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ISPのLiabilityからResponsibilityへ-EPRS「オンライン媒介者のEU責任レジーム改革」報告書

今度、サイトブロッキングの法律問題を考える講演をするので、もう一度、プロバイダーの責任と権限を考えていたら、「オンライン媒介者のEU責任レジーム改革」報告書(Reform of the EU liability regime for online intermediaries – Background on the forthcoming digital services act)という報告書を見つけました。

2020年5月の報告です。主体は、欧州議会調査サービス(EPRS) です。EUのオンライン媒介者の責任の枠組は、我が国のプロバイダ責任制限法についても大きな影響を与えているように思えます。

しかしながら、その後、20年たった現在、とくに、サイトブロッキングの議論をみてみると、あたかも、別個の法理として準備されたのではないか、というくらいに運用が異なっているように思います。その意味で、EUの制定、そして、その後の運用をみて、さらに、我が国のプロバイダ責任制限法の解釈をみていくことは面白いと思います。

個人的には、ちょうど、11月、12月にサイトブロッギングの適法性について講演させていただくので、そのための自分なりの研究という意味も含みます。この「オンライン媒介者のEU責任レジーム改革」報告書で面白かったのが、

Liability制度の導入から、Responsibilityの促進へと制度が移り変わっているという表現です。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

この図は、ISPのResponsibilityをうまくコントロールすることによって、海賊から、利益を権利者に分配できるというのをイメージにしているのですが、この動きを示している標語といえるのではないか、と思います。

では、このような問題意識をもってみていきたいと思います。

概要です。


電子商取引指令は、インターネット(オンライン)仲介者の責任に関する最低基準をEU全体で調和させることを目的として、2000年に採択されました。同指令では「セーフハーバー」原則が導入され、第三者が提供するコンテンツをホストまたは送信するオンライン仲介者は、違法性を認識していながらそれを阻止するために適切な行動をとっていない場合を除き、責任を免れることになっています。これらの仲介者は、「注意義務」および違法なオンラインコンテンツを削除する「通知および削除」の義務を負います。さらに、EUの責任体制では、オンライン仲介者は、ユーザーのプライバシーや表現の自由などの基本的権利を保護するために、ユーザーのオンラインコンテンツを監視する一般的な義務を負うことができません。一方で、違法な情報を削除したり、アクセスできないようにするための自己規制が大きく奨励されています。

しかし、多くの研究により、E-commerce DirectiveがEU全体でどのように実施されているかは大きく異なり、今日のオンライン責任に関する各国の法律は非常に断片的であり、欧州司法裁判所の判例法は十分なガイダンスを提供していないことが示されている。この点については、いくつかのギャップが指摘されている。まず、電子商取引指令の採択以降に登場したソーシャルメディア企業などの新しいタイプのオンラインサービスが、どの程度まで責任免除の恩恵を受けることができる「情報社会サービス」プロバイダーの定義に該当するのかが依然として不明である。第二に、「セーフハーバー」条件と「通知と削除」の義務が不明確なのは、「受動的」役割と「能動的」役割の区別や「違法行為」の意味など、責任免除のトリガーとなる基本的な概念が適切な定義を欠いているからである。また、EU域内では、notice-and-take-downの定義と機能の両方に大きな違いがあります。第三に、禁止されている「一般的な」コンテンツの監視と、許容される「特定の」コンテンツの監視とを区別することが難しくなっている一方で、違法コンテンツを検出するために自動フィルタリング機構がますます利用されるようになっている。

このような背景から、欧州委員会は、来るべきデジタルサービス法の一環として、責任体制を改定する提案を提出する予定である。専門家の提案は、現行の責任免除制度の明確化から、オンライン仲介者のための二次的責任制度の創設まで様々です。政策担当者は、幅広い政策課題に取り組むことが期待されています。第一に、EU法の適用範囲を拡大して「違法」と「有害」の両方のコンテンツを包含することが提案されており、「オンライン偽情報」と「オンライン広告」が改正された責任体制の適用範囲に入るべきかどうかという問題が提起されています。第二に、強固な責任体制を設定するには、正確な概念を定義し、EUの基本的権利、特に言論の自由とプライバシー権へのコンプライアンスを確保することが重要です。そのため、学界や関係者は、ソーシャルネットワーク、オンライン広告サービス、コラボレーティブエコノミープラットフォーム、オンラインマーケットプレイスなどの新しいデジタルサービスプロバイダーがセーフハーバー制度の恩恵を受けられるのか、受けられないのかを明確にするために、EUの枠組みを大幅に改訂することを求めています。これには、「能動的」なオンライン仲介者と「受動的」なオンライン仲介者の違いを明確にすること、「通知および削除」制度を修正し、さらに調和させること、「自動化されたフィルタリング」手段の使用を明確にすること、および適切な手続き上の保護措置の必要性を明確にすることが必要である。さらに、EU法に「良きサマリア人」条項を盛り込み、オンライン仲介者がホストするコンテンツをより適切に管理するよう動機付け、責任体制に一連の新しい義務を盛り込み、アルゴリズムの透明性と中立性を確保する機会についても議論する。最後に、EUのデジタル・プラットフォーム規制当局に与えられた役割と権限の定義について検討します。


