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プロバイダは「法定専門職」か?-令和3年3月18日 最高裁判所第一小法廷決定

「デジタル証拠の法律実務Q&A」は、2015年に発売された本ですが、大変好評をいただいております。しかしながら、さすがに、企画からすると、10年近く経過しており、新しい判決令などもフォローして、新版にするという準備とかもそろそろしないといけないのではないか、ということも考えているところです。

そのような新しい判決のひとつとして、令和3年3月18日 最高裁判所第一小法廷決定があって、きわめて興味深い判断が示されていますので、ちょっと見ておきます。

この判決は、

  • 電気通信事業に従事する者及びその職を退いた者は、民訴法197条1項2号の類推適用により、職務上知り得た事実で黙秘すべきものについて証言を拒むことができるとされた事例
  • 電気通信事業者は、その管理する電気通信設備を用いて送信された通信の送信者の特定に資する氏名、住所等の情報で黙秘の義務が免除されていないものが記載され、又は記録された文書又は準文書について、検証の目的として提示する義務を負わないとされた事例

とされています。

1 事実関係

この事実関係は、下の図で示すことができます。

受信者Aは,動画配信サービス等の提供に係るウェブサイトを開設しているところ,そこに設けられている問合せ用フォームを通じて,脅迫的表現を含む匿名の電子メール(以下「本件メール」という。)を受信した。

本件メールは,プロバイダBの管理する電気通信設備を用いて送信されたものでした。Aは,プロバイダBに対して、本件メールの送信者に対する損害賠償請求訴訟を提起する予定であるとして,その送信者の氏名,住所等(以下,電気通信の送信者の特定に資する氏名,住所等の情報を「送信者情報」という。)が記録された電磁的記録媒体等(以下「本件記録媒体等」という。)につき,訴えの提起前における証拠保全として,検証の申出をするとともに抗告人に対する検証物提示命令の申立て(以下「本件申立て」という。)をしたという案件です。

原審( 令和 2年 2月12日 東京高裁 決定 令元(ラ)2230号)は、

原審は,電気通信事業に従事する者には民訴法197条1項2号が類推適用されるとした上で,要旨次のとおり判断して,本件申立てを認容すべきものとした。
本件メールが明白な脅迫的表現を含むものであること,本件メールの送信者情報は本件送信者に対して損害賠償責任を追及するために不可欠なものであること,本件記録媒体等の開示により本件送信者の受ける不利益や抗告人に与える影響等の諸事情を比較衡量すると,本件記録媒体等に記録され,又は記載された送信者情報は保護に値する秘密に当たらず,抗告人は,本件記録媒体等を検証の目的として提示する義務を負う。

としていました。これに対して、プロバイダBが抗告しました。

2 判示事項

しかしながら、最高裁は、

 (1) 民訴法197条1項2号は,医師,弁護士,宗教等の職(以下,同号に列挙されている職を「法定専門職」という。)にある者又は法定専門職にあった者(以下,併せて「法定専門職従事者等」という。)が職務上知り得た事実で黙秘すべきものについて尋問を受ける場合には,証言を拒むことができると規定する。これは,法定専門職にある者が,その職務上,依頼者等の秘密を取り扱うものであり,その秘密を保護するために法定専門職従事者等に法令上の守秘義務が課されていることに鑑みて,法定専門職従事者等に証言拒絶権を与えたものと解される。

として、その上で

電気通信事業法4条1項は,「電気通信事業者の取扱中に係る通信の秘密は,侵してはならない。」と規定し,同条2項は,「電気通信事業に従事する者は,在職中電気通信事業者の取扱中に係る通信に関して知り得た他人の秘密を守らなければならない。その職を退いた後においても,同様とする。」と規定する。これらは,電気通信事業に従事する者が,その職務上,電気通信の利用者の通信に関する秘密を取り扱うものであり,その秘密を保護するために電気通信事業に従事する者及びその職を退いた者(以下,併せて「電気通信事業従事者等」という。)に守秘義務を課したものと解される。そうすると,電気通信事業従事者等が職務上知り得た事実で黙秘すべきものについて尋問を受ける場合に証言を拒むことができるようにする必要があることは,法定専門職従事者等の場合と異なるものではない。
したがって,電気通信事業従事者等は,民訴法197条1項2号の類推適用により,職務上知り得た事実で黙秘すべきものについて証言を拒むことができると解するのが相当である。

