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競争政策は、セキュリティを破壊するのか-英国 CMA モバイルエコシステムに関する市場調査 最終報告

日本においてデジタル市場競争会議から、2022年4月26日に「モバイル・エコシステムに関する競争評価中間報告案」が公表されています。  同じ問題について英国CMAから、「モバイルエコシステムに関する市場調査 最終報告」がでています。この中間報告については、「英国のモバイルエコシステムについての中間報告」でみたところです。

表紙はこちら。

最終報告のページは、こちらです。 最終報告書自体は、こちらです。

丸山さんの紹介は、こちらです。

項目は、

    1. モバイルエコシステムの概要
    2. モバイル機器及びOSの競争
    3. ネイティブアプリの配布の競争
    4. モバイルブラウザの競争
    5. アプリ開発者間の競争におけるアップルとグーグルの役割
    6. 弱い競争による消費者へのハーム
    7. 潜在的な介入の概要
    8. モバイルブラウザとクラウドゲームの市場調査の参照事項の提案
    9. 次のステップ

となります。本文だけで全部で、356ぺージ。

この項目のうち、1-6については、「英国のモバイルエコシステムについての中間報告」のエントリでもかなりの程度、紹介しています。

ただし、詳細な分析は、いつかの機会にしたいです。というか、関係者様、予算 お待ちしています。

なので、今回は、7に力点をおいてみたいと思います。

7 競争の弱さによる消費者への悪影響

主な調査結果

  • 人々の生活においてモバイル機器がますます重要な役割を果たす中、これらの市場がうまく機能し、消費者の利益になることが不可欠である。スマートフォンに対する顧客満足度は概して高いが、今回の調査結果では、消費者はもっと良い取引ができるはずであり、英国の多くの中小企業が不必要なコストに直面していることが示唆された。
  •  モバイルのエコシステムにおける競争の弱さは、この分野全体のイノベーションにブレーキをかけており、アップルやグーグル、潜在的な競合他社の投資意欲を減退させている。このような損害は、その性質上、特定や測定が困難である。
  •  また、アップルによる規制によって、潜在的な破壊的イノベーション(クラウドゲームなど)が抑制されている具体例も見つかっており、製品の改善や新規開発への投資意欲を低下させるような行為に関する懸念も聞いています。
  •  アップルとグーグルの市場パワーと財務実績に関する調査結果を総合すると、より大きく、より効果的な競争の余地があることがわかる。アップルの携帯端末、両社のアプリストア、グーグルの検索広告サービスでは、いずれも競争力のある価格を上回っている。
  •  我々の例示的な分析によれば、アップルとグーグルは、2021年に英国でのモバイル事業から、投資家に公正なリターンを十分に還元するために必要な額以上の40億ポンド以上の利益を得ることができたとされている。このことは、競争によって価格を下げ、投資の増加によってより大きなイノベーションを促進する余地が大きく、英国の消費者に大きな影響を与えることを示唆している。
  •  また、モバイル・エコシステムの中には、競争の弱さの結果、ユーザー体験が低下している分野がいくつかある。例えば、アップルの WebKit 制約が、すべてのブラウザの潜在的な品質と新機能の利用を制限しているという懸念を数多く耳にします。
  •  アップルとグーグルは、それぞれのエコシステムのスチュワードとして、ユーザーのプライバシー、セキュリティ、オンラインの安全を守るために重要かつ価値ある役割を果たしています。我々が収集した証拠は、競争を促進するために慎重に設計された介入は、これらの利点を損なう必要はない(場合によっては強化することができる)ことを示唆しています。
  •  モバイルエコシステムにおける競争の弱さは、ネイティブアプリやオープンウェブを通じてオンラインコンテンツを提供する企業など、プラットフォームのビジネスユーザーにも不必要なコストと不確実性を通じて損害を与えています。これらのコストの多くは、価格の上昇や、革新的な新サービスや機能の放棄などを通じて、消費者に転嫁されることになります。これらの問題に対処することは、英国を技術系スタートアップ企業の設立や投資にとってより魅力的な場所にすることにつながるでしょう。

7.0 序

CMA は、アップルとグーグルに対して、モバイルエコシステムにおいて有効な競争に直面していないという重大な懸念を有していること(7.1)、競争の力学は、複雑で、お互いに関連しており、モバイルエコシステムは、は、現在および長期にわたって、幅広い波及効果をもたらす可能性があること(7.2)、エコシステムのスチュワード(執事・管理人) としてエコシステムに貢献していると考えられる一方で、イノベーション、ユーザエクスピリエンス、価格、プライバシー/セキュリティおよびオンラインセーフティにおいて、競争が影響をあたえうると考えられること(7.3)があげられています。

