ブログ

英国のモバイルエコシステムについての中間報告

英国・競争市場庁(CMA)は、モバイルエコシステムについての中間報告書を公表しています(2021年12月14日)

プレスリリースは、こちらです

プレスリリースは、

モバイル端末を「万力のように握る」(“vice-like grip)企業。

というコピーから始まります。

今年初め、競争市場局(CMA)は、アップルとグーグルが、それぞれの「エコシステム」を形成するOS(iOSとAndroid)、アプリストア(App StoreとPlay Store)、ウェブブラウザ(SafariとChrome)を過度に支配しているという懸念について調査を開始したことがふれられています。

携帯端末の購入は、基本的にアップルのiOSかグーグルのアンドロイドのエコシステムに入ることになること、アップルとグーグルは、モバイルアプリやウェブサイトなどのオンラインコンテンツがユーザーにどのように提供されるかをコントロールすることができることが述べられています。

CMAは、このことが顧客にとって競争と有意義な選択肢の減少につながっていることを懸念しています。

また、いわゆる「ウェブアプリ」やiOSデバイスでクラウドサービスを通じてゲームをプレイする新しい方法など、革新的な新しい製品やサービスの恩恵を十分に受けられないでいるようです。

CMAはまた、Appleの携帯電話、アプリの購読料、アプリ内での購入など、より競争の激しい市場よりも高い価格に人々が直面する可能性があることを懸念しています。

CMAの最高責任者であるAndrea Coscelliは、

AppleとGoogleは、私たちの携帯電話の使い方を掌握しており、そのために英国内の何百万人もの人々が損失を被っていることを懸念しています。

それは携帯電話を選択することになるとほとんどの人は、AppleとGoogleが主要なプレーヤーであることを知っている。しかし、AppleとGoogleがすべてのルールを決めていることを忘れがちです。例えば、Appleのアプリストアで利用できるアプリを決めたり、携帯電話のブラウザを別のものに変更することを難しくしたりしています。このような支配は、技術革新や選択肢を制限し、価格の上昇につながる可能性があり、いずれもユーザーにとって良いニュースではありません。

いかなる介入も、OS、アプリストア、ブラウザーという重要な分野にわたって、企業の実質的な市場支配力に取り組む必要があります。そのためには、デジタル市場ユニット(DMU)が政府から権限を得たときに、デジタル市場部門を通じて行うのが最も良い方法だと考えています。

と述べています。

モバイルエコシステム

CMAは、アップルとグーグルがその市場パワーを活用して、ほぼ自己完結型のエコシステムを構築できていることを暫定的に明らかにした。その結果、他の企業が新しいシステムに参入し、有意義な競争をすることは極めて困難であると述べています。

アップルは自社以外のアプリストアを認めておらず、他のブラウザの機能を制限するルールも設けていること、Googleも、Androidプラットフォームをオープンソースで提供しているにもかかわらず、Android端末メーカーとの契約を通じて、同様の状況になっているようであること、さらに、アプリ開発者は、AppleとGoogleのアプリストアへのアクセスに関する規則を遵守しなければならず、この規則が過度に制限的であるとの指摘もあることが論じられています。開発者は、ユーザーにアクセスするためにこれらの条件を受け入れる必要があり、これにはAppleとGoogleに30%の手数料を支払うことも含まれます。

このあたりを具体的な事実についてみていく場合には、私のブログのアップル対エピック事件のブログ(「図解 アップル・エピックゲームズ事件判決の理論的?分析」)が参考になります。

これらの事実に対して、両社は、こうした規制の多くは、ユーザーに対するサービス全体のセキュリティと品質を維持するために必要であり、場合によってはユーザーの個人情報を保護するために必要であると主張しているわけです。これについては、上のブログでふれた判決の「ⅴ 主張された反競争的影響に関する事実(94頁以下)」A 反競争的効果 アプリケーション配布制限 .2 ビジネス上の正当化事由も参照ください。

CMAは、AppleとGoogleが、他のアプローチが可能であるにもかかわらず、これらの理由で自社のサービスに有利な決定を下し、有意義な選択を制限していることを懸念しています。

報告書は、これらの問題に対処するために、

  • ユーザーが端末を買い換える際に、機能やデータを失うことなく、iOSとAndroidの端末を簡単に切り替えられるようにすること。
  • いわゆる「ウェブアプリ」を含め、App StoreやPlayストア以外の方法によるアプリのインストールをより容易にすること。
  • すべてのアプリケーションが、AppleやGoogleの決済システムに縛られることなく、ゲームのクレジットやサブスクリプションなどのアプリ内での支払い方法をユーザーが選択できるようにすること。 ブラウザなどのサービスにおいて、AppleやGoogleに代わる選択肢をユーザーが容易に選べるようにすること、
  • 特にデフォルトで使用するブラウザをユーザーが簡単に設定できるようにすること。

様々なアクションを定めています。

戦略的市場地位

CMAのこれまでの取り組みから、アップルとグーグルは、デジタル市場のための新しい競争促進体制を構築するための政府の最近の提案に示されているように、彼らのエコシステム活動のいくつかについて「戦略的市場地位」(SMS)指定の基準を満たすことが示唆される。

ここでいう、政府の取組というのは、「デジタル市場のための新たな競争的レジーム」(A new pro-competition regime for digital markets)を指しています。このレジームの根拠となっている「オンラインプラットフォームとデジタル広告-市場研究最終報告」については、私のブログの「イギリス競争市場庁(CMA)「オンラインプラットフォームとデジタル広告-市場研究最終報告」(2020)」で検討しています。これらの提案は、協議プロセスやその後の立法プロセスの結果、変更される可能性があるため、継続的な見直しが必要となります。