具体的にみていきます。

1 電子商取引指令責任レジーム 背景

電子商取引指令(2000/31/EC)は、2000年に採用されています。ちなみに夏井先生の翻訳は、こちら。

1.1 責任のレジーム 目的および指令の範囲

報告書によると、この電子商取引指令の責任に関する規定(同指令の )は、EU内のオンラインサービスプロバイダーの法的不確実性や域内市場の障害となっている、裁判所の判決や国内法に見られる差異に対処するために採用されましたとされています。確かに、かたやコモンロー国があり、また、かたやシビル・ローの国があるので、そこでのルールというのは、まさに多様性となっていたといえるでしょう。ここで、参考までに、コモンローにおける名誉毀損の一般ルールをまとめます。


おまけ  コモンローにおける名誉毀損訴訟における請求原因の整理

コモンローにおける名誉毀損訴訟は、「文書名誉毀損(libel)/口頭名誉毀損(slander)」、「公表」、「識別」及び「名誉を毀損する」から構成されています。

(1)文書名誉毀損(libel)/口頭名誉毀損(slander)

コモンローでは、歴史的な経緯から、「文書による名誉毀損(libel)」と「口頭による名誉毀損(slander)」が分けられ、libelであれば一般的に訴訟上の請求が可能であるが、slanderの場合はspecial damage(金銭的評価が可能な損害)を立証できる場合に限り請求可能とされています。

もっとも、オーストラリアにおいては、立法上、一般的にこの区別は廃止され、slanderであってもspecial damageがなくても請求が可能とされています 。インターネット上の表現がいずれに該当するかについては、法律上明示されていればそれに従い、明示がなければコモンロー上の解釈に委ねられます 。

(2)公表

「公表」とは、意図的又は過失により、ある事項の第三者への伝達に関与し、又は、当該伝達を許可することをいいます 。

したがって、名誉毀損の被害者のみに対する伝達に限られる場合は、名誉毀損に該当しません。また、当該表現内容が他者に理解される方法により伝達されることも必要です。なお、当該表現を行った者のみならず、当該表現の伝達に関与した者(編集者など)、それを許可した者(出版社)も行為者となります。

名誉毀損表現のあるウェブページへのリンクを張った者又はフレーミングを行った者は、リンクやフレームに従って当該表現を読んだ者に対して「公表」を行った者として(再出版社としての責任ではなく)原則として一次的な責任を負う 。

(3)識別

「表現内容から被害者が識別可能であること(identification)」の要件に関しては、表現内容に氏名や肩書が存在する場合のみならず、表現内容と外部資料を照らし合わせた結果、被害者が特定できる場合も含まれる。

(4)名誉毀損

「名誉毀損表現」の要件に関しては、コモンロー上、「当該表現が、通常人の合理的思考に照らして、一般に請求者の評価を下げるものであるか」又は「当該表現が、被害者を嫌悪・侮辱・軽蔑の対象とすることによって他者の評判を傷つける可能性があるか」又は「当該表現によって、被害者側に何ら倫理的落ち度がないにもかかわらず、人から避けられるようになるか」という基準によって判断される。

公表者の概念

公表の意義については、前述した。公表者(Publisher)に該当するかについての最初の代表的な裁判例は、Morland判事の判示したGodfrey v Demon Internet Limited事件 ([2001] QB 201-英)です。

Demon Internetは、ISPであり、ユーザーに対してUSENET掲示板の利用サービスを提供していたところ、同掲示板に原告の名誉を毀損する表現が掲載され、原告は同ISPに対して削除を要請したが、同ISPは1か月にわたり削除を行わなかった。判事は、「ISPは、名誉毀損表現がその運営する掲示板に掲載され、それが利用者に閲覧されるごとに、当該表現を公表したものと認められる」と判示し、Defamation Act 1996(英)第1条の抗弁も 成立しない、とした。この判断に対し、同ISPは控訴せず、和解で決着した。インターネット上の記事がアクセスされた時点で「公表」されたことになる、というMorland判事の結論は多数の裁判例において無批判に受け入れられている 。

