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域外からの通信によるネットワーク上の犯罪と刑罰法規の適用について

イタリアの友人から

米国最高裁判所は1911年に次のように述べています。

管轄区域外で行われた行為であっても、管轄区域内で有害な影響を及ぼし、また及ぼすことを意図している場合、国家はその行為を正当化することができる。 もし国家がその権力内にその者を取り込むことに成功すれば、害の原因となった者をその効果に立ち会ったかのように罰する。

1930年に発行されたイタリア刑法では、以下のように定められています。

国の領域内で犯罪を犯した者は、イタリアの法律に従って処罰されるものとする。

犯罪は、犯罪を構成する行為または不作為が、犯罪の全部または一部が国の領域で行われたこと、 または、その行為または不作為の結果である事象が発生したとき、国の領域内で行われたものとみなされる。

ので、日本ではどうですか?というメールが来ました。

インターネットと国際的な要素の絡んだ問題については、誰かがまとめているのだろうと思って検索したのですが、なかなかいい説明が見あたらないので、自分でまとめたいと思います。

日本において、行為が国外でおこなわれた場合についての考え方は、基本的に以下の四つの原則にわけて論じられています。

1 属地主義(territorial principle, competence territoriale, principede la territorialite, Territorialitatsprinzip)

2  属人主義(principle of personality, principe de la presonalite, Personalitats-prinzip)

3 保護主義(protective principle,competence reelle, Schutzprinzip,Realprinzip)

4 世界主義(universality principle, competence univerelle, Universalitatsprinzip)

になります。

これらの原則のうち、2ないし4は、特別の定めがある場合の規定になります。それに対して、特段の定めがない場合については、属地主義が採用されるとされています。そこで、まず、2-4をみます。

2  属人主義(principle of personality, principe de la presonalite, Personalitats-prinzip)

これは、自国民(または、自国内の外国人居住者)が罪を犯したときに内国刑法の適用を認めるものである。この代表的な規定は、刑法3条である。

この法律は、日本国外において次に掲げる罪を犯した日本国民に適用する。
第108条(現住建造物等放火)及び第109条第1項(非現住建造物等放火)の罪、これらの規定の例により処断すべき罪並びにこれらの罪の未遂罪
第119条(現住建造物等浸害)の罪
第159条から第161条まで(私文書偽造等、虚偽診断書等作成、偽造私文書等行使)及び前条第五号に規定する電磁的記録以外の電磁的記録に係る第161条の2の罪
第167条(私印偽造及び不正使用等)の罪及び同条第2項の罪の未遂罪
第176条から第181条まで(強制わいせつ、強制性交等、準強制わいせつ及び準強制性交等、監護者わいせつ及び監護者性交等、未遂罪、強制わいせつ等致死傷)及び第184条(重婚)の罪
第198条(贈賄)の罪
第199条(殺人)の罪及びその未遂罪
第204条(傷害)及び第205条(傷害致死)の罪
第214条から第216条まで(業務上堕胎及び同致死傷、不同意堕胎、不同意堕胎致死傷)の罪
第218条(保護責任者遺棄等)の罪及び同条の罪に係る第219条(遺棄等致死傷)の罪
第220条(逮捕及び監禁)及び第221条(逮捕等致死傷)の罪
第224条から第228条まで(未成年者略取及び誘拐、営利目的等略取及び誘拐、身の代金目的略取等、所在国外移送目的略取及び誘拐、人身売買、被略取者等所在国外移送、被略取者引渡し等、未遂罪)の罪
第230条(名誉毀き損)の罪
第235条から第236条まで(窃盗、不動産侵奪、強盗)、第238条から第240条まで(事後強盗、昏酔強盗、強盗致死傷)、第241条第1項及び第3項(強盗・強制性交等及び同致死)並びに第243条(未遂罪)の罪
第246条から第250条まで(詐欺、電子計算機使用詐欺、背任、準詐欺、恐喝、未遂罪)の罪
第253条(業務上横領)の罪
第256条第2項(盗品譲受け等)の罪

とされています。

3 保護主義(protective principle,competence reelle,Schutzprinzip,Realprinzip)

これは、自国の国家的法益に対する侵害行為にたいして、その犯罪地および犯人の国籍のいかんをとわず、内国刑法の適用を認めるものです。刑法2条は

この法律は、日本国外において次に掲げる罪を犯したすべての者に適用する。
削除
第77条から第79条まで(内乱、予備及び陰謀、内乱等幇助)の罪
第81条(外患誘致)、第82条(外患援助)、第87条(未遂罪)及び第88条(予備及び陰謀)の罪
第148条(通貨偽造及び行使等)の罪及びその未遂罪
第154条(詔書偽造等)、第155条(公文書偽造等)、第157条(公正証書原本不実記載等)、第158条(偽造公文書行使等)及び公務所又は公務員によって作られるべき電磁的記録に係る第161条の2(電磁的記録不正作出及び供用)の罪
第162条(有価証券偽造等)及び第163条(偽造有価証券行使等)の罪
第163条の2から第163条の5まで(支払用カード電磁的記録不正作出等、不正電磁的記録カード所持、支払用カード電磁的記録不正作出準備、未遂罪)の罪
第164条から第166条まで(御璽偽造及び不正使用等、公印偽造及び不正使用等、公記号偽造及び不正使用等)の罪並びに第164条第2項、第165条第2項及び第166条第2項の罪の未遂罪