7.1 アップルとグーグルのモバイルエコシステムのスチュワードシップ

モバイル機器が人々の生活に与える影響が大きいこと、それは、アップルとグーグルの投資によるとともに、その余の機器のメーカー、サードパーティののイノベーション等によること(7.4)、モバイル機器は、きわめて重要な役割を果たしており、インターネットの85%のユーザーに渡り、また、現時点では、4分の1の成人が、デスクトップ・ラップトップのコンピュータを有していないこと(7.5)、アップルとグーグルは、スチュワードシップを果たしており、例えば、セキュリティを強化する技術と人間主導のアプリ審査プロセスの組み合わせにより、オンライン上の悪者を排除することができていること、自社のサービスやエコシステム内の第三者のサービスを利用する際に、ユーザーのプライバシーと個人データの管理を強化する積極的な開発の導入を促進することができること(7.7)、開発者にとっては、アプリストアが、整備されていることは、より広範な投資を可能にしていること(7.8)、このスチュワードシップが、踏み越してしまうリスクがあり、両社は、利益相反する立場に立っていること(7.9)、弱い競争から生じるハームについては、介入によって消費者を保護しうる、もしくは、より競争を活発にできるといえる(7.10)。

7.2 イノベーション

イノベーションが、生活様式をも変更してきたこと(7.11)、iPhoneは、2007年に発売され、グーグルの検索エンジンは、1998年にはじまっており、まさに、そのようなイノベーションであり、世界的に多数の人が利用するエコシステムへと発展してきていること(7.12)、弱い競争は、イノベーションのペースにブレーキをかけてしまうことであり、リアルワールドでの破壊的な新技術モデルが、通じない例がある(7.14)。

アップルとグーグルによるイノベーション

アップルとグーグルの製品・サービスも拡大し、向上していること(7.16)、CMAとしても、両社のなしとげたことを消去することを目指しているわけではないこと(7.19)。

破壊的イノベーションの抑制

デジタル市場の文脈では、破壊的イノベーションが突破口を開く機会の方がより重要である可能性がある(7.20)。 近年、最大の飛躍は、デジタル破壊者が従来とは異なる方法を開発したときにもたらされることが分かっている(7.21)。7.23 モバイルエコシステムの文脈では、アップルとグーグルが、彼らの地位に挑戦する脅威となる破壊的なビジネスモデルの開発を妨害する能力と意志を示した場合、デジタル新興企業の投資と革新のインセンティブは減衰することになる(7.24 )。我々は、アップル社の決定とそのアップストアルールを通じて実施されることが、オンライン上で消費者にサービスを提供する新しい方法を阻害する効果があると思われるいくつかの状況があり、第一は、プログレッシブウェブアプリである(7.25)。 いまひとつは、(iOSネイティブの)クラウドゲームである(7.27)。第三は、アップルは、開発者がユーザに対して、ターゲッティング公告に対して個人データの提供に対するインセンティブ・報酬をあたえることを禁止していることである(7.28)。

イノベーションがコピーされることのおそれ

開発者は、彼らの商業的に機雛情報にアクセスして利用するインセンティブも能力も有していることに対しておそれを有している(7.29)。これは、長期的には、競争を害して、イノベーションを阻害することになる(7.30)。また、その萎縮効果も存在する(7.31)。さらに、このリスクは、エンジェル投資家に認識・評価されることで新規サービス・イノベーションを阻害する(7.32)。

新しいアイディアやフィーチャーへの制限

NFCへのアクセス制限は、消費者を害しているのではないかということが指摘されている(7.33-7.36)。

7.3 ユーザーエクスピリエンス

スマートフォンについては、現行の利用モデルに対する満足度が高い結果がえられること(7.38)、これは、エコシステムが、十分に働いていることを意味しているわけではないこと(7.39)。

質の低い製品

アップルは、ブラウザやそのエンジンに対して十分に効果的な投資をしていない、サファリとWebKitについては、ユーザが乗り換えるという脅威にさらされないでいる(7.41)。その結果、プッシュ通知(7.43)、ブラウザの質の低さ(7.44)を指摘しうる。

利用者の選択とコントロールの制限

アップルのブラウザの技術は、基本的にサファリと同一であること、アップルのATTプロンプトは、より情報が提供されないで決定するようにつくられていることが指摘されている(7.45-7.48)。