前記Godfrey v Demon Internet Limited事件において、引用されたのが、Byrne v Deane事件 (英)である。同事件では、ゴルフ場の運営者が原告に指摘されたにもかかわらず、原告の名誉を毀損する記事を同ゴルフ場の掲示板から除去しなかった(failure to remove)というものであり、裁判所は、同ゴルフ場が当該記事を「公表」したとして、その責任を認めた。
したがって、少なくとも名誉毀損表現が掲載されていることについて悪意の掲示板運営者であって、その表現を削除する能力を有する者は、当該表現を「公表」したものと認められるという判例法理が確立している。前記裁判例における判事は、名誉毀損表現の掲載について善意であっても「公表」が認められ、単なる媒介のみを担う媒介者についても「公表」が認められると傍論において示していると思われる 。

もっとも、この法理が、電子メールや、インスタント・メッセージ、チャットのような、動的なインターネット上の通信にも直ちに適用されるのかについては定かではない。これを類似の既存のサービスについて見てみると、例えば、郵便・宅配業者の場合、原則として「公表者」にあたり、内容について善意であれば免責となるとされる 。

これに対し、電話通信事業者(telephone carriers)は、法律上このような免責は認められていない。通信に関与している以上、「公表者」と認められる余地はあるが、未だ、英国においてもオーストラリアにおいても、電話会社に対する名誉毀損訴訟が提起されたことはない 。

抗弁

インターネット媒介者が「公表者」にあたるとされても、抗弁が成立すれば、名誉毀損による責任を負うことはない。コモンロー上の抗弁については、公正な論評、完全な特権などがある。


そこで、この指令は、第三者が提供する違法コンテンツをホストまたは送信する「情報社会サービス」 プロバイダー(一般に「オンライン媒介者」と呼ばれる)が、一定の条件を満たした場合に責任を免れる一連の特定の規則を定めることを目的とたわけです。

媒介者がEU法の下で責任を問われない特定の規則(すなわちセーフハーバー制度)を切り出したものです。

とされます。

電子商取引指令の責任規則は、「ユーザーの個別の要求」に応じて「電子的手段」により「報酬を得て」提供される「通常」のサービスと定義されるすべての「情報社会サービス」に適用されます。

「情報社会サービス」の概念は、オンラインでの商品販売、オンラインでの情報または商業通信の提供、検索を可能にするオンライン検索ツールの提供、電子ネットワークおよびサービスの提供、ビデオ・オン・デマンド、電子メールによる商業通信の提供など、広範囲のオンライン経済活動に及びます。

その結果、従来の電子通信事業者(インターネットサービスプロバイダなど)から新しいオンライン仲介者(検索エンジン、ソーシャルメディア企業、ソフトウェアやゲーム、クラウドの提供者など)まで、さまざまなオンライン関係者がEコマース指令の適用範囲に入る可能性があります。

1.2 セーフハーバーと水平的アプローチ

電子商取引指令は、オンライン媒介者を三種類にわけて、第三者のコンテンツをホスト・通信するオンライン媒介者を一定の条件のもと責任を免除することを定めています。

条文は、

第4節 仲介サービスプロバイダの責任
第 12 条 単なる伝送路
1. サービスの受取人が提供する情報の通信ネットワークにおける伝送、又は、通信ネットワークへのアクセスの提供からなる情報社会サービスが提供される場合には、加盟国は、サービスプロバイダは、次の各項に掲げる条件を満たす限り、サービスプロバイダは、伝送された情報に対して責任を有しないということを保証しなければならない。
(a)サービスプロバイダは、自ら伝送を開始しないこと。
(b)サービスプロバイダは、伝送の受信者を選択しないこと。そして
(c)サービスプロバイダは、伝送に含まれる情報を選択又は変更しないこと。
(略)

通常の電気通信会社、接続プロバイダは、この単なる伝送路に該当するものとなります。

第13条 一時保存(キャッシング)
1. サービスの受取人が提供する情報通信ネットワークにおける伝送からなる情報社会サービスが提供される場合には、加盟国は、次の各号に掲げる条件を満たす限り、サービスプロバイダは、サービスの受取人からの求めに応じて、単に、その情報のさらなる伝送を効率的にする目的ためになされる、当該情報の自動的、中間的かつ一時的保存に対して、責任を有しないということを、保証しなければならない。
(a)プロバイダは、情報を変更しないこと、
(b)プロバイダは、情報へのアクセスに関する条件を遵守すること、
(c)プロバイダは、産業界で広く認識され、かつ、使用される方法で指定された情報のアップデートに関するルールを遵守すること、
(d)プロバイダは、情報の使用に関するデータを得るために、産業界で広く認知され、かつ、利用される技術の合法的な使用を妨げないこと、そして
(e)プロバイダは、伝送における最初の発信元での情報がネットワークから取除かれた/アクセスが困難になった/裁判所又は行政当局がそのような除去又はアクセスの不能化を命じたというという事実を実際に知り得た場合には、保存された情報を除去し、アクセスを不可能にするために、迅速に行動すること。
(略)

