ブログ

グーグルのデジタル広告市場におけるハーム-オーストラリアのデジタル広告サービス調査

デジタル広告市場が複雑な市場であって、その全貌をつかみにくいこと、また、とくにプラットフォームによって競争が阻害されているのではないか、という懸念が提案されていることはいうまでもないことです。私のブログでもいくどとなくふれています。

日本においては、内閣官房デジタル市場競争本部から「デジタル広告市場の競争評価 最終報告」が(以下、広告市場最終報告という)公表されています。( https://www.kantei.go.jp/jp/singi/digitalmarket/kyosokaigi/dai5/siryou3s.pdf) また、公正取引委員会からは、「デジタル・プラットフォーム事業者の取引慣行等に関する実態調査(デジタル広告分野)について(最終報告)」が公表されています。 これらの報告書も、きわめて興味深い報告書でありますが、とくに、プライバシーサンドボックスをめぐる競争とデータ保護の緊張関係というのについては、いまひとつという感じかと思います。そのような問題意識から、ちょっと視線を変えて、オーストラリア競争・消費者委員会(ACCC)のデジタル広告サービス調査(Digital advertising services inquiry)を読んでみたいと考えています。全体のページは、こちらです。

オーストラリア競争・消費者委員会(ACCC)については、公正取引委員会がまとめています。

 

ステージ 日付
閣議指示 2020年2月10日
イシューペーパー  2020年3月10日
イシューペーパーへの提出物 2020年4月21日
中間報告書 2021年1月28日
中間報告書への提出 2021年2月26日
最終報告書 2021年9月28日

閣議指示(Competition and Consumer (Price Inquiry— Digital Advertising Services) Direction 2020)

この内容は、指示の6条

——-

6 調査において考慮すべき事項に関する指示

法第95J条(6)に基づき、委員会は、調査を行うにあたり、以下のすべての事項を考慮するよう指示される。

(a) デジタル広告技術サービス及びデジタル広告代理店サービスの供給に関する市場(これらの市場)における競争の激しさ及び市場の効率性、特に以下の事項を考慮すること。

(i)これらの市場における競争がデジタル・ディスプレイ広告サービスの供給市場における競争にどのように影響するか

(ii)広告主、出版社及びその他の市場参加者がこれらの市場における活動に関する情報を利用できるか

(iii) 第5条第2項にいうサービスの供給者のそれぞれの収益及び広告主のデジタル・ディスプレイ広告サービス支出に占める割合。

(iv)第5項(2)に言及するサービスの供給者間における市場における力の集中、

(v)デジタル・ディスプレイ広告サービスにおいて行われるオークション、入札プロセスおよびその他の類似のプロセス、

(vi)これらの市場における合併および買収、

(vii)これらの市場における供給者の行動、以下が含まれる。

(A) 提供するサービスの性質、特徴および品質、

(B) 消費者および企業に提供する価格設定およびその他の条件、

例 1: 提供するサービスの特徴には、異なるサプライヤーが使用または提供するシステムまたはソフトウェアの相互運用性が含まれる。

例2: その他の条件には、プライバシーやデータの収集・管理・開示に関する方針が含まれる。

(b) 5 項(2)に言及するサービスの市場における供給者と顧客の関係。既存の企業構造、又は契約上の取り決めが、市場における競争又は市場参加者による情報に基づく意思決定にどの程度マイナスの影響を与えるかを含む。

(c) 5 項(2)に言及するサービスが、すべての市場参加者が満足するように提供又は実行されているかどうか。


イシューペーパー

イシューペーパーは、序、調査の範囲、業界概観、調査の重要課題、付属文書からなりたっている。

検討課題 本調査では、以下の事項を検討する。

(a) アドテクノロジー・サービス及び広告代理店サービスの供給市場における競争の激しさ及び市場の効率性。

(i) 1社又は複数のサプライヤーへの市場支配力の集中、

(ii) 広告主、出版社及びその他の市場参加者に対する情報の利用可能性(価格の透明性を含む)、

(iii) デジタルディスプレイ広告の供給に用いられるオークション及び入札プロセス、

(iv) 合併及び買収がこれらの市場に及ぼす影響、

(v) サプライヤーの行動。

(b)アドテクノロジーサービス、広告代理店サービス、ディスプレイ広告サービスの市場における供給者と顧客の関係、

(c)アドテクノロジーサービス、広告代理店サービス、ディスプレイ広告サービスがすべての市場参加者の満足を得られるよう提供されているかどうか。

これに対して、コメントが寄せられており、公表されている。

また、中間報告書それへのコメントも公表されている。これらについては、時間の関係(?)で省略して、最終報告書を検討します。最終報告書のページは、こちらです。公表は、2021年9月28日です。本文で183頁、付録付です。

構成は、要約(Executive Summary)、追加(Supplement to executive summary)、推奨事項のリスト、シーンの設定、があり、本体になります。本体は、1 アドテックの導入、2 オーストラリアのアドテック産業、3 アドテックサービスの競争、4 グーグルの支配的地位と垂直的統合の効果、5 アドテックサービスの透明性、6 広告代理店サービスの構成になります。

1 アドテックの導入

具体的な内容としては、1.1 オーストラリアのデジタル広告(定義、その仕組み)、1.2アド・テックのサプライチェーン(概観、主たる市場参加者、プログラムによるアドテック取引)、1.3 アドテックにおける消費者データ(ターゲッティングの価値、パーソナル化されたターゲッティングのデータソース、消費者のプロファイルを構築するデータの利用、消費者へのインパクト)が分析されています。

デジタル広告の仕組みについては、以下の図が示されています(1.1.2)。

 

 

 

 

 

 

 

 

検索連動型、特定の分類型、ディスプレイ広告があり、そのうちで、ディスプレイ広告がオープンディスプレイとクローズド・チャンネルにわかることが示されています。さらに、オープンディスプレイは、プログラム型と直接取引型に分かれます。プログラム型はさらにオープンオークション型、プログラム保証型、プライベートマーケットプレイスに分かれます。

