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デシタルフォレンジックスの威力と実務-東芝総会調査報告書

2021年6月10日に株式会社東芝から、「会社法316条第2項に定める株式会社の業務および財産の状況を調査者による調査報告書受領のお知らせ」とともに、その調査報告書が公表されました。 この報告書は、前田陽司弁護士等 によるものです。

全部で、124ページからなる大部なものであり、構成は、

  • 第1章 本件調査者および本件調査の概要
  • 第2章 議決権集計問題
  • 第3章 圧力問題

から構成されています。

興味深い報告書なので、読んでいくかたわらメモ的にまとめてみます。

その前に、このような報告書が出るまでの文脈をみます。

東芝ですが、2015年不正会計問題、2016年12月のウエスチングハウスの買収子会社ののれん減損による巨額損失の可能性開示・ウェスチングハウスの再生申立手続により債務超過ととなり、2017年8月1日 東京証券取引所第2部に指定変えになっています。あと、2020年1月に東芝子会社のTSCにおいて2015年から2019年の5年間で24件もの架空・循環取引が発覚し、2020年2月に調査報告書(ただし第三者委員会によるものではない。)が公表されたという事実もありました。

問題となった2020年3月末の株主構成になりますが、この報告書(後述の第3章) の記載によると

東芝は、2018年3月期末までに債務超過を解消しなければ、上場廃止基準に抵触する状況であり、債務超過解消のため、2017年12月、多数の外国投資家に対し約6,000億円の第三者割当増資を実施した。その結果、外国法人等(個人除く)の所有株式数の割合は、38. 13%から72. 29%に増加した。なお、エフィッシモは、2017年4月までに9. 84%の東芝株式を既に取得しており、第三者割当増資後10%を超える筆頭株主となっていた。

このように、東芝は、総株主の議決権の過半数を外国投資家に保有される状況となり、毎年の株主総会前の大株主との対話なくして安定した株主総会運営をなし得ない状態となっていた。このことは、2020年の本定時株主総会前の時点でも大きく変わっていなかった(個人以外の外国法人等の所有株式数の割合は62. 62%であった。)。

とさています。会社のだしているのだと有価証券報告書のの61ページです。(2020年5月15日現在)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

報告書にでている株主構成は、

投資家名 特徴 割合
エフィシモ シンガポール籍の外国投資家 15.46
3Dインベストメントパートナーズ シンガポール籍の外国投資家 4.13
ハーバード・マネジメント・カンパニ(HMC) 米国籍の外国投資家・ハーバード大学の基金 4.43
ファラロン・キャピタル・マネージメント 米国籍の外国投資家 6.47
キングストリート・キャピタル・マネージメント 米国籍の外国投資家 3.21
アーガイルストリート・マネジメント 香港席の外国投資家 0.006
上記合計 33.706

こんな感じです。

法的には関係ないですが、2021年の株主構成は、こんな感じでしょうか。ということで、(死語ですが)「安定株主」は、本当に少ない株主構成であるということになるのでしょう。

報告書でも、第5 圧力問題の分析・評価 1 圧力問題の背景事情 (1)本定時株主総会前の東芝の状況 で

本定時株主総会前の時点で東芝は、60%超の議決権を外国法人等(個人除く)に保有されており、本定時株主総会の運営にあたり、外国投資家の賛成を得なければならなかった。

とされています。

でもって、報告書を見ていきます。

なお、このような記事もありました。「「困ったことがあれば経産省に頼ればいい」それが”東芝問題”の根本原因だ」


第1章 本件調査者および本件調査の概要

これはまた、

  • 第1  選任経緯等
  • 第2 調査者の構成等
  • 第3 目的・方法等
  • 第4 前提
  • 第5 本件調査の概要と調査報告書の構成

で構成されています。

第1  選任経緯等

東芝の概要(1)はさておいて、選任経緯(2)が興味深いです。

  • エフィシモ(eiisomi capiatl Management Pte Ltd.) が定時総会の開催において、その適正性を第三者委員会でのの調査を求めたが、会社が応じなかったこと
  • 会社法316条2項に定める業務および財産の状況を調査する者の選任議案を提案したこと
  • 会社は、上の議案に対して反対意見を表明したこと
  • 臨時株主総会において、調査者選任議案が可決されたこと

