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インターネット媒介者の役割と「通信の秘密」の外延(検索エンジン・CDN)-EU「プロバイダーの注意義務と責任」報告書の示唆

2013年には、「インターネット媒介者の役割と「通信の秘密」」という簡単な解説をNextcom寄稿しました。その論文では、現代社会において「インターネット媒介者」の果たすべき積極的な役割は、きわめて増大しているのではないか、という問題提起をしていきました。わが国においては、「秘密」の解釈が曖昧なまま、さらに拡大されて解釈されていること、インターネット時代にその傾向がさらに強まっていることによって、現実には、安全安心なインターネットを実現するという観点から、インターネット媒介者が積極的な役割を果たすべきのであるのに、その役割をはたすべきことが妨げられているのではないか、という問題提起をしたわけです。

この論文で、「インターネット媒介者」(Internet Intermediaries)というのは、

インターネットの第三者間の通信を伝達し、または、促進するものであって、インターネットにおいて、第三者によって行われるコンテンツ、製品、サービスにたいして、アクセスさせ、ホストし、送信し、指し示す、もしくは、インターネットのサービスを第三者に提供するもの

をいいます。(OECD“THE ECONOMIC AND SOCIAL ROLE OF INTERNET INTERMEDIARIES”  page9 http://www.oecd.org/internet/ieconomy/44949023.pdf)

上記KDDI論文でも、

ISP、サーチエンジン、ドメイン名レジストラーなどが、インターネット媒介者にあたる

としていて、定義上は、広く捉えていました。が、インターネット媒介者の役割と「通信の秘密」」での議論は、いわゆる導管プロバイダーを念頭に置いていたという気がしています。

導管プロバイダーというのは、電子商取引指令(オンライン媒介者を三種類にわけて、第三者のコンテンツをホスト・通信するオンライン媒介者を一定の条件のもと責任を免除することを定めている)で明らかにされています。同指令12条です。

第4節 仲介サービスプロバイダの責任
第 12 条 単なる導管(Mere conduit)
1. サービスの受取人が提供する情報の通信ネットワークにおける伝送、又は、通信ネットワークへのアクセスの提供からなる情報社会サービスが提供される場合には、構成国は、サービスプロバイダは、次の各項に掲げる条件を満たす限り、サービスプロバイダは、伝送された情報に対して責任を有しないということを確実にしなければならない。
(a)サービスプロバイダは、自ら伝送を開始しないこと。
(b)サービスプロバイダは、伝送の受信者を選択しないこと。そして
(c)サービスプロバイダは、伝送に含まれる情報を選択又は変更しないこと。
(略)

これに関するエントリとしては

プロバイダ責任制限法の数奇な運命-導管(conduit)プロバイダは、プロバイダ責任制限法における情報の停止についての違法性阻却をなしうるのか」

動的ブロッキング・ライブブロッキングの「もつれ(エンタングルメント)」-著作権侵害に対するブロッキングの動向-

「ダイナミック・ブロッキングの状況-欧州議会調査サービス「デジタル環境におけるスポーツイベント主催者の直面する課題」

などがあります。

しかしながら、現代社会においては、導管プロバイダー以外の

  • プラットフォーム
  • 検索エンジン
  • CDN (コンテンツ配信ネットワーク (CDN) )

などが果たすべき積極的な役割と、その限界という方向から考える必要があるのではないか、と考えるようになってきました。これらを図示すると以下のようになります。

この図は、プロバイダについて、違法情報の伝達に対しての実際の関与の度合い(同時に停止可能性でもあります)に応じて、法的に介入の機会が大きくなってくることを示しています。

この基本的な考え方は、

この枠組のなかで、「プロバイダ責任制限法の数奇な運命-導管(conduit)プロバイダは、プロバイダ責任制限法における情報の停止についての違法性阻却をなしうるのか」で紹介した

このため、とりあえず、すべてのサービスを検討の対象とした上で、例え ば、情報の削除等の措置であれば、情報の削除等の措置を講ずる技術的な可 能性(情報の管理可能性)という観点から検討するなど、必要に応じて、責任の範囲や要件でさらに絞って検討することとする。

というアプローチに対応しているものです。

上の図で示している?は、

  1. 導管プロバイダについても、現実に悪意になった場合には、違法な情報の流通に対して、これに協力しないという手法がとられてもしかるべきなのではないか(これについて司法的な判断を有するというのが司法的ブロッキングといえるでしょう)-この場合、電気通信のあまねく衡平にというルールとの関係はどうなるのか?(ましてや、事業法の改正があった現在)
  2. プラットフォーム、検索エンジン、CDNというのは、このような図でどこに位置するのか
  3. そもそも、「介入の期待」といっているけど、それは、法的にはどのような事情をベースにしているのか

ということかと思います。

でもって,この問題2について焦点をあててみようと考えるわけです。

プラットフォーム

プラットフォームというのは、

サービスの受信者の要求に応じて、情報を保存して公衆に広めるホスティングサービスのプロバイダーを意味します。ただし、その活動が他のサービスの軽微で純粋に付随する機能であり、客観的かつ技術的な理由により、その他のサービスなしでは使用できず、その機能の他のサービスへの統合が本規則の適用を回避する手段でない場合は、この限りではありません。

と定義されています(デジタル・サービス法 2条(h))。

なお、デジタルサービス法案については、「EUのデジタル・サービス法案vs違法情報対応」で、ふれています。

プラットフォーム以外のインターネット媒介者の位置づけ

ところで、それ以外のインターネット媒介者については、欧州の枠組でいうと、どのようになるか、ということになります。欧州だと「デジタルサービスの域内市場の機能/プロバイダーの責任と注意義務」(The functioning of the Internal Market for digital services: Responsibilities and duties of care of providers)という報告書があります。この分析が興味深いので、以下で、みていきたいと思います。


プロバイダーの責任と注意義務報告書(responsibilities and duties of care of providers of Digital Services)

この報告書は、Eコマース指令と将来起こりうるEUデジタルサービス法に従って、オンライン仲介者の責任と注意義務を改革する必要性について考察するものであるとされていて、域内市場・消費者保護委員会(IMCO)の要請を受け経済科学政策部 経済・科学・クオリティ・オブ・ライフ政策部のにより提供されているものです。

この報告書の本文の章立ては、1 スタートポイント、2 電子商取引指令-一般原則、3 責任を鼎立する規定、4 アクセスプロバイダー-「単なる伝送路」(電子商取引指令12条)、5 キャッシュプロバイダー(電子商取引指令13条)、6 ホスティングプロバイダー(電子商取引指令14条)、7 リンクプロバイダー、特に検索エンジン、8 侵害者の特定(電子商取引指令5条)から成り立っています。

報告書の要約のところをもとに、これらの内容を紹介すると以下のようになります。

タイトル

(高橋)タイトルは、プロバイダーの責任と注意義務報告書と訳しましたが、日本語の訳語では、責任には、対応責任(Responsibility)と賠償責任(Liability)があります。ここでは、Responsibility(対応責任)です。電子商取引指令は、賠償責任についての免責特権の規制であるので、それとは別個に対応の責任-現実的悪意の時に、どこまで、何をすべきかという論点を考えて読むといいかと思います。

1 出発点

本調査では、媒介者として機能するデジタルサービスのプロバイダーについてのみ、責任(Responsibility)と注意義務を論じる。

1.1第三者の侵害による媒介サービスプロバイダー

媒介サービスプロバイダの責任と注意義務は、第三者による侵害の場合に発生する。媒介者としての役割を果たさないその他の侵害シナリオ(例:プロバイダが自らの名前で侵害コンテンツを提供する場合)は、この研究の範囲外である。