キーポイントとして、

  • デジタル広告には、検索広告、クラシファイド広告、ディスプレイ広告の3種類があります。今回の調査では、検索広告やクラシファイド広告以外のすべてのオンライン広告であるデジタルディスプレイ広告を配信するための広告技術、すなわちアドテクノロジーの利用に焦点を当てます。消費者は、スマートフォンやタブレットなどのモバイル端末、デスクトップやノートパソコンなど、オンラインでウェブサイトやアプリを閲覧する際に、ほぼ毎回ディスプレイ広告を目にします。
  • アドテクノロジーは、消費者をターゲットとした広告の自動的な売買と表示を促進する重要な役割を担っています。
  • アドテクノロジーのサプライチェーンは、アドサーバー、デマンドサイドプラットフォーム、サプライサイドプラットフォームなど、広告主やパブリッシャーにサービスを提供する一連のプロバイダーで構成されています。これらのサービスが相互に作用してディスプレイ広告を取引する方法は複雑で、個々の消費者に表示される広告を決定するために多くのオークションが関与している可能性があります。消費者データは、ディスプレイ広告の重要な機能である広告のターゲティングを可能にするため、アドテク・プロバイダーにとって重要です。
  • ターゲティング広告は、パブリッシャーと広告主の双方に利益をもたらします。より良いターゲティングによって、広告主は広告投資に対してより高いリターンを得ることができ、パブリッシャーは広告在庫の販売からより多くの収入を得ることができる可能性があります。それはまた、いくつかの消費者の利点を持つことができます。例えば、パブリッシャーが消費者にオンラインコンテンツを無料または低コストで提供できるようになる可能性があります。また、消費者は自分の興味に合った商品やサービスの広告を目にすることができるようになります。
  • しかし、消費者データに依存したターゲティング広告が消費者に不利益をもたらすリスクもある。アルコール広告やギャンブル広告のターゲティングは、弱い立場の消費者を利用し、被害をもたらす可能性のあるターゲティングの典型的な例である。
  •  我々は、このような消費者被害に対処するために役立つ、デジタルプラットフォーム調査最終報告書からの以下のような提言を引き続き支持します。
    • オーストラリア消費者法を改正し、特定の不正取引行為の禁止を導入する。これにより、ACCCは、アドテクプロバイダ、広告主、出版社、デジタルプラットフォームが、消費者に大きな損害を与える可能性があるがACLの既存の規定では把握されていない方法でデータを収集または使用することを阻止するための戦略的執行措置を実施することができるようになる。
    • これにより、ACCCは、アドテク・プロバイダ、広告主、出版社、デジタル・プラットフォームが、消費者に大きな損害を与える可能性がありながらACLの既存の規定では捉えられないような方法でデータを収集・使用することを阻止するための戦略的な執行措置を取ることができるようになります。

があげられています。

2 オーストラリアのアドテック産業

オーストラリアのアドテック産業のサイズ(2.1)は、確実な成長をしていること、オープンディスプレイが重要であること、を論じており、デジタル広告のトレンド(2.2)では、モバイル広告やビデオ広告を利用するようになっていること、価格のトレンド(2.3)では、アドテックは、広告者の支出のなかで重要な役割を果たしていること、数年価格は安定していること、などが論じられています。

それぞれの分野の取引規模の図は、こんな感じになります(2.2)。

 

 

 

 

 

 

 

キーポイントは

  • オーストラリアにおけるデジタル広告の重要性はますます高まっており、近年、オーストラリアにおけるデジタル広告の支出額は大幅に増加しています。IABの推計によると、2008年から2020年の間に、デジタル広告への支出は4倍に増え、17億ドルから95億ドルへ成長しました。2020年のオーストラリアのデジタル広告費総額のうち、ディスプレイ広告が占める割合は約40%。
  • 今回の調査の対象となるオーストラリアでは、2020年に28億ドルがオープンディスプレイ広告に費やされたと推測しています。これはディスプレイ広告全体の約43%に相当し、残りはクローズドチャネルに費やされている。オープンディスプレイ広告のうち、プログラマティック広告については、2020年にオーストラリアで約17億ドルが費やされたと推測される。
  • モバイルデバイスのディスプレイ広告は、広告主が消費者にリーチするための重要な手段となっています。これは、消費者によるスマートフォンの利用が拡大していることを反映しています。2020年のオーストラリアでは、ディスプレイ広告費の約66%がモバイルデバイスに表示される広告に費やされる。また、モバイルアプリは、アドテクノロジーのサプライチェーンにおける広告在庫の重要な供給源となっています。2020年にオーストラリアでプログラム販売されたディスプレイ広告の広告主支出のうち、モバイルアプリ経由で配信される広告が44%を占めると試算している。
  • オーストラリアではディスプレイ広告に占める動画広告の割合が大きい。IABは、2020年の動画ディスプレイ広告への支出は19億ドルに上ると推定している。また、動画ディスプレイ広告は近年大きく伸びており、2017年のオーストラリアにおけるプログラム広告費の18%から、2020年には39%となっています。
  • 動画ディスプレイ広告に置かれた価値は、他のディスプレイ広告との相対的な価格を見てみることでもわかる。ディスプレイ広告の価格は、ブラウザやモバイルアプリで配信されるディスプレイ広告よりも、コネクテッドTVの方がはるかに高いと推測される。
  • アドテク事業者は、広告主が支出した金額のうち、かなりの割合を保持している。2020年のオーストラリアでは、主要な4つのアドテクサービスに対する手数料は、平均して、プログラム広告に対する広告主の支出の約27%に相当すると試算している。この手数料水準は、アドテクサービスの供給がより競争的であった場合よりも高く、Googleが広告主やパブリッシャーとの取引で行使できる市場力を反映していると考えられる。
  • 過去4年間、アドテクノロジーサービスの料金は、比較的安定しているか、わずかに下落している。プログラマティック広告については、DSPサービス、および広告主・媒体向けアドサーバーサービスの平均料金は、2017年から2020年にかけてほとんど変化していないことが確認されました。SSPサービスの平均料金は、同期間に20%、減少しました。これらは全広告在庫の平均的な価格と料金であるため、これらの時系列的な傾向を後押ししている要因はいくつかあると考えられます。例えば、手数料の変化は、アドテクプロバイダーが請求する手数料の変化だけでなく、広告主やパブリッシャーが利用する広告在庫や取引形態の根本的な変化を表している可能性があります。

とされています。

3 アドテックサービスの競争

この章では、広告サプライチェーンの概観(3.1)では、オーストラリアの提供者が一覧されています(3.1.1)。この表は、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そのなかでグーグルが、メインの存在を示していることかのべられています(3.1.2)。サービスのアイコンを並べるとこんな感じです。

 

