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ネットワーク中立性講義 その3 米国の議論(2008年まで)

Wu教授の概念が、どのように発展していったかについては、アメリカにおける議論の発展を参照するのが、有意義です。その前に、米国において、電気通信サービスに対してどのような規制体系が採用されているのかを確認しましょう。

米国の連邦法は、高度に規制がなされているコモンキャリアサービスとより規制のゆるやかなサービスに線がひかれています。

さかのぼること、1966年ですが、FCCは、「コンピュータと通信サービスの相互依存によって提起される規制と政策の問題(Regulatory and Policy Problems Presented by the Interdependence of Computer and Communication Services, Notice of Inquiry, 7 FCC 2d 11 (1966))」を公表しています。これは、基本サービスと高度サービス(enhanced service)の峻別を前提としています。

基本サービスというのは、「顧客が提供する情報との相互作用に関して実質的に透過的な通信経路上において純粋な伝送機能」を提供するものです。これは、「通信法」第II編の下で規制されています。

これに対して高度サービスは、基本的な伝送サービス以上の通信ネットワークで提供されるものです。たとえば、「コンピュータ処理アプリケーションであって、コンテンツ、コード、プロトコル、および加入者情報の他の側面に基づいて動作するものである」と定義されています。

この枠組みをさらに明確にしたのは、1934年通信法(Communication Act of 1934)に対する改正としての1996年通信法になります。

同法は、「インターネットと他のインタラクティブなコンピュータサービスは、政府規制が最低限であったことから、すべてのアメリカ人にとって利益となり栄えた」と評価し、「活気に満ちた競争的な自由市場を保護する」のが、米国の政策であると規定しています。

わが国でも、非常に注目された法改正であり、通信法の翻訳の書籍などが出ています。(とりあえずは、「米国通信市場における規制改革-規制産業から競争産業への転換-」をリンクしておきます)

同法は、わいせつ通信についての規制部分があり、その部分が違憲であるとして無効判決を受けたので有名であるということもいえるでしょう(その際に、ウエブページの背景が真っ黒にして、ネットユーザは、抗議の意図を明らかにしようとしたということもありました)。

同法は、通信分野の規制という観点からは、重い規制が適用される「電気通信サービス」とより規制のゆるやかな「情報サービス」の二分論を進めるという方向性を明確にしています。このあたりの参考としては、「インターネットを経由するコンテンツ配信サービスの発展が既存の情報通信 制度に与える影響に関する研究」を引いておきます。

その後、1996年法から2012年に至るまで、FCCは、二分論のアプローチを採用してきています。

1998年には、Steven Report(Report to Congress)(Universal Service Reportともいう)が公表されています。

ここでは、従来のユニバーサルサービスの議論が、急激に変化していく電気通信ネットワークのあり方として、どのように提供されるべきか、という点についての検討がなされています。そこでは、それまでの経緯についての分析がなされるとともに、「インターネットアクセスプロバイダーは、コンピュータ処理、情報提供、およびその他のコンピュータ仲介サービスとデータ転送を組み合わせており、純粋な伝送路を提供していない。」として、インターネットアクセスプロバイダーには伝統的な規制枠組が適用されていないのは、適切なことであるとされています。

2002年には、いわゆるCable Modem Orderが公表されています。

これは、ケーブルテレビによるインターネット接続に対する規制の枠組みをふれたものです。もともと1998年から、ケーブルテレビのオペレーターの合併等によるライセンスの移転に関して、どのような規制枠組みが適用されるのかというのが議論されていましたが、その点についての考えを明らかにしたものということができます。FCCは、「ブロードバントサービスは、最小限の規制環境として、投資とイノベーョシンを競争市場において実現すべきである」と判断して、ケーブルによるインターネットアクセスを「情報サービス」として、規制の緩い枠組を適用することを明らかにしました。この判断は、2005年に最高裁判所で維持されています。