個人的には、「会社法316条2項に定める業務および財産の状況を調査する者の選任議案」の可決というのが興味深いところです。同項は

第297条の規定により招集された株主総会においては、その決議によって、株式会社の業務及び財産の状況を調査する者を選任することができる。

となります。297条というのは、1項で、

総株主の議決権の100分の3(これを下回る割合を定款で定めた場合にあっては、その割合)以上の議決権を6箇月(これを下回る期間を定款で定めた場合にあっては、その期間)前から引き続き有する株主は、取締役に対し、株主総会の目的である事項(当該株主が議決権を行使することができる事項に限る。)及び招集の理由を示して、株主総会の招集を請求することができる。

となります。

一般には、株主が、少数で、調査者の選任の件が提案されても否決されて、その場合には、裁判所に検査役の選任を申し立てたりする(会社法306条)のですが、本件では、総会で可決されたという案件になるわけです。

(ちなみに、従来の商法では、裁判所によって選任されるもの、株主総会によって選任される者をとわず検査役の名称を用いていたところ、会社法は、検査役の名称を裁判所により選任される者に限定しているということです)。

この調査者の権限ですが、 316条1項は、株主総会に提出した書類に対する調査に限定されるのですが、2項は、これに限定されません。358条に定める裁判所が選任する検査役の権限と同一になります。

358条1項は、

株式会社の業務の執行に関し、不正の行為又は法令若しくは定款に違反する重大な事実があることを疑うに足りる事由があるときは、次に掲げる株主は、当該株式会社の業務及び財産の状況を調査させるため、裁判所に対し、検査役の選任の申立てをすることができる。

です。しかも、調査に必要な一切の行為をなす権限と解釈されています。 あと職務を行う場合には、子会社の業務および財産の状況を調査することができます(同条4項)。

この場合、もし、 取締役等が検査役による調査を妨げたときは、過料に処せられる(976条5号)となっています。

同条は

発起人、設立時取締役、設立時監査役、設立時執行役、取締役、会計参与若しくはその職務を行うべき社員、監査役、執行役、会計監査人若しくはその職務を行うべき社員、清算人、清算人代理、持分会社の業務を執行する社員、民事保全法第56条に規定する仮処分命令により選任された取締役、監査役、執行役、清算人若しくは持分会社の業務を執行する社員の職務を代行する者、第960条第1項第5号に規定する一時取締役、会計参与、監査役、代表取締役、委員、執行役若しくは代表執行役の職務を行うべき者、同条第2項第3号に規定する一時清算人若しくは代表清算人の職務を行うべき者、第967条第1項第3号に規定する一時会計監査人の職務を行うべき者、検査役、監督委員、調査委員、株主名簿管理人、社債原簿管理人、社債管理者、事務を承継する社債管理者、代表社債権者、決議執行者、外国会社の日本における代表者又は支配人は、次のいずれかに該当する場合には、100万円以下の過料に処する。ただし、その行為について刑を科すべきときは、この限りでない。

(略)

五 この法律の規定による調査を妨げたとき。

となっています。

第2 調査者の構成等

ここでは、12名の弁護士が補助となっています。後述するようにドキュメントレビューにおいて彼らが、レビューをしたのかなと思います。また、技術的な支援がフロンテオさんがしたこと、が記載されています。

また、調査者および補助者の独立性において、利害関係を有しないこさと、また、調査に要した費用については、合理的な範囲で東芝が負担し、東芝が拒否する場合には、エフィシモが補償することが記載されています。

