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カーンFTC委員長は、トリックスターか、学者か?-「アマゾンの反トラストのパラドックス」を読む。

Facebookのワシントン特別区の地方裁判所の判断メモを「フェースブックはね、フェースブックブルーっていうんだほんとはね-だけど、シェアだけで独占っては、いえないよ-裁判所の意見メモを読む」のエントリで分析したところですが、そんなことをいっている間に

米アマゾン、FTCにカーン委員長の忌避を申し立て-関連案件で

という報道がなされています。

カーン委員長については、FTC委員長に抜擢されたわけ(対GAFA「強硬派」登用次々 バイデン政権布陣)ですが、はてさて、抜擢に値するほどの秀才・天才なのだろうか、それとも、時代の流れに迎合したトリック・スターなのか、という疑問があるわけです。

法律家としては、論文の一本でも読めば、その人の力量がわかるのではないか、という感じです。というわけで、「アマゾンの反トラストのパラドックス」です。96ページからなる論文で、イェール大学の学生さんのときの論文で、非常に高く評価されてます。

でもって、感想いきます。


感想

さて、この論文を一枚目まとめるとこんな感じでしょうか。左側が、現在のアメリカの反トラスト法の体系のもとでの、アマゾンの位置づけを示しています。

 

 

 

 

 

 

 

 

左側が、現在の反トラスト法の理解を示します。市場を確定して、そこで競争者を考えて、実際にどのような競争への阻害があるかをエビデンスで捉えます。それをもとに、執行を考えます。Facebookのワシントン特別区の地方裁判所の判断メモを「フェースブックはね、フェースブックブルーっていうんだほんとはね-だけど、シェアだけで独占っては、いえないよ-裁判所の意見メモを読む」のエントリで分析したところですが、

b 市場定義についての主張

これについてFTCは二つのことをしなければならないとされます。

第一に、PSNサービスの定義を提供しなければなりません(当然ながら、少なくともFacebook Blueは含まれます)。

次に、一般に利用可能なPSN以外のサービスが、PSNサービスと合理的に交換可能な代替品であるか否か、およびその理由を説明しなければなりません。

最終的には、そのような代替品がある場合には、そのような代替品を含む市場においてFacebookが支配的なシェアを持っていることを証明する必要があります。

という三点を明らかにしなければならないというのが明らかになっているところです。

しかしながら、カーン氏の論考は、インターネットのプラットフォームだから、ということで、具体的な市場についての考察をしていないように思います。具体的に見ても、服の市場、靴の市場、生鮮食料品の市場などの関連市場との関係をどのように考えているのでしょうか。私としては、これらをすべてひっくるめた、インターネット市場というものが成立しているとは思えないところです。

図に戻ります。現在のアメリカの反トラスト法の立場が、シカゴ学派の大きな影響を受けているのは事実です。それを是として、ネットワークの特性に応じて、修正するのか、根本的に、法の目的とアプローチを「原点帰り」をして、より「直感的」な判断にもどるのか、というのが、二つのアプローチの違いにおもえます。

個人的には、現在のアプローチを覆すべきであるという論証が十分できているようにはおもえません。消費者厚生を中心に考えるべきであり、他の法的な利益を考慮にいれるとしても、むしろ、消費者厚生というフィルターを通してのみ、検証されるべきような気がします。

結局、自分としては、カーン氏の論文に目が覚めるということはなかったです。消費者厚生をもとに、実際の行為の競争阻害効果を実証的に考えて、さらに執行による改善可能性/コストの配慮、をもとに構築されているアメリカの反トラスト法の構成は、魅力的なので、それを急に議会の意図を出してきて、政治的な多元主義まで考えて、

オンライン・プラットフォームを自然独占または寡占

として捉えて、公共企業体であるとするのは、自分としては、到底、理解ができない論文です。基本的に根本的なアプローチが違うんだなあという感じです。

ということで、このように感じたところを実際に分析してみていきます。

——-

概要

Amazonは、21世紀の商業の巨人です。小売業に加えて、マーケティングプラットフォーム、配送・物流ネットワーク、決済サービス、信用貸し、オークションハウス、大手書籍出版社、テレビや映画のプロデューサー、ファッションデザイナー、ハードウェアメーカー、クラウドサーバースペースの主要ホストなど、さまざまな顔を持っています。アマゾンは驚異的な成長を遂げているが、利益はわずかであり、代わりに低価格で広く展開することを選択しています。この戦略により、同社はeコマースの中心的存在となり、現在では同社に依存する多くの企業にとって不可欠なインフラとなっています。このような同社の構造や行動は、反競争的な懸念をもたらしますが、同社はこれまで反トラスト法の調査を受けてきませんでした。