直接の顧客と提供者の関係の制限

アップルもグーグルも、特定のアプリにおいて顧客との直接の関係を制限していること(7.49-7.50)が指摘されている。

ビジネスユーザに対するハーム

二面市場においては、ビジネスサイドに直接のハームが見受けられること(7.52)、アプリ供給の種々の段階において懸念が特定されていること(7.53)、WebKitの相互流用性の制限から、新たな機能が遅延したり、キャンセルされていること、ネイティブアプリに比較して、ウェブアプリには、追加的コストがかかっていること(7.54)、デジタル公告において、エコシステムに対して、自分たちに有利な変更をしようとしていること(7.56)、デジタルビジネスをはじめ、育成するためにもっとも魅力的な場所にするためには、よりなすべきことがあることを示していること(7.57)があげられています。

7.4 価格

競争の弱い市場においては、価格の上昇をみることができ、アップルのモバイル機器/グーグルの検索公告市場価格は、競争価格を上回っていること(7.58-7.61)。

アップルの機器の価格

アップルは、機器、特にiPhoneについては、競争に直面していないこと(7.62-7.64)、アプリ開発者に対するコミッションにおいて、制約を受けていないこと(7.65)、が認定されている。

グーグル検索

グーグル検索の利益率は、50-75%に及ぶため非常に利益をあげうるものである(7.69)。特に検索公告において、競争的なレートよりも上回ることが可能であり、商品やサービスの価格に転嫁されることになる(7.70)。モバイルエコシステムにおけるグーグルの市場支配力は、検索公告の超過レートをささえることになる(7.71)。

7.5 プライバシー、セキュリティとオンライン・セーフティ

競争の強化されることによって、モバイルエコシステムの質が害されることもありうる(7.72)、グーグルとアップルは、准規制当局の役割を果たすこともあること(7.73)、しかしながら、すべての決断が消費者のためになされているとは限らないこと(7.74)、これらについては、トレードオフが存在していること(7.75)、アップルによる証拠は、このトレードオフを過剰評価する傾向にあること(7.76)、特にブラウザーについては、安全なブラウジングをむしろ妨げていると考えられること(7.76)、プライバシーに関しては、情報コミッショナーとの密接な関係からするとき、競争とデータ保護は、両立し、補完しうるものであると考えていること(7.77)、オンライン・セーフティについては、Ofcomとも密接な取り合っており、アップルが、規約は、オンラインセーフティを正当化すると主張している(7.78)ものの、これが、その規約を正当化するものとは考えておらず、Ofcom が規制当局となるなかで、CMAと連携することになっていること(7.79)、競争を促進するための介入がよく考え抜かれ、慎重に設計されていれば、プライバシー、セキュリティ、安全性の低下という形でユーザーの妥協につながるとは限らない、と結論付けていること(7.80)が述べられています。

8以下については、ポイントの翻訳です。

8 潜在的な介入の概要

主たる認定

  • AppleとGoogleがそのエコシステムにおいて市場支配力を行使できる方法が多岐に渡ることを考えると、競争を開放し、その害に対処するための介入が必要であることは明らかである。これらの問題は、放置されれば、持続し、悪化する可能性がある。
  • 我々は、モバイルエコシステム内の競争を強化することができる多くの潜在的な変化を特定した。
    • 特に、ネイティブアプリの配信やブラウザの市場においてより多くの選択肢を提供し(例:サイドロード/代替アプリストア/アップルのブラウザエンジンの代替を許可)、ユーザがエコシステムを容易に切り替えられるようにすること。
    • 特定のAPIやハードウェアなど、現在アップル(および、より低い程度ではグーグル)だけが保有しているモバイルエコシステムの部分へのサードパーティによるより平等なアクセスを認める。
    • アップルとグーグルがそのアプリストア運営を通じて、競合アプリ開発者に対して不当に有利になることを防ぐ。これには、公正かつ透明なアプリ審査プロセスの要求、アプリ審査部門と開発部門の間でデータを共有しない要求、AppleのATTプライバシーフレームワークの改善などが含まれる。消費者に届けるための現実的な代替手段がない一部のアプリ開発者に対してAppleとGoogleが課す手数料の水準と構造に関する懸念に直接対処する(例:公正価格規則)。
  •  我々は、アプリやウェブ開発者を含む多くの関係者から、これらの市場開放措置、(主にアップルに関連する)不必要な制限の撤廃、特定のセーフガードの導入によってもたらされる幅広い利益について話を聞いた。
  •  アップルはしばしば、セキュリティ、プライバシー、ユーザーの安全性などを理由にその制限を正当化します – これらはすべて考慮されるべき重要な要素です。しかし、私たちがこれまでに収集した証拠によれば、人々の安全性とセキュリティを損なうことなく、これらの多くを取り除く余地があることが示唆されています。
  •  この調査では、さまざまな分野にわたって介入するための強力な事例があり、その多くは、英国のデジタル市場に対して予想される新しい競争促進規制体制によく適しています。我々は、政府が必要な法整備を進める中で、この体制の確立を引き続き支援していく。
  •  これと並行して、我々は、既存のツールを最も適した場所で効果的かつ的を絞った利用を続けていくつもりである。これには、Appleが課したApp Storeの利用規約に関する競争法違反事件や、モバイルブラウザとクラウドゲームに関する市場調査案などの執行措置が含まれます。さらに一般的には、増え続けるデジタル関連の案件を積極的に検討していく予定です。