第3 目的・方法等

目的(しては、「本提示総会が構成に運営されたか否かに関連する事実のうち、本件調査社が必要と認める事実関係の一切を本件調査の調査対象事実としたこと」がふれられています(1)。

また、関係資料の精査として、監査委員会が行った調査の記録・資料・議決権行使書、株主との接触の記録・交渉内容等がわかる一切の資料、その他からの資料等について閲覧・検討をおこなったことが明らかにされています(2)

また、関係者9名に対して、述べ13回にわたる対面・ビデオ会議システムでのヒアリング等がなされたこと(なお、秘密保持等により開示できない旨の記載もあります)が明らかにされています(3)。

注目すべきことは、「4 デジダル・フォレンジック調査」として、デジタル・フォレンジックスを用いた旨が強調されています。

(デジダル・フォレンジック研究会を作るときに、名称は、きちんと最後に「ス」を付けるようにもっと強くいえば良かったと本当に思います。「デジタル証拠の法律実務Q&A」では、固有名詞以外は、デジタル・フォレッジックスと統一しましたが、結局、メディアや法律関係者では、デジタル・フォレンジックとなっているのは、残念です)

ここで、でました「AIによる重要度の評価付け」を行った上で、

重要度が高い文書ファイルについては本件調査者または補助者がレビューを行い、重要度が低い文書ファイルについてはフロンテオのレビューを行い、調査の用に供した

とレビューの経緯が記されています。ドキュメントレビューの実際については、「デジタル証拠の法律実務Q&A」で触れさせていただいたところなのですが、クオリティを保ったままで、どのようにしてコストをセーブするのか、という問題が出てきます。

メール・文書(ドキュメント)などについては、利用されている単語・その形式・関与当事者・作成日時などから、重要度が推測されることになります。なので、ドキュメントの母集団(ユニバース)の一部のサンプルセットからドキュメント抽出して、その中の関連性があるかどうかを判断します。そうすると、この重要度は、上のそれぞれの要素に重要度をかけて足したものと推測することがてきるわけです。そのサブセットから得られた計算式を、それぞれのドキュメントにかければ、そのドキュメントの重要度が推測されることになります。

アメリカですと、実際にドキュメントレビューするものが、弁護士の資格を有していなければならないのではないか、ということがあるわけですが、日本の場合は、弁護士によってレビューするという要求を満たすこともなかなか困難であることもありますし、レビューをコントロールする弁護士が指揮・命令・クオリティコントロールを資格なしのレビュー結果に対してもなしうるのであれば、許容範囲であるように思えます。

さらにホットラインが設置され、数件の通報・連絡があったこと(5)、東芝役員および従業員に対する調査協力の指示(6)がなされています。

第4 前提

いわゆるディスクレーマーですね。

証拠についての限定、また、調査事項について上記目的に限られていることが述べられています。

第5 本件調査の概要と調査報告書の構成

対象事項としては、議決権集計問題、 圧力問題があることが論じられています(1)。

議決権集計問題

議決権集計問題というのは、

  • 先付処理(実務を担当していた日本株主データサービス株式会社(JaSt)が、日本郵便杉並南郵便局に対し少しでも早く配達するよう特殊な配達運用を要請し、議決権行使書を議決権の集計上は翌日に到着したものとして取り扱っていた処理)
  • それ以外の不正な処理(JaStに配達された議決権行使書が、即日にOCRによる処理にかけられないまま放置された結果、有効な議決権投資として集計されなかったのではないか、というもの)
  • 東芝の議決権集計問題の認識・関与の有無

圧力問題

コーポレートガバナンス・コード の補充原則1-1③になります。

これは、原則1-1

【原則1-1.株主の権利の確保】
上場会社は、株主総会における議決権をはじめとする株主の権利が実質的に確保されるよう、適切な対応を行うべきである。

を補充するものです。

上場会社は、株主の権利の重要性を踏まえ、その権利行使を事実上妨げることのないよう配慮すべきである。とりわけ、少数株主にも認められている上場会社及びその役員に対する特別な権利(違法行為の差止めや代表訴訟提起に係る権利等)については、その権利行使の確保に課題や懸念が生じやすい面があることから、十分に配慮を行うべきである。

