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日本におけるeディスカバリーのドキュメントレビューのメリット・デメリット

Remu Ogaki弁護士の「日本におけるeディスカバリーのドキュメントレビューのメリット・デメリット」(The Pros and Cons of Conducting eDiscovery Doc Review in Japan)という論考が、LLM Law Reviewから、公開されています。

当事務所においても、eディスカバリのドキュメントレビューのレビュー・マネジメントを行っています。(お問い合わせがあれば、健在までに担当した具体的な案件の概要は、守秘義務に反しない限度で、お伝えできます。)

CJKグループのディスカバリのプロジェクトに際しては、弁護士によるレビューをお手伝いさせていただきました。

また、カタリストさんが日本に本拠がありました時点は、ビジネス的にいい関係を築かせていただきまして、同社のInsightという予測的タグ付けのプラットフォームを実際に利用させていただきたときは、非常に勉強になったものです。(Opentextがカタリストを買収したこともあり、カタリストの業務が日本を撤退したのは、本当に残念です)

ということで、日本において、eディスカバリーのドキュメントレビューをするメリット・デメリットについて、論文を紹介しながら、検討していきたいと思います。

Ogaki論文は、

非弁護士の外国語レビュー、「名前にはどんな意味があるのか」アメリカのバイリンガルのパラリーカル、日本のパラリーガル・言語の技術、日本のパラリーガル・法的知識、ベストプラクティス(東京eディスカバリレビュー)からなりたっています。特徴としては、法的な観点からのメリット・デメリットについての考察については、特にふれておらずに、実際的なレビューチームの構成からする、それぞれの特徴をのべていることがあります。

法的な観点からのメリット・デメリット

この論文でふれられていないこと(今後論じるとされています)ですが、アメリカにおける執行管轄権が存在する場所に事案に関するデータが、ドキュメントレビューのために存在する場合には、アメリカの執行当局が、強制的にそのデータの提出を求めうるということになります。これが問題になった事案として、2010年12月、米国の第9巡回控訴裁判所の事件があります。

日本企業を含む液晶パネル業界の独占禁止法違反に関して司法省が2006年に開始した調査に端を発した事件に関する判決です。司法省による刑事調査が明らかになったことで、多数の関連する民事訴訟が提起され、被告の外国企業は、大量の文書を証拠として提出しており、司法省は、当該企業の代理人として文書を国内に保管していた4つの法律事務所に対して大陪審による文書提出命令を発行することで入手を試みました。カリフォルニア州控訴裁判所は、政府は大陪審の管轄下に移った文書を入手することができるとし、司法省による独占禁止法違反の刑事調査において、米国の法律事務所が保持する外国企業の文書が、大陪審による文書提出要請(subpoena)の対象となり得るとの判断を下しています 。

この判断を受けて、近時は、米国外に保存されているデータをレビューするに際し、米国の法律事務所からは、その米国外のデータに対するアクセスを遮断して、ドキュメントレビューをするという対抗策がとられています。

なお、私が編集代表となった「デジタル法務の実務Q&A」の Q21 国際的レビューでも、この点についてふれています。なので、このOgaki論文で触れられている事項に加えて、事案をハンドリングする弁護士は、レビューの場所を決めることになります。

 

では、Ogaki論文をみていきましょう。

 

 

 

 

 

非弁護士の外国語レビュー

ここでは、日本におけるeDiscoveryはほとんど弁護士以外の人が行っているということに留意すべきことが語られています。私が、マネージする場合には、レビューアーにも、若手の弁護士さんで構築することが一般ですが、そのような例は、きわめてまれになります。Ogaki論文では、フリーランスの弁護士のコミュニティは存在しないことにも注意が必要としていますが、そのとおりではありますが、時間的な従事時間をよりフレキシブルに設定すれば、日本おいても、若手の弁護士によるレビューチームを構成することができます。

請負のレビューアーとして非弁護士が利用されるというのは、米国の場合は、限られた場合ということになりますが、日本でレビューが行われる場合には、むしろ、一般的な場合となります。Ogaki論文では、

一般的には、その言語のライセンスを持つ弁護士の数が極端に不足している特定の言語でのみ行われています。 日本語はそのような言語の一つで、バイリンガルのパラリーガルeDiscoveryワーカー、言語スペシャリスト、バイリンガルの弁護士が仕事を分担することも珍しくありません。

とされています。

レビューアーをその人材からみるときには、弁護士、パラリーガル、経験あるレビューアーとがあります。Ogaki論文では、「バイリンガルの弁護士(米国または日本でライセンスを取得)、米国のバイリンガルの非弁護士レビューア、日本で活躍するバイリンガルの弁護士以外のレビュアー」とされています。

実際のところ、我が国においては、この分野でレビューアーを派遣で間に合わせて、派遣の従業員として、法的な基礎トレーニングを受けていない者がレビューアーをするチームを組むことについて何ら意に介さない(コントロールをする)弁護士や依頼者がいるというのが、実際のところです。個人的な意見ですが、レビューのクオリティコントロールは、それぞれの日のレビューの結果のバラツキとプロトコルのブラッシュアップで行ってほしいところで、それらは、レビューアーのクオリティにかかってくるので、我が国での弁護士チームでのレビューをおすすめするところではあります。

