お電話での問い合わせは03-6805-2586
日本においてデジタル市場競争会議から、2022年4月26日に「モバイル・エコシステムに関する競争評価中間報告案」が公表されています。 同じ問題について英国CMAから、「モバイルエコシステムに関する市場調査 最終報告」がでています。この中間報告については、「英国のモバイルエコシステムについての中間報告」でみたところです。
表紙はこちら。
最終報告のページは、こちらです。 最終報告書自体は、こちらです。
丸山さんの紹介は、こちらです。
項目は、
となります。本文だけで全部で、356ぺージ。
この項目のうち、1-6については、「英国のモバイルエコシステムについての中間報告」のエントリでもかなりの程度、紹介しています。
ただし、詳細な分析は、いつかの機会にしたいです。というか、関係者様、予算 お待ちしています。
なので、今回は、7に力点をおいてみたいと思います。
CMA は、アップルとグーグルに対して、モバイルエコシステムにおいて有効な競争に直面していないという重大な懸念を有していること(7.1)、競争の力学は、複雑で、お互いに関連しており、モバイルエコシステムは、は、現在および長期にわたって、幅広い波及効果をもたらす可能性があること(7.2)、エコシステムのスチュワード(執事・管理人) としてエコシステムに貢献していると考えられる一方で、イノベーション、ユーザエクスピリエンス、価格、プライバシー/セキュリティおよびオンラインセーフティにおいて、競争が影響をあたえうると考えられること(7.3)があげられています。
モバイル機器が人々の生活に与える影響が大きいこと、それは、アップルとグーグルの投資によるとともに、その余の機器のメーカー、サードパーティののイノベーション等によること(7.4)、モバイル機器は、きわめて重要な役割を果たしており、インターネットの85%のユーザーに渡り、また、現時点では、4分の1の成人が、デスクトップ・ラップトップのコンピュータを有していないこと(7.5)、アップルとグーグルは、スチュワードシップを果たしており、例えば、セキュリティを強化する技術と人間主導のアプリ審査プロセスの組み合わせにより、オンライン上の悪者を排除することができていること、自社のサービスやエコシステム内の第三者のサービスを利用する際に、ユーザーのプライバシーと個人データの管理を強化する積極的な開発の導入を促進することができること(7.7)、開発者にとっては、アプリストアが、整備されていることは、より広範な投資を可能にしていること(7.8)、このスチュワードシップが、踏み越してしまうリスクがあり、両社は、利益相反する立場に立っていること(7.9)、弱い競争から生じるハームについては、介入によって消費者を保護しうる、もしくは、より競争を活発にできるといえる(7.10)。
イノベーションが、生活様式をも変更してきたこと(7.11)、iPhoneは、2007年に発売され、グーグルの検索エンジンは、1998年にはじまっており、まさに、そのようなイノベーションであり、世界的に多数の人が利用するエコシステムへと発展してきていること(7.12)、弱い競争は、イノベーションのペースにブレーキをかけてしまうことであり、リアルワールドでの破壊的な新技術モデルが、通じない例がある(7.14)。
アップルとグーグルの製品・サービスも拡大し、向上していること(7.16)、CMAとしても、両社のなしとげたことを消去することを目指しているわけではないこと(7.19)。
デジタル市場の文脈では、破壊的イノベーションが突破口を開く機会の方がより重要である可能性がある(7.20)。 近年、最大の飛躍は、デジタル破壊者が従来とは異なる方法を開発したときにもたらされることが分かっている(7.21)。7.23 モバイルエコシステムの文脈では、アップルとグーグルが、彼らの地位に挑戦する脅威となる破壊的なビジネスモデルの開発を妨害する能力と意志を示した場合、デジタル新興企業の投資と革新のインセンティブは減衰することになる(7.24 )。我々は、アップル社の決定とそのアップストアルールを通じて実施されることが、オンライン上で消費者にサービスを提供する新しい方法を阻害する効果があると思われるいくつかの状況があり、第一は、プログレッシブウェブアプリである(7.25)。 いまひとつは、(iOSネイティブの)クラウドゲームである(7.27)。第三は、アップルは、開発者がユーザに対して、ターゲッティング公告に対して個人データの提供に対するインセンティブ・報酬をあたえることを禁止していることである(7.28)。
開発者は、彼らの商業的に機雛情報にアクセスして利用するインセンティブも能力も有していることに対しておそれを有している(7.29)。これは、長期的には、競争を害して、イノベーションを阻害することになる(7.30)。また、その萎縮効果も存在する(7.31)。さらに、このリスクは、エンジェル投資家に認識・評価されることで新規サービス・イノベーションを阻害する(7.32)。
NFCへのアクセス制限は、消費者を害しているのではないかということが指摘されている(7.33-7.36)。
スマートフォンについては、現行の利用モデルに対する満足度が高い結果がえられること(7.38)、これは、エコシステムが、十分に働いていることを意味しているわけではないこと(7.39)。
質の低い製品
アップルは、ブラウザやそのエンジンに対して十分に効果的な投資をしていない、サファリとWebKitについては、ユーザが乗り換えるという脅威にさらされないでいる(7.41)。その結果、プッシュ通知(7.43)、ブラウザの質の低さ(7.44)を指摘しうる。
利用者の選択とコントロールの制限
