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司法省の反トラスト部門の責任者に、ジョナサン・カンター(Jonathan Kanter)氏が指名される予定ということだそうです。新聞記事ですと「バイデン氏、司法省の反トラスト責任者にグーグル批判の弁護士指名へ」になります。
バイデン米大統領は、司法省の反トラスト部門の責任者として、アルファベット傘下グーグルを批判してきたことで知られる弁護士ジョナサン・カンター氏を指名する予定だ。事情に詳しい関係者が明らかにした。
ということで、リナ・カーン氏よろしく、法律家としての業績とかは、どうなんだろうということで調べたのですが、現在の事務所は、Kanter Law Groupですね。所在は、DCのノードストロームラックの近く(1717 K Street NW)。
あと、ルイス・ブランダイス判事の
“世界でやる価値のあることのほとんどは、やる前から不可能だと宣言されていた。”
– ルイス・ブランデイス
という言葉が引用されているのみです。
LinkedInでは、3次のつながりでした。キャリアは、98-2000年がFTCに勤務していて、その後、 Cadwalader, Wickersham & Taft LLPやPaul, Weiss, Rifkind, Wharton & Garrisonを経て、昨年ブティックファームを開設です。
学術的な論文は、少ないみたいです。検索して見つかったのは、「What a Difference a Year Makes: An Emerging Consensus on the Treatment of Standard-Essential Patents」くらいでした。
他の報道では、「バイデン大統領はグーグル批判者を司法省の反トラスト部門のリーダーに起用」が詳しいです。
ここで出ている2016年6月の論文は、「テレビをグーグルに渡すな」(Don’t Hand Our TVs Over To Google)というものてず。
今年初め、米連邦通信委員会は、「セットトップボックスのロック解除」を決議し、ケーブル会社に対して、従来のケーブルセットトップボックスに代わるスタンドアロン型の製品を製造するグーグルのような企業に、ビデオストリーミング、プログラミング、暗号化のデータを提供することを求めました。これが実現すれば、技術革新が促進され、テレビがオンラインの世界の延長線上にあるような新しい時代の到来が期待できます。しかし残念なことに、F.C.C.の提案は、強力なゲートキーパーを新たなゲートキーパーに置き換えようとするものです。Googleです。
そして
グーグルは、競争の激しい空間に無料の製品を導入し、広告収入でその製品を補助し、差別的・排除的な行為で競争を閉ざす、という同じプレイブックを何年も続けていると言われています。
(略)
F.C.C.は、ユーザーがテレビから検索したときに、Googleが同じような行動を取らないようにしなければなりません。F.C.C. の監視がなければ、Google は、ショッピングやニュース、その他のカテゴリで現在行っているように、検索結果で自社の動画サービスを優先的に表示するようになると記録されています。
そして、
グーグルは、テレビに関しても同じやり方をするのだろうか?F.C.C.は、提案を進める前に、この問題に取り組む必要があります。
として
F.C.C.は、グーグルが検索ベースのセットトップを構築するために必要なデータを提供する場合、グーグルが疑わしい行為を続けるのを防ぐために重要な措置を取るべきである。最低限、F.C.C.はグーグルに対し、検索の中立性、透明性、プライバシー基準の遵守、反競争的なバンドルの制限を約束するよう求めるべきである。このような条件がなければ、イノベーションを促進するための提案が、イノベーションを阻害することになりかねません。
という内容でした。
セットトップボックスの当時の状況については、「米FCC、セットトップボックス自由化へ妥協案」という記事があります。FCCの”Expanding Consumers’ Video Navigation Choices; Commercial Availability of Navigation Devices, 81 Fed Reg. 14033 (March 16, 2016)”はこちらです。
そもそも、お茶の間に鎮座しているテレビ・モニターをどのように認識すればいいのか、という問題があるように思います。一方向のテレビ放送の受信・有料テレビの市場(たとえば、 Comcast/ DirecTVなど)とオンデマンドのNetflixとかの市場は、同一なのでしょうか。その市場にグーグルは、どう絡んでくるのか(Android TVが、コンペティターなのかというと違う気がします)
Netflixやら、Wowowオンデマンドの番組を見るのか、Youtubeを見るのか、「検索ベースのセットトップを構築する」というものには、ならなかったような気がします。あと、今一つの問題は、お茶の間というコンセプトの消滅とモバイルでの提供の代替財化かもしれません。モニターを利用する行為においても関連市場って、どのように認識べきなのか、という難しい問題がありそうです。
2015年の米国の状況を調べようとしたところ”ケーブルテレビと衛星テレビの利用は、劇的に低下(Cable and satellite TV use has dropped dramatically in the U.S. since 2015)“という記事をみつけました。このような有線テレビ離れを「コードカッティング」というそうです。あと、インターネット接続事情についての記事は、こちら。これでいくと「アメリカおける有料テレビ市場」という安直な把握ができなくなっているようにおもえます。
ケーブルテレビで、多チャンネルのテレビとインターネット接続(それもやや遅め)をしていたユーザが、ファイバーでの接続をしり、スマートフォンの接続をしたりで、種々の映像を楽しむようになったということかと思います。
カンター氏が、実際のあたらし物好きであったならば、上のようなコメントはしていないよう思います。2021年に2016年の記事についてコメントするのもなんですが、テレビの在り方について、なかなか予測はあたらなかったようです。グーグルに対する措置がなくても、市場は変化し、ケーブルテレビは、競争にやぶれつつあるように思い得ます。このように変化させたのは、むしろ、セットトップ市場に対するチャレンジャーであったグーグルでしょうし、また、ネットフリックスなどのコンテンツ業者の努力というようおもえます。
カンター氏は、日本からみたときに、Fiber To Homeのコンセプトを実現するGoogleに足かせをかけるべきだと主張するわけですから、良くいえば「グーグル嫌い」の信念の人、悪くいうと市場の確定と競争の把握という原則をないがしろにする傾向、があるようにおもえます。
ジョナサン・カンター氏がどのような理念とかで、司法省の今後の活動の舵取りをしていくのかは、なかなか読めないところだなあ、という感じです。いわゆる「新ブランダイス学派」ということにはなりそうですが。