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ネットワーク中立性講義 その14 ゼロレーティングと利害状況(1)

従量制の通信サービスの課金対象から、特定のサービス・アプリケーションを除外するという「ゼロレーティング」は、果たして、法的に、どのような状況にあるのか、というのを考えていくことにしましょう。

ここで、法的にどのような状況にあるのか、というのは、基本的には、(1)適正な競争状態の維持 (2)利用の公平の問題 (3)通信の秘密の保護 の観点から考えることができるということがいえます。

(1)適正な競争状態の維持

そして、さらに、、(1)適正な競争状態の維持というのは、法的にみて、一定の要件に該当した場合に当然に違法と考えられる場合(電気通信事業法の非対称規制に違反する場合)と個別具体的な市場の競争状態・具体的な行為の内容に応じて違法性を検討しなければならない場合(独占禁止法の具体的な私的独占等の違反を考える場合)とに分けられます。

ここで、接続市場とコンテンツサービス市場を考えてみます。

A) まずは、二つの市場を考えて接続市場における一定の市場力を濫用する場合を考えることにしましょう。

電気通信事業法の非対称規制に違反するばあいには、当然に違法と考えられることになります。(非対称規制が、一定の市場力をもとにした定型的な規制ということもできそうです。-あまり、そういう表現を用いる人はいませんが)

具体的には、NTTドコモについて、禁止行為規制が適用されており(事業法30条1項)、情報の目的外流用の禁止、不当な優先的取扱・利益供与・不利な取扱・不利益供与の禁止、他の事業者等に対する不当な規律・干渉の禁止が適用されることになります。(ちなみに、以下の指針においても、電気通信事業法違反かどうかについては、上記の禁止行為規制を検討している)。

これらの行為に該当しない場合でも、個別・具体的な行為については、何度も触れている「電気通信事業分野における競争の促進に関する指針」の考え方で、独占禁止法に触れるかどうかの判断がなされることになります。この指針は、コンテンツの提供に関連する分野について、具体的には、メニューリストの掲載についての例にあげて、独占禁止法違反を論じています。前のエントリでも触れましたが、ちょっと、現代的ではないように思えます(単に、私が、SIMフリーで、キャリアのサービスと無縁だからかもしれませんが)。(もっとも、細かく見ていくと、指針43頁における「自己の電気通信役務と併せて他の商品・サービスの提供を受けると電気通信役務の料金又は当該他の商品・サービスの料金と電気通信役務の料金を合算した料金が割安となる方法でセット提供する場合」と利益状況は、同一であるということもできるでしょう)

そうは、いっても仕方がないので、ここで、その具体的な例を、ゼロレーティングに置き換えて考えてみましょう。

55頁(2)は、システム運用事業者が、コンテンツプロバイダーと他のシステム運用事業者との取引を制限する条件を付けて当該コンテンツプロバイダーと取引したり、メニューリストへのコンテンツの掲載に際して、自己又は自己の関係事業者と比べて、他のコンテンツプロバイダーを不利に取り扱ったりすること等を問題にしています。これをすこし、ゼロレーティング風にアレンジできないか、考えてみましょう。

a) 独占禁止法上問題となる行為
 市場において、相対的に高いシェアを有するシステム運用事業者が、行う以下の行為は、独占禁止法上問題となる。

①自己のデータ課金システムにおいて、既に、他のコンテンツに比して(ゼロレーティング等の)有利な取扱がなされている、または、有利な取扱を求めようとするコンテンツプロバイダーに対して、競争事業者に対して他のコンテンツに比して有利な取扱を求めることを禁止すること、競争事業者においてそのコンテンツプロバイダーが、他のコンテンツに比して有利な取扱を求める場合には、既になしている有利な取扱を中止すること等を条件とすることにより、競争事業者の電気通信役務市場への新規参入を阻止し、又はその事業活動を困難にさせること(私的独占、排他条件付取引等)

② コンテンツを有利な取扱をさせる条件として、コンテンツプロバイダーと顧客との間におけるコンテンツ提供に係る料金その他の提供条件等の設定に関与することにより、当該コンテンツプロバイダーの事業活動を困難にさせ、又はコンテンツ提供市場における競争を阻害するおそれを生じさせること(私的独占、拘束条件付取引等)。

③ システム運用事業者がコンテンツプロバイダーに有利な取扱する場合に、その取扱の条件について、コンテンツを提供する自己又は自己の関係事業者に比べて、他のコンテンツプロバイダーを不利に取り扱うことにより、当該コンテンツプロバイダーの新規参入を阻止し、又はその事業活動を困難にさせること(私的独占、差別取扱い等)

ということは、いえるでしょう。

b)電気通信事業法上問題となる行為
 指針57頁は、第一種指定電気通信設備を設置する電気通信事業者が、コンテンツプロバイダーの業務について不当に規律し、又は干渉すると認められる場合の問題となります。その意味では、移動体通信市場を考えている限り、具体的に、電気通信事業法の非対称規制が問題となることは、考えにくいことになるようにおもえます。

B)二つの市場のうち、逆に、コンテンツサービス市場の市場力を濫用する場合を考えることにしましょう。

もっとも、ここでは、おおざっぱにコンテンツサービス市場という表現をしましたが、このように、携帯端末で、コンテンツを楽しむという行為に関して、どのような市場が形成されているとみることができるのか、というのは、きわめて困難におもえます。

そもそも、コンテンツを楽しむ市場というのは、携帯端末と自宅での固定での楽しむ行為とで、市場が分かれているのでしょうか。
また、SNS市場ということを考えることができるのでしょうか。LINEは、SNSなのか、チャットツールなのか、という問題も起きそうです。チャットツールとした場合に、(通常のインターネット)メールの代替品なのでしょうか。メッセージング自体は、無料をというビジネスモデルの場合にSSNIPテストの有効性は、どのようにかんがえるべきなのでしょうか。まだ、未解決の問題が山積ししているということがいえるでしょう。

この市場画定によって、市場力の判断も左右されることになります。

もし、市場が画定されれば、それにもとづいて市場力を判断することができます。その市場において、支配的地位を有すると判断される場合には、具体的な市場力の濫用の可能性がでてきます。もっとも、コンテンツサービス市場における市場力を利用して、接続市場における競争を優位に進めるとしても、接続市場自体は、巨大であり、競争相手に対して、競争が成り立たないレベルまで追い込んで、そのあとに価格を上昇させるという戦略がなりたつともおもえないので、実際に濫用の規制が働くことはきわめて低いようにおもえます。

C) 同一の会社が、二つの市場をまたぐ場合も上の判断と同様になります。

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