競争に与える影響についての概観がなされています(3.1.3)。パブリッシャーの広告サーバーサービス(3.2)においては、グーグルが90%以上のシェアを有していること(3.2.1)、使いやすさと供給サイドサーバーとの統合が、このシェアの理由であることが述べられています(3.2.2)。パブリッシャーは、マルチホームではなく、スイッチコストが高いことが指摘されています。供給サービス提供者の競争(3.3)においては、グーグル・アド・エクスチェンジが70-80%のシェアをしめていること、グーグルアドのほとんど排他的なアクセスや統合状況などがこの原因であるとされています(3.3.2)。広告者と広告サーバーサービスの競争(3.4)においては、グーグルのアド・テック・スイートに引き込まれることなどが分析されています(3.4.2)。DSP (需要側プラットフォーム、広告出稿者側)の競争(3.5)でも、同様の分析がされています。

サプライチェーンの競争に影響を与えている要素(3.6)としては、直接の交渉が、リソース、余剰在庫、の問題から困難であり、むしろ、プログラムによる在庫取引のほうが、合理的であることがあげられています。また、参入障壁が高いこともあげられています。また、ユーチューブやダブルクリックの買収が、グーグルの地位を確固としているとされます。

グーグルのデータアドバンテージに対するステップ(3.8)では、データポータビリティの向上と相互流用性の向上、データセパレーションのメカニズムが推奨されています。

また、とくに、同報告書の84頁以降は、ファーストパーティデータの価値の重要性を説明するとともに、プライバシーサンドボックスの導入によってファーストパーティデータの重要性がさらに増していくことが指摘されています。

とくに興味深いのは、Box3.5で、グーグルの内部文書で、サードパーティクッキーのフェーズアウトによってファーストパーティデータの重要性がますことを指摘していることです。この部分の記述はこんな感じです。

グーグルの内部文書は、ブラウザ上でサードパーティ・クッキーが段階的に廃止されるにつれて、ファーストパーティデータが持つ重要性が増すことを強調している:

。グーグルの内部文書には次の記述がある:「データ&インサイトのための腕くらべ」。 データ(特に1p-ファーストパーティ趣旨と思われます)主導の洞察は、競争力のあるビジネス優位性の源と見なされるようになる。

2020年のGoogleの内部文書にも、次のような記述がある。

-プライバシーへの期待が高まり、サードパーティCookieの使用がますます制限される中、プライバシーを重視するマーケッターやパブリッシャーにとって、予測型マーケティングの新時代を形成し、1stパーティデータを倍増させ、機械学習、自動化、文脈的広告でその努力を強化する機会が豊富になる。

-1stパーティデータに焦点を当てることで、マーケッターはユーザー体験をコントロールし、正確な検証可能な情報に依存し、データの方法に関してユーザーの選択を尊重することができます。

これらの分析のキーポイントは、以下のとおりです。

  • Googleは、アドテクノロジーのサプライチェーン全体にわたってサービスを提供する圧倒的な存在です。他のプロバイダーは、どのアドテクサービスにおいても同等の規模を持ち、サプライチェーン全体にわたってリーチしているわけではありません。
  • 各アドテクサービスの供給における競争の程度は様々であるが、オーストラリアにおけるアドテクサービスの供給はGoogleが独占している。2020年にアドテクノロジーのサプライチェーンを通じて取引される全広告インプレッションの90%以上が、少なくとも1つのGoogleのサービスを経由していると推測されます。
  • パブリッシャー向けアドサーバーサービスに関しては、インプレッションの90~100%のシェアをGoogleが占めていると推定される。Googleはこれらのサービスの支配的なプロバイダーであり、高いスイッチングコスト、シングルホーミングの普及、および同社のサプライサイドプラットフォーム(SSP)との優れた統合により、弱い競争制約に直面しています。
  • SSPとの関係では、Googleはこれらのサービスの最大のプロバイダーであり、収益の40〜50%、インプレッションの70〜80%のシェアを占めると推定される。Googleの強力な地位は、Google Ads(Googleの2つの需要側プラットフォームの1つ)の需要へのほぼ独占的なアクセスと、Googleの他のアドテクサービスとの垂直統合によって支えられています。
  • 広告主向けアドサーバーサービスについては、インプレッション数で80~90%のシェアを獲得していると推定される。Googleの優位性は、Googleの他のアドテクノロジー・サービスとの統合、およびシングルホーミングの普及と高いスイッチングコストに支えられています。
  • DSP(デマンドサイドプラットフォーム)に関しては、Googleが最大手であり、売上シェアは60〜70%、インプレッションシェアは80〜90%と推定される。DSPにおけるグーグルの地位は、データの優位性、グーグルのサービス間の統合、独占在庫へのアクセスに支えられている。特に、Googleはファーストおよびサードパーティーのデータを幅広く利用できるため、DSPサービスの供給において優位性を持っている。このデータにより、競合他社よりも焦点を絞ったターゲティングとアトリビューションサービスを提供することができると思われる。
  • Googleは、第三者在庫の販売のためのアドテクサービスを提供する際に、個々のユーザーについて保有するファーストパーティデータを「極めて限定的に」使用するとしている。このことは、Googleのアドテク事業者が、例えば消費者のGoogle検索やYouTubeの利用から得られるデータから利益を得たり、このデータをGoogleのDSPの広告ターゲティング能力を向上させるために利用したりしないことを示唆するものであろう。しかし、アドテク業界では、GoogleがファーストパーティデータをGoogleの主張よりも広範囲に使用しているという認識がある。ACCCは、Googleがこの認識から利益を得ていると考えている。
  • 現在、Googleがファーストパーティデータを第三者のウェブサイトの広告ターゲティングに広範囲に利用していないとしても、将来、Googleがファーストパーティデータをより広範囲に利用する可能性があるという現実的なリスクがある。この理由はいかのとおりである。
    •  Googleがファーストパーティデータを使用して第三者のウェブサイト上でアドテクサービスを提供することを妨げるものは何もない。実際、Googleのプライバシーポリシーは、Googleがこれを行う可能性を示唆しており、そのために消費者の同意を求める必要はないだろう。
    • このようなデータを使用することで、ライバルに対して大きなアドバンテージを得ることができる。
    • ファーストパーティデータの価値は、サードパーティーのクッキーが段階的に廃止されるにつれて、今後ますます高まっていくと思われる。
  • Googleがその広範なファーストパーティデータを活用してアドテクサービスを有利に進め、その地位を強固にすることを防ぐため、また、Googleが現在どのようにファーストパーティデータを利用しているかについての業界内の混乱に対処するため、我々は以下を提言する。
  •  提言1:Googleは、Googleがアドテクサービスを提供するためにファーストパーティデータをどのように利用しているかを明確に説明するよう、公開資料を修正すべきである。
  •  提言3:提言2の分野別規則を導入する権限により、ACCCはアドテクプロバイダーのデータの優位性によって引き起こされる競争問題に対処できるようにすべきである。現段階では、ACCCはこれらの提言がGoogleに適用されると考えている。しかし、将来、他のアドテクプロバイダーとの関係でこうした懸念が生じた場合、同等の措置がそうしたプロバイダーに適用されるべきだろう。