とされているのに関連したものです。

具体的には、圧力問題として

  • 定時株主総会に関する株主提案権の行使を事実上妨げようとした動きの有無・内容および東芝の関与
  • (同)議決権の行使を事実上妨げようとした動きの有無・内容および東芝の関与

があげられています。


第2章 議決権集計問題

これについては、先付処理の問題、それ以外の不正な処理の問題、東芝の議決権集計問題の認識・関与の有無があることは、上述しました。そこで、この章では、

「第1 はじめに」のあと、「第2 先付け処理の全体像」として、議決権行使書の配達プロセス、集計処理のプロセス、問題性についての検討がなされています。

また、「第3 先付け処理以外の不公正な処理の有無」において、議決権調査の全数調査の結果、他社の調査結果の報告、東芝の認識・関与の有無等が論じられています。

第4においては、東芝または同社の業務委託先から東芝経営陣に友好的な株主の身に対してインターネットによる議決権行使を促していた可能性が指摘されており、かかる事実の有無について調査がされています。

第2 先付け処理の全体像

これは、さらに1  調査の結果認められた事実関係(郵便局による議決権行使書の配達プロセス、料金受取人払い郵便の配達プロセス、株主総会繁忙期におけるJaSTへの特殊な配達運用)、2 先付け処理の問題性の検討 (株主総会繁忙期におけるJaSTへの特殊な配達運用について、議決権行使期限内に到達した議決権項支所を本来であれば、翌日に届くものとして無効と扱った処理(先付処理)について)にわけて検討されています。

検討結果について要点のみを述べると、

上述の先付処理は、

あくまでJaStにおいて大量の議決権行使書の集計を行う時間を確保するために、通常よりも早く配達するという目的のために行われていたものであり、日本郵便として、正しい郵便料金の徴収といった観点からの問題があるとしても本件調査の目的である、本定時株主総会が公正に行われたか、という観点では、公正でなかったとは判断できない

とされています(25頁)。

もっとも、この運用の結果

かかる先付け処理によって、行使期限内に到達した議決権項支所の一部が紀元後に届いたものとして無効(集計外)と扱われた。

この先付け処理について、SMTB自身も不適切であったと認めているように(SMTBによる(略)適時開示))、会社法第311条第1項および会社法施行規則第69条の定める議決権公式幻(株主総会の日時の直前の営業時間の終了時)までに到達した議決権行使書の一部について議決権行使を認めなかったことにより、議決権行使という株主の権利を侵害するものであるから、この点において本定時株主総会における議決権集計は不敵法かつ不公正であったことは論を俟たない

とされています。

もっとも、このような瑕疵について、東芝が認識していたかと、いう点については、このような処理についての東芝の認識を伺わせるメールが見当たらなかったこと、むしろ、株主から、議決権行使が繁栄されていないことを指摘するメールを受領した際に、「SMTBからはこのような報告を受領しておらず、寝耳に水の状況ですが、取り急ぎ共有いたします」と記載したメールを送信していること、さらに東芝として、調査申し入れをなし報告書を受領していること、さらに詳細な調査を受領していること、外部の法律事務所についてレビューを依頼していることなどが認定されており、そのような認定が事実に則したものであることが報告されている。

また、この点について委託者としての監督義務違反が認められるのではないか、という点について、SMTBが業界シェア42.3%を占めていること、株式事務代行のプロフェッショナル企業 と考えられたことなどから、監督義務違反の責任を問われるものではない、という認定がなされています。

第3 先付け処理以外の不公正な処理の有無

ここでは、議決権行使書の検証までにかかった日数、期限後に配達された行使書の行使状況など、SMTBが議決権行使書の集計作業を請け負った他の会社に対する処理の検証、監視カメラ映像の確認調査などがなされています。

