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AI時代の証券取引(その1)

「オンライン証券業務の法律問題」などの論考(正協レポート 5(3), 17-31, 2001-08)から、15年、証券取引も、全く、その姿を変えてしまいました。ネットワーク化によって、もっとも変わった分野の一つということができるでしょう。

オンライン取引が一般化して、証券市場は、断片化(多数の市場が開設されるとともに私設取引システムも開設される、また、気配情報を公表しない取引の場であるダークプールが発展)してきています。さらに自律的なアルゴリズム取引が、非常に、市場の過半をしめるように発展してきています。

アルゴリズム取引とは、一般的に、事前に策定していたプログラムに応じて、株式売買のタイミングや数量を決めて注文をなす取引のことをいうものと定義することができます。このなかで、高速・高頻度でなされる取引の全体が高頻度取引(HFT)と呼ばれています。機関投資家等が、このような取引を行うようになっており、現実の証券取引において、きわめて大きな存在感を示すようになってきています。

このような高頻度取引は、価格発見機能の効率化、流動性の提供などのメリットがあるとされています。その一方で、いろいろいな問題点があるのではないか、と指摘されるようなってきています。IOSCOの「技術革新が市場の健全性・効率性に及ぼす影響により生じる規制上の課題」(なお、概要版 日本語) は、市場の効率性のリスク、市場の公正性・堅牢性に対するリスク、市場の弾力性・安定性に対するリスクを述べています。また、これら以外にも、最良執行上の問題、市場参加者の範囲を狭める、プログラムによる市場操作、規制コストの問題などが指摘されています。

ところで、このアルゴリズム取引と、いま流行りの「AIを用いた証券取引」というのを考えてみましょう。

そもそも、AIというのは、あまりにも一般的な名称であり、具体的な技術をひとくくりにしたもので、それ自体が、なにか生産的な結論を導くものとはいえません。友だちの間では、AIというのは、幼名であって、元服すると、自然言語解析とか、画像認識とかの具体的な名称がつく、という、「AI元服理論」を語っているのですが、大学の教授の中でも、意外に支持してくれる人がおおいです。

それは、さておき、AIと証券取引という形で論じると、二つの方向性があるということは考えていていいかと思います。一つは、顧客に対して資産運用のアドバイスを行うために人工知能を用いるものであり、いまひとつは、証券取引のアルゴリズムの動作に関して、人工知能による分析結果を利用しうるものにするということです。

前者については、いわゆるロボアドバイザー・サービスということになり、その法律問題も検討されています(長谷川紘之「証券分野にみるFinTechとその法的課題」NBL1081巻71頁(商事法務、2016))。

後者については、人工知能による分析結果を利用するのに関して、具体的に、どのような人工知能技術(元服した名称)を、どのように利用するのか、ということから、具体的に語ることができます。

ビジネス的に公表されているものとして
株価騰落予測システム
時系列株価データをRNN(リカレントニューラルネットワーク)により解析するシステム
などが公表されています。

また、学術的には、
モメンタム取引戦略への応用
自然言語解析を用いたイベント基盤の株価予測への応用
などのこのAI技術の範疇にはいるでしょう。

では、このようなAI 技術の証券取引の応用について、具体的な法律問題として、どのようなものがあげられるのか、具体的に検討していきましょう。

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