4 グーグルの支配的地位と垂直的統合の効果

この章は、アドテクノロジーのサプライチェーンにおけるグーグルの垂直統合、市場支配力、そして、いかにGoogleにアドテクノロジーサービスの競争を減退させる行為を許してきたかを論じています。この構成は、第1部では、第3章の結論に基づき、アドテクサービスの供給におけるグーグルの支配的地位とその垂直統合から生じる利益と懸念について議論している。第2部では、自己優遇やレバレッジ行為など、アドテクノロジーのサプライチェーン全体における垂直統合と強力な地位によって可能になったグーグルが長期にわたって行ってきた特定の行動と、それが競争に及ぼした影響について検証している。第3部では、アドテクサービスにおけるグーグルの地位と行為に関するこれらの懸念に対処するために、グーグルに適用すべき規則を提言しています。

第1部

グーグルが垂直統合されており、アドテックサービスにおけるもっとも大きなプロバイダーであること(4.1)においては、

グーグルは垂直統合型のアドテク・プロバイダーであり、関連する多くの主要な消費者向けサービスも手掛けています。Googleは、アドテクノロジーサービス(広告主アドサーバー、2つの需要側プラットフォーム(DSP)、供給側プラットフォーム(SSP)、2つの広告ネットワーク、広告主アドサーバー)を提供し、Webブラウザ(Google Chrome)を運営し、複数のプロパティ(例えば、YouTubeやGmail)でパブリッシャーとなっています。

としています。そして、それが効率化とメリットを生んでいること(4.1.1)にふれるとともに、利益相反する畏れについてふれています(4.2)。利益相反の可能性については、

  • 第一に、垂直統合型のアドテク事業者は、その関連事業の利益と顧客の利益との間で利益相反に直面する可能性があることである。例えば、プロバイダーがパブリッシャーアドサーバーとSSPの両方を運営している場合、プロバイダーは、自らの利益最大化の利益とパブリッシャー顧客の利益最大化の利益が相反する場合、利益相反に直面する可能性がある。これは、アドテクプロバイダーがパブリッシャーのインベントリーを自社のSSPで販売した方が収益が高く、パブリッシャー顧客はそのインベントリーをライバルのSSPで販売した方が高い収益を得られるというシナリオで発生する。
  • 第二に、垂直統合されたアドテク・プロバイダーは、異なる顧客グループの利害の対立に直面する可能性もある。アドテク事業者が広告主とパブリッシャーの両方にサービスを提供する場合、広告主とパブリッシャーの利益が相反し、両者の利益のために事業者が行動することが困難になる可能性がある。例えば、アドテク・プロバイダーがDSPとSSPの両方のサービスを提供している場合、DSPに広告在庫をできるだけ低価格で購入することを望む広告主の顧客と、SSPに広告在庫をできるだけ高値で販売することを望む出版社の顧客の利益のために行動するという対立が発生します。

としています。そして、4.2.2では、具体的な利益相反を特定しています。具体的には、

利益相反が引き起こした問題の例としては、以下のようなものがある。

  • グーグルは、パブリッシャー広告サーバーを使用して、パブリッシャー顧客の利益よりも自社のSSPの利益を優先する(例えば、4.6節で説明する「ラストルック」の利点や、4.8.4節で説明する統一価格ルールを通じて)。このため、パブリッシャーは、グーグルがライバルのSSPよりも自社のSSPを優遇していない場合に得られる収益よりも低い収益を得ることになる可能性がある。
  • グーグルは、自社のDSPを通じた広告主の支出を増やすために、YouTubeなどの自社のパブリッシャープロパティにアクセスするために自社のDSPを使用するよう広告主に要求する(4.5節で説明)。これにより、広告主が使用するDSPを自由に選択する能力が制限され、広告主がより高い価格を支払ったり、低品質の広告在庫を購入したりする可能性があります。
  • Googleは、DSPからの需要をSSPに独占的に送るため、広告主やパブリッシャーの顧客の利益と相反する可能性がある(4.6節で説明)。このため、広告主はニーズに合わない広告在庫を購入したり、パブリッシャーが使用するSSPを自由に選択する能力が制限されたりする可能性があります。

また、Google がそのサービス間で入札とオークションの情報を共有する能力について、業界では大きな懸念があることに留意されたい。ここで、グーグルは、広告主やパブリッシャーの顧客のどちらにも最善の利益をもたらすように行動していない可能性があります。広告主とパブリッシャー双方の利益を守るオープンなオークションを運営するのではなく、グーグルは自社の利益を最大化するためにサービス間で情報を共有している可能性があるのです。

とされています。

また、懸念として、レバレッジと自己優遇のリスクを指摘しています(4.3)。

ここで、卓越した能力等で、支配的地位を有する場合については、違法ではないこと、その一方で、競争過程を傷つけることが違法になることがふれられます。

市場支配力のある企業が、ライバル企業や潜在的なライバル企業が実力で競争することを妨げたり、抑止したりすることによって、競争過程に損害を与えることは違法とされています。垂直統合型プロバイダーによるレバレッジ行為は、場合によっては、2010年競争・消費者法(CCA)に抵触する可能性があります。後述の4.10.2節で述べるように、ACCCは、本章で取り上げた特定の行為がCCAに違反している可能性があるかどうかを検討しているところである。Googleは、アドテクノロジーのサプライチェーン全体において主要なサプライヤーであり、主要なアドテクノロジーサービスのすべてにおいて支配的または強力であるため、他の垂直統合型の事業者と比較して異なる立場にあると考えられます。アドテクノロジーサービス及び関連市場において広範に存在し、そのサービスの一部が「必須」であることから、特別な立場にあり、自己優遇行為を行った場合、アドテクノロジーサービスに対する競争に著しい影響を与える可能性があると考えられます。

第2部 Googleのこれまでの行為がアドテクサービスに与えた影響

このパートでは、レバレッジ、自己紹介、利益相反の懸念に関連するGoogleの行為についての考察がなされています。後述のキーポイントでまとめられていますが、具体的には、以下の行為が懸念点としてあげられています。詳細は、また別個の機会にみたいと思います。

特に、Googleは、YouTubeの在庫の購入を自社のDSPに制限したこと(4.4)

