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株式って何?-古き良き証券市場を例に

「AI時代の証券取引の法律問題」(その1その2その3)をちょっと書いてきました。あと、駒沢大学で、開かれた社会情報学会でもWS03でそのテーマで講演しました。

ただ、昨年の情報ネットワーク法学会でも感じたのですが、どうも聴講者の方々は、株式取引というのに対してのイメージをもっていないのかなあ、とおもいました。そこで、基本的なことですが、ちょっとまとめてみましょう。

株式というのは、創設者が、何か 世の中的に事業を行いたいとおもった時に、社会から、資本を集積しようと考えた際に、法的に取引の主体となりうる立場を作成して、法人とした場合に、その法人(会社)を所有しうる立場を、均等に、分割したもの、ということになります。(均一的に細分化された割合的単位の形をとる株式会社の社員たる地位とさなます)

会社を所有している立場なので、その立場によっては、その会社をどうすることもできる立場になります(法的には、株主平等の原則等の侵害をしないことなどの制限があります)。

この株主の権利としては、会社の経営に参加する権利と利益の分配をうける権利(など)があります。

では、この株主の権利を有している人が、第三者にその株主としての地位を譲りたいと考えたときに、どのような価格で譲渡するといいのでしょうか。この価格は、将来にわたって、会社の経営に参加する権利と利益の分配をうける権利(など)によって享受しうる価値を現在への引き戻した価値によって説明がつくと考えることができるでしょう。

もっとも、この「享受しうる価値」というのが、「くせもの」で、単なる配当などを得る期待値というだけではなく、会社の経営によって取得しうる正当/不当な利益の期待値をも含むものになるとおもわれます。(この点は、今日は触れません)

もっとも、社会には、市場という便利なものがあります。自由で公正な市場で取引されれば、この理論的な価格に収斂していくはずになると考えられるでしょう。(これも概念的なのであることは、いうまでもないです)

ところで、いうまでもないのですが、上記の利益の期待値は、実際の会社が、どれだけ資本を効率的に運用するのか、ということで、左右されることになります。業績によって左右されるのです。

この業績に関する情報が、投資家の間で、公平に共有されなければ、市場は、不公正であると考えられて、だんだん、その市場に参加する人が減少していくでしょう。インサイダー取引が、公正な市場を害する重大な犯罪であるというのは、そういうことです。

ところで、株式市場は、実際の株価と、投資家が妥当と考える株価のギャップを取引によって、埋めていく場ということになるでしょう。この株式市場の取引にあたっての戦略的なスタンスとしては、従来から、「ファンダメンタル分析」による取引をなす投資家と、「テクニカル分析」による取引をなす投資家にわけることができます。前者は、需給、収益性評価およびそれらの背景となる経済情勢分析に基づいて行う手法ですし、後者は、将来の取引価格の変化を過去に発生した価格や出来高等の取引実績の時系列パターンから予想・分析しようとする手法です。後者は、チャートなどから、買いのシグナル、売りのシグナルなどを分析して、取引をしていく手法などが代表的なものということができます。「株式投資は、美人投票のようなものだ」(他の人が美人だと思って投票するだろう人に投票する)といわれることがありますが、そのような立場からは、他の人が、このような場合に買いに出るということがわかっているのであれば、その法則を知っていることはきわめて有利に働くということになるでしょう。

上の図で、「古き良き証券取引」といっているのですが、まさに、自由で、公正な市場において、いろいろな手法で、いろいろな思惑を有している多彩な投資家が、投資をしていくというのが、厚みのある理想的な市場と考えられていたのです。

いままでの「AI 時代の証券取引」のエントリ(特に3)でふれたように、このような「厚みのある理想的な市場」というコンセプトは、もはや夢物語になりつつあります。資本市場は、その果たすべき役割をきちんとはたし続けることができるのか、というは、重要な問題であるようにおもわれます。

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