インターネットにおいて通信を高速化するために、通信を一時的に保存するサービスが存在する。アカマイなどが代表的なものである。これらは、このキャッシングに該当する。この規定は、このようなサービスにおいて、そのような一時的な保存が、侵害行為に当たらないということを明らかにする趣旨になります。

第14条 ホスティング
1. サービスの受取人により提供される情報の保存からなる情報社会サービスが提供される場合には、加盟国は、次の各号に掲げる条件を満たす限り、サービスプロバイダが、サービスの受取人の求めにより保存した情報に対しては責任を有しないことを、保証しなければならない。
(a)そのプロバイダが、損害賠償の請求に関する違法な行為又は情報を実際に知らないこと、そして、違法な行為又は情報が明白である事実又は状況に気付いていないこと、又は
(b) プロバイダが、そのようなことを知り、かつ、気付いたときに、その情報を除去するか又はそれへのアクセスを不可能にするために、迅速に行動すること。
(略)

この具体例としては、電子会議室機能を提供しているプロバイダということになります。もっとも、どこまで、この規定の免責を受けられるかという点については争いがあるが、ここでは省略します。

条件が満たされた場合、EU法は、著作権や商標権の侵害、名誉毀損、誤解を招くような広告、不公正な商行為、不正競争、違法コンテンツの公開など、第三者が起こしたあらゆる種類の行為について、契約責任、行政責任、不法行為(delictual)または契約外の責任、刑罰責任、民事責任、その他のあらゆる種類の責任を含め、オンライン仲介者の責任を免除しています。この枠組を「水平的なアプローチ」をとっていると表現しています。

その結果、責任規定は、インターネット上での情報の違法な取り扱いを防止すると同時に、EUの基本的権利(表現の自由、個人情報保護、財産権、営業活動の自由など)の尊重を確保することを目的としています。

1.3 注意義務とノーティス・テイクダウン義務

媒介者の責任に監視は、「受動的」と「アクティブ」の区別の法理が発展していきているとされます。これは、前文42項によるそうです。翻訳すると

この指令は、情報社会サービス・プロバイダーの活動が、伝送をより効率的にすることを唯一の目的として、第三者が利用可能にした情報が伝送されたり、一時的に保管されたりする通信ネットワークを運用し、アクセスを提供する技術的プロセスに限定されている場合のみを対象として責任の免除を確立しています。 この活動は、単なる技術的、自動的、受動的な性質のものであり、情報社会サービス提供者は、送信または保存される情報に関する知識も制御も持たないことを意味します。

また、構成国は、一般的なモニター義務を課すことはできません(同指令15条)。しかしながら、違法な情報について除去・アクセス停止についての任意的な合意を推奨しているのです。

インターネットサービスプロバイダの自主行動規範は、いくつかの加盟国で採用されています(オランダ、イギリスなど)。また、EUレベルでは、欧州委員会が、知的財産権(IPR)侵害に対抗するために、主要なインターネットプラットフォームおよび権利者との間で、「インターネット上での偽造品の販売に関する覚書」を締結しました。この自主的な協定は、オンラインマーケットプレイスで偽造品の販売が行われないようにすることを目的としています。

さらに近年、欧州委員会は、オンライン上の違法なヘイトスピーチへの対処に関する行動規範、2017年の「違法コンテンツへの対処に関するコミュニケーション」、2018年の「オンライン上の違法コンテンツに効果的に対処するための措置に関する勧告」など、ホスティングプロバイダーが自主的な監視に取り組むことを促すソフトロー文書を多数採択しています。

2 実装のギャップと電子商取引指令改正の要求

電子商取引指令を実装する各国の法制が異なっていること、いわゆる断片化がなされていることが指摘されています。具体的には、

2.1 「情報社会サービス」の定義の不明確さ

これは、「広告によって支えられているモデル」「完全無料モデル(Wikipedia)」「フリーミアムモデル」などに適用されるかが不明確であるとされています。また、ハイパーリンクは「単なる伝送路」行為と考える場合もあれば(英国)、ドイツでは、ホスティングの形態であるとされています。また、サーチエンジンへも免責されるとする国もありますし、また、ブロックチェーンの参加者の責任をどうするかという問題もあるとされています。

また、ソーシャルメディアの会社や共同するプラットフォームに対する適用の可否の問題もあります。(UberやAirbab事件)