9 モバイルブラウザとクラウドゲームの市場調査の参照事項の提案

本章では、モバイルブラウザ及びモバイルブラウザエンジンの供給、並びにモバイルデバイス上のアプリストアを通じたクラウドゲーミングサービスの流通(我々の報告書を通じて「モバイルブラウザ及びクラウドゲーミング」と呼ぶ)に関する市場調査基準(MIR)について協議するという我々の決定について説明しています。具体的には、

  • CMA が MIR を行うための法的枠組み
  •  中間報告段階での MIR を行わないという我々の決定
  •  MIR について協議するという我々の最新の決定とその理由
  •  MIR に関する我々の協議の詳細。

提案された付託事項及び協議に関する更なる詳細は、我々の最終報告書と共に公表された付託事項及び協議文書の草案に記載されています。

10 次のステップ

本章では、この調査以降、これらの目標に向けて CMA が取ることになる主な次のステップを示しています。具体的には、

  •  市場、競争、消費者の権限を用いて直接行動を起こすこと
  •  新体制の確立において政府を引き続き支援すること
  •  国内外の他者と協働すること

10.1CMA による直接行動

CMAは、デジタル市場において、

  • 政府が提案する新しいデジタル市場制度を、法律が成立し次第、DMU を通じて実行に移す準備をすること
  • それまでの間、CMA の現在の権限を利用して、可能な限り問題を即座に解決するために、的を絞った行動を取ること

である。

まず、現在の調査のポートフォリオとしては、

1 競争法に関する調査

  •  広告市場における Meta と Google の合意
  • アドテクにおける Google による反競争的行為の疑い
  •  偽のレビューに関する Amazon と Google。

 2 GoogleのPrivacy Sandboxに関する作業(ICOとともに、Googleのコミットメントに従ったChromeからのサードパーティCookieの削除を監督している)

3  MetaのGiphy買収の検討

4  音楽とストリーミング市場に関する市場調査。

があります。

これらに追加して、モバイルブラウザとクラウドゲーミングに関する市場調査の参照 を行うという提案について協議しています。

第9章で述べたように、我々は、モバイルブラウザとクラウドゲーミングに関連する一つ以上の機能(単独または組み合わせ)が、英国における競争を防止、制限、歪曲し、これが消費者に大きな損害を与えている可能性があると疑う合理的な根拠を持っている。また、

GoogleのPlayストアのアプリ内課金に関する規則が最近強化され、この問題に関するAppleの規則とより密接に連携するようになったことを受け、CA98調査を開始することを発表します。

それ以外にも

デジタル市場についての新たな体制の支援

国内・国際的な他の当局との協同

が検討されています。

なお、日本のデジタル市場競争会議との協議も紹介されています(10.27)。

このCMA の最終報告は、詳細な証拠にもとづいているところですし、証拠を評価しないで感想というのもおこがましいところですが、グーグルとアップルというプラットフォームの実際の行動が消費者に与えている影響を冷静に、かつ客観的に分析しているという点で非常に興味深いものといえるかと思います。

「iPhoneにサイドローディングさせろ」を国が言うのは妥当か」というような反応もあるわけですが、英国の報告書は、スチュワードシップのメリットを認めた上で、消費者への影響について、最善の策をもとめるべきであるとしているので、理念的な反応は、やめるべきであろうというのが私の感想ですが、いかがでしょうか。

 

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