アップルのブラウザの技術は、基本的にサファリと同一であること、アップルのATTプロンプトは、より情報が提供されないで決定するようにつくられていることが指摘されている(7.45-7.48)。
直接の顧客と提供者の関係の制限
アップルもグーグルも、特定のアプリにおいて顧客との直接の関係を制限していること(7.49-7.50)が指摘されている。
ビジネスユーザに対するハーム
二面市場においては、ビジネスサイドに直接のハームが見受けられること(7.52)、アプリ供給の種々の段階において懸念が特定されていること(7.53)、WebKitの相互流用性の制限から、新たな機能が遅延したり、キャンセルされていること、ネイティブアプリに比較して、ウェブアプリには、追加的コストがかかっていること(7.54)、デジタル公告において、エコシステムに対して、自分たちに有利な変更をしようとしていること(7.56)、デジタルビジネスをはじめ、育成するためにもっとも魅力的な場所にするためには、よりなすべきことがあることを示していること(7.57)があげられています。
競争の弱い市場においては、価格の上昇をみることができ、アップルのモバイル機器/グーグルの検索公告市場価格は、競争価格を上回っていること(7.58-7.61)。
アップルの機器の価格
アップルは、機器、特にiPhoneについては、競争に直面していないこと(7.62-7.64)、アプリ開発者に対するコミッションにおいて、制約を受けていないこと(7.65)、が認定されている。
グーグル検索
グーグル検索の利益率は、50-75%に及ぶため非常に利益をあげうるものである(7.69)。特に検索公告において、競争的なレートよりも上回ることが可能であり、商品やサービスの価格に転嫁されることになる(7.70)。モバイルエコシステムにおけるグーグルの市場支配力は、検索公告の超過レートをささえることになる(7.71)。
競争の強化されることによって、モバイルエコシステムの質が害されることもありうる(7.72)、グーグルとアップルは、准規制当局の役割を果たすこともあること(7.73)、しかしながら、すべての決断が消費者のためになされているとは限らないこと(7.74)、これらについては、トレードオフが存在していること(7.75)、アップルによる証拠は、このトレードオフを過剰評価する傾向にあること(7.76)、特にブラウザーについては、安全なブラウジングをむしろ妨げていると考えられること(7.76)、プライバシーに関しては、情報コミッショナーとの密接な関係からするとき、競争とデータ保護は、両立し、補完しうるものであると考えていること(7.77)、オンライン・セーフティについては、Ofcomとも密接な取り合っており、アップルが、規約は、オンラインセーフティを正当化すると主張している(7.78)ものの、これが、その規約を正当化するものとは考えておらず、Ofcom が規制当局となるなかで、CMAと連携することになっていること(7.79)、競争を促進するための介入がよく考え抜かれ、慎重に設計されていれば、プライバシー、セキュリティ、安全性の低下という形でユーザーの妥協につながるとは限らない、と結論付けていること(7.80)が述べられています。
8以下については、ポイントの翻訳です。
主たる認定
本章では、モバイルブラウザ及びモバイルブラウザエンジンの供給、並びにモバイルデバイス上のアプリストアを通じたクラウドゲーミングサービスの流通(我々の報告書を通じて「モバイルブラウザ及びクラウドゲーミング」と呼ぶ)に関する市場調査基準(MIR)について協議するという我々の決定について説明しています。具体的には、
提案された付託事項及び協議に関する更なる詳細は、我々の最終報告書と共に公表された付託事項及び協議文書の草案に記載されています。
本章では、この調査以降、これらの目標に向けて CMA が取ることになる主な次のステップを示しています。具体的には、
10.1CMA による直接行動
CMAは、デジタル市場において、
である。
まず、現在の調査のポートフォリオとしては、
1 競争法に関する調査
2 GoogleのPrivacy Sandboxに関する作業(ICOとともに、Googleのコミットメントに従ったChromeからのサードパーティCookieの削除を監督している)
3 MetaのGiphy買収の検討
4 音楽とストリーミング市場に関する市場調査。
があります。
これらに追加して、モバイルブラウザとクラウドゲーミングに関する市場調査の参照 を行うという提案について協議しています。
第9章で述べたように、我々は、モバイルブラウザとクラウドゲーミングに関連する一つ以上の機能(単独または組み合わせ)が、英国における競争を防止、制限、歪曲し、これが消費者に大きな損害を与えている可能性があると疑う合理的な根拠を持っている。また、
GoogleのPlayストアのアプリ内課金に関する規則が最近強化され、この問題に関するAppleの規則とより密接に連携するようになったことを受け、CA98調査を開始することを発表します。
それ以外にも
が検討されています。
なお、日本のデジタル市場競争会議との協議も紹介されています(10.27)。
このCMA の最終報告は、詳細な証拠にもとづいているところですし、証拠を評価しないで感想というのもおこがましいところですが、グーグルとアップルというプラットフォームの実際の行動が消費者に与えている影響を冷静に、かつ客観的に分析しているという点で非常に興味深いものといえるかと思います。
「iPhoneにサイドローディングさせろ」を国が言うのは妥当か」というような反応もあるわけですが、英国の報告書は、スチュワードシップのメリットを認めた上で、消費者への影響について、最善の策をもとめるべきであるとしているので、理念的な反応は、やめるべきであろうというのが私の感想ですが、いかがでしょうか。