このノートでは、独占禁止法の現在の枠組み、特に短期的な価格効果として定義される「消費者福祉」に競争を規定する枠組みは、現代経済における市場権力の構造を捉えるには不十分であると主張する。競争を主に価格とアウトプットで測っていては、アマゾンの優位性がもたらす潜在的な競争上の弊害を認識することができません。特に、現在の法理では、略奪的な価格設定のリスクや、異なるビジネスライン間の統合が反競争的であることをどのように証明するかを十分に理解していません。

これらの懸念は、2つの理由から、オンラインプラットフォームの文脈で高まっています。

第一に、プラットフォーム市場の経済性は、企業が利益よりも成長を追求するインセンティブを生み出し、投資家はこの戦略を評価しています。このような状況下では、既存の法理では非合理的でありありえないとされている捕食的価格設定が極めて合理的になります。

第二に、オンラインプラットフォームは重要な仲介者としての役割を果たしているため、ビジネスラインを超えて統合することで、ライバルが依存している重要なインフラをコントロールすることができます。

この二重の役割により、プラットフォームは、自社のサービスを利用している企業について収集した情報を利用して、その企業を競争相手として弱体化させることも可能になります。本稿では、アマゾンの優位性の諸相を明らかにする。そうすることで、Amazonのビジネス戦略を理解することができ、Amazonの構造と行為の反競争的な側面を明らかにし、現在の教義の欠陥を強調することができる。最後に、Amazonの力に対処するための2つの潜在的な体制を検討することで締めくくる。それは、伝統的な反トラストおよび競争政策の原則を回復することと、コモンキャリアの義務と責務を適用することである。


となっています。この概要を見ているところでは、プラットフォームというのが無批判に使われていて、さらに、アマゾンの長期的、まずシェアを優先するという戦略が、どのように、「競争を阻害する」とされているのか、というのがよくわからないところです。

そのような疑問をもって、ここの論述をみていきたいと思います。本文は、6章から成り立ちます。目次は、こんな感じです。

はじめに
1. シカゴ学派革命:競争的プロセスと市場構造からの脱却

A. 略奪的価格設定
B. 垂直統合

II. 競争のプロセスと構造が重要な理由

A. 価格と生産高の効果は、消費者厚生に対する脅威の全範囲をカバーするものではない。
B. 独占禁止法は多様な利害関係者に奉仕するために競争を促進する

C. 競争促進にはプロセスと構造の分析が必要

III. amazonのビジネス戦略

A. 優位性を確立するために利益を犠牲にする意志
B. 複数の事業分野への進出

IV. 構造的優位性の確立

A. ベストセラー電子書籍の安価な価格設定と現代の求償分析の限界
B. Quidsi社の買収と参入・退出障壁についての欠陥のある仮定
C. アマゾン・デリバリーと分野を超えた支配力の活用
D. アマゾン・マーケットプレイスとデータの活用

V. プラットフォーム経済と資本市場がどのように非競争的な行為と構造を促進するか

VI. プラットフォームパワーに対処するための2つのモデル

A. 競争によるオンライン・プラットフォーム市場の統治

1. 略奪的価格設定
2. 垂直統合

B. 規制による独占的なプラットフォームの統治

おわりに

となっています。


まずは、

1. シカゴ学派革命:競争的プロセスと市場構造からの脱却

です。

シカゴ学派というのは、現代経済学(特に価格理論)の知識をもとに反トラスト法の解釈に生かしていきましょうという考え方ということでいいかと思います。政治学あたりですと、シカゴ学派というのは、行動分析などを主張しますけどね。

この部分についてのカーン氏の記述は、

リチャード・ポズナーの言葉を借りれば、シカゴ学派の立場の本質は、「独禁法の問題を見るための適切なレンズは価格理論である」というものである。この見解の基礎は、市場の効率性に対する信頼であり、それは、利益を最大限にするという参加者の行為によって裏付けられている。

シカゴ学派のアプローチは、産業組織のビジョンに基づいており、それは、次のような単純な理論的前提をしている。「市場の制約の中で働く一般の経済関係者は、最も効率的な方法で投入物を組み合わせることによって利益を最大化しようとする。そのような振る舞えないことに対しては、市場の競争による力によって罰せられる」