1.2 責任と注意義務の理由

第三者による侵害について、媒介サービスプロバイダの責任を問うべき正当な理由がいくつかある。媒介サービス・プロバイダーは、サービスを提供することによって、侵害のリスクを生じさせる可能性がある。さらに、媒介者は、そのサービスが侵害に利用された場合、第三者による侵害を阻止するのに適した立場にある。したがって、個々の(多くの場合匿名の)第三者侵害者を法的に追及するのとは対照的に、媒介サービスプロバイダによって侵害をより効率的に阻止することができる。最後に、媒介サービスプロバイダに責任(Responsibility)と注意義務を持たせることで、媒介サービスプロバイダは、インターネットが十分に機能するために必要な信頼の拠点となることができる。

2 電子商取引指令 一般原則

2.1 法的枠組と現在の課題
2.1.1 責任(Liability)除外特権

一般原則としては、電子商取引指令 は Article 12 から Article 14 の責任シールド(責任除外特権) を規定している。E-コマース指令は媒介サービスプロバイダの責任を確立するための根拠を規定していない。

2.2 差止と削除請求の放置

電子商取引指令の第 12 条から第 14 条は、差止請求と削除請求をそのままにしている。

2.1.3 一般監視義務の禁止

このような請求に関しては、電子商取引指令第15条とその一般的な監視義務を課すことの禁止を遵守する必要がある。

2.1.4 電子商取引指令の特則

EC指令の責任特権を特別法として優先させるセクター固有の規定がある。最近の例としては、DSM著作権指令の第17条(3)が挙げられる。

2.2 委員会の立場

欧州委員会は、媒介サービスプロバイダの責任を強化し、調和させるという一般的な考えを発表している。この具体的な例としては“Communication on Tackling Illegal Content” と “Recommendation on measures to effectively tackle illegal content online”がある。

推奨事項

電子商取引指令第 12 条から第 15 条の規定は、仲介サービスプロバイダを責任(Liability)から守ること、及び一般的な監視義務を禁止する特別なルールの両方を通じて、仲介者のサービスがインターネット上の侵害に使用された場合の 責任に関して非常に重要な役割を担っている。以下に詳述するように、電子商取引指令第 12 条から第 15 条の規則は、いくつかの未解決の問題 が残っているものの、概して、日常の実務に適合していることが証明されている。

しかし、第 12 条から第 15 条は、責任(Liability)を制限するためのものでしかない。責任(Liability)の所在を調和させなければ、デジタル単一市場において完全に公平な競争の場を確保することはできない。このような背景から、EUレベルでも責任確立のルールの調和を考えることは選択肢の一つであると思われる。この責任確立ルールのハーモナイゼーションは、以下の3.2章と3.4章で概説するように、少なくともある程度は実現可能であると思われる。原則として、これは「EU全域のデジタルサービスに適用される規則を強化し、近代化し、オンラインプラットホームの役割と責任を明確にする」という欧州委員会の立場に沿ったものであるべきです。責任の確立という側面に取り組まなければ、オンライン・プラットフォームの責任に関する明確なルールは存在しないことになる。

3 媒介業者の責任(Liability)を定める規定

3.1 各国の法

通常、媒介業者の責任(Liability)は、従来の国内規定によって定められている。不法行為法における一般原則は、各国家の領域である。これと、電子商取引指令における定めは、保護おけるギャップを産む可能性があること、ヘイトスピーチや名誉毀損をめぐる規定は、インターネット媒介者の責任における調和の欠如を意味しているものと考えられる。

3.2 EU法

これまでのところ、欧州の法律では、媒介サービス提供者の責任(Liability)について、分野別の調和が図られているに過ぎない。

知的財産法では、単に侵害に対する説明責任が調和されている(執行指令第11条第3文、著作権指令2001/29第8条(3))。この説明責任というのは、害を防ぐのに最も適した立場にある媒介者の義務を助けることに基づくものである。なお、この点については、「最安価損害回避者としてのISP-「通信の秘密」の解釈の合理的制限の重要さ」でふれている視点である。執行指令第11条第3文というのは、

また、加盟国は、指令 2001/29/EC の第 8 条(3)項を損なうことなく、第三者が知的財産権を侵害するためにそのサービスを利用する仲介者に対して、権利者が差止請求を行える状態にあることを確実にするものとする。

である。また、著作権指令についていえば、その前文59は、

特にデジタル環境では、仲介者のサービスが第三者によって侵害行為に利用されることが多くなっています。多くの場合、このような仲介者は、当該侵害行為を終わらせるのに最も適した立場にある。したがって、利用可能な他の制裁及び救済を害することなく、権利者は、第三者による保護される著作物又は他の主題の侵害をネットワークで担った仲介者に対して差止命令を申請する可能性を有するべきであると考える。この可能性は、仲介者によって行われた行為が第 5 条に基づき免除される場合であっても、利用可能であるべきである。このような差止命令に関する条件と様式は、加盟国の国内法に委ねられるべきである。

と各国の国内法の定めを明らかにしている。

通常の責任に関しては、執行指令第 11 条と第 13 条の分野別の規定が、EU レベルで「侵害者」の概念を決定する可能性がある。これは、CJEUが係争中のYouTube事件で明らかにする可能性がある。責任を確立するもう一つのセクター固有のルールは、17 条 DSM 指令に見ることができる。

分野別に見ると、EU法は、媒介者がいつ侵害者として扱われるかを決定している。これは例えば、CJEUによる著作権指令2001/29の第3条の解釈によれば、著作権法において当てはまる。

欧州委員会は、媒介者の責任を規定する規則を EU レベルでさらに調和させることをまだ提案していない。

推奨事項

長年にわたる各国の責任制度の伝統を考慮すれば、限定的ではあるが十分な範囲で媒介者の責任を規定する EU 規則を検討することは可能であろう。これは、Eコマース指令を変更することなく、また、EU法に分野別の規則がすでに存在しない場合にのみ可能である。責任を定める規則については、(1) 差止命令の説明責任と、(2) 媒介者を侵害者とみなす概念を伴う通常の責任とを区別する必要がある。

(1) 差止命令の単なる説明責任(侵害を最もよく防止できる立場にある媒介者の義務を助けるため)については、知的財産法の第 11 条第 3 文Enforcement Directive や第 8 条 (3) Copyright Directive 2001/29 のモデルを踏襲すべきである。知的財産権侵害の分野以外の媒介者についても、差止命令に対する同様の説明責任を導入す ることが推奨される。媒介者の義務は、比例の原則に従って形成されるべきである。

(2) 通常の責任に関して、媒介者の過失や損害賠償責任などの厳格な責任に関する各国の 概念をすべて調和させることは現実的ではないように思われる。しかし、媒介者についての「侵害者」という用語の理解を調和させること、すなわち、どのような状況において媒介者が「侵害者」として分類され得るかを調和させることが推奨される。もし、媒介者が「侵害者」として分類されなければならないのであれば、媒介者は、第三者の直接の侵害者と同じように責任を負うことになる。第三者の侵害行為に十分に介入する「本質的な役割」の媒介者は、自らも侵害者として扱われなければならないという一般規則を EU 法に導入することが考えられる。媒介者が意図的に行動していない場合には、比例的な注意義務によってこの規則を制限するよう議論することができる。媒介者の義務は、比例の原則に従って形成することができ、差止命令のための単なる説明責任に匹敵するものとなるであろう。このような(損害賠償などを含む)より広範な責任の正当化は、「本質的な役割」の媒介者が第三者の侵害に介入するため、第三者の侵害者と同じ責任を負うべきであるという事実に基づいている。