この検証においては、会社側提案の賛成割合と、株主側提案の賛成割合とを、議決権行使期間内と同期間後に到着した行使書とで分けて分析したところ、会社において、不利となりゔく行使書を意図的に紀元後にしたのではないか、という仮説は、指示し得ないと判断がされています。

また、SMTBが、株主の個人情報がわからないのであれば、検証を認めるということになり、スキャンされた日までを検証したところ、東芝の処理の場合と特に異なるところはないとされています。

また、監視カメラの映像についても分析を試みましたが、この部分については、自動的に削除ずみで、一部が復元できたにすぎませんでした。

これらをもとに、きわめて詳細な検討がなされています。結論としては、これらについては意図的な不正は認定されていません。

第4 議決権行使期限直前のインターネットによる議決権行使についての疑念

会社提案に賛成し、株主提案に反対していたX社は、2020年7月27日消印で議決権行使書を郵送した。と、同時に、同月30日午後4時54分にインターネット議決権行使を行っていた(内容は同一)。これに対して、東芝がJaSTよる先付け処理を認識していて、同社の議決権行使書が先付け処理によって無効となることを回避するために地、友好的な同社に対してインターネットによる議決権行使に切り換えるように促していたのではないか、という疑念がある。

これに対して、聞き取り調査が行われ、自発的に念のためにインターネットでも行使をしたということであって、東芝が圧力をかけたという事実は認められていません。

第5 まとめ

この先付け処理の問題については、

不適法かつ不公正なものであったが、これについて東芝の認識および関与は認められなかった。そして、先付け処理以外には、、不適法あるいは不公正な点は認められなかった。

と認定がなされています。


第3章 圧力問題

第1 はじめに

ここで調査対象された事実としては、以下のものがあります。

  • 定時株主総会に関する株主提案権の行使を事実上妨げようとした動きの有無・内容および東芝の関与
  • (同)議決権の行使を事実上妨げようとした動きの有無・内容および東芝の関与

があることは上で紹介しましたが、具体的には、

本定時株主総会に関する株主提案権の行使を事実上妨げようとした動きの有無・内容及び東芝の関与について、東芝が経産省と連携して不当な影響を与えることによりエフィツシモ・3D【24】の株主提案の取下げを画策したか否か。もって、本定時株主総会が公正に運営されたか否か。
本定時株主総会における議決権の行使を事実上妨げようとした動きの有無・内容及び東芝の関与について、東芝が経産省と連携して不当な影響を与えることによりHMC (後 に定義)その他の株主125】の議決権の行使を事実上妨げようと画策したか否か、もって、 本定時株主総会が公正に運営されたか否か。
また、本調査者は、本定時株主総会が公正に運営されなかったと判断される場合、本件調査の結果から窺われる範囲で、その原因の一端について触れる。

と問題が設定されています。

第2 関係者の概要

ここでは、1 東芝関係者(東芝、各取締役)、2 外国投資家、3 経済産業省関係者 が記されています。

第3 背景事情

最初のところで触れました。

第4 事実の概要

1 本定時株主総会に向けての外国投資家の初期段階(3月ないし4月頃)の動向と経産省への支援要請

これはさらに、1)東芝と外国投資家とのコミュニケーション(HMC ・ エフイッシモ・3Dのそれぞれとのコミュニケーション) と 2)経産省への株主総会に向けての支援要請 にわけて論じています。 これらの詳細については、省略します。

2 株主提案取下げに向けた東芝・経産省の動向~「申入書」から株主提案公表まで
これはさらに、

(1)東芝・経産省の準備段階の動向(ア 経産省の指示による外為法に基づく調査等を求める「申入書」の提出、イ 車谷氏による官房長官への説明、エ K局長との面談と改正外為法に関する社内検討)、