経済構造主義者は、産業構造が企業にある種の行動を起こさせ、それが市場の結果を左右すると考えているのに対し、シカゴ学派は、企業規模、産業構造、集中度などの市場の結果は、単独の市場の力と生産の技術的要求の相互作用を反映していると考えている。シカゴ学派では、「存在するものが、最終的には存在すべきものの最良の指針となる」としている。(略)

構造主義から価格理論への移行は、実際には、反トラスト分析に2つの大きな影響を与えた。

第一に、参入障壁の概念が大幅に狭められたことである。参入障壁とは、ある産業に参入しようとする企業が負担しなければならないが、その産業にすでに参入している企業は負担しないコストのことである。シカゴ学派によれば、規模の経済、資本要件、製品の差別化によって既存企業が享受している優位性は、「生産と流通の客観的な技術的要求」以上のものを反映していないと考えられるため、参入障壁とはならない。このように多くの「参入障壁……が割り引かれているため、企業の数や集中度にかかわらず、すべての企業が潜在的な競争の脅威にさらされている」 この見解では、市場支配力は常に一時的なものであり、したがって独占禁止法による取締りはほとんど必要ない。

構造主義からの脱却の第二の結果は、消費者価格が競争を評価するための主要な指標となったことである。ロバート・ボークは、大きな影響力を持つ著書『反トラストのパラドックス』の中で、反トラストの唯一の規範的目的は消費者福祉の最大化であり、経済効率の促進を通じて追求されるべきであると主張した。Borkは「消費者福祉」を「配分効率」という意味で使用していたが、裁判所と反トラスト当局は、消費者価格への影響によってそれを測定することが多かった。1979年、最高裁はBorkの研究に倣い、「議会はシャーマン法を『消費者福祉の処方箋』として設計した」と宣言した。 それでも、この哲学は政策や教義に組み込まれていった。レーガン政権が発表した1982年の合併ガイドラインは、1968年に作成された従来のガイドラインとは全く異なるものであり、この新たな焦点を反映していた。1968年のガイドラインでは、合併取締りの「主要な役割」は「競争を助長する市場構造を維持・促進すること」とされていたが、1982年のガイドラインでは、合併によって「『市場支配力』を創出・強化することを認めてはならない」とされた。今日、独占禁止法上の損害を立証するためには、一般的に価格の上昇や生産量の制限という形で、消費者の福祉を害することを立証する必要があります。

もっとも、そのあと、実務は、価格のみではない(コムキャスト/タイムワーナー事件)と述べています。

そのあと、略奪的価格設定と垂直的統合について、シカゴ学派、それらは、必ずしも消費者厚生を害するものではなとしているとして詳しく述べていきます。

略奪的価格設定

略奪的価格設定については、スタンダードオイル事件、 Utah Pie Co. v. Continental Baking Co(386 U.S. 685 (1967)が紹介され、そのあと、シカゴ学派がこれらの従来の理論を批判していく過程にふれます。

第一に、原価を下回る価格を設定しても、競合他社が撤退したり、競合他社が競争をやめたりする保証はないという批判がありました。第二に、仮に競合他社が撤退したとしても、最初の損失を取り戻すためには、独占的な価格設定を長期にわたって維持し、独占的な価格設定に惹かれて参入してくる潜在的な競合他社をうまく阻止する必要があります。成功の不確実性とコストの保証とが相まって、プレデター・プライシングは魅力のない、したがって非常に可能性の低い戦略である”

ということなるわけです。そして、この批判がレーガン時代を経て、最高裁の判決例をも構築していきます。Matsushita Electric Industrial Co. v. Zenith Radio Corp(475 U.S. 574 (1986).)です。そこでは、上の理論を、根本的に見て認めていきます。

そして、Brooke Group Ltd. v. Brown & Williamson Tobacco Corp(509 U.S. 209 (1993))は、このような考え方をドクトリンのテストにおとしこんでいきます。

“コストを下回る価格設定の証拠だけでは、再補填の可能性と競争への損害を推論するには十分ではない」とケネディ判事は多数派を代表して書いている 。代わりに原告は、「主張された略奪的なスキームが、略奪に費やした金額(それに投資したお金の時間的価値を含む)を補償するのに十分な競争水準を超えた価格上昇を引き起こす可能性があることを証明しなければならない」 、現在「再補填テスト」として知られている要件である。