広告主がアドテクノロジーのサプライチェーンを通じてYouTubeの在庫を購入できるのは、Google独自のDSP(Google AdsまたはDisplay & Video 360)経由のみであること、YouTubeの在庫は以前はサードパーティのDSPでも購入可能でしたが、Googleは2015年末にこのアクセスを削除しました。それ以来、アドテクノロジーのサプライチェーンを通じてYouTubeの在庫を購入したい広告主は、GoogleのDSPを利用する以外の選択肢はありません。

自社のDSP(特にGoogle Ads)からの需要を自社のSSPに誘導したこと(4.5)

ここでは、GoogleのDSP(Google AdsとGoogle Display & Video 360)が、自社サービスからの需要をGoogleのSSPにチャネリングして、ライバルのSSPがGoogleのSSPと競争する能力を制限しているかどうかを検証されています。「 Channelling demand」とは、GoogleのDSPからGoogleのSSPに不釣り合いな量の高額入札を誘導するような方法でGoogleのアドテクサービスを設計する意図的な決定を指します。この需要は、Google以外のSSPも利用できる場合がありますが、限られた状況においてのみです(例えば、「リターゲティング」の目的のため)。グーグルのDSPから非グーグルSSPに送られる入札は、価値が低く、したがって落札される可能性も、パブリッシャーに多くの収益をもたらす可能性も低いかもしれない。 これは特に、パブリッシャーが「必須」の広告主需要を提供すると考えているGoogle Adsの場合に当てはまると考えています。一方、GoogleのSSPを使用する場合、ディスプレイとビデオ360の需要にアクセスすることは容易ですが、これがチャネリングに該当するかどうかはあまり明らかではありません。

自社のSSPを優先するためにパブリッシャー広告サーバーを長期的に使用したこと(4.6)

Googleが、自らのSSPを優先していると考えているのは、以下の事項です

  • 2000年代後半に導入したDynamic Allocationと2014年のこのシステムの変更を通じて
  • Googleが2015年に業界で開発されたヘッダー入札に参加することを拒否したこと。

オーストラリアにおける市場シェアに関するデータは、Google による DoubleClick の買収直後には入手できないが、他の情報源によれば、買収後、Google のパブリッシャー広告サーバーのリーディングポジションは維持され、そのシェアは拡大している。2020年のオーストラリアにおけるGoogleのパブリッシャー広告サーバーのインプレッションシェアは90~100%と推定され、Googleはパブリッシャー広告サーバーで強いという立場を利用して、SSPを優遇できた可能性が高いと考える。

自社のSSPと第三者の広告サーバーの連携方法を制限したこと(4.7)

2019年、Googleのパブリッシャー広告サーバーは、すべてのデマンドソース(GoogleのSSPを含む)が同時に広告インプレッションを入札するUnified Auctionの運用を開始しました。これにより、Googleのパブリッシャー広告サーバーにおいて、GoogleのSSPが「ラストルック」の優位性を持たなくなった。 しかし、ヘッダー入札に参加しないというGoogleの継続的な決定は、おそらくライバルからの競争圧力から同社のパブリッシャー広告サーバーを保護します。なぜなら、パブリッシャーがGoogleのパブリッシャー広告サーバーを利用しない限り、GoogleのSSPからの需要に効果的にアクセスすることは非常に難しいからである。

自社のパブリッシャー広告サーバーにおけるオークションルールをコントロールして自社の他のサービスを有利にすること、

GoogleのSSPがGoogle Adsの需要に独自にアクセスできることと、GoogleのSSPとパブリッシャー広告サーバーが結びついていることから、パブリッシャーの間ではGoogleのパブリッシャー広告サーバーが「必須」と考えられています。第3章で述べたように、Googleはパブリッシャー広告サーバーの供給において圧倒的な地位を占めており、2020年にはインプレッションの90~100%のシェアを占めると推定されています。Googleのパブリッシャー広告サーバーサービスにおける優位性は、Googleがパブリッシャー広告サーバー上で運営するユニファイドオークションにおける広告インプレッションの販売方法を決定するオークションルールを大きく支配することになります。

Chromeブラウザを提供しているという地位を利用して自社アドテクノロジーサービスを優先できるような計画を発表していること(4.9)

これは、Googleがウェブブラウザの供給における地位を利用して、自社のアドテクサービスを有利にすることができることを懸念しています。これは、同社のChromeブラウザでサードパーティークッキーのサポートを削除し、2023年後半にプライバシーサンドボックスの提案に置き換えるという現在の計画によって示されています。

ここでは、計画の概要を説明した後(4.9.1)、具体的な競争に対する懸念を検討しています(4.9.2)。

グーグルの主張は「Googleは、Privacy Sandboxの提案の展開後、同社のアドテク製品が競合他社に対して優位に立つことはない」というものです。これは,

  • Googleはサードパーティーのクッキーによって収集されたデータへのアクセスも失い、クロストラッキングのためにサードパーティーのクッキーに代わる識別子を開発しない、または製品に使用しないことであるという。
  • 第三者のディスプレイ・インベントリで広告をターゲティングする際に、グーグルが個々の消費者からのファーストパーティデータを使用することは、すでに「極めて限定的」であり、グーグルは消費者向けサービスから第三者クッキーを削除した後は、個人レベルのユーザーデータを使用しない。 プライバシー・サンドボックス提案が実施されてからのグーグルのデータ使用と、これに対処するために必要な措置は第3章において議論する。
  • プライバシー・サンドボックス提案はそれぞれ、大規模な議論やテスト期間を含め、厳格で多段階にわたる公的開発過程を通過している。

ということを理由としています。

これに対してACCCは、

ACCCに提出された提出物や情報からは、この提案に対する強い懸念が示されています。 競合のアドテク・プロバイダーへの影響に関する上記の懸念に加え、多くの参加者が、この提案の下では、Googleが自ら競争上の優位性を獲得する可能性があると述べています。

  • Googleは、FLoCオーディエンスを操作・利用し、自社のアドテクノロジーサービスや在庫に利益をもたらすことができる。
  • Googleは、Google Analyticsを使用しているGoogle以外のウェブサイトからデータを収集するために、ファーストパーティークッキーを使用し続けることができる。

また、中間報告書への投稿では、Googleが開発プロセスにおいてどの程度の透明性を提供しているか、また、Googleがプライバシーサンドボックス提案を展開する前に市場のコンセンサスを完全に確保するのかどうかが疑問視されています。ある関係者は、グーグルはFLoCのコホートをどのように生成するかについて何の情報も提供しておらず、FLEDGE提案のトラステッド・サーバーの要素がどのように運用されるかについて透明性が確保されていないと指摘している。さらに、Daily Mail Australia は、Google の Accelerated Mobile Pages フォーマットの実装に関する経験から、Google が提案の導入前に完全な市場コンセンサスを確保する可能性は低いと考えている。

