環境整備に関する研究会」(平成8年(1996年)9月からを開催し、同年12月に取りまとめた報告書)
  • 電気通信サービスにおける情報流通ルールに関する研究会(平成8年(1997年)月-12月、報告書は、1998年1月)

を開催しています。適正確保に関する研究会においても、いま一つ、プロバイダの位置づけというのがはっきりしていなかったところです。また、MPAセミナーでの話ということを考えると、「通信の秘密」の解釈と、著作権侵害の通信の位置づけについての検討を、政府の関係の見解で確認したいところだと思っています。そこで、「電気通信サービスにおける情報流通ルールに関する研究会」の報告書をみてみます。報告書のリンクは、ここにあります。

報告書の構成は、

  • 第1章 インターネット上の情報流通ルールの必要性
  • 第2章 諸外国における情報流通ルールの議論の状況
  • 第3章 情報流通ルールの具体的な在り方
  • 第4章 まとめ

となっています。

第1章 インターネット上の情報流通ルールの必要性

これは、さらに1 情報流通ルールの検討の背景、2 情報流通ルールの必要性、3 通信形態の特徴、4 違法又は有害なコンテントから成り立っています。法的な解釈との関係で興味深いのは、3 通信形態の特徴になります。

こでは、いわゆる「公然性ある通信」が議論されています。イメージとしては、こんな感じです。発信者から、不特定多数の者ち対して、著作権侵害の情報が提供されています。

これについては、同報告書は

発信としての放送と類似する面があり、その影響力において1対1の通信とは類型的に異なることから、通信の秘密保護を基本とする1対1の通信とは別個のルールを考える余地があるとの見解

という問題提起をもとに議論しています。もっともこれは、正確には、

実質的に通信内容に秘密性が認められないものが存在することは事実であり、そうしたものについては、通信の秘密の保護が求められる1対1の通信とは異なった扱いをす ることも可能である。ここでは、そのような通信を指すための道具概念として「公然性を有する通信」という言葉を用いている

といっています。これに対して
インターネットが、マス・メディアとしての放送と同列に論じ得るだけの影響力を有しているかは必ずしも自明ではない/新たなルールを検討する際には、メディアの特性を考慮した上で、他のメディアにおける情報発信に関する規律との調和を図ることも考慮に入れておく必要がある。

とした上で、

  • 対象範囲が不明確である、概念的に矛盾であるといった批判。
  • 通信は、個対個の関係から抜け出すことはできず、公然性ということはありえないとの指摘。

という批判があるが、上のように概念を整理すれば、通信内容に秘密性が認められないものを考えうるとしています。

この場合

典型的なものとして、誰で もアクセス可能なインターネットのホームページを念頭に置いて検討する。また、パソコン通信サービスにおける各種のサービス(電子掲示板、フォーラム ・SIG等)についても、インターネットのホームページと同様に公然性を有する通信の類型に含めて考えることとする。

としています。「4 違法又は有害なコンテント」においては、違法情報/有害情報の定義が展開されています。

第2章 諸外国における情報流通ルールの議論の状況

これについては、 1 アメリカ  2 イギリス  3 ドイツ  4 フランス  5 オーストラリア  6 シンガポール  7 EU  8 OECD  9 APEC が論じられています。90年代当時の法律の調査としては、きわめて広範囲に検討がなされているということができるだろうと思います。

他のところでも触れられているところですので詳細は、省略。

もっとも、「インターネット上の情報流通の適正確保に関する研究会- 報告書 -」に比較すると、詳細検討がなされているという指摘はできると思います。

第3章 情報流通ルールの具体的な在り方

1 自己責任の原則、2 情報発信への対応  3 プロバイダーの責任  4 発信者情報の開示  5 受信者の選択を可能とする技術的手段  6 事後的措置  にわけて論じられています。

でもって、確認したいのは、やはり「3 プロバイダーの責任」になります。

(1)プロバイダーの立場について

プロバイダーは、情報発信者に対して発信のための手段を提供しており、いったん違法又は有害な情報が発信されたことを知ったときには、発信をコントロールして当該情報の伝播を止め、被害の拡大を防止することが可能な立場にある。そこで、プロバイダーが違法又は有害な情報の発信を知ったときには、当該情報発信者に対する注意喚起、利用停止等の措置を講じるべき責任を負わせることによって、被害者救済を図り、さらに発信者や他の利用者の自覚を促すことにより、将来の違法又は有害な情報の流通の防止に寄与すべきであるとの考え

については、「そもそも利用者のコンテントにどの程度まで関われるのかが明確ではない。また、利用者が発信したコンテントについて、民事・刑事法上、いかなる責任を負うのかについても確立した考えはないのが現状である。」といいます。

結局、具体的な検討が必要であるとして、留意点として、以下の5点があげられています。

  • プロバイダーの通信内容に対するコントロールの程度は様々であり、 それにより責任の程度も異なり得ること。
  • プロバイダーに対する負担が大きくなり過ぎると、プロバイダーが過剰な抑制を行うことにより、利用者の表現の自由を萎縮させるおそれもあることから、妥当でないこと。(常時モニタリングを行って、通信内 容をチェックするまでの義務を負わせることは当然不適当である。)
  • プロバイダーの責任範囲を一律に定めることは、プロバイダーの経営の自由、ひいては利用者のサービス選択の幅を狭めることとなり、インターネットのダイナミズムを害することになること。
  • メディアの特性を考慮した上で、他のメディアにおける情報発信に対する規制との調和を図ること。
  • 違法又は有害な情報の流通に対して自主的に対応したプロバイダーが、こうした情報を放置したプロバイダーに比べて、かえって重い責任を負うことのないようにすること。