となります。

垂直的統合

垂直的統合については、もともとは、

垂直統合を批判する人たちは、主に「レバレッジ」と「フォロージャ(市場囲い込み)」という2つの害悪の理論に注目しました。

レバレッジとは、企業がある事業分野での優位性を利用して、別の事業分野での優位性を確立することができるという考え方です。ある市場や生産段階での水平的な力が、別の段階での参入を阻むための『てこ』になる」ため、垂直統合と市場の水平的な力の組み合わせは、「水平的な力を単独で行使するよりも、より大きな範囲で競争を損なう可能性がある」のです。

「フォロージャ(市場囲い込み)」というのは、企業がひとつのラインを他のラインのライバルの不利に使うというときに起きます。ベーカリーを所有する製粉会社は、ライバルのベーカリーに販売する際に、価格を上げたり、品質を落としたりすることができ、あるいは完全に取引を拒否することもできる。この考え方によれば、たとえ統合企業が直接的に排他的な戦術を取らなかったとしても、統合企業は、参入しようとする企業に2つのレベルでの競争を要求することで、参入障壁を高めることになる。

となります。

これに対してシカゴ学派は、疑問を投げかけます。市場取引を企業内の管理上の決定に置き換えることによって、垂直的な統合は、独占禁止法が促進すべき効率性を生み出すと主張した。そして、もし統合が効率性を生まないのであれば、統合された企業は統合されていないライバル企業に対してコスト面での優位性を持たないため、参入を妨げるリスクはないとしました。

さらに、垂直的な取引は、分析の主な基準である企業の価格設定と生産量の方針に影響を与えないと主張しました。この枠組みでは、「水平合併は市場シェアを増加させるが、垂直合併は競争に影響を与えない」として、水平合併のみが競争に影響を与えるとしています。

この前提の下では、独占的なレバレッジは競争上の懸念をもたらさないだけでなく、利益ではなく効率性によってのみ動機づけられるため、実際に発生した場合には競争促進につながるとされるです。このような見解が、レーガン時代から実務に影響与え、その後も主流であり続けます。

あたりが、1部の流れです。この部分は、客観的な分析で、何も新しいところはありません。


II. 競争のプロセスと構造が重要な理由

についてみていきます。

重要なことは、消費者の利益には、コストだけでなく、製品の品質、多様性、革新性も含まれるということです。このような長期的な利益を守るためには、現在のアプローチよりもはるかに厚い「消費者厚生」の概念が必要となります。しかし、より重要なことは、消費者厚生を過度に重視することは誤っているということです。それは、議会が、労働者、生産者、企業家、市民としての私たちの利益を含む多くの政治的経済的目的を促進するために反トラスト法を制定したことを明らかにする立法史を裏切るものである。また、プロセスや構造への関心(市場の競争力を維持するために権力が十分に分散されているかどうか)を、結果(消費者が実質的に良い生活を送っているかどうか)に関する計算に置き換えているのも誤りである。独占禁止法と競争政策は、福祉ではなく競争的な市場を促進すべきである。プロセスと構造に再び注目することで、このアプローチは主要な反トラスト法の立法史に忠実である。また、現在の枠組みとは異なり、実際の競争を促進するものである。

ということだそうです

A. 価格と生産高の効果は、消費者厚生に対する脅威の全範囲をカバーするものではない。

です。

この主張のコアな部分は、、市場が競争力を失った時点で競争を促進するよりも、市場が競争力を失う危険性がある時点で競争を促進する方がはるかに簡単であることから、独占禁止法はこの認識を反映して、執行者は競争に対する潜在的な制限を「初期の段階」で逮捕することを要求していると考えている。

しかし、彼女によれば、シカゴ学派は、偽陽性(高橋注-誤って過大な規制をなすこと)を敵視し、市場支配力と高い集中力は効率性を反映し、また生み出すものであると主張している ことから、独占禁止法が、「初期の段階」での対応という基準は損なわれ、執行全体が弱体化している、と批判しています。

従来は構造の調査を必要としていた。競争の評価基準として主に価格と生産量の効果に頼ることで、執行者は、効果的な対処が困難になるまで、構造的に弱体化したイオンを見落とす危険性があり、このアプローチは消費者の福祉を損なうものである。