4 アクセスプロバイダー – 「単なる導管」(E-コマース指令12条)

アクセスプロバイダーとE-コマース指令12条の責任特権に関しては、アクセスプロバイダーとホスティングプロバイダーの間で「中間の」役割を果たす媒介サービスプロバイダーのサブグループ(上流プロバイダー、CDNプロバイダー、ドメインプロバイダー等)に関するいくつかの困難が浮かび上がってくる。

(高橋)「単なる導管」の用語については、上でみました。

4.1 上流プロバイダー

ライブストリームについては、ライブストリームを配信するための技術サービスをアクセス提供として捉えることができ、そのようなサービスを提供するプロバイダーを上流プロバイダーとして論じる。

例 欧州のスポーツリーグのサッカーの試合のライブストリームは、しばしばハッキングされ、ライブストリームとして違法に再送信されることがあります。違法送信者は、十分な帯域幅を持つより多くの視聴者に違法なライブストリームを配信するために、上流プロバイダを利用することがある。

このような上流プロバイダーは、通知されると、違法なライブストリームを削除し、さらに同様の明確な権利侵害を防止するために、ホスティングプロバイダーと同様の義務に直面することが判明している。

4.2 CDNプロバイダー

CDNというのは、コンテンツ配信ネットワーク (Content Delivery Network または Content Distribution Network) の略で

データ量の多いアプリケーションのウェブページのロードを高速化するために相互接続されたサーバーのネットワーク

をいう。

合法的な目的を持つユーザー以外にも、特に違法な提供物の運営者は、インターネット上で公然と活動しないために、そしてより具体的には使用するIPアドレスとサービスプロバイダーを偽装するために、CDNプロバイダーを利用する傾向がありうる。

同報告書は、ケルン地方裁判所(Landgericht)の判決例(CDNプロバイダーは、構造的に著作権を侵害するウェブサイトに以下のサービスを提供する場合、電子商取引指令第12条の単なる導管責任特権には該当しない)を示している。

CDNプロバイダーは、サービスを提供するウェブサイトにアクセスするユーザーを選択する。CDNプロバイダは、一時的なコピーを行うだけでなく、顧客から提供されたコンテンツを異なるローカルサーバに保持する。

さらに、CDNプロバイダーは特定のファイアウォール規則とフィルタリング技術を使用していたイタリアのローマ裁判所は2019年6月24日の判決で、CDNプロバイダー(CLOUDFRARE)の特定のサービスはキャッシュプロバイダーであり、また、ホスティングプロバイダーにも該当する (Mediaset vs CloudFlare: according to a preliminary ruling proceeding CloudFlare can be deemed responsible as an internet intermediary aware of illegal activities)。

4.3ドメインプロバイダー

ドメインネームサービスプロバイダーが、特に違法なコンテンツを提供する顧客を惹きつける怪しげなビジネスモデルを運営していない場合、E-Commerce Directiveの第12条から14条の責任特権に該当するかどうかは、まだ未解決の問題である。

ドメインネームサービスに対する責任(Liability)の確立に関しては、法律実務はまだかなり国内的なものである。

一例として、ドイツ連邦最高裁判所(BGH)の判例法では、レジストリにとって商標権侵害 が明白でない場合は、ドメイン名レジストリの責任(差止命令の単なる説明責任も含む)を否定し ている(German Federal Supreme Court (BGH) GRUR 651 (2012), para. 24 et seq. – Regierung-Oberfranken.de)。

4.4 委員会の立場

特に提案はなされていない

推奨事項

電子商取引指令第 12 条とその責任回避の規定は、電子商取引指令が制定されて以来、約 20 年間、日常的な実務に適合していることが証明されています。電子商取引指令の第 12 条は変更されるべきではない。ただし、上流プロバイダー(上記 4.1 参照)、CDN プロバイダー(上記 4.2 参照)、ドメインプロバイダ ー(上記 4.3 参照)など、アクセスプロバイダーとホストプロバイダーの間で「中間」的な役割を担う 中間サービスプロバイダーのサブグループに関して、いくつかの困難が生じる可能性がある。

裁判所は、Eコマース指令第12条(またはキャッシュプロバイダーについては第13条、ホスティングプロバイダーについては第14条)が、それぞれのビジネスを規制する正しい規定であるかどうかを判断しなければならないだろう。プロバイダーのさらなるカテゴリーを設定する緊急の必要性はないように思われる。

媒介者の世界とその事実関係は常に変化しているため、新たな媒介者のカテゴリーを設けることは慎重であるべきである。これまでのところ、裁判所は、既存の責任ルールを裁判の事実関係に適用するという役割を適切に果たしているように思われる。

5 キャッシュプロバイダー(電子商取引指令第 13 条)

(高橋)ここで条文を紹介しておきます。

第13条 一時保存(キャッシング)
1. サービスの受取人が提供する情報通信ネットワークにおける伝送からなる情報社会サービスが提供される場合には、構成国は、次の各号に掲げる条件を満たす限り、サービスプロバイダは、サービスの受取人からの求めに応じて、単に、その情報のさらなる伝送を効率的にする目的ためになされる、当該情報の自動的、中間的かつ一時的保存に対して、責任を有しないということを、保証しなければならない。
(a)プロバイダは、情報を変更しないこと、
(b)プロバイダは、情報へのアクセスに関する条件を遵守すること、
(c)プロバイダは、産業界で広く認識され、かつ、使用される方法で指定された情報のアップデートに関するルールを遵守すること、
(d)プロバイダは、情報の使用に関するデータを得るために、産業界で広く認知され、かつ、利用される技術の合法的な使用を妨げないこと、そして
(e)プロバイダは、伝送における最初の発信元での情報がネットワークから取除かれた/アクセスが困難になった/裁判所又は行政当局がそのような除去又はアクセスの不能化を命じたというという事実を実際に知り得た場合には、保存された情報を除去し、アクセスを不可能にするために、迅速に行動すること。
(略)

キャッシュプロバイダーにとって、電子商取引指令第 13 条の責任シールドは、実務上、さほど重要性を増していない。電子商取引指令第 13 条は、このグループの媒介業者に対して適切な規制を提供しているようである。

6 ホスティング・プロバイダー(電子商取引指令第 14 条)

(高橋)ます、条文をみておきます。

第14条 ホスティング

1. サービスの受取人により提供される情報の保存からなる情報社会サービスが提供される場合には、加盟国は、次の各号に掲げる条件を満たす限り、サービスプロバイダが、サービスの受取人の求めにより保存した情報に対しては責任を有しないことを、保証しなければならない。

(a)そのプロバイダが、損害賠償の請求に関する違法な行為又は情報を実際に知らないこと、そして、違法な行為又は情報が明白である事実又は状況に気付いていないこと、又は

(b) プロバイダが、そのようなことを知り、かつ、気付いたときに、その情報を除去するか又はそれへのアクセスを不可能にするために、迅速に行動すること。

2 (略)

3 本条は、裁判所または行政機関が、構成国の法制度に従い、サービスプロバイダに対し、侵害の終了または防止を要求できることに影響を与えるものとしてはならず、また、構成国が、情報の削除または情報へのアクセスのができなくなる手続を定めることができることに影響を与えるものではない。

となります。

6.1 ホンティング・プロバイダーの能動性と受動性(偽ホスティング・プロバイダー)

電子商取引指令が実施された当時においては、中立的・受動的なプロバイダーを念頭に置いていた。

単なる技術的、自動的、受動的な性質のものであり、情報社会サービスプロバイダが送信または保存される情報に対する知識も制御も持たないことを意味する”