そして

(a)プロバイダーには、主要当事者として、情報流通のルール形成に貢献する責務があること、

(b)プロバイダーがコンテントに対するコントロールをどの程度及ぼしているかが重要な要素になってくると思われること、

が論じられています。そして、プロバイダーを6つの類型にわけて論じています。その6つとは

  • 自ら発信
  • 各種情報サービスを提供
  • コンテントの配置や運営方法等について管理している場合
  • ホームページサービスを提供し、違法なコンテントに対する注意喚起や削除等の権利を留保している場合
  • ホームページサービスを提供しているもののコンテントに対して関与しない立場をとっているケース
  • 単にアクセス手段を提供しているすぎないケース

です。この最後の場合においては、「コンテントに対するコントロールを及ぼし得ず、コンテントに責任はないのではないか。」とされています。

このような考察ののち、結局は、

このことからすると、法律によりプロバイダーの責任を規定することについては、国内及び海外の動向を見据えつつ、なお慎重に検討すべきであり、当面は、現行法制下において、プロバイダーの自主的対応に期待していくことが適当と思われる

(2)「電気通信事業法上の問題」

また、興味深いのは、(2)で「電気通信事業法上の問題」として、電気通信事業法(以下「事業法」という。)上、検閲の禁止(第3条)、通信の秘密保護(第4条第1項)、利用の公平(第7条)等の規定との関係が整理されていることです。

a)検閲について

これについては、検閲の主体について争いがあること(国に限るか、私人も含むか)、また、「「発表前(事前)の禁止」を目的としたものに限定されるという見解(最高裁昭和59年12月12日大法廷判決参照)か「発表後(事後)の積極的な知得」を目的としたものも含むべき」かで争いがあることが述べられています。

研究会は、検閲とは

プロバイダーの取扱中に係る通信の内容又はそれを通じて表現される思想の内容を調査し、場合によっては不適当と認めるものの発信を禁止することであると考えられる

としています。すなわち、「内容」についてのものであること、そして、

公然性を有する通信においては、通信内容に秘密性はなく、その内容を見ても事業法第4条第1項の通信の秘密の侵害にならないという考えを前提とすると、こうした公然性を    有する通信の内容を単に調べることをもって「検閲」というには当たらない

という整理がなされています。

b)公然性を有する通信の発信者への注意喚起と事業法第3条(検閲の禁止)及び第4条第1項( 通信の秘密保護)

この中で、通信ログを調べる場合などは、約款等を根拠とすることもできるとされており、また、仮に約款にそのような定めがない場合でも、

通信内容が公 開され秘密性がないような公然性を有する通信における発信者情報は、もはや通信の秘密として保護するような実質的理由は弱いと解されることから、それと被害者救済との利益衡量により、プロバイダーが違法又は有害な情報の発信者を探知することも許される余地があるとの考えもある。こうして、プロバイダーが適法に発信者の情報を知得した場合は、 これを漏示しないという意味での守秘義務が問題となるところ、この場合は発信者本人に通知するだけであるから「通信の秘密」侵害とはならないと考えられる。

という整理がなされています。

c)公然性を有する通信における情報の削除、利用停止及び契約解除と事業法第3条、第4条第1項、第7条(利用の公平)及び第34条(役務提供義務)

削除・利用停止・契約解除といった措置は、基本的には契約約款等に定めておかなければとれないが、内容が明らかに違法であり放置しておけば自ら法的責任を問われる可能性がある場合や、権利が侵害されている者の救済のため緊急の必要性がある場合には、許される余地があると思われる。

とされています。これは、報告書は、基本的には

プロバイダーも、自己の表現の自由を有しており、公然性を有する通信が表現手段として重要な役割を果たしていることにかんがみると、少なくとも他者による違法又は有害な表現については、その発信をコントロールする権利を留保することができると解するのが相当であり、こうした権利を留保した場合には、これが「検閲」の禁止に優越するという考え

によって整理されています。

私の関心の導管プロバイダについてみても、導管プロバイダは、自らの資産についての管理の自由を有しているので、この法理は、程度の差こそあれ、適用されるものと考えられるといっていいように思います。

また、第34条(役務提供義務)については、

第1種電気通信事業者(以下「第1種事業者」という。)については、事業法第34条により役務提供義務が課されており(同法第101条に罰則がある。)、通信内容を理由に利用の停止や契約の解除等の措置をとることができるかについては、疑義もある。しかし、第2種電気通信事業者と同様の役務を提供しているような場合に、第1種事業者であるというだけの理由で、いかなる情報の発信をも許容しなければならないという意味での提供義務が生ずると解するのは不合理である。
提供義務の趣旨が、電気通信設備を保有している第1種事業者が役務の提供を拒否した場合には、当該利用者への影響が極めて大きくなることからきているとすると、第1種事業者の提供する役務が基本的な役務でない場合等には、提供義務も緩和されると解してよいと考えられる。したがって、違法又は有害な情報の発信を理由に役務提供を制限することも、同法第34条の「正当な理由」に該当し得ると考えられる。

とされています。

不特定多数の者に対する関係でなされる通信は、もはや「秘密」ではない、というのが確認されているのは、重要なようにおもえます。

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