(2)外国投資家との東芝・経産省の株主提案取下げに向けた動向 (ア エフイツシモの株主提案と東芝・経産省の株主提案取下げに向けた動向、ウ HMCとのコミュニケーション)

が論じられています。

3 取締役選任を巡る攻防~招集通知発送以後本定時株主総会まで
これはさらに、(1)本定時株主総会の招集通知の発送、(2) 3D提案取締役選任議案に対するエフイツシモの議決権不行使の経緯、(3)本定時株主総会の議決権の集計状況・票読み等の経産省・官房長官への共有、(4)第181期定時株主総会の開催にわけて分析されています。

特に、(3)本定時株主総会の議決権の集計状況・票読み等の経産省・官房長官への共有、においては、いわゆる各候補者ごとに議案に対する票読みが時系列的に詳細に分析されています。

4 「圧力問題」に関する本定時株主総会終結後の動き

ここでは、定時株主総会にHMCが議決権行使をしなかったこと、それが総会直前に日本のある人物から連絡を受けたことが原因であったことから、これに関する事実が論じられています。

第5 圧力問題の分析・評価

1 圧力問題の背景事情

これは、さらに

(1)本定時株主総会前の東芝の状況(最初に触れました)

(2)改正外為法について論じられています。

2  株主提案権の行使に係る圧力問題
(1)概要

これについて報告書は

本件調査において、改正外為法によりアクティビスト対応が可能となると期待していた東芝経営陣と、コロナ禍でのプロキシーファイトにより東芝の経営が混乱することを企業経営の安定や雇用維持等の観点から政策問題であると述べる経産省(特に商務情報政策局)との利害が一致し、両者が緊密に連携して、TSC不正会計問題に係るコンプライアンス上の問題提起を行い株主提案の可能性を匂わせていたエフィツシモに対して、本定時株主総会での株主提案を行使させず、行使した後には取り下げさせようと画策したことを窺わせる資料に接した。

とされています。

これらの認定について、

(2)株主提案表明前の動向

(3)株主提案表明後の動向

にわけて詳細な事実認定がなされています。

商務情報政策局ルート及び東芝は、エフィツシモの株主提案権の行使表明を受けて、上記(2)で検討されていた各種準備を5月29日頃までに急ピッチで実行し、その後、①安全保障貿易管理政策課による正式ルートの改正外為法に基づく手続の進行を巧みに活用し、これに加えて、②東芝による「太陽政策」と③商務情報政策局ルートによる趣旨不明瞭な「会話」を緊密に連関させることで、エフィッシモの株主提案を取り下げさせようとした。しかし、結局、エフィッシモは、高坂氏の取締役選任議案を取り下げたのみで、今井氏、竹内氏及び杉山氏の取締役選任議案に係る株主提案を維持し、同株主提案は、6月22日、公表された

ということです。

METIとの共同戦略というところで、この動きが詳細に認定されてます。

(4)本件調査者の評価

ここでは、

東芝及び商務情報政策局ルートがいわば一体となって行った一連の行為は、エフイツシモを排除すべきアクテイビストであると決めつけることから出発して、改正外為法上の当局の権限を発動させ、あるいは、かかる権限を背景とした働きかけによって、エフイッシモの株主提案に対処しようとしていたものと評価できる

としています。そして、

K課長は、当時、商務情報政策局情報産業課の課長であり、同課の所掌事務 (経済産業省組織令85条)に照らし、東芝の株主たる外国投資家と接触する業務上の必要性を有していたか否かについては強い疑念を抱かざるを得ない

ともされています。その結果、

一連の動きは、随所に法令等に抵触する疑いのある行為すら見受けられ、少なくとも改正外為法の趣旨を逸脱する目的で、不当に株主提案権の行使を制約しようとするものであると評価できる。そして、株主提案権は株主総会での議決権行使の前提であって極めて重要な株主の権利であり、また、既に述べたように、コーポレートガバナンス・コードが、「上場会社は、株主の権利の重要性を踏まえ、その権利行使を事実上妨げることのないよう配慮すべきである」(補充原則1-1③)と規定していることからすれば、このような東芝の所為は、本定時株主総会に係る株主の権利行使を事実上妨げることを意図して、株主に対して直接又は間接に不当な影響を与えたものといえる。
よって、本定時株主総会は公正に運営されたものとはいえないと思料する。