2.2 セーフハーバーの条件およびノーティス・テイクダウン義務が不明確

上の条件で「違法な行動」(‘illegal activities)や「現実の覚知」(actual knowledge)についての定義はありません。また、「受動的」「アクティブ」また、「コントロール」や「意識」など判決法で発展した概念についても明確な解釈はされていません。

今ひとつは、ノーティス・テイクダウンシステムも構成国において異なっています。「notice and take down」制度(違法コンテンツを削除しなければならない)、「notice and stay down」制度(違法コンテンツを削除しなければならず、再アップロードできない)、または「notice and notice system」(ホスティングプロバイダが侵害の通知を被疑侵害者に転送するだけの制度)。加盟国の中には、通知とテイクダウンの仕組みを設けていない国もある。このように、EU全体でモデルが不均質であることは、インターネット仲介者にとって大きな法的不確実性をもたらすと考えられています。

また、ノーティスについても、司法当局からの通知に限るとするものもあれば、権利者からの単なる通知でいいとする国もあります。また、「迅速に」というのが何を意味するのか、というのもはっきりしません。

その上電子商取引指令は、手続的セーフガードを調和していないので、消費者が、違法な内容についてテイクダウンする要求に異議申し立てることを可能にしている手続がある構成国は、わずかです。

2.3 注意義務レジームと一般モニタリングの禁止は不明である

電子商取引指令15条は、通信もしくは保存する情報の一般的モニター義務を否定しています。これは、一方で、特定の場合におけるモニタリングに関するものではありません。その結果、結局、注意義務と一般のモニタリングの境界は、曖昧で、問題を含むものになっています。

これは、大規模なプラットフォームが、「自動的フィルタリングシステム」をもつことがよくあることから、さらに法的な不確実性が明らかになっています。前文40は、オンライン媒介者が、とくに、違法な行為を防止して、停止する義務をもつものとして、違法な情報を削除して、アクセスできなくするの適切な基礎を構成するものでなければならない、そのような仕組みは、全ての関係者の任意の合意に基づいて発展され得るものであり、構成国によって奨励されなければならないとしています。

このようなプロアクティブな仕組みが、禁止されている一般的義務なるのではないかと欧州中央裁判所のScarlet v SABAM (2011)や SABAM v Netlog (2012)、Telekabel Wien (2014)の判断で明らかにされている。Eva Glawischnig-Piesczek v Facebook Ireland case (2019)では、同裁判所は、名誉毀損の書き込みを見つけて、削除するように命じられるとしているが、問題は解決していないとされます。

3 オンライン媒介者に対するEUの責任レジームの改正

3.1 デジタル・サービス法の文脈

欧州委員会は、電子商取引指令の改正に着手する代わりに、特定の形態の違法なオンラインコンテンツに対処するための対象的な手段を切り出すことを選択しています。

その結果、近年、

など、オンライン仲介者の義務を強化するための特定分野の法律が成立しています。一方で、テロリストのコンテンツのオンラインでの拡散を防止するための新たな規制は現在も議論されている。

共同体のデジタルプラットフォーム、サービスと製品について新しいデジタル・サービス法によって責任とセーフハーバーをさだめようというのが、デジタルサービス法であるとされます。

3.2 改革の提案 理論的枠組

電子商取引指令は、媒介者に責任を負わせるための条件を調和させるのではなく、オンライン媒介者の責任を免除するための条件のみを調和させています。

改正のための提案は、責任免除の現行制度を明確にすることから、オンライン仲介者に二次的な責任を負わせることまで様々です。オンラインプラットフォームの強調責任、垂直アプローチ、二次責任の導入が提案されています。もっとも、セクター固有のアプローチで十分であるとしていうのが議会の認識です。また、経済分析による過失責任主義の説もあります。

3.3 改正の提案 ポリシーの質問

政策決定者が決めるべき問題としては、以下の問題があるとされます。

3.3.1 責任レジームの範囲

  1. 違法・有害情報(違法情報は、法に適合しない情報をいう。有害情報は、いじめや誤情報なども含み得る-これを峻別するのか、統合するのか)
  2. 誤情報および「フェークニュース」
  3. オンライン広告(虚偽もしくは、誤導的な広告を枠組に含めるのかという問題)
  4. 媒介者の規模による責任ルールの差別化?