欧州司法裁判所は、この中立媒介者の原則を、強調しています。

しかしながら、インターネット上では、すべてのホスティングプロバイダーがそのような受動的な役割を担っているわけではない。むしろ、特定のタイプのホスティングプロバイダーは、保存されている情報に関して能動的な役割を担っている。これは特に、第三者のオファーを自社の広告で宣伝することであると思われる。その他の事例では、欧州司法裁判所は、媒介者が保存されているデータについて知っている、あるいは管理し ている場合に、要件に従って積極的な役割を果たすと評価している。

この問題は、CJEU of 12 July 2012, C-324/09 para. 114 – L’Oréal/eBayで論じられている。また、CJEU C-682/18; question 2 of the BGH; see also referring decision by German Federal Supreme Court (BGH) of 13 September 2018, I ZR、140/15 para. 40 et seq. – YouTube. 87 See pending CJEU case C-683/18 – Cyando, question 2; see below 6.4 for the facts of the caseがあるとされている。

この判例法理でいくと、能動的なホスティングプロバイダに対しては、免責がなりたたないとされる。

受動的なホスティング プロバイダとの区別は正当化される。「能動的役割」のサービスプロバイダは、第三者の情報に介入し、第三者のコンテンツをそのビジネスモデルの一部にしている。単に中立的で受動的な技術サービスの提供者と比べて、より高度な責任と注意義務に直面することは正当化されると思われる。能動的役割のホスティングプロバイダーと受動的役割のホスティングプロバイダーの区別を廃止するよう求める勧告は、従うべきでない。

6.2 「善きサマリア人のパラドックス」

もう一つの話題は、「善きサマリア人のパラドックス」である。この「パラドックス」とは、

電子商取引指令第14条の免責特権を受けるために、モデルとなるプロバイダーは、中立的で受動的な立場を維持する必要がある。このことは、プロバイダが積極的な役割を果たし、セーフハーバーの保護を失うことを恐れるあまり、侵害に対する予防措置を講じる意欲を失わせる可能性がある。

というものであり、ホスティングプロバイダーとして積極的な役割を果たすことが禁止されているため、ホスティングプロバイダーは積極的な役割に近づきすぎないよう、侵害行為に目をつぶってしまう可能性があ主張である。

これは、2017.09.28のコミュニケーション「Tackling Illegal Content Online」における欧州委員会の見解とは対照的である。ここで欧州委員会は、侵害に対して自発的な積極的措置をとることは、セーフハーバーの恩恵の喪失につながらないとの見解を示している。また、判例法は、侵害のアップロードに対して積極的に働きかけることが、「積極的役割」による責任特権の喪失につながるとの懸念を支持しているわけでもない(例えば、ドイツの裁判所は、最も著名な「良きサマリア人」のフィルタリングシステムである YouTube の ContentID は、YouTube が積極的な役割を果たし、電子商取引指令第 14 条の適用から除外されることにつながらないとする)。

欧州司法裁判所は、ホスティングプロバイダーが違法コンテンツへのアクセ スを促進することで積極的な役割を果たしている場合には、そのプロバイダーを除外している。 これは、特定のコンテンツを直接宣伝することや、第三者の情報をインデックス化し、 提案し、ブランド化することでなされうる。したがって、ホスティングプロバイダーが第 14 条 E-Commerce Directive の責任特権を失うことになるのは、侵害を特定するための「能動的役割」をなしたことによって生じるわけではなく、むしろ、コンテンツを促進、提示、組織化する積極的な役割による。

6.3 停止(Stay Down)義務と同種侵害防止義務

仲介者が侵害行為に利用された場合、具体的な侵害行為の通知後、侵害行為を停止する義務だけでなく、同種侵害の発生を防止する義務も負うべきである。むしろ、同種の侵害をさらに防止する義務も負うべきである。

これらの義務は、すべてのプロバイダーに適用される義務であるとされる。 アクセスプロバイダについては、CJEU of 25 November 2011, C-70/10 para. 31- Scarlett/SABAM; CJEU of 27 March 2014, C-314/12 para. 37 – UPC Telekabel Wien; CJEU of 15 September 2016, C-484/14 para. 81 – McFadden/Sony Musicで説かれており、また、ホスティングプロバイダについて3 CJEU of 16 February 2012, C-360/10 para. 29 et seq. – SABAM/Netlog; CJEU of 12 July 2011, C-324/09 para. 131 – L’Oréal/eBayでとかれている。

(高橋)これらの判決例については、総務省「諸外国におけるインターネット上の権利侵害情報対策に関する調査研究の請負」(平成27年度)の119ページ以下を参照ください。

具体的な例としては、第 11 条第 3 文執行指令(工業所有権の侵害)および第 8 条 (3) 著作権指令 2001/29 (著作権および関連権の侵害)により、アクセスプロバイダとホスティングプロバイダに対する差止命令に対する説明責任が確立され ていることが挙げられる。この知的財産権侵害の分野では、特にホスティングプロバイダーに対する予防義務が議論の対象となっている。ドイツ連邦最高裁判所(BGH)は、明確な知的財産権侵害の通知後、ホスティングプロバイダーの注意義務として、(1)テイクダウン、(2)ステイダウン、(3)同種類の明確な権利侵害の防止を挙げている。これは BGH の確立された判例法である。BGH は、CJEU の L’Oréal/eBay の判例法に依拠している。同裁判所によれば、防止義務には、オンライン市場が、市場の利用者によるこれらの権利の侵害を止めるだけでなく、 その種の侵害をさらに防止することに貢献する措置を取ることを保証する義務も含まれるとのことである。BGH による予防義務の形成は、ホスティングプロバイダが、明確な侵害の通知を受けた場合、テイクダ ウン義務だけでなく、停止を確保し、同様に明確な侵害を予防する義務にも直面することを意味する。これらの停止義務や防止義務を果たすために、ホスティングプロバイダーはフィルタリングソリューションの導入を求められることになる。例えば、ユーザーによって違法に公開された著作物の特定のタイトルについて通知を受けた後、将来の侵害を防止するために、ドイツとイタリアの裁判所からシェアホストはワードフィルターを適用する義務を負わされています。

もっとも、このような判断は、電子商取引指令15条の一般的モニタリング義務の禁止と矛盾するのではないかと批判されている。もっとも、報告書では、特定の侵害行為に対する停止義務は、15条の当該義務に違反するものではなく、この批判は、説得的なものではない。

6.4 悪意と相当な注意をする運営者(Knowledge and diligent economic operator (Article 14 (1) (a) and (b) E-Commerce Directive))

侵害された当事者がホスティングプロバイダーに対処する通常の方法は、通知を送信し、それによってホスティングプロバイダーが違法な情報をホストしていることを通知することです。このような通知は、第14条Eコマース指令の責任特権に法的効果をもたらします。

第14条 (1) 項 a) は、ホスティングプロバイダが違法な活動や情報を実際に知らず、損害賠償請求に関しても、違法な活動や情報を明らかにする事実や状況を知らない場合にのみ、責任の免除を規定しています。さらに、第14条1項b号は、ホスティングプロバイダーがそのような知識または認識を得た場合、当該情報を削除し、またはアクセス不能にするために迅速に行動することを義務付けています。

L’Oréal/eBay では、CJEU は第 14 条 E-コマース指令の責任シールドを、勤勉な経済運営者が問題の違法性を特定す べき事実や状況を認識していながら、第 14 条 (1) 項 b) に従って迅速な行動を取らなかったホスティングプロバイダには適用しなかった。したがって、「相当な注意をする経済運営者」はホスティングプロバイダーが責任の盾を維持するための基準である。