これらの提案が法制化された場合、CMA内に設置されるDigital Markets Unit (DMU)が、最終的にどの「ビッグテック」企業を規制するか決定する責任を持つことになります。この場合、これらの企業が、強制力のある行動規範に従うことになります。

また、CMAの権限については、政府が、競争法および消費者法の権限強化を図る動きがあります。この点については、「CMAは、新たな権限についての政府の提案を歓迎する」というプレスリリースが出ています。これは、

この変更により、CMAは、企業を裁判所に提訴することなく、消費者法に違反していると宣言し、それに応じて罰金を課す権限を与えられることになります。

また、CMAの競争に関する権限を強化し、そのスピードと効果を高めることも提案されている。

これとは別に、CMAのDigital Markets Unitに予定されている権限には、最大のハイテク企業に対する強制力のある行動規範の作成が含まれている。

となります。これらについては、また、別の機会になります。

また、CMAは、競争に関する懸念から、アップルのApp StoreとグーグルのPrivacy Sandboxの提案について調査を行っていることが紹介されています。

App Store事件は、こちらです。

Privacy Sandboxの提案について調査は、こちらです。私のブログでは、「イギリス競争市場庁のプライバシーサンドボックスについての見方「グーグルの確約を受容するための意思通知(Notice of intention)」」「英国・競争市場庁のグーグル・プライバシー・サンドボックスの改善されたコミットメントの評価(2021年11月26日)」などで詳しく検討しています。

もっとも、このモバイルエコシステムに関するこの調査は、より広範なものであることがふれられています。

  •  CMAは、最初の調査結果についてコンサルティングを行っており、2022年2月7日までの回答を歓迎します。
  • CMAは今後も調査の後半を継続し、2022年6月に最終報告書を発行する予定です。

などがふれられています。

詳細については、モバイルエコシステムの市場調査ページをご覧ください。

主要データ

データ部分は、興味深いので、そのまま訳します。

  • 2020年に使用されているスマートフォンの半数以上がAppleのiPhoneで、残りはすべてAndroid OSのバージョンを使用している。
  • 2020年に英国で行われたモバイルアプリストアによるネイティブアプリのダウンロードのうち、95%以上がApp StoreまたはPlay Store経由であった。
  • 英国におけるモバイル端末でのブラウザ利用は、AppleとGoogleのブラウザが90%を占める。
  • Safariのシェアは50%近く、Chromeは40%程度。
  • 英国の成人インターネットユーザーは、2020年に1日平均3時間半以上インターネットを利用し、そのうち81%(ほぼ3時間)をスマートフォンまたはタブレットで利用しています。
  • グローバルで見ると、アップルは2020年に約500億ポンドの利益を上げ、最近の開示資料では、2021年には約820億ポンドに拡大した。
  • グーグルは2020年に約360億ポンドの利益を上げた。
  • 2020年において、アップルの収益の約80%はデバイス販売によるものであるのに対し、グーグルは収益の80%以上を広告から得ている。
  • モバイルのエコシステムに関連して、多くの民間訴訟が進行中である。Epic Gamesはアプリ内決済の義務化に関してGoogleを、Rachael Kent博士はAppleが一部のアプリで最大30%の手数料を徴収していることに関して訴訟を、Elizabeth CollはGoogleに対して同様の訴訟を起こしている。これらの主張によると、AppleとGoogleの規約は、ユーザーの負担を増やしているとのことです。

報告書の本体は、こちらです。

構成としては、エグゼクティブサマリーの他は

  1. モバイルエコシステムの概要
  2. モバイル機器及びOSの競争
  3. ネイティブアプリの配布の競争
  4. モバイルブラウザの競争
  5. アプリ開発者間の競争におけるアップルとグーグルの役割
  6. 潜在的な介入の概要
  7. 事実認定のデジタル市場に対する提案されている新たな競争志向レジームの適用
  8. 市場調査の参照事項
  9. 次のステップ

となっています。

また、付録として

  • 付録A: 関連する法的枠組み
  • 付録B: 範囲に関する声明に対する回答の概要
  • 付録C: 市場の成果
  • 付録D: アップルとグーグルのモバイルエコシステムの財務分析
  • 付録E: グーグルと端末メーカーおよびアプリ開発者の契約
  • 付録F:ブラウザエンジンの役割の理解
  • 付録G:モバイルブラウザのプリインストール、デフォルト設定、選択アーキテクチャ
  • 付録H:アップルとグーグルのアプリストアにおけるアプリ内課金ルール
  • 付録I:アップルのATTフレームワークの設計と競争への影響についての考察

が整理されています。さらに詳しく検討したいと思いますが、非常に価値が高いように思えます。

関連記事

  1. 英国におけるGDPR対応の状況-政府の対応
  2. NHK BS1 キャッチ 世界のトップニュース「新型コロナ感染防…
  3. 第一東京弁護士会 IT法部会シンポジウムの歴史
  4. IT法研究部会セミナー「デジタル証拠の現在と未来」
  5. 域外からの通信によるネットワーク上の犯罪と刑罰法規の適用について…
  6. ネットワーク中立性講義 その2 エンド・ツー・エンド原則と議論の…
  7. プラットフォーム/ネットワーク中立性/インターネット成分表/(軍…
  8. 「公然性ある通信」再訪-「電気通信サービスにおける情報流通ルール…
PAGE TOP