と批判しているのです

B. 独占禁止法は多様な利害関係者に奉仕するために競争を促進する

この部分でも、独占禁止法の歴史から、そそも、多様な目的があったことを論証していきます。そして

独占禁止法を消費者福祉のみに焦点を当てるのは間違いである。一つには、それは立法の意図を裏切ることであり、議会は経済力の過度の集中を防ぐために反トラスト法を制定したことを明確にしている。このビジョンは、開かれた市場の維持、独占的濫用からの生産者と消費者の保護、政治的・経済的支配の分散など、様々な目的を促進するものである

第二に、消費者の厚生に焦点を当てることは、企業が供給者や生産者を圧迫することを可能にし、システムの安定性を危険にさらし(例えば、企業が大きすぎて潰せない状態になることを許すことによって)、メディアの多様性を損なうなど、過度の集中が我々に害を及ぼす他の多くの方法を無視するものである 。このような幅広い利益を守るためには、競争プロセスの中立性と市場構造の開放性に焦点を当てた独占禁止法のアプローチが必要である。

というのです。

C. 競争促進にはプロセスと構造の分析が必要

シカゴ学派が消費者厚生を反トラスト法の唯一の目的とすることには、少なくとも2つの理由で問題がある。

第一に、セクションII.Bで述べたように、この考え方は立法史に反している。立法史は、議会が反トラスト法を、私的権力の過度の集中を防ぐために制定したことを示している。さらに、このビジョンは、「消費者の厚生」にのみ焦点を当てた場合には無視される多くの利益を保護することになると認識していた。

第二に、この新しい目標を採用することによって、シカゴ学派は、分析の重点を、競争に必要な条件のプロセスから、結果、すなわち消費者福祉へと移したのである。言い換えれば、構造への懸念(市場の競争性を維持するために権力が十分に分散されているか)は、計算(価格が上昇したか)に置き換えられたのである。このアプローチは、真の競争を促進するには不十分であり、その失敗は支配的なオンラインプラットフォームの場合にはさらに増幅される。

として

競争プロセスと市場構造に焦点を当てることであると提案し、構造の役割を認識せずに競争を評価しようとするのは見当違いだと主張します。

これは、競争の最良の保護者は競争のプロセスであり、市場が競争的であるかどうかは、その市場がどのように構造化されているかによってのみ決定されるわけではないが、密接に関連しているからである。言い換えれば、競争プロセスと市場構造の分析は、厚生の測定値よりも競争の状態についてより良い洞察を与えると主張します。

これらの利益の基礎となるのは、プロセスの配分が、政府に、結果を製造したり干渉したりするために介入するのではなく、背景条件を作り出す任務を与えることである。

実際には、このアプローチを採用するには、競争プロセスの中立性と市場の開放性についての洞察を与える様々な要因を評価する必要がある。これらの要因には次のようなものがあります。(1)参入障壁、(2)利害の対立、(3)ゲートキーパーやボトルネックの出現、(4)データの利用と管理、(5)交渉力の力学。これらの要素を真剣に考慮したアプローチでは、市場がどのように構成されているか、単一の企業が競争結果を歪めるほどの力を獲得しているかどうかを評価することになります。

 これらの要因に関わる主な質問は以下の通りである。企業はどのようなビジネスラインに関わっているのか、また、これらのビジネスラインはどのように相互作用しているのか。市場の構造は、依存関係を生み出しているか、あるいは反映しているか?競争を歪める危険性のあるゲートキーパーとして、支配的なプレーヤーが出現していないか?構造的な懸念と競争プロセスへの注意は、オンラインプラットフォームの文脈では特に重要です。価格ベースの競争の測定は、特にデータの役割と利用を考えると、市場ダイナミクスを捉えるには不十分です。インターネット・プラットフォームがコミュニケーションと商業活動の両方を媒介する割合が増加しているため、我々のフレームワークがこれらの市場で競争が実際にどのように機能するかに適合していることを確認することが重要です。

と述べています。

Ⅲ アマゾンのビジネス戦略、Ⅳ 構造的ドミナンスの確立

Ⅲ アマゾンのビジネス戦略、Ⅳ 構造的ドミナンスの確立 は、アマゾンの実際の戦略と成長の数字になります。あと、Ⅳでは、キンドルの減価割れ戦略とかについてもふれています。Quidsi事業部の対抗戦略とその後の合併についてもふれています。(なお、Amazon、Diapers.comなどQuidsi事業部の閉鎖を発表―5.5億ドルで2010年に買収)

