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憲法の「通信の秘密」は、電気通信事業者に適用されるのか-総務省「情報通信の不適正利用と苦情対応の在り方に関する研究会報告書」(1999)

Facebookで、憲法の「通信の秘密」の規定は、電気通信事業者に適用されるのか、ということで、ちょっとお話(テキスト)をしたので、その際の、ベースとなっている情報と二つの判決を含めて簡単にメモします。

ちなみに「動的ブロッキング・ライブブロッキングの「もつれ(エンタングルメント)」-著作権侵害に対するブロッキングの動向-」のエントリでは、議論すべき論点として

 

 

 

 

 

 

 

を挙げたのですが、その一番上の論点ということなります。

この話は、例えば、「サイトブロッキングに関する議論の問題点はどこにあったのか 反対派の先頭に立った森亮二弁護士に聞く」の記事とかで、

法制度の提案ですから、憲法21条の保障する通信の秘密の侵害にあたる可能性があります

とか、

プロバイダに憲法21条が適用される

といわんばかりの「表現」がなされているので、その点について検討しましょうという趣旨です。

まずは、総務省の報告書です。この点について明言するものとして「情報通信の不適正利用と苦情対応の在り方に関する研究会報告書」の報告書があります。

この報告書においては、

一般的には、発信者の氏名、住所等の発信者情報についても『通信の秘密』に含まれるとされているため、この問題を検討する上では、まず、『通信の秘密』を保護した現行の法規定との関係を整理する必要がある。

とした上で、憲法上の「通信の秘密」との関係について、

基本的には、憲法の基本的人権の規定は、公権力との関係で国民の権利・自由を保護するものであると考えられている。電気通信自由化以前については、電電公社、国際電信電話株式会社には憲法の規定が適用されていたとも考えられるが、電気通信が自由化された現在では、電気通信分野における競争の進展状況、インターネットの登場等の電気通信の多様化の進展状況にかんがみれば、憲法上の『通信の秘密』は私人である電気通信事業者等へは直接的な適用はなく、電気通信事業法等で保護されているものと考えられる。

とされています(同報告書・第4章・2(1))。 (アーカイブは、  発表日  : 1999年 2月 1日(月) タイトル : 情報通信の不適正利用と苦情対応の在り方に関する研究会報告書 リンクは、https://warp.da.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/283520/www.soumu.go.jp/joho_tsusin/pressrelease/japanese/tsusin/990201j501_01.html)

この報告書は、実は、発信者情報開示をめぐる研究会の報告書でした。

なので、発信者情報は、憲法の「通信の秘密」に由来するものであるという表現は、

「間違い」(総務省史観)

ということになります(?)。

学説をみていくと阪本昌成「憲法理論Ⅲ」143頁は、旧公衆電気通信法の規定の位置づけについての議論をあげて、通説的な立場は、

現在(電気通信事業法のもと)でも、電気通信事業法上の規定につき、同様に解されているようである

とし、それに対して、

国家の監督に服する私人の行為であればステイト・アクションとなるわけではなく(略)、KDDの示す『独占・公益性』は私企業としての特徴を指すだけであり、市民が利用を強制されていると、比喩以上のものではないからである

として、

21条2項後段が、一定種の情報伝達媒体をコミュニケイション・コモン・キャリアとして法定するよう要求したことの帰結である

(成文堂、1995)としています。

現在の状況を念頭にして、松井茂記「インターネットの憲法学」295頁は、

通信事業の持つ公共的性格を考慮すると、これに憲法の通信の秘密保護規定を直接適用する考え方には、一理あるが、現在のように電気通信分野が民営化された状況では、やはり電気通信事業者を政府の一部と考えることは困難であり、憲法の通信の秘密規定はそのままでは適用されないと考えるべきであろう。それゆえ電気通信事業者であるプロバイダーが送信者情報を開示することは憲法違反とはいえない

としています(岩波書店、2002)。(ここら辺は、古いので、現在の憲法の教科書は、事務所で調べます)