としているのが代表的なものです。

4 世界主義(universality principle,competence univerelle,Universalitatsprinzip)

世界主義は、犯罪地、犯人または被害者の国籍いかんをとわず、世界的法益を侵害する行為に内国刑法の適用を認める原則をいいます。

日本では、刑法4条の2が、

第二条から前条までに規定するもののほか、この法律は、日本国外において、第二編の罪であって条約により日本国外において犯したときであっても罰すべきものとされているものを犯したすべての者に適用する。

としています。

不正アクセス禁止法についていえば、14条で

第十一条及び第十二条第一号から第三号までの罪は、刑法(明治四十年法律第四十五号)第四条の二の例に従う。

とされています。

1 属地主義(territorial principle,competence territoriale,principede la territorialite,Territorialitatsprinzip)

この属地主義というのは、内国で犯されたすべての犯罪に対して、行為者または被害者の国籍のいかんを問わず、内国刑法の効力が及ぶという原則です。

一般的には、主権国家の法秩序の維持を根拠としています。

属地主義といっても、犯罪地(locus commissi delicti,lieu de delit,Ort der Tat)の決定が重要な意義をもっているとされます。これについては、

  • 行為説(Tatigkeittheorie,theorie del’action)
  • 結果説(Erfolgstheorie,theorie du resultat)
  • 偏在説(Ubiquitatstheorie)ないし混合説(gemische Theorie)

があるとされています。

日本においては、この偏在説が一般的であるとされている。偏在説というのは、犯罪行為(iter criminis)、すなわち、犯罪行為構成要件のなんらかの一部でも行われた国で罪が犯されたものと解するという立場である。

したがって、イタリア刑法と同様の立場ということになります。

国際的なネットワーク犯罪と日本刑法の適用について

代表的な1 猥褻物頒布、2 オンラインギャンブル、3 不正アクセス禁止法違反をあげて検討します。

1 猥褻物頒布

サーバコンピュータにわいせつな電磁的記録を記憶・蔵置させて不特定・多数の者が (容易に再生閲覧の操作により) 画像等を認識できる状態に設定する行為は,わいせつ物公然陳列に該当すると解されている。 海外において現地のサーバコンピュータに記憶・蔵置させた場合も, インターネットを介して日本において不特定・多数の者がそうした画像等を認識できる状態に設定されていれば, 日本国内での公然陳列罪の成否が問題となりえます。

これに関連して「本在住の被告人は, 日本及びアメリカ合衆国在住の共犯者らとともに, 日本国内で作成したわいせつな動画等のデータファイルをアメリカ合衆国在住の共犯者らの下に送り, 同人らにおいて同国内に設置されたサーバコンピュータに同データファイルを記録, 保存し, 日本人を中心とした不特定かつ多数の顧客にインターネットを介した操作をさせて同データファイルをダウンロードさせる方法によって有料配信する日本語のウェブサイトを運営していた」という事案について、最高裁判所は、この事案の事実関係のもとでは、日本国内において犯した者であることは明らかであるとしています(平成26年11月25日)。

もっとも、海外(行為地自体も海外の場合)から、日本に特別にむけて、インターネット配信をしているという場合について、猥褻物公然陳列罪が成立するかについての判決例は、存在しません。

2 オンラインカジノ

刑法185条は、賭博について、これを違法としてます。もっとも、一定のライセンスのもと、カジノを認めるという特定複合観光施設区域整備法が、2018年に成立しています。あと、競馬や競輪その他で、具体的に合法とされている場合があると一般にいわれます。

ところで、海外においてライセンスのもと、合法的にカジノを運営している企業が、オンラインによって、日本在住の者にたいしてカジノ行為を勧誘した場合にどのようになるのか、という問題がある。

この問題については、「店にいた客3人も現行犯逮捕…ネットカジノ店で違法にバカラ賭博か 従業員の男を常習賭博の容疑で逮捕」という記事がありました(2016年3月10日)。もっとも、この案件については、不起訴処分とされているとのことであり、上記のように運営者が、合法的にカジノを運営できる場合に、それに我が国から、参加することが、我が国の賭博罪となるのか、という点については、先例がありません。

また、国会でも議論されている(内閣衆質二〇一第六一号)が、この場合については、明らかではありません。

このようなブログ(不起訴の勝ち取りーオンラインカジノプレイヤーの件)もあります。

3 不正アクセス禁止法違反

我が国においては、不正アクセス禁止法において、コンピュータに対しての権限のないアクセスが禁止されています。この場合、世界主義となっているのは、前述しました。我が国の電子計算機に対して、外国から無権限アクセスがなされた場合について、上記、偏在説の立場から、不正アクセス罪が成立するのは、当然であるということになるものと考えられます。

もっとも、この不正アクセス罪について、海外的な要素が問題となった事案は、いまだ存在しません。

なお、この問題に関する論文として、愛知正博 -「外国で発信されるインターネット上の表現と国内犯の成否」 中京法学(2020)が参考になります。

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