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AI時代の証券取引 (その2)

では、次に具体的なAI技術が、証券取引に応用される場合に、具体的に、どのような法律問題が発生するのか、見ていくことにしましょう。

この図で、具体的な問題点を示してみることにしましょう。

この図は、AI技術が、証券取引に応用される場合

(1)投資家とAI/API提供者との関係(自律性の問題)

(2)その技術自体の問題点

(3)市場との関係の問題、

のそれぞれの観点から分析されることを示しています。

(1) 証券取引システムの自律性

この問題は、自律的な証券取引システムを利用して投資家が証券取引をおこなっている場合に、その取引は、その投資家が、みずからの責任をもって運用をなしているのか、逆に、そのシステムの提供者が運用をしているのか(この場合、システムの提供者は、投資一任業務をおこなっていることになる)、という問題になります。いいかえると、投資判断を投資家がみずからおこなっているのか、ということになります。ロボアドバイザーサービスにおける法的な論点も、この観点から意識されています。

具体的には、金融商品取引法の定める金融商品取引業(同法2条8項、具体的には、投資助言・代理業、投資運用業、第一種金融商品取引業)に該当するのではないか、という問題です。

この解釈上の詳細は、別の機会に譲ることにします。が、この問題については、一般論としては、「不特定多数の者を対象として、不特定多数の者が随時に購入可能な方法により、有価証券の価値等又は金融商品の価値等の分析に基づく投資判断を提供する行為」は、投資家の自主的な判断をアシストするものに過ぎない、すなわち、投資判断は、投資家がみずからおこなっているものと考えられでしょう。ですから、そのような判断をアルゴリズムに基づいてプログラムとして提供していたとしても、その提供者は、投資助言・代理業の登録が必要になることはないといえます。そのプログラムに基づいて取引をおこなったことで投資家に損害が出たとしても、その責任を何人からも追求されることはないと考えられます。

一方、ソフトウェアの利用に当たり、販売業者等から継続的に投資情報等に係るデータ・その他サポート等の提供を受ける必要がある場合があります。このような場合について、金融庁「金融商品取引業者等向けの総合的な監督指針」(平成28年9月) VII-3 諸手続(投資助言・代理業) 1 登録 によるときは、登録が必要となる場合がありうるでしょう。

さらに、そのようなプログラムを提供している会社が、投資家が、取引に使用する口座のIDおよびパスワードをゆだねられており、その会社がそのシステムを利用して、売買の発注をおこなっている場合には、具体的な発注の権限を委任される状況になっているものと考えられる。この場合には、このプログラム提供会社は、単にプログラムを顧客に提供しているというのみではなく、投資運用業に係る業務を行っている(金融商品取引法第 28 条第4項)ものといえます。ですから、このような場合に、投資運用業に関する登録をなさないといけないということになります。(インベストメントカレッジに対する行政処分 平成27年10月20日 金融庁)

特に、個人投資家について考えた場合に、このようなAIによる投資判断による自律的な判断が、想定を超える著しい損害を及ぼしうる場合には、どのようにして保護すべきかという問題が発生するのではないか、という問題を指摘することができるでしょう。これは、むしろ、そのような技術自体に内在する問題点として考察することにしましょう。

(2)証券取引システム自体の問題

証券取引システム自体の問題というのは、自律的な証券取引システム自体に財産を損なうような問題点が発生した場合には、それを防止する仕組みを準備しておくべきではないかという論点になります。

具体的に、この問題点は、後述の証券取引と市場の関連の問題点とともに、わが国においては、金融審議会市場WGの報告書(金融審議会市場ワーキング・グループ報告~国民の安定的な資産形成に向けた取組みと市場・取引所を巡る制度整備について~ )において、「第3章 取引の高速化」の問題のもとで論じられています。

そこで、ここで、その報告書の第3章の「取引の高速化」の記述を見ていくのは、とても、参考になるでしょう。そこでは、「東京証券取引所の全取引に占めるコロケーションエリアからの取引の割合は、約定件数ベースで4~5割程度、注文件数ベースで7割程度に達して」いるとされています。そして、「現状、以下に見るように、アルゴリズム高速取引を行う投資家に対する証券会社の関与が薄まるとともに、当局や取引所も、アルゴリズム高速取引の全体像やその取引戦略等を十分に把握できているとは言えない状況となっている。」とされています。そして、欧米の動向を確認したのち、「アルゴリズム高速取引を行う投資家に対するルール整備」の必要性が高いものとしているのです。

そして、WG報告書では、技術に関するものとしては、

・ 市場でのイベントにアルゴリズム高速取引が加速度的に反応し、マーケットが一方向に動くことで、市場を混乱させるおそれがないか
・ 異常な注文・取引やサイバー攻撃など万が一の場合、その影響が瞬時に市場全体に伝播するおそれや、その他システム面でのトラブルが市場に大きな問題を引き起こすおそれがないか

が指摘されています。

(3)証券取引と市場との関連

これは、自律的な証券取引のアルゴリズムが、証券市場との関係で、規制の対象となるのかどうか、また、その場合の責任はどうなるのか、また、それらが市場において、市場力をもつにいたった場合については、どのように考えるべきかという問題ということがいえるでしょう。

前述のWG報告書においては、
「・ 個人や中長期的な視点に立って投資を行う機関投資家に、アルゴリズム高速取引に太刀打ちできないなどといった不公平感を与え、一般投資家を市場から遠ざけてしまうのではないか
・ アルゴリズム高速取引で用いられる戦略には短期的なものも存在し、アルゴリズム高速取引のシェアが過半を占める株式市場では、中長期的な企業の収益性(本来の企業価値)に着眼した価格形成が阻害されるのではないか
・ 欧米をはじめ我が国においても、アルゴリズムを用いた相場操縦等の不公正取引の事案等が報告されている中、市場の公正性に影響を与えるおそれはないか」

という問題点が提起されています。

これらの議論に基づいて、「金融商品取引法の一部を改正する法律」が提案され、国会で可決され、成立しています。これらの問題に関する実際の事件や、この改正法の内容については、次のエントリで検討していくことにしましょう。

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