3 議決権行使に係る圧力問題

(1)エフイツシモの議決権行使に係る圧力問題

これについては、

商務情報政策局ルートから安全保障貿易管理政策課に対する影響が実際にあったことを認めるに至らなかった。

とされています。

(2) 3Dの議決権行使に係る圧力問題

東芝が商務情報政策局ルートに支援を要請し、これを受けた商務情報政策局ルートが3Dに対して接触することには、エフイッシモ提案に対して反対の議決権行使を行うように3Dを誘導する効果があったと認められ、この限りにおいても、東芝の所為は、3Dによるエフイッシモ提案の取締役選任議案への議決権行使につき、不当な影響を与えて事実上妨げようと画策したものといえ、コーポレートガバナンス・コードの規定なども考慮すれば、本定時株主総会は公正に運営されたものとはいえないと思料する

という認定がなされています。

(3) HMCの議決権行使に係る圧力問題

この部分については、経済産業省参与のMという人が出てくるわけですが、その関係では、

HMCが東芝との接触を拒絶しているにも関わらず、本定時株主総会の開催が差し迫った時期に、東芝の要望どおりの投票行動に変更させること、特に7月26日夜の協議にあたっては、HMCの投票に関する具体的な意向を把握し、それが東芝の経営陣にとって不都合であるために、議決権をすべて行使しないことを選択肢に含む形で、東芝の要望どおりに変更させることを意図して、経産省といわば一体となって、具体的にはK1課長を介して、経産省参与の地位にあるM氏に対してHMCと交渉を行うことを事実上依頼したことは、不当な影響により株主の権利行使を事実上妨げることを画策したものといえ、コーポレートガバナンス・コードの規定なども考慮すれば、本定時株主総会は公正に運営に運営されたものとはいえないと思料する

という認定がなされているところです。

4 結諭
以上のとおり、東芝は、本定時株主総会について、経産省といわば一体となり、エフイッシモの株主提案権の行使を妨げようと画策し、3Dの議決権行使の内容に不当な影響を与え
ようと画策し、さらには、HMCについてはその議決権全てを行使しないことを選択肢に含める形で投票行動を変更させる交渉を行うようM氏に対して事実上依頼した。
よって、本定時株主総会が公正に運営されたものとはいえないと思料する。

さらに

第6 原因の一端

で、

監査委員会が、経営陣がMETIを利用して、株主に対して不当な干渉をしていた事実をメールを閲読していたにもかかわらず、

2021年2月17日付けの「ECMによる株主総会招集請求に係る監査委員会の見解」により、取締役会に対して東芝がHMCに対する不当な干渉に関与したことは認められなかったと報告し、本件調査者選任に係る株主提案について反対することを株主に推奨することが相当であるとの見解を示した。このことからすると、東芝の監査委員会は、2021年2月頃の時点で、執行役が株主の権利行使を妨げようとするなどのガバナンス上の重大な問題行為の端緒に触れてもこれを問題視して報告したり調査を行うなどの行動に出ようとしないという意味で、その牽制機能を十分に果たせない側面を有していたと考えられる。

という報告がなされているところです。

第七 結語

ということで、公正に運営されたものとはいえないという認定がなされています。

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この報告書については、その内容、特に、東芝の会社経営者が、経済産業省と連絡を密にしながら、株主総会を公正に運営しなかったという内容からも衝撃をよんだものといえます。