としています。

そして、

電気通信事業法4条1項が通信の秘密を保護する趣旨は,通信が社会生活にとって必要不可欠な意思伝達手段であることから,通信の秘密を保護することによって,表現の自由の保障を実効的なものとするとともに,プライバシーを保護することにあるものと解される。電気通信の利用者は,電気通信事業においてこのような通信の秘密が保護されているという信頼の下に通信を行っており,この信頼は社会的に保護の必要性の高いものということができる。そして,送信者情報は,通信の内容そのものではないが,通信の秘密に含まれるものであるから,その開示によって電気通信の利用者の信頼を害するおそれが強いというべきである。そうである以上,電気通信の送信者は,当該通信の内容にかかわらず,送信者情報を秘匿することについて,単に主観的利益だけではなく,客観的にみて保護に値するような利益を有するものと解される。
このことは,送信者情報について電気通信事業従事者等が証人として尋問を受ける場合と,送信者情報が記載され,又は記録された文書又は準文書について電気通信事業者に対する検証物提示命令の申立てがされる場合とで異なるものではないと解するのが相当である。

と判断しています。

3 論点についてのコメント

まとまっている資料として岩田合同法律事務所のニュース、あと、Westlawの新判例解説などもアクセスすることができます。

論点としては、

(1)電気通信事業に従事する者及びその職を退いた者に対して、民訴法197条1項2号の類推適用がなされるのか

(2)通信の送信者の特定に資する氏名、住所等の情報は、比較考量を経ないで、保護がなされるか(絶対的な保護といいます)

ということだろうと思います。

民訴法197条1項2号の類推適用

これについては、

法定専門職従事者等に証言拒絶権を与えたものと解されており,個人の秘密を保護する趣旨から法令上の守秘義務を課されている者には同号が類推適用されるとする見解が多数である(谷口安平ほか編『注釈民事訴訟法(6)』314,315頁〔坂田宏〕等)。

だそうです。ただし、個人的には、すごく、この点については、違和感が残るところです。

Friednthal “Civil Procedure”をもとに、異論のない非開示特権としては、

  • Lawyer-client(米)、Legal professional priviledge
  • doctor-patient
  • Priest-pentient
  • husband-wife

があります。

あと、証言が限定される特権としては

  • 自己負罪拒否
  • 配偶者の証言拒絶
  • 警察の情報提供者の証言拒絶

があります。それでもって、上記Friednthal だと「准特権(semi-プリビレッジ)」が注目を浴びているということだそうです。

一方、電気通信事業者のもとでの発信者等の情報については、刑事についての考え方ですが

個人は、自らのコントロールのもとにある電子的情報についてプライバシーの合理的な期待を有していても、そのコントロールを第三者に対して放棄することにより、第4修正の保護を失うことがある。例えば、調子の悪いコンピュータを修理店にもっていったり、フロッピーディスクを友人に手紙で送付するなどして、電子的情報が収められた媒体を第三者に引き渡すことが、あるかもしれない。そうでなければ、ユーザが、インターネットを通してデータを送るなどして、情報を電子的に第三者に伝達するということもあり得る。犯罪の証拠の獲得につながる可能性のある情報を第三者が保有していると知った場合、法執行官はそれを調べてみようと考えるかもしれない。第4修正のもと、情報を調べるに際し法執行官が令状を入手する必要があるか否かは、まず第1に、第三者が保有しているという事実によりプライバシーへの個人の合理的な期待が排除されているかどうかに懸かっている。

として、特権が存在しているというような考え方はされていないのです(司法省の捜索・差押ガイドラインの表現です-第三者ドクトリンです)。次のいわゆる通信データ部分の保護の程度の問題にも関連しますが、通信データの保護については、合理的なプライバシーの期待があるか、というので判断される枠組みになっています(基地局位置データ履歴についいてU.S. Supreme Court Holds that Historical Cell Site Location Data Is Subject to a Reasonable Expectation of Privacy)。

(もっとも、「合理的なプライバシーの期待」といっても一概にいえないので、制定法で定めているのは、いうまでもないことです。)

また、情報の性質との関係での利益考量という考え方は、実は、他の事案でも示唆されているわけです。それについては、「「信書の秘密」の数奇な運命、そして、「通信の秘密」-「裸の王様」としての「通秘論」」で触れたのですが、平成28年10月18日 裁判所名 最高裁第三小法廷 裁判区分 判決 事件番号 平27(受)1036号 事件名 損害賠償請求事件 で、岡部喜代子裁判官は補足意見で。

