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ハート・スコット・ロディノ法は、1976年に定められて、これよってクレイトン法7条が改正されて、合併についての事前届出制が、採用されました。
この事前届け出制については、取引のサイズの閾値(HSR Size of Transaction(SOT) threshold)というのがあります。この閾値よりしただと届出しなくていいわけです。Pillsbury Winthrop Shaw Pittmanの「2021 年の企業結合取引に適用される HSR 法の届出基準が減少」によりますと、
HSR 法に基づく取引規模が 9,200 万ドルを超えない限り、改定後の基準の下では原則、取引は届出対象とはなりません。取引価格が 9,200 万ドルを超え 3 億 6,800 万ドル以下の場合、買収当事者と被買収当事者の「究極の親会社(ultimate parents)」が最低限の「当事者規模要件(size-of person test)」も満たさない限り、その取引は届出対象とはなりません。
とのことです。
でもって、FTCは、2020年2月にアルファベット(グーグルの持ち株会社)、アマゾン、アップル、フェースブック、グーグル、マイクロソフトについて、上述の閾値以下の合併についての報告をなす特別の命令を出しています。これに応じた報告がなされたわけです。
この報告についてのプレスリリースは、こちらです。 報告書(Non-HSR Reported Acquisitions by Select Technology Platforms, 2010–2019:An FTC Study)自体はこちらです。
報告書も興味深いものですが、とりあえず、プレスリリースの訳です。
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今回の調査では、100万ドル以上の価格で取引された616件の取引(採用活動や特許取得は除く)を対象としました。その結果、以下のことがわかりました。
また、この報告書に関しては、委員のコメントが付されています。
リナ・カーン委員長のコメントは、こちら。訳してみましょう。
連邦取引委員会の取締りでは、デジタルプラットフォームがいかにして競争から抜け出すかに焦点が当てられてきましたが、本調査では、彼らの買収戦略の体系的な性質が浮き彫りにされています。今回の調査では、デジタルプラットフォーム企業が、新興企業、特許ポートフォリオ、技術者チーム全体の買収に多大な資源を投入してきたこと、そして、それを我々の目の届かないところで行ってきたことが明らかになりました。私の考えでは、今回の調査結果は、いくつかの重要な政策分野に注目すべきである。
まず、今回の調査では、ハート・スコット・ロディーノ法の下での報告義務を精査し、FTCが抜け道を作って不当に取引が水面下で行われるようにしている可能性がある分野を特定する必要性が強調されています。HSRに対するより広範な改革が求められている一方で、反トラスト機関は、我々にハンディキャップを与えるような過度に寛容な解釈にも注意しなければなりません。競争局は最近、ある種の抜け穴を塞ぐために有益な措置を講じており、我々はこの重要な作業を継続しなければなりません。
第二に、非報告の取引のうち、国内の資産や企業の買収に関わるものが3分の2以下であることは注目に値する。この数字は、デジタル市場を精査する上で重要な専門知識を持つ海外のカウンターパートとの緊密な連携・協力の重要性を示しています。私は、FTCが、情報の非対称性を緩和し、分析の厳密性を高めるために、幅広いツールとスキルセットの制度化に優れたパートナーから学んでいることを特に強調したいと思います。
第三に、データによると、企業が取引を設計する際に非競争が重要な役割を果たしており、買収の76%以上に被買収企業の創業者や主要従業員に対する非競争条項が含まれていました。デジタル市場の企業が、買収を利用して人材とともに重要な資産を囲い込んでいる可能性を探ることは、価値のある研究分野となるでしょう。
連邦取引委員会は、これらの調査結果を既存の作業のギャップを埋めるために使用することを確認する必要がありますが、私は、この調査が、反トラスト法の改革を検討している法律家にとっても有用であることを願っています。現行法では、買収の潜在的な競争上の重要性の大まかな代用として取引規模を用いていますが、特にデジタル市場では、小規模な取引であっても警戒が必要であることがわかります。
カーン氏の「アマゾンの反トラストのパラドックス」では、Quidsi社(Diapers.com (赤ちゃん用品)、Soap.com (家庭用品)、BeautyBar.com (美容品))に対する買収提案・拒絶・アマゾンの徹底的な対抗・最終的に買収という戦略的行動が描かれていました(同論文 Ⅳ構造的ドミナンスの確立 B Quidsi社の買収と参入・退出障壁についての誤った認識 )。
解釈論としては、上記各製品ごとのインターネット通信販売の状況がどうなっていたのか、とかのここの解釈問題は、ありますが、このような合併戦略の問題が、FTCの最重要ポイントであるというのは、興味深いものであるということができるでしょう。とは、いっても買収か(buy)・(略奪的価格による)埋没(bury)か作戦(韻を踏むなら、エムエーかもうええか作戦でしょうか。-フェースブック事件のエントリは、「買われるか、埋められるか、それが問題だ”buy-or-bury”」-逐次ゲームでのコミットメントとFacebookの訴状の修正こちら)
また、合併にともなう競業避止条項も問題があるのではないか、というのが、FTCの関心事であることがわかります。もっとも、この問題も、結局、競業避止が禁止されたら、されたら、その会社の価値が下がるということになるのでしょう。結局、このようなデメリットと競業避止の禁止によるメリットを比較できるのか、という問題が生じてくるように思えます。