「異形の企業統治 東芝調査報告書に見る政官民のなれ合い 編集委員 小平龍四郎」が、代表的なものです。

もっとも、これに対する反論もなされています。

「東芝総会、国が介入」報告書指摘 経産省は5月に否定

首相、車谷氏からの説明否定 東芝調査報告書


感想

実体法的なものとしては、経営陣の会社としての意見表明と不公正な運営の関係について、自分としては、もうすこし調べたいなあと思いました。

金融庁から「投資家と企業の対話ガイドライン」が出されているのですが、経営陣が株主の代理人として、一定の株主の意見と対立した場合に、どのような法理で対応するのか、というのは、ひとつの問題であるように思えるのです。「友好的企業買収における被買収会社の取締役の責任」ですと、企業買収の際に同様な問題が発生すること、その法的な分析の手法として

  • 善管注意義務と忠実義務の観点
  • 株主価値最大化原則からのアプローチ
  • 信認義務からのアプローチ
  • レブロン義務からのアプローチ
  • 取締役の株主保護義務からのアプローチ

などから分析ができるとされています。

この点については、理屈としては、取締役(D)は、株主の代理人であるべきであるが、株主全体(U)のために信認義務を果たす場合に、一定の株主(A)が、短期的利益、もしくは、濫用的に自己の利益を追求している場合には、株主は、その信認義務の履行として、Aに反対しなければならないことになる。そうはいっても、この判断は、微妙であり、Dが、U のためといって、むしろ、D自身の利益を優先させることも起こりうることになります。こんなイメージです。

 

 

 

 

 

 

 

この「Aに反対しなければならないことになる」というのの限界は何なのか、ということになります。株式の取得による企業買収では、取締役会は当該 TOB に関して意見表明報告書を提出する必要がある(金商法27条の10)を例にとるまでもなく、

上場会社は、株主の権利の重要性を踏まえ、その権利行使を事実上妨げることのないよう配慮すべきである。

といったところで経営陣は、株主の提案等に対して、意見を表明してはならないとなるわけではないのは、当然です。では、それを越えて、

権利行使を事実上妨げる

ような行動というのは、どういうものなのか、一定の基準がほしいなあと思います。この件については、METIの関係者と一体となった行動、また、法の解釈という枠を越えた外為法のこじつけというのが、いかにも、昭和なニホンということで、不公正と表現されたわけかと思います。

このあたりの米国あたりの法理とかも調べたいなあと思ったりしています。


そして、個人的には、デジタルフォレンジックスが活用されたという点が注目に値すると感じたところでした。その点を指摘する記事としては、

AIメール分析が威力/弁護士らに強力な権限 総会調査報告書

を挙げることができます。

報告書自体も、具体的な担当者、手法、ベンダ名を明らかにしています。また、報道も

関係者ら7⼈について計52万件以上の電⼦メールと25万件以上の添付ファイルを専⽤ソフトで解析。デジタルフォレンジックと呼ばれる分析技術で、危機管理に詳しい早川明伸弁護⼠は「今や不正調査に⽋かせない⼿法」と話す。

と報道しています。

あと、報告書を読んでいくと、車谷氏のメールが少ないので、意図的な消去ってどう、とつい考えるところで、この事実認定について

事実関係の多くは調査者が接した東芝社内のメールサーバーから得たメール及びファイルデータに依拠するものであることから、社内メールでのやり取りが多く残されていた加茂氏、豊原氏らに関する言及が多く、他方、社内メールでのやり取りが極端に少なかったK氏に関する言及が少ないことを付言しておく。

この車谷氏については、電話や直接対話での連絡を多用し、携帯電話のショートメッセージ(SMS)を補助的に使用していたということが注でしるされています。(詳しくは、調査報告書53頁参照ください)となっていて、フォレンジックス目線でみる場合にもきちんと耐えられるものになっています。

ITリサーチ・アート社でデジタル・フォレンジックスの概念等をまとめています。が、サイトのデザインを変更したときに、リンクが崩れてしまいました。近いうちに修正しておきます。ご容赦のほどを。

 

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