しかし、ホスティングプロバイダーの責任シールドを排除するために、第 14 条 (1) 項 a) の EC 商業指令に従って、どの程度の「知識」が要求されるかは別の問題である。危険なビジネスモデルを実行しているホスティングプロバイダーの例は、特定の侵害を実際に知っていることが適切な解決策にならない可能性があることを示しています。

ホスティングプロバイダーの危険なビジネスモデルの場合、知識の基準を下げるべきである。そうでなければ、悪意のあるホスティングプロバイダーが電子商取引指令第14条の責任特権から利益を得ることができる。同 条 の文言は、十分な柔軟性をもって「悪意」の要件を扱う余地を与えるべきであ る。責任特権が成立するためには、行為と知識の不在だけでなく、サービスプロバイダが「違法行為や情報が明白である事実や状況を認識していない」ことも必要である。

6.5 委員会の立場

欧州委員会の見解はまだ明確ではない、おそらく内部の議論がまとまっていないのだろう。

いずれにせよ、「善きサマリア人のパラドックス」は、実務上、法的な問題はないと思われ(上記6.2.参照)、立法活動にはつながらないはずである。また、積極的役割の提供者と消極的役割の提供者の区別は正当化され、廃止されるべきではない。上記(6.1.)で述べたように、このような「積極的役割」のサービスは、第三者の情報 に介入し、その情報を自らのビジネスモデルの一部とするものであり、ホストとしての単なる 技術サービスとは異なるものである。しかし、ユーザーによってアップロードされたコンテンツに基づいてビジネスモデ ルを構築するのであれば、単なる中立的・受動的な技術サービスの提供者とは異なるレベルの責任 と注意義務に直面することは正当化されるように思われる。特に、このような積極的な役割を担うホスティング・プロバイダーは、欧州委員会が考 える「現実の悪意」を持っていないという事実だけで、責任を免れることはできないはずである。

6.6 推奨事項

法律実務上、ホスティングプロバイダーはインターネット上の媒介者として最も関連性の高いカテゴリーであるように思われる。彼らはバランスのとれた立法上の注目に値する。

とはいえ、Eコマース指令第14条の規定は20年近く前のものだが、時代遅れの感はない。むしろ、現在まで、ホスティングプロバイダーの責任シールドを規制するための適切な法的枠組みを提供している。

電子商取引指令第 14 条の現状に関する原則的な批判は、一般的に言って、正当化されるものではなさそうである。これは特に能動的ホスティングプロバイダーと受動的ホスティングプロバイダーの区別について言えることである。この区別は、「積極的な役割」のホスティングプロバイダが第三者の侵害に介入し、単なる受動的で中立的なホスティングプロバイダよりも責任に関する厳格な規則に値するとして、正当化されるようだ(詳細は、6.1、6.2、6.5 を参照されたい)。能動的役割のプロバイダと受動的役割のプロバイダとの区別は維持されるべきである。さらに、「善きサマリア人のパラドックス」を打ち消すような新たなルールの導入は正当化されないと思われる。法的には問題ないと思われる(上記6.2.参照)。

知的財産権侵害の範囲外でも、通知後の3重の義務を実施すべき。この権利侵害の通知後の3重の義務とは、以下のものである。(1)テイクダウン、(2)ステイダウン、(3)同種類の明確な権利侵害の防止である。電子商取引指令第 15 条に関する CJEU の最近の判例によれば、このような義務も、一般的な監視義務を課すことの禁止に沿ったものであるべきである。媒介サービスプロバイダの責任を確立するこれらの義務の導入は、EUレベルでの完全な調和を達成する利点と結びついている。

7 リンクプロバイダー、特に検索エンジン リンクプロバイダー

7.1 法的枠組

第三者のコンテンツへのリンクは、インターネット上では重要なツールであることを意味する。これは、リンクによる個々の参照に限ったことではない。リンクの生成、収集、索引付けを目的としたサービスも多く存在する。検索エンジンは、このようなサービスの最も顕著な例である。検索エンジンは通常、ユーザーが関連する第三者の情報を見つけることができるように、自動的にリンクを生成する。

しかし、リンクを提供するサービスを媒介者として分類してよいのかどうかは、まだ明確ではない。特に、検索エンジンの場合はそうである。一方では、検索エンジンは、ユーザーを第三者のコンテンツに誘導し、仲介者の役割に必要な、インターネットユーザーの間の典型的な仲介者の役割を果たす。他方、生成されるリンクは、検索エンジンが通常自ら生成するため、検索エンジン自身のコンテンツとなる。検索エンジンと E コマース指令の責任特権に関する様々な判例は、この中間的な出発点を映し出すもので ある。

CJEU は、検索エンジンは少なくとも第三者の製品とサービスを宣伝するリンクに関しては、電子商取引指令第 14 条とそのホスティングプロバイダーの特権の対象となると判断している。裁判で対象となったサービスはグーグルの検索エンジン、より正確にはその「AdWords」サービスであった。「AdWords」サービスは電子商取引指令第 14 条に規定される「情報社会サービス」であった。AdWords サービスは特定のデータ(広告主が選択したキーワード、広告リンク、企業向け広告 メッセージ、広告主のウェブサイトのアドレス)を保存するものであった。

しかし、検索エンジンサービスもその編集(非広告)リンクに対して電子商取引指令第 14 条のホスティング プロバイダーの特権によって規制されているかどうかは議論の分かれるところである。ある意見によれば、検索エンジンは電子商取引指令第 14 条に該当せず、公開された編集上のリンクに ついては独自の責任体制に従うという。第 14 条の電子商取引指令の適用に対する最も重要な論拠は E コマース指令そのものからくるものである。

E コマース指令の第 21 条 (2) 項では、欧州委員会が「ハイパーリンクのプロバイダーの責任に関する提案の必要性」 を定期的に検討し分析することを求めている。このことは、ハイパーリンクのプロバイダーは E-Commerce Directive の規制対象外であることを意味する。

特に検索エンジンの編集リンクに E-Commerce Directive の第 14 条を適用しないのは説得力がない。

しかし、いずれにしても、電子商取引指令第 14 条を適用すると、リンクプロバイダー、特に検索エンジンの責任特権が規制される可能性があるだけである。これは責任(ライアビリティ)を定める規則をカバーするものではないだろう。責任を確立するための EU 法の調和がなければ、特に検索エンジンは責任を確立するために異なる国内規則に従わなければならなくなる。

しかし、著作権法などの特定の分野では、リンク提供者、より具体的には検索エンジンの責任を規定するEUの規則がEUレベルで調和されている。最も顕著な例は、である。欧州司法裁判所は、GS Media/Sanoma、130 Filmspeler131、Ziggo/BREIN(「The Pirate Bay」)の判例法を通じて、リンクプロバイダーに対する独自の責任ルールを構築している。こうしたリンクプロバイダーの責任を定める原則は、公衆への排他的な伝達権(著作権指令 2001/29 の第 3 条)の中で発展したものである。一言で言えば、第三者が公開する著作権で保護されたコンテンツへのリンクは、コミュニケーションに該当することになる。著作物へのリンクが違法に伝達された場合、リンク提供者がそのリンクが違法に伝達されたことを知り、または知るべきであった場合、リンク提供者自身が著作物を公衆に伝達したことになる。特に、「知るべきであった」という要件は、リンクプロバイダーの責任、より具体的には適切な注意義務を確立するための非常に柔軟なアプローチを可能にする。それにより、リンクプロバイダー、インターネットユーザー、権利者の間で利害の調整が行われる可能性がある。欧州司法裁判所の判例法は、責任と関連する注意義務を確立するために、著作権法を超えるすべての 特定のリンクのシナリオにおいて公正な結果を提供するはずである。