さらに、あるアドテクプロバイダは、哲学的には W3C は技術企業が共同で提案を行うオープンフォーラムだが、Google の Privacy Sandbox 提案についてはそうでない、と述べている。 Chromeのサードパーティークッキーを置き換える他の提案がなされ、これらのフォーラムで議論されていますが、有意義な談話の大部分はGoogleの提案に基づいており、業界はフォーラムを利用してGoogleからその仕組みについて答えを得ようとしています。最後に、別の利害関係者は、グーグルは、代替システムがどのように機能するか、また、プライバシーサンドボックスの下でどのようなデータへのアクセスを持つかについて、正確にはまだあまり詳細を提供していないと提議しています。

重要なことに、我々は、プライバシー・サンドボックスに関するCMAの最近の調査結果を考慮した提案の影響についても懸念しています。2021 年 1 月 7 日、CMA は、プライバシー・サンドボックスの提案に起因するグーグルによる競 争法違反の疑いについて調査を開始した。2021 年 6 月 11 日、CMA は、調査の結果、提案に多くの懸念があると発表した。特に、CMA は、十分な規制上の精査と監視がなければ、

  • プライバシー・サンドボックスの提案は Google の広告製品・サービスおよび所有・運営する広告在庫のセルフ・プリフェレンスによる競争の歪み。
  • Chrome ウェブユーザーの個人データをターゲティングおよび広告配信の目的で使用するかどうか、また使用する方法について実質的な選択肢を否定し、Google がその明白な支配的地位を利用することを可能にする。

Googleは、これらの懸念に対処するためにCMAにいくつかの約束を申し出ており、CMAは、協議プロセスを経て、これを受け入れる意向である。プライバシー・サンドボックスの提案はまだ発展途上であり、その結果、プライバシー・サンドボックスの提案がもたらすリスクを判断することは困難であり、データ分離またはデータアクセス体制を導入する権限(第3章で説明)、アドテクサービスにおけるグーグルの自己言及行動や利益相反を管理できる義務や禁止など、勧告2で提案するセクター固有のルール(後述)の重要性をさらに強調しています。この提案がアドテクサプライチェーンに与える影響。しかし、我々は、プライバシー・サンドボックスの提案がもたらす重大なリスクは、勧告2(後述)で提案されたセクター固有の規則の重要性(データ分離やデータアクセスレジーム(第3章で説明するように)を導入する権限を含む)Googleの自己言及行動とアドテクサービスにおける利益相反を管理する含む義務や禁止をさらに強調する

としています。

第3部 ACCCは、アドテクサービスにおける支配力と垂直統合の影響に対処するため、グーグルに適用する規則を推奨

ACCCは、上記の検討のもと、Googleによるアドテクサービスの提供は、事前規制または先行規制の対象とすべきであると提言しています。

この規制ルールには、Googleの利益相反を管理する義務、サービスの反競争的なバンドルや抱き合わせの禁止、ライバルがGoogleのサービスに無差別にアクセスすることでそれぞれのメリットで競争できるようにすること、透明性の懸念に対処することが含まれるべきとします。

提言2:ACCCは、アドテクノロジーのサプライチェーンにおける利益相反と競争問題に対処するため、セクター固有のルールを策定する権限を与えられるべきである。このルールは、マーケットパワーと/戦略的地位に関連した一定の基準を満たしたアドテク・プロバイダーに適用される

ACCCは、アドテク・サービスの供給において現在生じている競争問題に対処するために、セクター特有のルールを策定する権限を与えられるべきである。この規則は、広告技術のサプライチェーンにおける市場パワーと/戦略的地位に関連した一定の基準を満たした広告技術プロバイダーに適用されるべきである。ACCCは、利益相反の管理、反競争的な自己紹介の防止、特定のサービスへの非差別的アクセスによってライバルが実力で競争できるようにし、透明性の懸念に対処するためのルールを策定する権限を有するべきである。

ルールは、

  • 業界と協議の上、策定されること、
  • 競争問題や利益相反の問題に対処することを目的としていること、
  • ACCCによって強制力を持ち、違反した場合に罰則があること。

どのアドテク・プロバイダーにルールが適用されるかを決定するための正確な基準は、策定される必要がある。現在、アドテクノロジーのサプライチェーンにおけるグーグルの優位性と垂直統合に起因する懸念があることから、ACCCはこのルールがグーグルに適用されることを期待している。しかし、将来的には、他のアドテク・プロバイダーについても、基準を満たせば、規則を適用することが可能であるはずである。

この推奨の特徴は、現行の執行規定が不十分であるという認識に基づいていいます。不十分としているのは、

  • 第一に、競争調査は結論が出るまで何年もかかり、被害が発生してから調査結果や救済措置が出される。つまり、調査が終了する頃には、デジタルプラットフォームの行動や立場がさらに定着し、重要なものとなり、競争プロセスに重大な損害を与えている可能性があります。これは、市場の動きが速く、ダイナミックで、競争法の執行にかなりの時間がかかると予想されるアドテクノロジーにおいて、特に懸念されることである。これに対して、ある種の行為を禁止し、義務を課し、調査や暫定措置の権限を含む新しい分野別規則は、重大な被害が発生する前に、問題のある行為をより迅速に対処することを可能にするものである。
  • 第二に、強制調査の性質上、競争法(CCA) の非常に具体的な違反に焦点を当てた捜査が必要である。つまり、強制調査では、支配的な企業が行うことのできる幅広い問題行為に効率的に対処することができない。 さらに、競争法もまた、特定の条項の範囲内に収まる害悪にしか対処することができない。これとは対照的に、新しい分野別規則は、既存の競争法の規定に当てはまらないかもしれないが、それでも市場に重大な悪影響を及ぼす懸念に対処することができるだろう。例えば、本章で議論した利益相反は、必ずしも既存の競争法に抵触するような形で発生するとは限らない。それでも、このような利益相反は、例えば、アドテクノロジーサービスの非効率的な価格設定を通じて、出版社や広告主にとって不適切な市場結果をもたらす可能性があります。
  • 最後に、アドテクサービスにおいて確認された問題の根本的な原因を解決する救済措置や、非常に大規模なグローバルデジタルプラットフォームが将来同様の行為を行うことを抑止するのに十分な罰則を得るために強制措置を用いることは困難であると思われます。