Ogaki論文に戻ります。

「名前にはどんな意味があるのか」アメリカのバイリンガルのパラリーカル

まず理解していただきたいのは、アメリカと日本ではバイリンガル・パラリーガルに求められる業界標準の資格が全く異なるということです。

私個人的には、アメリカのパラリーガルの資格について知らないので、ちょっと検索すると

パラリーガルの学位または修了証プログラムを受講する
パラリーガルが就職するには、一般的に何らかの正規の教育を受ける必要があります。一般的にコミュニティカレッジは2年間のパラリーガルプログラムを提供し、カレッジや大学は4年間のプログラムを提供しています。いくつかの組織は、2年間の学位または証明書を持つ候補者を雇うが、パラリーガル協会の全国連合は、雇用者がますます4年間の学位を持っているパラリーガルを必要としていると主張し、すべての意欲的なパラリーガルは、学士号に向かって働くことをお勧めします。パラリーガル研究と法律研究の学士号プログラムはどちらも一般的です。リーガルアシスタントの全米協会(NALA)とパラリーガルの全国連合(NFP)を含むほとんどの専門機関は、米国弁護士会(ABA)によって承認されているプログラムを選択することをお勧めします。利用可能なパラリーガルプログラムの詳細については、パラリーガル学位センターで確認できます。

という記述が見受けられます(How to Become a Paralegal: Career and Salary Information)。

一方、アメリカのパラリーガルでレビューアーを構築する場合には、一番の関心事は日本語能力ということになります。

もっとも、アメリカ国内でレビューを行う場合には、このようなバイリンガルのライセンスをもったフリーランスの弁護士のコミュニティ/マーケットが存在しているので、この日本語の能力というのは、それほどではないかもしれません。

日本のパラリーガル・言語の技術

対照的に、日本のバイリンガル・パラリーガルは、ネイティブレベルの日本語能力と、日本に関する高度な文化的知識が保証されています。 懸念されるのは、英語力です。

まさに、英語の表現については、その読解力がどの程度なのか、という問題があるかもしれません。

そして、実際の問題は、むしろ、

コーディングプロトコル(法律事務所から校閲者への指示)のような複雑な法的指示を英語で理解することは現実的ではありません。

また、単にトレーニングや指示だけではなく、英語と日本語の文書が混在しているケースも少なくありません。 日本人のレビューアーが英語の内容を正確に理解できるようにすることは、しばしば大きな課題となります。

とされています。まさに、このプロトコルの理解をレビューアーに徹底させて、場合によっては、ここのレビューアーが発見した問題点をプロトコルを決定する弁護士チームに伝えてプロトコルを充実させていくかというのが、実務の肝というところになるか思います。

日本のパラリーガル・法的知識

Ogaki論文は、このあと、日本のレビューアーにおいて、ディスカバリーや秘匿特権といった概念は、全く文字通りの外国語であるとします。さらに、独占禁止法が厳しく取り締まられていることを知っているという感覚が、日本においては乏しいために、

日本人がアメリカの法律で「反競争的」とされる行動を認識できるようにするには、文化的にもっと広範囲なトレーニングを受けなければなりません。

としています。この点は、日本においてバラリーガルが、あまり専門的な教育を経ていないということを前提とするようで、あまり賛同できる評価とは思えないのですか、全般的な傾向としてはありうるかもしれません。もっとも、派遣の(専門的な知識のない)レビューアーに依頼している日本のベンダーのサービスにおいては、そのような懸念があるのかもしれません。

その意味で、日本の若手弁護士によるレビューチームには、このような懸念は、全く当てはまらないところです。

ベストプラクティス(東京eディスカバリレビュー)

そこで、東京でeDiscoveryのレビューを行うのについては、レビューアーのクオリティの問題から、問題があるようにも終えもえるが、東京でのレビューは、eDiscoveryを行う上で費用対効果の高いオプションとなり得ますという議論がなされています。

個人的には、日本語のドキュメントがメインであれば、東京でeDiscoveryのレビューを行うのが、1stの選択肢になるものと考えます。

Ogaki論文は、

このようなレビューでは、経験豊富なバイリンガルのアメリカ人弁護士をプロジェクトマネージャーとして起用することが絶対に必要です。

としています。

これは、
-また、日本のレビューチームの英語力は限られているため、レビューチームとケースチームの間の情報のパイプ役となる必要があります。
-プロジェクトマネージャーは、マネージング・アソシエイトから日本のレビューチームへの様々なガイダンスやアップデートを、日本語の指示に素早く変換する能力も必要です。
-また、綿密で広範な品質管理も必要です。

ということになります。まさにOgaki弁護士のような役割が、肝になるということです。

事案のコントロールを行う法律事務所の弁護士(ケースチーム)と、レビューチームとの間のコミュニケーションを充実させて、その結果、プロトコルを変更・修正・補充などで充実させて、また、実際のレビューで、見つかったいろいろなドキュメントの法的な問題点、争点に対する効果などを弁護士チームに伝達することになるかと思います。これらの作業は、レビューの作業としての重要なポイントであり、腕の見せ所です。

私も、ドキュメントレビューのマネージメントの機会がありましたら、レビューチームとケースチームの間の情報のパイプ役としての役割を考えていきたいなと思っていたりします。

 

 

 

 

 

 

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