転居届に係る情報は,信書の秘密ないし通信の秘密には該当しないものの,郵便法8条2項にいう「郵便物に関して知り得た他人の秘密」に該当し,上告人はこれに関し守秘義務を負っている。この場合,23条照会に対する報告義務の趣旨からすれば上記報告義務に対して郵便法上の守秘義務が常に優先すると解すべき根拠はない。各照会事項について,照会を求める側の利益と秘密を守られる側の利益を比較衡量して報告拒絶が正当であるか否かを判断するべきである。

といっています。情報が、通信の構成要素であるかどうか、という点について異なっているので、なんともいえないのですが、そもそも、通信データ部分は、上のアメリカのコメントでもわかるように電気通信事業者に対して提供されている段階で、社会の他の利益(たとえば、裁判における真実の発見など)との利益考量が当然に念頭に置かれているとすべきというのが私の意見になります。

結局、外国の法制とかとのバランスも失するガラパゴス通信法を構築されているし、そのことはなかなか指摘されないんだろうなあ、という感じです。

氏名、住所等の情報は、絶対的な保護か?

でもって、今一つの問題は、氏名、住所等の情報というのは、通信についていえば、通信の内容ではないわけで、それについても、真実の追求という裁判の価値をも上回るいわば、絶対的な保護がなされるべきものなのか、ということになります。

これについては、

電気通信事業法4条1項は,「電気通信事業者の取扱中に係る通信の秘密は,侵してはならない。」と規定し,同条2項は,「電気通信事業に従事する者は,在職中電気通信事業者の取扱中に係る通信に関して知り得た他人の秘密を守らなければならない。その職を退いた後においても,同様とする。」と規定する。これらは,電気通信事業に従事する者が,その職務上,電気通信の利用者の通信に関する秘密を取り扱うものであり,その秘密を保護するために電気通信事業に従事する者及びその職を退いた者(以下,併せて「電気通信事業従事者等」という。)に守秘義務を課したものと解される。そうすると,電気通信事業従事者等が職務上知り得た事実で黙秘すべきものについて尋問を受ける場合に証言を拒むことができるようにする必要があることは,法定専門職従事者等の場合と異なるものではない。

となっているのですが、そもそも電気通信事業法4条1項の名宛人は、何人もなので、「これらは,電気通信事業に従事する者が,(略)電気通信事業に従事する者及びその職を退いた者(以下,併せて「電気通信事業従事者等」という。)に守秘義務を課したものと解される。」というのは、表現として妥当ではありません。

氏名、住所等の情報という、通信データの部分の情報が、同法1項で保護されるのか、ということです。これについては、韓国の解釈を見てみましょう。

韓国の電気通信事業法は、第83条第1項 で「何人も電気通信事業者が取扱中の通信の秘密を侵害し、又は漏えいしてはならない。」と定め、また、同条第2項は、「電気通信業務に従事している者、又は従事していた者は、在職中に通信について知り得た他人の秘密を漏洩してはならない。」としています。ここで、1項は、通信(内容)、2項は、通信データ部分を意味すると解されています。この解釈は、実は、わが国の電気通信事業法制定直後の解釈とも同一であると考えられます(これは、「通信の秘密の数奇な運命(制定法)」で論じました)。

また、同法第83条1項に違反した場合、3年以下の懲役又は1億5千万ウォンの罰金の刑罰が課される(第95条第7項)。また、電気通信事業者が同条第2項に違反した場合は、より重い、5年以下の懲役又は2億ウォンの罰金の刑罰が課される(第94条第2項)。

これに対して日本では、

送信者情報は,通信の内容そのものではないが,通信の秘密に含まれるものであるから,その開示によって電気通信の利用者の信頼を害するおそれが強いというべきである。

として、電気通信事業法4条1項で保護されると(近頃は?)解せられています。なお、刑事罰からいくと、1項違反しかありません(同法179条)。

図示すると以下のような感じです。

 

 

 

 

 

 

 

最高裁の決定がでてしまっているのでどうしようもないわけですが、通信の秘密についての第三者ドクトリンの存在、通信データについての相対的な保護というアプローチがなりたちうること/英米は、そのようなバランス感であること/通信の内容と通信データの保護に違いがあることは、もうすこし、一般的な理解がふえるといいなあと思っています。

 

 

 

 

 

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