Quidsi事業部については、

アマゾンとQuidsiの歴史は、潜在的な競争相手に明確なメッセージを送っています。つまり、新参者がアマゾンと真っ向勝負してお金を流せるような深いポケットを持っていない限り、この市場に参入する価値はないかもしれないということです。アマゾンがAmazon Momプログラムの価格を引き上げても、この分野でアマゾンに挑戦しようとする新規参入者は最近では見られず、脅しが現実的な障壁としても機能しているという考えを裏付けています」。

世界最大のオンライン小売業者であるアマゾンは、多くのオンライン買い物客にとってデフォルトの出発点として機能しています。ある調査によると、米国の消費者の44%が「商品を探すためにまずアマゾンに直接アクセスする」と推定されています。”アマゾンへの挑戦を視野に入れて開業したベンチャー企業が少なくとも1社ありましたが、その創業者たちは最近、同社をWalmartに売却しており、アマゾンに挑戦できるのは既存の大手企業だけであることを示唆しています。

と評価しています。

V. プラットフォーム経済と資本市場がどのように非競争的な行為と構造を促進するか

現行の反トラスト法の「消費者厚生」志向の理論は、インターネット時代に向けて独占禁止法を更新していないことを反映していると批判します。

エコノミストたちは、プラットフォーム市場が反トラスト分析にどのようなユニークな課題をもたらすかを広範囲に分析しています。

特に、価格構造やネットワーク外部性が異なるため、一面市場の企業に適用される分析が二面市場に適用されると破綻する可能性があることを強調しています。これらの研究では、二面市場のプラットフォームが直面する両サイドを惹きつけるという課題に焦点が当てられている。これは、売り手のラインが確立されていないのに買い手を惹きつけなければならないという古典的な調整問題であり、その逆もまた然りである。

そして、カーン氏は、エコノミストは、両面市場の特殊な課題を考慮して、反競争的とみなされる可能性のある行為に対しても、独占禁止法は寛容であるべきだと結論づける傾向があると紹介しています。

プラットフォーム市場の特徴は、勝者総取りであることです。これは主にネットワーク効果とデータのコントロールによるもので、どちらも初期の優位性が自己強化されることを意味しています。その結果、テクノロジー・プラットフォーム市場では、少数の企業が優位に立つことになります。ウォルマートが最近、オンライン小売でアマゾンに対抗しようとしていた新興企業の一つであるJet.comを買収したことは、この現実を如実に表しています。

これをもとにして、ネットワーク効果やデータのコントロールの効果についてもふれています。

同様の勝者総取りの話としてUberを例にあげています。

このような認知度の高まりは喜ばしいことですが、プラットフォーム市場の特徴を考慮すると、独占禁止法をどのように適用するかについて、より詳細な評価が必要です。プラットフォームのビジネスモデルには規模が不可欠であり、支配的な地位を確立するのに役立つため、独占禁止法は、リターンを犠牲にして成長を追求することが、現在の教義では非常に合理的であるという事実を考慮する必要があります。

オンライン・プラットフォーム市場の現実に即したアプローチは、企業が損失を回復するために使用する様々なメカニズム、回復が起こる可能性のある長い時間軸、垂直統合とデータへの集中的なコントロールが新しい形の反競争的行為を可能にする方法も認識するでしょう。特に、オンラインプラットフォームがコミュニケーションや商取引を仲介する割合が増加している中で、オンラインプラットフォームのダイナミクスを反映した反トラスト法の改正は不可欠です。

としています。

VI. プラットフォームパワーに対処するための2つのモデル

プラットフォーム市場の経済性が反競争的な市場構造を助長する可能性があることが事実であるとすれば、少なくとも2つのアプローチが考えられます。

鍵となるのは、オンライン・プラットフォーム市場を競争によって支配したいのか、それとも、本質的に独占的または寡占的であることを受け入れて、代わりに規制したいのかを決めることです。

前者のアプローチをとる場合、独占禁止法を改正して、このような支配が生じるのを防ぐか、その範囲を制限する必要があります。後者の場合は、規模の経済を利用するための規制を導入する一方で、企業がその優位性を利用する能力を中和する必要があります。

A. 競争によるオンライン・プラットフォーム市場の統治

1. 略奪的価格設定

略奪的価格設定に関しての現在のアメリカの理論的な位置づけにつては、上述したとおりです。

カーン氏は、プラットフォームが捕食に資金を提供するユニークな立場にあるとします。これは、投資家が、ほとんど無尽蔵に資金を提供するので、減価割れ価格を何年にも続けることができると認識しています。それゆえに、支配的なプラットフォームが製品を原価よりも低い価格で販売していることが判明した場合に、捕食の推定を導入することも検討されるうるとします。この推定の理論の根拠として

