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プロバイダ責任制限法の数奇な運命-導管(conduit)プロバイダは、プロバイダ責任制限法における情報の停止についての違法性阻却をなしうるのか

「ISPのLiabilityからResponsibilityへ-EPRS「オンライン媒介者のEU責任レジーム改革」報告書」でもって、

単なる導管プロバイダであっても、それが、「(a)当該情報の送信を防止するための措置をとる」ことが可能であれば、「特定電気通信役務提供者」として、責任を負いうるし、また、当該措置を取ったとしても、法令に基づく措置として、電気通信事業法4条の関係でも、違法性が阻却されると解するのが自然であるということになります。

と書きました。欧州の動向については、そのブログでも書きましたが、

 

 

 

 

 

 

 

となっていて、利害関係者における適切な行動、とくに自主的対応の推奨、現実の覚知後の適切な対応、3つのモデルでの対応などが特徴があります。そして、その後、判決の法理などから、裁判所に判断によって、サイトブロッキングがなされて効果を上げていることは、「ダイナミック・ブロッキングの状況-欧州議会調査サービス「デジタル環境におけるスポーツイベント主催者の直面する課題」」でもみたところです。

これに対して日本ですと、導管プロバイダは、「自主的対応の禁止」という立場もあり、また、電気通信役務提供者という概念で単一で対応されているという特徴があります。

 

 

 

 

 

 

 

この図は、プロバイダーの概念が分かれていないこと、一定のプロバイダーについては、違法情報についての防止が求められ、また、その法的な行為が正当化されるものと考えられるか、導管プロバイダに相当するプロバイダについては、「通信の秘密」をもとに、何らかの対応をすることは違法であり、自主的な対応も許されないという見解が有力なこと、また、ホスティングについては、一定のシステムが備わっているものの、導管プロバイダについいては、そのような合意による対応が推奨されているものとは考えにくい(というか、総務省の担当課がきわめて強硬な反対論をうたっている用にみえること)などを示しています。

これが、どのような事情によるものかというのをちょっとみてみました。そのために、「インターネット上の情報流通の適正確保に関する研究会- 報告書 -」を読んでみました。国会図書館の「インターネット資料収集事業」にあります。

クリックして001220j60101.pdfにアクセス

となっています。そのままてURLを貼るとワープするんですね。

問題提起的には

情報の流通を媒介するサービス・プロバイダ等は、これらの情報の流通への対処に関し事後的に何らかの措置を講ずることが可能な場合があり、そのような場合には適切に対応することが期待されていることから、サービス・プロバイダ等による実効性のある自主的な対応の実現が求められている。
また、有害な情報のうち受信者の年齢等の属性や受信の場面により有害性が異なり得るものまで含めた違法な情報や有害な情報全般の流通については、受信者側の言わば自己防衛策として、受信者側が能動的・主体的に対処するための効果的な対応策の整備が求められている。

とれています。

この問題点は、「第2章 サービス・プロバイダ等による対応 」で論じられています。

まず、EUのような類型化については、

(4) 類型化の必要性 以上を踏まえて、今回の検討に当たって、サービス類型ごとに細分化して 検討していく必要性があるかどうかが問題となる。 この意味では、まず、検討の対象から除外されるものとして、サービス・ プロバイダ等が情報の発信に積極的に関与している類型がある。しかし、そ れ以外の場合については、サービス提供の形態は様々であり、網羅的な類型 化は困難なこと、また、日々新しいサービス提供形態が出てきており、現在 提供されている形態を前提に類型化をすると類型に当てはまらないものが生 じてしまうことが考えられる。 このため、とりあえず、すべてのサービスを検討の対象とした上で、例え ば、情報の削除等の措置であれば、情報の削除等の措置を講ずる技術的な可 能性(情報の管理可能性)という観点から検討するなど、必要に応じて、責 任の範囲や要件でさらに絞って検討することとする。

という問題提起がなされています(11ページ)。

13ページからは、

(3)民事上の責任

について検討されています。

ここでのポイントとしては、まず

名誉毀損の情報や知的財産権侵害の情報等について、情報の種類で区別して取り扱う合理的な理由はないため、すべての違法な情報(他人の権利利益を侵害する情報)について、検討の対象とするべきである。

とされています。

14頁以下においては、「5 責任の明確化に関するルール整備の在り方」が論じられています。そこでは、(1)で現行法令上(当時)のサービス・プロバイダ等の責任が論じられています。

(2)で発信者に対するサービス・プロバイダ等の責任が論じられ、(3)対応の必要性へと続きます。そこでは、

サービス・プロバイダ等は適切と考えて対応をしたとしても、結果としてその措置が適切ではないと判断され、責任を問われる可能性があることから、問題となる情報について、適切に対応を取る意欲が減殺されている状況にもなっている。インターネットを安心して利用できる環境を整備していくために、サービス・プロバイダ等により問題となる情報に対して自主的に誠実な判断が行われるように促していくために、サービス・プロバイダ等の責任を明確化する必要がある。

とされています。

「(4) 基本的な考え方」では、① 迅速かつ適切な対応の促進において、かかる観点から、② サービス・プロバイダ等の義務を規定する方法、③ サービス・プロバイダ等が責任を負わない場合を規定する方法を検討し、その結果、この③によることとなったものです。

(5) 具体的な要件では、

① 責任のない場合の明確化

現行法令上の責任を明確化するために、受信者等との関係で、サービス・プロバイダ等に作為義務が発生していない場合(略)やサービス・プロバイダ等が作為義務を果たしたとみなせる場合を明確化するために、為念的な規定を設けることが考えられることが検討されましたが、

 サービス・プロバイダ等が責任を負わないことは明白であるため、そもそも法制的な観点から、法律上の規定をおく必要性があるかという問題はある。

② 誠実な対応にかかる免責は、「サービス・プロバイダ等が、他人の権利利益を侵害しているとされる情報に対して、誠実に判断を行った上で適切と考えて対応を行っている場合には、
発信者との関係・受信者等との関係双方について、責任を問われることがないことを規定することも考えられる」とされています。

③ ノーティス・アンド・テイクダウン

それに従えば責任を問われないような形式的な手続を明示することが考えられる。この場合には、サービス・プロバイダ等の取るべき対応が手続的に明確になり、サービス・プロバイダ等による実体的な判断の必要がなくなるため、迅速性という観点からは望ましい結果が得られることとなる反面、結果として個別の事案で不当な取扱いが行われることがあり得るため、それにどのように対応するのかが問題となる。

とされています。

また、26頁では、EUで、電子商取引指令が参照されてたことが、記載されています。ただし、米国の法理についてかなりの程度詳細な検討がなされているのに比較して、簡単な紹介にとどまっています。

結局、結論としては、米国の法理に関心を取られており、EUの三分法には、あまり興味がなかったこと、事後的に何らかの措置を講ずることが可能な場合があり、そのような場合には適切に対応することが期待されていると認識されていたこと、責任論という観点から論じられており、対応の可能性・違法性阻却の問題は考えられていなかったこと、になるようです。

少なくても、導管プロバイダが、自主的に、違法情報を停止することが「通信の秘密」を侵害し、違法になるということは、いえない、むしろ、素直にこの研究会の理論を見るかぎり、サービス・プロバイダ等の取るべき対応が、違法情報の拡散のために効果的であれば、迅速性という観点からは望ましい結果が得られると認識されていたことが指摘されるだろうと思います。

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