2004年2月に、パウエルアメリカ連邦通信委員会 (FCC) 議長は、シンポジウムにおいて、米国は、ハイスピードのより利用可能なプラットフォームのチャンピオンであり続け、それを活用していくであると述べました。そして、人民に力を、公開性の維持、水平線の障害となりうるものの除去、「インターネット自由」の消費者の権利の付与、インターネット自由の保持の主たる恩恵などを謳っています。特に、インターネット自由として、コンテンツにアクセスする自由、アプリケーションを利用する自由、個人デバイスを接続する自由、サービスプラン情報を取得する自由があげられているのは注目にあたいするでしょう。

「インターネット自由」を強調する立場は、2005年のインターネット政策綱領 に引き継がれています。

このステートメントは、序において、通信法230条(b)のインターネットに存する 競争的な市場を維持し、インターネットの継続的な発展を促進するのがポリシであるとしています。そして、議論において、「インターネットブロードバンドにおけるコンテンツ、アプリケーション、サービスその他の創造、採用、利用を促し、競争からもたらされるイノベーションによる恩恵を消費者に確かにすることを目的とする」ものであるとしています。

また、Appropriate Framework for Broadband Access to the Internet over Wireline Facilities  

また、2005年には、Wireline Broadband Classification Order が公表されており、有線設備を用いたブロードバンドインターネットは、情報サービスであると分類されています。この命令では、有線設備を用いたブロードバンドインターネットは、FCCの従前の議会への報告、最高裁判所の意見とあわせてインターネット情報サービスであると分類されることを確認しています。

同命令は、コンピュータ諮問体制、コンピュータ諮問要件の排除、その要件がもはや適切ではないこと、有線ブロードバンドの市場が出現して急速に変貌していること、技術のイノベーションが進んでいること、新規のサービスが生まれていること、などを上記の分類の根拠としてあげています。もっとも、この分類になるとしても、連邦のユニバーサル・サービスの義務が継続され、法執行・国家安全・緊急準備への対応などの義務が課されることになっています。

同年には、Madison Riverというローカルネットワーク事業者がライバルであるVoIPサービスの接続を拒絶しようとしたことに対して、FCCがこれを防止しようとした事案があります。同意審決は、こちら。Madison Riverが、制裁金を支払うことと、VoIPアプリのブロッキングをしないことを同意しています。

2007年には、Wireless Broadband Internet Access Orderが明らかにされ、ワイヤレスによるブロードバンド接続が、より規制のゆるやかな情報サービスとして認識されること、ワイヤヤレスの通信コンポーネントが通信であること、通信送信コンポーネントは、通信サービスではないこと、が明らかにされました。ブロードバンド接続が情報サービスとにして認識されることによって、「「無線ブロードバンド・インターネット・アクセス・サービスは、エンド・ユーザーへの単一の統合サービス、インターネット・アクセスを提供し、データの伝送をコンピュータ処理と密接に結合する 、情報提供、コンピュータインタラクティビティなど、エンドユーザがさまざまなアプリケーションを実行できるようにする」ことができるようになるとされています。

その後、同年には、FCCは、AT&TとBellSouthの合併に際して、他の会社が利用者に提供するアプリケーションをブロックしないようにと命じた(ただし、テレビについては、適用しない選択あり)。

さらに、2008年には、ケーブル・ブロードバンドのISPであるComcastが、P2PネットワークであるBitTorrentに対して帯域制限をかけたのに際して、FCCは、これを反競争的行為であるとしました。この帯域制限の実際が、差別的で、恣意的で、ネットワークマネジメントとはいえないとしたのです。この命令は、Comcast-BitTorrent Orderといわれますが、これは、こちら

もっとも、この判断に対して、ComCastは、FCC には、このような命令をなす権限がないのではないか、という訴訟を提起します。そして、この事件において、2010年4月には、ComCast控訴審判決がなされました。この判決は、付随的管轄権を発動できるための法的権限をFCCに与えた具体的条項が十分に論証されていないとしたものです。この点については、実積 寿也「オープンインターネット命令に係る控訴審判決の影響」が詳しく述べています。

(ちなみに、実積先生からは、訳語等についてアドバイスをいただき、直している部分があります。ありがとうございます。)

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