3.3.2 サーフハーバー条件の明確化

「情報社会サービスプロバイダ」「アクティブ」「受動的」役割の概念などについては、上でふれたとおりです。そして、アルゴリズムの透明性および中立性が問題になるとされます。

1 )「情報社会サービスプロバイダ」の概念の明確化

  •   新しいデジタルサービスプロバイダー(クラウドインフラ、コンテンツ配信ネットワーク、検索エンジン、ソーシャルネットワークやメディア共有プラットフォーム、オンライン広告サービス、電子契約やブロックチェーンなどの分散型台帳に基づいて構築されたデジタルサービスなど)
  • コラボレーティブエコノミープラットフォーム(AirBnBやUberなど)
  • オンラインマーケットプレイス(合法的な製品だけでなく、違法な製品や偽造品を提供するために使用される)

について、セーフハーバーの恩恵を受けるか明らかにすべきが問題となるとされています。

2)「アクティブ」「受動的」役割の違い

「能動的」役割と「受動的」役割の違いが現れる論点としては、以下のものがあります。

  • 第三者データの配布と処理、ネットワーキング(ユーザー同士の接続)
  • コラボレーション(複数のユーザーによる保存データへのアクセスと編集)
  • マッチメーキング(需要と供給の結び付け)
  • インデクセーション(検索可能なインデックス)
  • ランキングサービス(ランキングの仕組み)

など、さまざまな新しい活動について明確にすることができるであろうとされています。

また、「デジタルゲートキーパー」としての役割を強めているデジタルプラットフォームをより適切に管理するために、現在の単なる事後的な管理(違法行為が確認された場合にのみ差止命令による救済を行う)から、より厳格な事前的な管理(オンラインコンテンツの事前監視)への移行が検討されるとされます。

3)アルゴリズムの透明性と中立性

誤報や/またはオンライン広告に関する責任/責任免除をオンライン仲介者に付与するための新たな義務を課す可能性が議論されており、この道を選択した場合、アルゴリズムの透明性と中立性の確保が問題となるとされています。

3.3.3 ノーティス・アンド・テイクダウン・レジームの再訪

ノーティス・アンド・テイクダウンには、いろいろなバリエーションがあって断片化しているとされます。また、EU のセーフハーバー制度の水平的なアプローチから、中間者責任の場合に相反する基本的権利の間で実行可能な妥協点を達成することを目的とした、より垂直的なアプローチ(例えば、著作権については通知と告知、名誉毀損については通知と削除、ヘイトスピーチについては通知と削除、通知と停止といったように、多様な不正行為に合わせた個別の「行動」)をとるべきではないかとされています。

オンライン媒介者によって作成された自主的な行動規範は、事後的なもの(コンテンツの削除、アカウントの解約、個人データの開示手続きなど)、または事前的なもの(コンテンツの制限など)のいずれかであり、重大な人権問題を提起し、消費者や市民の関与が限定的であるため、「民主主義のデメリット」に悩まされているとされています。

ここでは、米国のデジタルミレニアム著作権法をモデルにした、より詳細な通知・削除制度の採用は、通知・削除制度の発動による法的効果を詳細に記述し、手続き上のルールを含む、より適切なアプローチとなりうることが示唆されています。

3.3.4 自動フィルタリング手段と一般モニタリング

一般モニタリングの禁止は、象徴であると考えられ、これは維持されるべきと認識されています。そして、EUの動向についての興味深い記述があります。

現在のEUの政策は、媒介者責任(liability)の導入から媒介者の対応責任(responsibility)の促進へと移行していますが、一般的な監視を禁止する原則は、自動化されたフィルタリング技術の使用によって事実上、チャレンジされています。

Rights Manager (Facebook) や Content ID (YouTube)が非常に大きな役割を果たしていること、一方、これらのプログラムは、透明性を欠如していること、手続的安全策を欠いていることなどが論じられています。なお、Scarlet Extended事件(C-70/10)や Netlog事件(C-360/10)が参照されています。

3.3.5 「善きサマリア人」条項の導入について

「善きサマリア人」のパラドックスが紹介されています。

「善きサマリア人のパラドックス」とは、ホスティングの仲介者がセーフハーバーの保護を失うことを恐 れて侵害に対する予防措置をとることを躊躇するという事実を指す 。言い換えれば、ホスティング・ プロバイダとして積極的な役割を果たすことの禁止は、積極的な役割を果たしていると見なされることを正 確に回避するために、ホスティング・プロバイダが自らがホストするコンテンツが違法であるかどうか を評価するために必要なあらゆる努力をすることを回避させる可能性があるということである。

電子商取引指令には、米国通信品位法のモデルに基づく「善きサマリア人」条項が含まれているかどうかについては議論があること、欧州委員会は、違法コンテンツへの取り組みに関する2017年のコミュニケーションの中で、電子商取引指令の第14条に該当するホスティングプロバイダが、違法コンテンツを検出、削除、またはアクセス不能にするための積極的な措置(すなわち「善きサマリア人」の行動)をとった場合には処罰されないと強調していること、EUのオンライン仲介者は、問題となっている違法コンテンツを削除しなかった場合、責任免除の恩恵を受けることができないため、欧州委員会の解釈はやや混乱し、誤解を招くものであることが論じられています。

