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アップル対エピック事件とアフターマーケットの理論

「図解 アップル・エピックゲームズ事件判決の理論的?分析」で、事件を分析しました。日経新聞は、「社説]競争妨げるアプリ課金の慣行を改めよ」とか、の記事を出していますが、この判決を読んでのことなのでしょうか。この判決の理論的根拠は、なかなか確固としたものに思えますので、新聞たるもの、「Big is Bad」理論は、いい加減にやめてもらい田とところです。

自分としては、今の米国の理論的な分析をそのまま適用するとそうなるだろうなあ、という納得のいく感じだったのですが、ひとつだけ理解できなかったのが、iOS配信市場をフォアマーケット、アプリ内課金の仕組みをアフターマーケットとする分析です。

ということで、コダック事件をメモしたいと思います。コダック事件は、「Eastman Kodak Co. v. Image Tech. Servs., 504 U.S. 451, 482 (1992) (“Eastman Kodak”)」です。

これについての分析は、日本語で、いろいろいとでていますね。

「標準化と反トラスト法の判例動向 テンプル大学ビーズリー法科大学院教授 サリル・メーラー 氏」

「反トラスト法による抱合せ販売規制の新展開 藤田 稔」

あたりをみてみます。あと、柳川「取引費用経済学と関係的契約からみた反トラスト法上の取引義務」もおもしろいです。

藤田論文の48頁が、その説明になります。この問題は、独立サービス事業者が、イーストマンコダック(コピー機と顕微鏡検査機器を製造販売していた)(以下、コダック社)に対して、同社が、部品の独立サービス業者への利用可能性を制限する政策(部品の購入者は、コダックのサービスを利用するコダックの機器の購入者にかぎるとした)を採用したことから、独立サービス事業者は、被告の行為はシャーマン法1条と2条に違反するとして損害賠償と差止を求めて提訴したという事件です。この事件において、サマリージャッジメントをすべきかという点で争われた最高裁判所は、サマリージャッジメントなすべきではないとした判決を維持しました。

図は、このような状況を示しています。

 

 

 

 

 

 

 

 

この図は、主たるコピー機市場で競争がなされていること、その一方で、コダック製品を利用している消費者(顧客)にとっては、独立修理業者に対しての部品の供給がなされないので、あたかも、コダックのコピー機の利用者市場というものができているように思えるところが問題になります。ちなみにコダック社のコピー機の構造は、非常にユニークであるとのことです。

コピー機の市場自体は、競争が行われており、コダック社の製品のシェアは、20%ほどでした。しかしながら、その製品のユーザという形で、関連市場の需要者を設定できるかといことになります。従って、コダック社は、機器販売の減少を来してしまい、ユーザに対しての部品を高価格で販売したとすれば、機器販売が減少するだけであると主張したのです。

この点について、最高裁は、

ある市場が別の市場の搾取をどの程度防ぐかは、消費者が別の製品の価格変動に応じてある製品の消費をどの程度変えるか、すなわち「需要の交差弾力性」による。Du Pont, 351 U. S., at 400; P. Areeda & L. Kaplow, Antitrust Analysis, 342(c) (4th ed. 1988) を参照。

として、経済の現実に基づかない理論はありえないとしてコダック社の主張を認めませんでした。

さらに、このコダックの理論は、むしろ、現実においては、重大な情報コストとスイッチングコストが存在するために、サービスや部品の価格と機器の販売との間に反応性の低い関係を作り出す可能性があるとしています。

サービス市場の価格が機器の需要に影響を与えるためには、消費者は購入時に機器、サービス、部品という「パッケージ」の総コストを知らされなければならず、つまり消費者は正確なライフサイクル・プライシングを行わなければなりません。必要な情報には、初期の機器を操作、アップグレード、または強化するために必要な製品の価格、品質、入手可能性に関するデータや、故障の頻度、修理の内容、サービスや部品の価格、「ダウンタイム」の長さ、ダウンタイムに起因する損失の見積もりなどのサービスおよび修理費用が含まれ、このような情報の多くは、購入時に入手することが難しく、不可能な場合もあるとされています。