なお、この4.10.4において、アドテック規制についての世界的な動向との協調という観点から、英国、欧州連合、ドイツとともに日本の例が上がっているのは、興味深いです。

また、ルールの特徴は

  • 反競争的なサービスのバンドルや抱き合わせの禁止
  • アドテクサービスへの非差別的または同等のアクセスを提供する義務
  • 利益相反の管理要件
  • 透明性の要件。

があげられており、策定される規則は、本報告書で指摘された競争問題や利益相反に対処するために、効果的かつ適切である必要があるとされている。

この章のキーポイントは、

  • 第3章で述べたように、Googleはオーストラリアにおけるアドテクノロジーのサプライチェーンの重要な部分を独占的に提供しており、他のアドテクノロジーサービスや関連市場でも強いポジションを占めている。垂直統合型のアドテクプロバイダーであることに加え、Googleは広告を資金源とする消費者向けの主要サービスも多数運営している。
  • グーグルの垂直統合は、効率化につながり、広告主やパブリッシャーに利益をもたらす一方で、利益相反を生じさせ、競争の大きな懸念につながっている。
  • グーグルの垂直統合は、一つの取引において、グーグルが取引の両側(買い手/広告主、売り手/出版社)の代理を務め、この両者をつなぐ広告取引所(SSP)を運営できることを意味する。また、自社の在庫の売り手となることもできる。 Googleの利益相反は、アドテク市場における競争の問題を引き起こし、あるいは広告主やパブリッシャーに悪い結果をもたらすことになった。
  • 我々は、アドテクノロジーサービスの供給における競争と透明性のレベルが、Googleが顧客の利益に反する行為を行うことを防ぐのに十分であるとは考えていない。また、Googleが特定のアドテクノロジーサービスや特定の広告在庫の供給における強みを、関連するアドテクノロジーサービスに活用することができたことを懸念している。Googleが、第三者のアドテクサービスを犠牲にして、自社の関連サービスを優遇している例(セルフ・プリフェレンシング)が多く見られます。特に、Googleの以下の行為を懸念しています。
    • 特に、Googleは、YouTubeの在庫の購入を自社のDSPに制限したこと、
    • 自社のDSP(特にGoogle Ads)からの需要を自社のSSPに誘導したこと、
    • 自社のSSPを優先するためにパブリッシャー広告サーバーを長期的に使用したこと、
    • 自社のSSPと第三者の広告サーバーの連携方法を制限したこと、
    • 自社のパブリッシャー広告サーバーにおけるオークションルールをコントロールして自社の他のサービスを有利にすること、
    • Chromeブラウザを提供しているという地位を利用して自社アドテクノロジーサービスを優先できるような計画を発表していること、
  • 自己言及のすべてのケースが反競争的な効果を持つわけではなく、場合によっては効率性を高めることができるかもしれません。しかし、ライバルの競争力を阻害・制限するようなセルフプレファレンシングは、グーグルのような支配的地位を有する企業が行う場合には、重大な懸念材料となる。
  • ACCCは、上記の例のいずれかが競争上どの程度の影響を及ぼすかについて、まだ決定的な見解に至っていない。しかし、ACCCは、このような行動の長期的な累積効果が、様々なアドテクサービスの供給における競争を減退させ、アドテクサービスにおけるGoogleの支配と強さを定着させたと考えています。これは、オーストラリアの広告主、出版社、消費者に不利益をもたらすものである。
  • ACCCは、CCAの競争規定のもと、調査の過程でGoogleに対してなされた具体的な申し立てを引き続き検討しています。
  • しかし、ACCCは、今回明らかになった問題は、2010年競争・消費者法の下で利用可能な既存のツールだけでは効果的に対処できないと考え、以下の提言を行います。
    • 提言2:ACCCは、アドテクノロジーのサプライチェーンにおける利益相反と競争問題に対処するため、セクター固有のルールを策定する権限を与えられるべきである。このルールは、市場パワーと/戦略的地位に関連する一定の基準を満たしたアドテク・プロバイダーに適用されることになる。
  • ACCCが推奨する規制ルールは、海外で検討されているものと一致するため、ACCCはアドテクサービスにおける効果的な競争を促進するための国際的な取り組みに貢献し、そこから利益を得ることができるようになります。

5 アドテックサービスの透明性

構成としては、

  • 5.1項では、なぜアドテクノロジーのサプライチェーンの透明性が重要なのか、また、アドテクノロジーのサプライチェーンの複雑さがその不透明さの一因であることを説明します。
  • 5.2項では、広告主やパブリッシャーが情報に基づいた意思決定を行うために必要な価格と品質の指標の概要と、そうした情報にアクセスする方法について説明します。とくにこの項では、グーグルのユニファイド・オークションの仕組みと問題についてふれています。
  • 5.3~5.5項では、アドテクノロジーサービスのオークション、価格、パフォーマンスに関する透明性のレベルと、それがサプライチェーンにおける競争と効率にどのような影響を与えているかについて論じています。具体的には、ユーチューブにおける独立の検証を制限していること、そして、ぞれは、ACCCが問題であると考えていること(5.5.1)、属性データへのアクセスへの制限、サードパーティクッキーのフェードアウトの問題にふれています。
  • 5.6項では、検証およびアトリビューションサービスの品質に関する問題、および詐欺広告への対処に関する業界の対応について、調査結果を概説しています。
  • 5.7項では、アドテクノロジーサービスの供給における透明性の向上を促進するための当社の推奨事項について説明します。