また、90年代に議論された「公然性ある通信」については、やはり「情報通信の不適正利用と苦情対応の在り方に関する研究会報告書」で

 ただし、いわゆる「公然性を有する通信」と「1対1通信」とでは「通信の秘密」の意義を別個に検討する必要があると思われ、また「公然性を有する通信」であっても一定期間のみ公開されているもの、特定の者にのみ公開されているもの等、様々なケースがあると考えられ、具体的にどのような場合に保護  され、また保護されないかについては、個別の事例を分析することが必要となろう。
(参考)受信者その他の通信内容を知る者に対しては発信者情報を保護する必要がないのではないかという考え方があるが、消極に考える。すなわち、発信者には受信者に対して、自分が誰であるかを秘密にしようとすることに相当の理由がある場合がある(例えば、警察への通報、身の上相談や内部告発の場合など)。したがって、現行法規定は、このような場合を想定し、そうした発信者の意思を尊重し、通信の媒介者がみだりに外部に漏洩することを禁じているものと考えられる。

という表現がされています。

ということで、公的な解釈を前提とする限り、

通信の媒介者(電気通信事業者)に対しては、憲法の「通信の秘密」の保護の規定が適用されない

とされるべきかと思われます。ただし、上のコメントは、「法制度の提案」ですから、と断っているところが気になります。なので、ブロッキングとの関係で、提案されるであろうブロッキングに関する法律が、

国の行為

によるものを考えていたのであろうかと思います。ただ、やっぱりわからないのが、「通信の秘密」の権利者は、通信の当事者なので、プロバイダに対して、何らかを義務付けるのが、誰の憲法上の権利を侵害するというように構成されるのか、ということだろうと思います。


ちなみに、この点については、令和元年10月30日の東京高裁判決があるので、そのいいまわしをみてみたいと思います。

この事件は、ユーザが

第1審原告は,上記発表を受けて,本件ブロッキングは,ISP事業者である第1審被告がユーザーの全通信内容(アクセス先)を検知する行為を伴うから,ユーザーの通信の秘密(憲法21条)を侵害し,本件契約の債務不履行になると主張して,本件契約(又は人格権若しくは人格的利益)に基づき,第1審被告に対し,本件3サイトを宛先とする通信を妨害しないこと(本件ブロッキングの差止め)を求めた。
これに対し,第1審被告は,本案前の答弁として,第1審原告がどのような行為の差止めを求めるかが不明確で請求の趣旨が特定されていないとして訴え却下を求めるとともに,本案の答弁として,差止めの根拠も必要性も認められないとして請求棄却を求めた。

 

という事件です。

(2) 本件ブロッキングを実施した場合には,第1審被告によりユーザーの全通信内容(アクセス先)の検知行為が実行され,このことが日本国憲法21条2項の通信の秘密の侵害に該当する可能性があることは,第1審原告が指摘するとおりである。

ということで、憲法の適用については、裁判所は、問題にしていないのですね。まあ、1999年の時は、まだ、学生さんあたりだったんでしょうか。

と思って地裁の判決をみました(平成31年 3月14日東京地裁判決)。

地裁ですが、原告の主張は、

  • 約款1条及び4条違反
  • 憲法21条により,憲法上の基本的人権として保護されるべきものであり,民間事業者である被告に対しても,人格権又は人格的利益として保護される

としています

被告は、

  • 通信の秘密は憲法により認められているが,だからといって,民間事業者である被告に対し,人格権又は人格的利益に基づく妨害予防請求権が発生するというのは論理の飛躍がある

としていますね。

でもって裁判所は、原告の主張を

本件契約に基づき,又は憲法21条を根拠とする人格権若しくは人格的利益に基づき,被告に対して本件ブロッキングを行わないことを求めるものである

とまとめた上で、

現時点において,今後,被告が本件ブロッキングを行う蓋然性が高いとはいえず,本件において,本件ブロッキングの差止めの必要性は認められないものといわざるを得ない。
以上によれば,その余の点について判断するまでもなく,原告が被告に対して本件ブロッキングを行わないことを求める請求は理由がない。

としています。差止の必要性という部分で認めなかったわけです。憲法の適用の可能性が、真摯に争われた事件なのかというと?だと思います。なので、争い方とかをみても、高裁が憲法の適用可能性を述べたというのは、?としか思えません。

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