また、これらの情報は、競合他社は、自社がサービスを提供していない複雑な機器のライフサイクル・コストや、自社がサービスを提供していない顧客のニーズについて、信頼できる情報を持っていない可能性があるし、仮に競合他社が関連情報を持っていたとしても、そのような情報を消費者に提供することで競合他社の利益が向上することは明らかでないとするのです。

さら、情報の取得には費用がかかります。サービスのコストが機器の価格に比べて小さい場合、あるいは消費者がサービスコストよりも機器の性能を重視する場合、消費者は情報をコンパイルすることにコスト効率の良さを感じないかもしれないとします。(さらに、連邦政府のような一部の消費者は、購入時に「パッケージ」の完全なコストを考慮するのが難しい購買システムを持っていることも指摘されています)

このように考えて、独立修理業者たちのコダック社が市場支配力を有するという主張は理由があるとされています。


この判決自体は、判決自体においてもスカリア判事などの反対意見が付されています。この反対意見は、契約時において、サービスの契約締結を要求していれば、抱き合わせになり、その抱き合わせについては、市場支配力を有していないので、違法にはならないのでおかしいということです。

これに対して、柳川論文ですと、結局、一定のブランドのユーザに限っての「マーケット」を意識できてしまうことは、ホールドアップやロックインは、いつでも反トラスト法訴訟になりえ、実際にその後は、訴訟が増加したとされています。しかしながら、裁判所は、次第に事前の競争を重視し、契約が交渉された時点に着目して、その後の展開が予期されたかを見るようになったとされます。

このKodak判決は適用範囲が狭められていっているとされています

なお、これらの議論に比較して我が国をみます。

判決として代表的なものは、東芝エレベータテクノス事件大阪高判平成 5・7・30 審決集 40・651があります。資料は、こちら(根岸教授 「独禁法研究会」第7会 不公正な取引方法 Ⅱ  エレブベータ、三井住友、資生堂)でしょうか。また、類似のものとして、三菱電機ビルテクノサービス事件(勧告審決平成 14・7・26 審決集 49・168)、 東急パーキングシステムズ事件(勧告審決平成 16・4・1 2 審決集 51・401) キャノンインクカートリッジ互換品事件もあげていいかもしれません。

東芝エレベータテクノス事件においては、不公正な取引方法の抱き合わせ販売、競争者に対する取引妨害と認定をしています。また、公正競争阻害性を競争手段の不公正に求めたことから、市場の画定は不要と考えたものとみられる、とされています。その一方で、「安全性、ノウハウ保護」が競争促進効果を有するものとして認定されています。

もっとも、米国におけるコダック事件のポイントは、情報のコストそして、時間が需給の弾力性に与える影響ということというのは、上でみたとおりです。これと比較して、日本の判決の法理をどういちづけるべきか、あと、「流通・取引慣行に関する独占禁止法上の指針」が、競争促進効果について積極的に評価するようになってきているのがどのような影響を与えることになるのか、ということは、別の機会に考えたいと思います。

コダック判決の理論とエピック・アップルのへ事件への適用

ここで、図を出します。

 

 

 

 

 

 

 

ここで、結局、主張としては、iPhoneユーザは、iOSユーザとして「ロックイン」されるので、そのゲーム配信市場において、その中の条件としてアプリ内支払処理を付されているのは、抱き合わせだよねということになります。

もっとも、上でみた様に、最初の契約時における情報のコストの問題がポイントであったということです。利用者は、ゲーム配信市場において、アプリ内支払処理を付されていたのが、そのユーザの情報のコストを考えると、結局、主たる市場(スマートフォン)での競争に影響を与え得たのかということになります。

耐久消費財とゲーマーにとってのゲームについては、全く意味が違うのだろうと思います。ゲーマーにとっては、支払の手数料は、目に見えるコストにおもえます。その意味で、コダック事件の理論を当てはめる必要があったのか、ということについては、疑問が生じたというのは、その部分なのだろうと思います。

結局は、エピックゲームズ事件の判決もそのような情報のコストとの部分などについても判示をしています。結論としては、そのとおりなのですが、そのような理論を立てる必要があったのか、モバイルゲーム配信市場を考えているので、そのなかで、合理的な根拠をもつ垂直制限ということで良かったように思えます。

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