これについての要約部分は、以下のとおりです。

キーポイント
  • アドテクノロジーのサプライチェーンの運用は複雑で、広告主やパブリッシャーは、サービスの価格やパフォーマンスに関する情報をアドテクノロジーのプロバイダーに依存しています。 アドテクノロジーのサプライチェーンが不透明な領域が多数存在する。このため、広告主やパブリッシャーは、アドテクノロジーサービスのパフォーマンスを評価し、どのアドテクノロジーサービスやプロバイダーが自分たちのニーズを最も満たしてくれるのか、十分な情報に基づいて選択することが難しくなっています。
  • アドテクノロジー業界全体に透明性の問題はありますが、最も透明性の高い問題はGoogleのサービスに関するものです。Googleのサプライチェーンにおける強力な地位と、多くのサービスの「必須」な性質は、Googleが顧客に対して透明性を保つための競争圧力が少ないため、これらの透明性の問題の一因になっていると考えています。
  • 我々は、透明性の問題が発生する可能性がある3つの主要な領域があることを発見しました。
アドテクオークションの運用
  • パブリッシャーや広告主がアドテクオークションを完全に理解することは難しいかもしれません。 多くのアドテクノロジーサービスは、オークションのプロセスや結果について、パブリッシャーや広告主に情報を提供しています。しかし、パブリッシャーは、Googleのパブリッシャー広告サーバーのオークションに関する透明性のレベルについて満足していない。
  • Googleのパブリッシャー広告サーバーで行われるオークションは、透明性に欠ける。特に、Googleのユニファイドオークションの運用は不透明であり、Googleがセルフプリファレンシング行為を行い、公表されていない手数料を保持することを可能にする可能性があります。さらに、Googleはパブリッシャーに対して、在庫の販売方法について十分な情報を得た上で意思決定を行うためのオークション結果に関する十分な情報を提供していない。
アドテク・サービスの価格と手数料
  • パブリッシャーと広告主は、一般に、価格と手数料について、自身のアドテク・プロバイダーから十分な情報を受け取る。主な例外はGoogle Adsで、同社はサービスの利用料を開示していない。
  • さらに、パブリッシャーと広告主は、アドテクノロジーのサプライチェーン全体にわたって手数料を可視化することができません。これは、サプライチェーンが広告主やパブリッシャーに価値を提供しているという信頼を損ない、パブリッシャーや広告主が広告在庫の購入や販売について十分な情報を得た上で意思決定する能力を制限することになります。
デマンドサイドサービスのパフォーマンス
  • 広告主は、アトリビューションおよび検証プロバイダを使用して、ほとんどのデマンドサイドサービスのパフォーマンスを測定することができます。この重要な例外は、GoogleのDSPのパフォーマンスを測定することです。これは、GoogleがYouTubeのインベントリのパフォーマンスを独立して完全に測定する能力を制限しているためです。
  • さらに、GoogleのユーザーIDの共有方法の変更により、広告主がマルチタッチアトリビューションに取り組み、広告キャンペーンのパフォーマンスを詳細に把握することが非常に困難になっています。
提言

ACCCは、本章で明らかになった透明性の問題を解決するために、3つの提言を行う。

  • 提言4:業界は、アドテクプロバイダーがアドテクサービスの平均手数料とテイクレートを公表し、デマンドサイドプラットフォームサービスの完全な独立した検証を可能にするための基準を確立すべきである。そのような自主的な業界基準が、広告主や出版社のニーズを満たす透明性を達成する上で効果的でない場合、または合理的な期間内に基準が作られない場合、ACCCは、勧告2(Google固有の問題に対処するため)または勧告6(業界全体の問題に対して)で提案した規則に基づいて透明性の問題を解決するための措置を導入できるだろう。
  • 勧告5: Googleは、パブリッシャー広告サーバーオークションの運営と結果に関する追加情報をパブリッシャーに提供すべきである。
  • 勧告6:ACCCは、アドテクノロジーサービスの価格とパフォーマンスの透明性を向上させるためのルールを策定し、実施する権限を与えられるべきである。このルールは、オーストラリアのアドテクノロジーのサプライチェーン全体に適用される。共通のトランザクションIDや、価格やテイクレートの標準的な形式での公開を義務付けるなどの措置が考えられる。

6 広告代理サービスの構成

 

本章では、アドテクノロジーのサプライチェーンにおける広告代理店の役割を検証し、発生し得る利益相反と透明性に関する問題について議論している。その構成は以下の通りです。(なお、この章では、グーグルの問題などは、余り出てきません)

  • セクション6.1 – 広告代理の役割とオーストラリアでの広告代理サービスの競争について概説する。
  • セクション6.2-広告主が広告代理サービスを利用する際に起こりうる利益相反、価格とパフォーマンスの透明性について論じています。
  • セクション6.3は、我々の結論を概説し、広告主と代理人が透明性と利益相反の問題に対処する方法を論じています。

本報告書では、「広告代理」とは、広告主に提供されるデジタルディスプレイ広告サービスの購入に関連するサービスを指します。これには、広告クリエイティブサービスや他の形態のデジタル広告(検索広告など)、印刷広告や放送広告のための広告代理店サービスの提供は含まれません。

キーポイント

  • 広告代理店は、アドテクノロジーのサプライチェーンにおいて重要な役割を担っている。広告主に対して、デジタル広告の管理・購入に関する専門的なスキルや経験を提供する。最大手の広告代理店グループにはある程度の集中が見られるが、オーストラリアにおける広告代理店サービスの市場は競争的であると考えられる。
  • 広告主が広告代理店を利用する場合、利益相反が生じる可能性があります。例えば、広告代理店が特定の出版社から広告を購入したり、特定のアドテク・プロバイダーを利用したりすると、より大きな割引、リベート、その他のインセンティブが得られるため、利益相反が存在することになる。同様に、代理店は、広告主が追加収入を得るために、代理店の持株グループが所有する特定のサービスを利用するよう奨励することができる。
  • 割引やリベート、ホールディング・グループの取り決めは、広告主にとって効率化やコスト削減につながる可能性があります。しかし、広告主が契約している代理店の操作上の透明性を持っていない場合、これらの状況は問題を作成することができます。例えば、代理店は、彼らのクライアントではなく、彼らに利益をもたらす方法で行動することができる。一部の広告主からはそのような懸念の声も聞かれますが、今のところ業界全体で問題が広がっているわけではなさそうです。
  • 広告主が代理店の運営を監督する能力に影響を与えうる要因はいくつかある。例えば、代理店持株会の構造、代理店の報酬モデル、アドテクノロジーのサプライチェーンに関連する不透明性に関する一般的な問題などです。広告主と代理店が、利益相反を回避するために透明性の問題に対処する方法は数多くあります。例えば、広告主が代理店との取引において何を期待し、何を求め、何を要求すべきかというガイダンスを提供する、業界主導のフレームワークやチェックリストがあります。さらに、これらのフレームワークは、代理店が守ることが奨励される透明性の原則を提供しています。

 

 

関連記事

  1. 憲法の「通信の秘密」は、電気通信事業者に適用されるのか-総務省「…
  2. 新ブランダイス運動は、ポピュリスト-Hovenkamp先生の「運…
  3. シンポジウム 「人工知能が法務を変える?」で高橋郁夫が講演します…
  4. IT法研究部会セミナー「デジタル証拠の現在と未来」
  5. プライバシーと競争の交錯-英国のグーグルサンドボックス事件の終結…
  6. 「カーンの逆襲」-分断のアメリカFTC-「消費者福祉促進」ガイダ…
  7. ネットワーク中立性講義 その12 競争から考える(4)
  8. AI時代の証券取引 (その3)
PAGE TOP