AI時代の証券取引 (その3)

AI時代の証券取引 (その2)で、具体的な問題に対応するための金融商品取引法の改正について触れました。ここで、具体的な改正の内容について触れる前に、興味深い事件について、紹介しましょう。

それは、北越紀州製紙株式に係る相場操縦事件(平成23年2月16日 決定要旨)になります。

相場操縦は、禁止されている(具体的には、「取引を誘引する目的をもつて」「有価証券の相場を変動させるべき一連の有価証券売買等又はその申込み、委託等若しくは受託等をすること」をなすことはできない(同法159条2項1号))のですが、それは、アルゴリズムを用いた取引であっても同様です。

具体的には、証券取引等監視委員会のホームページで検討してもらいたいところですが(勧告)、以下の図のように、見せ玉を見せて、取引を約定させるようにしたわけです。

もっとも、解釈論としては、このような「見せ玉」が日常に行われているのではないか、もし、そうであったならば、「取引を誘引する目的をもつて」という誘因目的の要件を満たすことがなくなるのではないかと議論されてもいるようです。

IOSCOの報告書において、提言5において、「市場当局は、技術発展がもたらし得る市場阻害行為の新たな形態又は種類を監視し、必要に応じて適切な措置を講ずるべき」と提唱されているところでもあり、また、WG報告書に応える形で、法が改正されることになり、国会で可決され、成立しています。

この改正に関する資料は、このページから、アクセスすることができます。法律自体は、高速取引対応のみではなく、①フェア・ディスクロージャー・ルールの導入、②株式等の高速取引(アルゴリズム高速取引、HFT)に関する法制の整備、③金融商品取引所グループの業務範囲の柔軟化などを盛り込んでいます

具体的には、「高速取引を行う者につきましては、株式等の取引を行うことについての判断をプログラムに従って自動的に行っているということを一つの要件といたしまして、あわせまして、コロケーションエリアからの発注など、判断に関する情報の伝達に要する時間を短縮するための方法を用いていることということをもう一つの要件にしておりまして、この二つの要件を満たしたときに今回の法律案の対象となる高速取引と定義」がなされています(同法 改正後の2条41項)。

そして、アルゴリズム高速取引を行う投資家(高速取引行為者、同42項)に対する登録制が導入されています(同法 66条の50)。

具体的には、そして、そのような投資家に対して、(1)体制整備・リスク管理に係る措置(2)当局に対する情報提供等に係る措置(3)その他の規定に従うことを求めています。

(1)体制整備(同66条の55)・リスク管理に係る措置として、
取引システムの適正な管理・運営(同57)、適切な業務運営体制・財産的基礎の確保(同58)、(外国法人の場合)国内における代表者又は代理人の設置、
(2)当局に対する情報提供等に係る措置として、
高速取引を行うこと・取引戦略の届出、取引記録の作成・保存(58)、
当局による報告徴求・検査・業務改善命令等(58、60、67)
(3)その他の規定として、
無登録で高速取引を行う者等から証券会社が取引を受託することの禁止、 高速取引を行う者に対する取引所の調査(85条の5)
が定められています。

「アルゴリズム高速取引のシェアが過半を占める株式市場では、中長期的な企業の収益性(本来の企業価値)に着眼した価格形成が阻害されるのではないか」という批判が、あるということは、WG報告書を紹介したさいに触れました。証券取引においては、ファンダメンタルを重視する方法とテクニカル(価格変動自体)を重視する方法とがあり、それ自体は、AIなり、アルゴリズム取引が盛んになる前から、存在していた問題ということはいえます。

もっとも、将来、証券取引が、限られたAIのプログラムにしたがって行うのが、もっとも合理的ということになり、しかも、プログラム自体が、市場参加者のアルゴリズムを予測し、その予測したアルゴリズムのいわばウラをかく形で、取引を成立させるのがもっとも合理的ということになれば、もはや、自由な市場によって、効率的な資本供給を行うという当初の意図された目的から、市場が質的に違うものに、変容してしまうということはいえるかもしれません。

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