この欧州司法裁判所の判例法は検索エンジンを特に取り上げていないが、各国の裁判所は欧州司法裁判所が策定した注意義務を検索エンジンのシナリオに適用している。

ドイツ連邦最高裁判所(BGH)は、インターネット上で公衆に違法に伝達されたサムネイルに対する検索エンジンの責任に 関する裁判で、注意義務の概念、特に適切な注意義務を見出すための利害のバランスをさらに洗練させた。Thumbnails IIIの判決において、BGHは、インターネットの利用にとって検索エンジンが不可欠な役割を果たすことを強調した。したがって、監視は検索エンジンの運営を危うくしたり、実質的に損なったりするため、検索エンジンの監視義務を課すことはできない。したがって、営利目的で運営されている検索エンジンが、公衆に違法に伝達されたコンテンツにリンクしていることを 知っていたと推定されることはないだろう。

欧州司法省は GS Media/Sanoma 事件において、営利目的のリンカーは公衆に違法に伝達されたコンテン ツにリンクしていることを知っていたであろうという反証可能な推定が成り立つと判断している。

特に、欧州司法裁判所の決定は、検索エンジンが通常のビジネスモデルを運営することを不可能にすることなく、5年近く経過している。

むしろ、国内判例法(例えばドイツBGH)は、裁判所が、インターネットにおける検索エンジンの重要な役割を考慮し、特に検索エンジンに対する注意義務を非常に慎重に形成していることを示している。つまり、検索エンジンは、インターネット上で侵害情報を見つけるという重要な役割を担っており、リンクプロバイダー、インターネットユーザー、権利者の利益のバランスを慎重に考慮した上で、検索エンジンに責任を持たせ、適切な注意義務を策定することが正当化される。

検索エンジンの責任をさらに制限する厳格な規則を規定することは適切ではないと思われる。むしろ、サーチエンジンは、インターネットの合法的な利用にとって重要な役割を担っているにもかかわらず、インターネット上の違法なコンテンツを見つけるための重要なツールでもあるのだ。検索エンジンの責任と注意義務は、これ以上減らされるべきではありません。

推奨事項

リンクプロバイダー、より具体的にはサーチエンジンがインターネットの機能において重要な役割を担っていることは議論の余地がない。しかし、コンテンツへのアクセスを容易にするという重要な役割のために、検索エンジンは、違法な情報を発見し広めるという重要な立場にあるのです。検索エンジンの責任に対処するための規則は、結果として、検索エンジンの十分な責任と注意義務を規定する必要があります。

このような背景から、E-Commerce Directive の責任特権に焦点を当てるべきではありません。その代わりに、検索エンジンの責任を確立するためのルールに焦点を当てるべきである。これまでのところ、CJEU と各国の裁判所は、特に著作権法において、検索エンジンの責任を確立するための適切で柔軟な解決策を見出している(上記 7.1 を参照)。この責任追及のモデルは、他の法分野においても検索エンジンの責任追及のモデルとして利用することができるだろう。

8 侵害者の特定 – 第5条 E-コマース指令

侵害者は、インターネット上で匿名性を保つ機会が十分にある。このことは、インターネット上の侵害行為に対する保護という点で、最も差し迫った問題の 1 つであると思われる。特に、意図的な侵害、より具体的には、違法なビジネスモデルに対して言えることです。違法なビジネスモデルを運営するウェブサイトは、構造的侵害サイトと呼ばれることもあります。知的財産権の侵害については、欧州委員会が2018年に「模倣品・海賊版ウォッチリスト」を取りまとめました。これは、運営者や所有者がEU域外に居住しているとされるマーケットプレイスやサービスプロバイダーで、偽造や海賊行為に関与、促進、利益を得ていると報告されている事例を紹介するものです。欧州委員会によると、知的財産権の侵害、特に商業規模の偽造や海賊行為は「EUにとって大きな問題である」という。

8.1 構造的侵害提供においては侵害者の特定がされていない

電子商取引指令5条は、商業サイトにおいて、運営者を特定可能にすることを求めている。

第5条 提供されるべき一般的な情報

1. 共同体法が定める他の情報要件に加えて、構成国は、サービス提供者が、サービスの受領者及び管轄当局に対して、少なくとも次の情報を容易に、直接かつ恒久的にアクセスできるようにすることを保証しなければならない。

(a) サービス提供者の名称

(b) サービス提供者が設立された地理的な住所

(c) 電子メールアドレスを含むサービス提供者の詳細で,迅速な連絡及び直接的かつ効果的な方法で連絡を取ることができるもの。

(d) サービス提供者が商業登記簿又は類似の公的登記簿に登録されている場合,サービス提供者が登録されている商業登記簿及びその登記簿における登録番号又は同等の識別手段。

(e) 活動が認可制度の対象である場合、関連する監督当局の詳細。

(f) 規制された職業に関連する場合。

– サービスプロバイダが登録されている専門機関または類似の機関。

– 専門職の称号およびそれが付与された加盟国。

– 設立された加盟国において適用される職業上の規則への言及及びそれらにアクセスするための手段。

(g) サービス提供者が付加価値税の課税対象となる活動を行う場合、売上税に関する加盟国の法律の調和に関する1977年5月17日の第6回理事会指令77/388/EEC第22条(1)で言及された識別番号-付加価値税の共通制度:評価の統一基準 (29).

違法なビジネスモデルは、大量の侵害を生み出すことによって、欧州のインターネットに大きな問題をもたらしている。通常、このような構造的な侵害を行うウェブサイトやオファーは、E-Commerce Directive第5条の情報義務を尊重するものではない。

また、媒介者においても、直接的にこれらの情報を提供すべき義務は存在しない。

彼らは匿名性に身を隠しているのである。しかし、構造的侵害を行うウェブサイトやオファーは、その侵害行為のために、EUの正当な媒介サービス・プロバイダーを利用することはできないはずである。構造的な侵害を行うウェブサイトは、被侵害者が侵害者に対して権利を行使するための合理的な法的手段がないため、ECommerce Directive第5条に規定された義務を無視しうるし、また、商用侵害者にサービスを提供する媒介者は、侵害者とのビジネス関係から商業的な利益を得ることができる。(なお、オランダのXYZというホスティングプロバイダーが、「パイレート・ベイ」という構造的侵害サイトをホストしていた事案において、ホスティングプロバイダーが、パイレートベイの運営者の情報を有していなかった)

8.2 電子商取引指令第 5 条に違反した場合の国内法上の媒介者の義務

上述の通り、媒介者の責任の確定に関しては欧州レベルで統一されたアプローチはなく、電子商取引指令は責任が確定した場合のみ責任の回避を規定している。従って、EU 加盟国は、顧客が電子商取引指令の第 5 条に違反した場合の媒介者の結果について、国レベ ルで決定している。このことは、EUにおける権利行使の断片化につながる。このような国内規則は、それ自体、かなり複雑で理解しにくい場合もある。

また、ホストプロバイダーの間接責任 は、違法なビジネスモデルを持つウェブサイト運営者が、ウェブサイトを立ち上げる際に匿名性を保つことを依然として許してしまうという問題がある。ホストプロバイダの間接的な注意義務は、侵害がすでに発生した後にのみ適用される。合法的なウェブサイトを閉鎖しても、ウェブサイト運営者はコンテンツを別のホストプロバイダーに移し、オンラインサービスを再開するだけである(「ホストプロバイダーのノマディズム」)。実際、このような間接責任は、権利保護や権利行使の観点からは、未だ広く有効とは言えない。