同様に、2018年の研究では、「良きサマリア人」の抗弁がない場合、ホスティング仲介者は、違法コンテンツに積極的に対処することを決めた場合、より高い責任リスクにさらされると強調されています。

3.3.6 規制者の役割

EUにおけるオンライン仲介者の適切な規制的監督を確保する必要性が提起されていまする。

より効率的なオンライン共通の責任体制を構築するためには、各国の制度や手続き上のルールを調和させるか、少なくとも近似させることが有効であろうとしています。

デジタル・プラットフォームを規制するための新たな構造(中央規制機関、分散型システム、既存の規制当局の権限の拡大など)の創設や、デジタル・プラットフォーム規制当局に与えられる役割や権限(追加情報を要求する権限、苦情処理、罰金やその他の是正措置を課す権限、行動規範の承認など)の定義については、デジタル・サービス法との関連で評価することができる。特に、効果的な方法でルールを実施・施行することが困難な複雑なクロスボーダーの状況において、新しいルールの監督・施行を確実にするために、監督を主導するEUの規制機関の設置が提案されている。

とされています。

4 概観(Outlook)

この20年間で技術やビジネスモデルは進化し、EUの枠組みでは、検索エンジンやソーシャルネットワーク、オンラインマーケットプレイスなどの新しいアクターが提起する責任問題を捉えるのに苦労しており、欧州司法裁判所の判例法も十分な指針を示していないとされています。

そして、社会的課題によって問題の性質と規模が変化しており、オンラインでのテロリストコンテンツの拡散、プラットフォームを利用した偽造品の流通の増加、虚偽または誤解を招くニュースやオンライン広告の拡散など、さまざまな新しい有害なオンライン行為が展開されています。

しかしながら、今後の進め方や、EUの規則を新しいデジタル環境に適応させる方法については、強い意見の相違があり、自己規制の強化、共同規制の促進、実体法の限定的な調和または実体法のより包括的な調和の促進など、さまざまなタイプの政策介入が、来るべきデジタルサービス法の議論の中で取り上げられる必要がある、とされています。


欧州共同体においても、オンライン媒介者の役割についての具体的にどのように規制するべきか、というのは、大きな問題になっています。しかしながら、単なる導管であるというだけではない、ということは認識されているように思います。それが、Liabilityの導入から、対応責任(responsibility)の促進へと移行という言葉になるだろうと考えます。

日本のプロバイダ責任制限法の立て付けと、オンライン媒介者の権限と責任

でもって、我が国のプロバイダの責任について考えます。

2 特定電気通信役務提供者は、特定電気通信による情報の送信を防止する措置を講じ た場合において、当該措置により送信を防止された情報の発信者に生じた損害につい ては、当該措置が当該情報の不特定の者に対する送信を防止するために必要な限度に おいて行われたものである場合であって、次の各号のいずれかに該当するときは、賠償の責めに任じない。

一 当該特定電気通信役務提供者が当該特定電気通信による情報の流通によって他人の権利が不当に侵害されていると信じるに足りる相当の理由があったとき。

となります。欧州の解釈論と比較したときには、「特定電気通信役務提供者」とプロバイダーの種類の制限がないこと、他人の権利が不当に侵害されていると信じるに足りる相当の理由があることが、ひとつの免責の要件となっている点が特徴です。

「特定電気通信役務提供者」とプロバイダーの種類の制限がないこと

これについては、上でみたように欧州では、電子商取引指令において、プロバイダーの種別によって、責任が異なっています。しかしながら、我が国では、「特定電気通信役務提供者」は、

特定電気通信設備を用いて他人の通信を媒介し、その他特定電気通信設備を他人の通信の用に供する者をいう。

と定義されていて、通信との関わりで責任に対しての役割が異なるという考え方は取られていません。逐条解説でも

プロバイダは、自らが設置している特定電気通信設備を用いた特定電気通信によって他人の権利を侵害する情報が流通している場合に、(a)当該情報の送信を防止するための措置をとる、(b)発信者の特定に資する情報(発信者情報)を開示する、という対応をとることが可能な場合があるため、本法律では、このようなプロバイダを対象とし、特定電気通信による情報の流通によって権利が侵害された場合について、(i)適切かつ迅速な対応を促進するための損害賠償責任の制限、(ii)権利の侵害を受けた者が当該情報の発信者情報の開示を受けることができるための権利を規定することとしている。

としています。要するに、「対応をとることが可能な場合」には、責任を負いうることがあるし、また、対応をとっても違法性が阻却されますよ、という規定であると考えられます