  • 第一に、企業は、最初の捕食の数年後に価格を引き上げたり、裁判で証明するのが困難な方法で無関係な商品の価格を引き上げたりすることがある。
  • 第二に、企業は、個別化された価格設定や価格差別によって、簡単には発見できない方法で価格を引き上げることがある。
  • 第三に、企業が消費者価格を引き上げていなくても、捕食は多くの市場被害をもたらす可能性がある。

をあげます。

消費者福祉の枠組みでは、こうした弊害として、製品の質の低下や選択肢の多様性の喪失などが挙げられます。

反トラスト法が保護するために制定された、より広範な利益を保護しようとする枠組みの中では、従業員の所得や賃金の低下、新規事業の創出率の低下、地域所有率の低下、少数者による政治的・経済的支配の拡大などの潜在的な弊害があります。

捕食の推定を導入するには、価格が原価を下回る場合を特定する必要があり、これについては多くの議論がなされています。最高裁はこの問題を扱っていないが、ほとんどの控訴裁判所は平均変動費が正しい指標であると述べている。確かに、「コストを下回る」という言葉は不完全なフィルターであり、特に関連するコストを構成するものは、産業やコスト構造によって異なる可能性がある。また、裁判所や執行機関が採用する「コスト」の具体的な定義は、最終的には、略奪的な価格設定のテストが、誤検出をスクリーニングするのに役立つビジネス上の正当化の抗弁を認めている場合には、あまり意味がないかもしれません。あるプラットフォームが推定の対象となるほど支配的であるかどうかは、その市場シェアによって評価することができます。

2. 垂直統合

カーン氏は、この分野について、より厳格なアプローチを採用して、一定の優位性に達したプラットフォームによる垂直統合に予防的な制限を設けるべきだと主張しています。

これは、プラットフォームが複数の関連事業に関与することで、プラットフォームが自社の事業を優遇し、他社に不利益を与えるインセンティブを持つ状況が生まれ、利益相反が生じる可能性があることを認識するものである。この予防的アプローチを採用することは、支配的な企業が、既にプラットフォームとしてサービスを提供している市場に参入すること、つまり、プラットフォームに依存する企業と直接競合することを禁止することになります。

これは、Amazon が現在行っていると言われているように、サードパーティホストとしての役割から得られる知見を小売事業のために利用することを防ぐためでもあります。

そして、カーン氏は、 このような形の予防的禁止措置は、銀行法(銀行と商業の分離)に長い歴史があるといいます。 これは、「安全性と健全性」「経済・政治的パワーへの懸念」という二つの懸念もあるとしています。

B. 規制による独占的なプラットフォームの統治

これは、

もう一つは、支配的なオンライン・プラットフォームを自然独占または寡占として受け入れ、代わりにその力を規制しようとするものである。本節では、この2つ目のアプローチとして、従来、公益事業規制とコモンキャリア義務の形で行われてきた2つのモデルを紹介する。歴史的に公益事業として規制されてきた産業には、商品(水、電力、ガス)、輸送(鉄道、フェリー)、通信(電信、電話)などがある 。批判的に言えば、公益事業体制は競争を排除することを目的としている。

でもって、このようなアマゾン「公」企業説は、具体的にどのような説を唱えるかというと

アマゾンがインターネット経済において不可欠なインフラとしての役割を果たすようになってきていることを考えると、公益事業規制の要素をアマゾンの事業に適用することは検討に値すると思われます。

最も一般的な公共事業政策は、(1)価格とサービスの差別禁止の要求、(2)料金設定の制限、(3)資本化と投資要件の課し方、である。

これら3つの伝統的な政策のうち、差別禁止は最も理にかなっているが、料金設定と投資要件は実施が困難であり、おそらく、明らかな欠陥を解決することはできないだろう。

アマゾンが自社の商品を優遇したり、生産者や消費者を差別したりすることを禁止する無差別政策は重要です。

アマゾンのビジネス構造に関する反競争的な懸念の多くは、垂直統合とその結果としての利益相反に起因するものであることを考えると、無差別のスキームを適用することで、反競争的なリスクを抑制することができます。

としています

結論


 

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