したがって、仲介者が構造的侵害のあるオファーにサービスを提供し始める前に、仲介者に正確な情報を確保することが一つのアイデアであろう。しかしながら、マネーロンダリング防止指令(AML 指令)で規定されているような、金融分野で実施され るような、顧客に関する厳格な識別・確認義務は、仲介者には存在しない。EU 法では、媒介者がその業務上の顧客を知る直接的な義務は全くない。

8.3 推奨事項

このような背景から、媒介サービス・プロバイダーに対して「顧客に関する知識」(KYBC) の義務を設けることを提言する。

このようなKYBCの義務は、金融分野におけるマネー・ローンダリングにおいてなされる仕組みよりも限定的であるべきである。

しかし、媒介サービス・プロバイダーが顧客データを受け取り、検証する義務は実施されるべきである。検証は、例えば欧州企業登録(EBR)または最終受益者(UBO)登録を通じて実施されうる。これらの検証義務は、上記の検証が実施されていない、または失敗した場合、顧客へのサービス提供の禁止と組み合わされるべきである。 このような義務は、ホスティングプロバイダーだけでなく、構造的な侵害を行うウェブサイトや違法なビジネスモデルを運営するオファーに効果的に対抗するために、他の媒介者にも課すことができる。

—————————————-

わが国への示唆を考える

ということで、わが国への示唆を考えます。

この点については、既に上の「プロバイダ責任制限法の数奇な運命-導管(conduit)プロバイダは、プロバイダ責任制限法における情報の停止についての違法性阻却をなしうるのか」などでふれとおりです。

要するに、わが国の議論は、海賊版サイトに対するブロッキングの議論でもでてきましたが、アクセスプロバイダーに対して

  • 賠償責任(ライアビリティ)と対応責任(私の用語だとレスポンシビリティ・上記EU注意義務と責任報告書だとアカウンタビリティ)の区別ができていない
  • 一般モニタリング禁止と「具体的な悪意」後の対応義務の区別をなしていない
  • 賠償責任と差止・対応の問題の峻別をなしていない

という意味できわめて未熟なもの(もしくは、導管プロバイダーの特権を異常に肥大化させたもの)といえるものです。

もっとも、一番の問題は、プロバイダーが、自らの財産権の行使としてなすべき行為(侵害防止措置)を議論しているのか、ここの侵害に対して司法的ブロッキングを議論しているのか、というもっとも大切なことの議論の切り分けができていないことですが、それはさておきます。

上のEUの問題意識をもとに、わが国における検索エンジンとCDNの損害賠償責任の問題とそれらの侵害物削除義務、侵害停止(Stay Down)義務と同種侵害防止義務について考えていきます。

基本的な法のスタンス

わが国に上の問題意識を引き直してみるときに、プロバイダー責任制限法は、インターネット媒介者の責任についての一般的な法理を定めるものではないことが前提となります。そして、この場合、自己の財産が違法行為に利用されないように相当の注意をなすべきという基本的な理念がベースにあるように思われます。

検索エンジン

検索エンジンに対するわが国の法というと、いわゆる「忘れられる権利」の問題として議論された最高裁平成28年(許)第45号同29年1月31日第三小法廷決定・民集71巻1号63頁〔以下「平成29年決定」が最初に念頭に浮かびます。この決定は、

検索事業者は,インターネット上のウェブサイトに掲載されている情報を網羅的に収集してその複製を保存し,同複製を基にした索引を作成するなどして情報を整理し,利用者から示された一定の条件に対応する情報を同索引に基づいて検索結果として提供するものであるが,この情報の収集,整理及び提供はプログラムにより自動的に行われるものの,同プログラムは検索結果の提供に関する検索事業者の方針に沿った結果を得ることができるように作成されたものであるから,検索結果の提供は検索事業者自身による表現行為という側面を有する。また,検索事業者による検索結果の提供は,公衆が,インターネット上に情報を発信したり,インターネット上の膨大な量の情報の中から必要なものを入手したりすることを支援するものであり,現代社会においてインターネット上の情報流通の基盤として大きな役割を果たしている。そして,検索事業者による特定の検索結果の提供行為が違法とされ,その削除を余儀なくされるということは,上記方針に沿った一貫性を有する表現行為の制約であることはもとより,検索結果の提供を通じて果たされている上記役割に対する制約でもあるといえる。

 以上のような検索事業者による検索結果の提供行為の性質等を踏まえると,検索事業者が,ある者に関する条件による検索の求めに応じ,その者のプライバシーに属する事実を含む記事等が掲載されたウェブサイトのURL等情報を検索結果の一部として提供する行為が違法となるか否かは,当該事実の性質及び内容,当該URL等情報が提供されることによってその者のプライバシーに属する事実が伝達される範囲とその者が被る具体的被害の程度,その者の社会的地位や影響力,上記記事等の目的や意義,上記記事等が掲載された時の社会的状況とその後の変化,上記記事等において当該事実を記載する必要性など,当該事実を公表されない法的利益と当該URL等情報を検索結果として提供する理由に関する諸事情を比較衡量して判断すべきもので,その結果,当該事実を公表されない法的利益が優越することが明らかな場合には,検索事業者に対し,当該URL等情報を検索結果から削除することを求めることができるものと解するのが相当である。

とするものです。

例えば、令和2年決定の判例タイムズの解説だと、

平成20年代中盤以降は,北方ジャーナル事件大法廷判決(最大判昭和61・6・11民集40巻4号872頁,判タ605号42頁)やノンフィクション「逆転」事件判決(最三小判平成6・2・8民集48巻2号149頁,判タ933号90頁)等出版メディアの領域で集積されてきた判例法理の判断枠組みに基づいた判断をした裁判例が増えている傾向にある。
もっとも,比較衡量論の枠組みを採用する裁判例の中でも,更に2つの枠組みに分かれる。
第1に,比較衡量の結果,プライバシーに属する事実を公表されない利益が優越するとされる場合には,原則として削除請求権を肯定するというものがある。最近のものとして,東京高決平成29・1・12公刊物未登載(暴走族所属歴)や,大阪高判平成27・2・18公刊物未登載(迷惑防止条例違反〔盗撮〕で執行猶予付き懲役刑を受けた前科等)がある。
第2に,「石に泳ぐ魚」事件の控訴審判決である東京高判平成13・2・15判タ1061号289頁と同様に,比較衡量に当たり,被害の明白性,重大性や回復困難性等をも考慮要素として加えるものがある。本件の原決定はこの類型の一種であり,同様の判断枠組みを採った最近のものとして,東京高判平成26・1・15公刊物未登載(上記東京高判平成25・10・30と同じ団体への所属歴)等がある。

とされています。

あと、関連する最高裁判所の判決としては、ツイッターについては、令和 4年 6月24日 最高裁第二小法廷 判決 令2(受)1442号 投稿記事削除請求事件(令和4年判決)でもって、