すなわち、我が国の解釈においては、単なる導管プロバイダであっても、それが、「(a)当該情報の送信を防止するための措置をとる」ことが可能であれば、「特定電気通信役務提供者」として、責任を負いうるし、また、当該措置を取ったとしても、法令に基づく措置として、電気通信事業法4条の関係でも、違法性が阻却されると解するのが自然であるということになります。

直接の文言から見たときに、上のような解釈が素直なわけです。そうはいっても、逐条解説では、プロバイダ責任制限法との関係で、導管プロバイダが、「特定電気通信役務提供者」とは、記載しておらず、導管プロバイダが、この「特定電気通信役務提供者」には、含まれないという解釈もなりうちうるとはいえそうです。

立法時については、今度機会があったら調べます。

この点は、2018年の段階では、あまり議論されていなかったのですが、斉藤 邦史「プロバイダの送信防止作為義務と通信の秘密」(NEXTCOM 41巻.2020)小向太郎「インターネット上の誹謗中傷と媒介者責任」などで議論されるようになりました。

齋藤説は

送信防止措置が通信の秘密を侵害する行為に該当する場合には、そもそもプロ責法の適用以前に、プロバイダには民法上の作為義務が生じないというのが「条理」の内容であると解すべきであろう

としているので、この導管プロバイダ排除説のようです。ここでいう「特定電気通信役務提供者」は、「電気通信事業者の取扱中」の通信をあつかうことはないと解しているのか、とも思われます。具体的に知ったときに、対応しうるのか、というのを議論しているときに、通信の秘密が優先するからというのは、結論を先取りされているような気がします。

小向説は

日本のプロバイダ責任制限法は,媒介者全般を対象として,権利侵害に関して認識しているのに放置をしたら責任を負うという考え方をとっている.例えば,電子商取引指令では「単なる導管」として原則免責の対象となるアクセスプロバイダも,特定電気通信役務提供者にあたると考えられている.また,プロバイダに責任が認められる,権利侵害に関する認識があるにもかかわらず取りうる措置を取らないという要件は,一般に不作為の不法行為が認められる作為義務違反違反の要件と,大きな違いがない

として、

特定の情報について送信防止措置を行うこと自体が基本的に「技術的に可能」ではないため削除等を求められることはないと考えられている(小向(2020)・前掲注(3)129頁)

としているので、技術的に可能であれば、停止権限を認める立場に読めます。

個人的には、、停止も可能であるし、また、責任を負いうることもある(ただし、現実的には、免責されうるのと同様)と考え、この報告書で説明されている欧州の立場と同様のように調整するのが賢明であると考えます。そして、むしろ、実際の停止が可能になる事情・責任を負いうる事情は、「他人の権利が不当に侵害されていると信じるに足りる相当の理由があること(2号)」で調整するというのが賢明なのだろうと考えています。では、この他人の権利が不当に侵害されていると信じるに足りる相当の理由があること(2号)って何という問題がでてきます。

他人の権利が不当に侵害されていると信じるに足りる相当の理由があること(2号)

これは、特定電気通信によりその情報が流通していることを知っていた場合に限られるという前提事実があります。上記のような事実を認識していなかった場合には、その理由を問わず責任が生じないとするものであり、結果として、関係役務提供者には、特定電気通信により流通する情報の内容を網羅的に監視する義務がないことが明確化されているといえます。その一方で、具体的に権利侵害があるということが電気通信役務提供者に連絡があったらどうなるのか、という問題があります。

ここで、「知っていた」とは、当該情報が流通しているという事実を現実に認識していたことである。

と解説がされています(逐条解説11ページ)。この用語自体、欧州の用語法との親和性を伺わせます。

そして、2号において、どのような場合に「相当の理由」があるとされるのかは、最終的には司法判断に委ねられるところであるが、例えば、

関係役務提供者が次のような情報が流通しているという事実を認識していた場合は、相当の理由があるものとされよう。

(略)

流通している情報が自己の著作物であると連絡があったが、当該主張について何の根拠も提示されないような場合

とされています。要するに、主張について根拠を提示しながら、具体的に配信停止の方法を求めた場合について、電気通信役務提供者は、これに応じるべき義務が生じ、これに応じない場合は、責任を負いうるということになります。もっとも、ここで責任を負いうる場合というのは、オーバーブロッキング等のリスク等とのバランスになるので、これらのリスクと考慮して、ISPが責任を負いうるというのは、そのような弊害のリスクが、無視しうる程度でなければ、「相当な理由がある」とはいえないといえます。実質的には、欧州の導管プロバイダの無答責と同一の結果になるということでいいかと思います。

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