(1) 個人のプライバシーに属する事実をみだりに公表されない利益は、法的保護の対象となるというべきであり、このような人格的価値を侵害された者は、人格権に基づき、加害者に対し、現に行われている侵害行為を排除し、又は将来生ずべき侵害を予防するため、侵害行為の差止めを求めることができるものと解される(最高裁平成13年(オ)第851号、同年(受)第837号同14年9月24日第三小法廷判決・裁判集民事207号243頁、最高裁平成28年(許)第45号同29年1月31日第三小法廷決定・民集71巻1号63頁参照)。そして、ツイッターが、その利用者に対し、情報発信の場やツイートの中から必要な情報を入手する手段を提供するなどしていることを踏まえると、上告人が、本件各ツイートにより上告人のプライバシーが侵害されたとして、ツイッターを運営して本件各ツイートを一般の閲覧に供し続ける被上告人に対し、人格権に基づき、本件各ツイートの削除を求めることができるか否かは、本件事実の性質及び内容、本件各ツイートによって本件事実が伝達される範囲と上告人が被る具体的被害の程度、上告人の社会的地位や影響力、本件各ツイートの目的や意義、本件各ツイートがされた時の社会的状況とその後の変化など、上告人の本件事実を公表されない法的利益と本件各ツイートを一般の閲覧に供し続ける理由に関する諸事情を比較衡量して判断すべきもので、その結果、上告人の本件事実を公表されない法的利益が本件各ツイートを一般の閲覧に供し続ける理由に優越する場合には、本件各ツイートの削除を求めることができるものと解するのが相当である。

という判断がなされています。

インターネット上の海賊版サイトへのアクセス抑止方策に関する検討会においても検索エンジンが海賊版対策において、果たしている役割にたいしてのフォーカスがなされています。

ヤフー、Googleとは、「海賊版関連の語句で検索」するとバナーやメッセージが表示される取り組みを実施中

となります。(同検討会 資料「出版物海賊版サイトの最新データと、対策の現状補足 」 (10ページ))

これについては、検討会(第7回)資料

「資料2  検索結果における海賊版サイトへの対応(ヤフー)PDF
資料3  Googleにおけるマンガ海賊版サイト対策について(Google)PDF

があります。

上の調査書の文脈でみたときには、

  • 特に、プロバイダー責任制限法の適用については、法的な論点になるものとは考えられていない
  • 削除については、責任制限規定とは、関係ないと認識されている可能性がある

といえるかと思います。

CDN

インターネット上の海賊版サイトへのアクセス抑止方策に関する検討会の第6回は、CDNについての検討の特集になります。また、これに関する資料としては、「クラウドフレアのマンガ海賊版サイトに対する寄与に関する検証」があります。

特に、海賊版被害との関係では、CDNの果たす役割に注目する必要があります。もともとのサーバのデータ送信量を減少させることができ、これが、海賊版サイトの運営に不可欠になっています。この点については、「マンガ海賊版サイトの技術要素と対策法」もふれています。

CDN利用しないと月1億5700万円費用がかかるものが、利用すると月166万円で済むとされています(キャッシュヒット率99%の場合)。(上記検証レポート)。

では、上の報告書で示されているようにCDNが、具体的に「現実の悪意」になったときに、どのように対応すべきか、という問題があります。

まず、その具体的な対応の実際にはどうか、という点については、検討会資料5の「海賊版サイトに対するアクションの現状と課題(CDNと検索エンジン) 」が記載しています。クラウドフレアで、Abuse Reportを送った場合の実際については、その4ページ以降です。

また、実際にキャッシュ削除スキームが準備されています。キャッシュ削除スキームというのは、

出版社が指摘した海賊版サイトにおいて、著作権侵害が行われていると裁判所が判断した場合には、CF 社は、日本国内にある CF 社のサーバへのキャッシュを中止する

というものです。

ちなみに、この手法では、ドメインホッピングに対して無力であること、スキーム発動の事前措置として、ホスティング事業者への警告と裁判所での仮処分決定が必要、とされていることがあり、実効性という観点から十分とはいえないとされています。

この資料では、

他の事業者は身元確認をしっかりやっている。
A社(氏名、メアド、会社名、部門、役職、電話番号の入力が必要)
B社(氏名、電話番号、住所、クレジットカード番号の入力が必要)

としているところで、身元確認義務の必要性がでているところから、上記報告書の推奨事項との対応も興味深いところです。

また、検討会(第7回)では、

資料4  Combating Online Piracy(Akamai)PDF
資料5  Cloudflare’s commitment to Japan and approach to copyright protection(Cloudflare)PDF
日本におけるCloudflareのコミットメントと著作権保護への取り組みPDF(日本語版資料(令和4年4月21日17:05追加。))

が提供されています。

クラウドサービスの資料においては、その14ページで「キャッシングサービスとセキュリティサービスの役割」が記載されているのが興味深いです。そこでは、

発信元サイトから素材が削除またはブロックされた場合、依頼があれば、Cloudflareはキャッシュを消去します。
Cloudflareは、日本における和解の枠組みに基づく場合など適当な状況下で、キャッシングサービスを停止することができます。

としています。また、米国カリフォルニア州北部地区連邦地方裁判所、「 Mon Cheri Bridals, LLC v. Cloudflare」判決、以下サイトで閲覧可能。https://blog.cloudflare.com/in-a-win-for-the-internet-federal-court-rejects-copyright-infringement-claim-against-cloudflare となっていますので、研究資金でももらえたら、読んでみたいと思います(ちょっと無理そう)。

このキャッシュの削除の有効性が関係する事件で興味深いものに、東京地裁 令和元年12月24日判決があります。

この判決は、ツイッター社が、本件削除指令は,送信防止措置として,もともとのツイートを削除して、しかも、同社が利用していたEdgeCast社のシステムには削除するよう指示をしたのですが、EdgeCast社のシステムにはその受けた画像が再表示される本件バグが存在したという事案です。

裁判所は、

本件再表示は本件バグによって発生したものと認められるから,本件再表示を防止するためには,本件バグに対してプログラムの修正等の適切な対応を講じる必要があった。そうすると,本件再表示について,被告の損害賠償責任が肯定されるのは,被告が上記対応を講じる義務があったにもかかわらず,これを講じなかったといえる場合であり,少なくとも,被告が本件バグに対して適切な対応を講じる義務が存在することが前提となる。
ここで,本件バグによる再表示の問題は平成28年6月頃,本件再表示を含む2件の再表示の発生により被告の知るところとなったのであり,第1回送信防止措置がとられた平成27年2月当時,本件バグの存在は被告に知られていなかった(前記⑴ウ(ア))。また,本件再表示同様の再表示は全世界で10件未満しか発生しておらず(前記⑴ウ(エ)),本件バグによる問題の発生の頻度は極めて小さく,第1回送信防止措置は客観的に送信防止措置の実質を有するといえるものであり,当時,被告において本件バグの内容等を知り得たといえるものではなかったといえる。

としました。

「相当な注意」(デューディリジェンス)の法理については、「現実に悪意」になった場合に、相当な対応を講じる義務があるということがいわれるわけで、そのような観点からも興味深い判決です。もっとも、その結果の再度の発生防止についての(厳格な)責任を問われるわけではないことが、この判決ででているように思います。

最後に

検索エンジンに対する議論も、CDNに対する議論も、

  • 賠償責任(ライアビリティ)と対応責任(私の用語だとレスポンシビリティ・上記EU注意義務と責任報告書だとアカウンタビリティ)の区別を踏まえており、対応責任の問題として議論をしている
  • 「具体的な悪意」後の対応義務をきちんとすべきであるとして、それらにフォーカスして議論がなされている
  • 裁判所が一定の命令をなすことに理論的な反論が提起されていない

という特徴があります。

その意味で、導管プロバイダーに関してブロッキングが議論されていた時の前提の議論と明確なコントラストをなしているわけです。個人的には、この食い違いは、導管プロバイダーに対する司法的ブロッキングの否定議論が未熟であったということを反映しているのではないかと個人的には考えてしまいます。

 

 

 

 

 

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