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「プロ人材、移籍制限歯止め 公取委、独禁法で保護 働き方、自由度高く」という記事が出ています。いくつかの点についてコメントをすることができるかと思います
まずは、この記事の「雇用契約に類するものには独禁法は適用しがたいと考えて運用している」という1978年の発言について、法的には、どのように位置づけられるのか、ということでしょうか。
週刊誌的には、「吠えない番犬」時代の発言ということになりそうですが、法的には、労働市場については、独禁法は適用されるのか、という点が問題になります。
まずは、労働市場における被用者側におけるカルテル行為については、独占禁止法が適用されないということでいいかと思います。そもそも、労働組合は、労働市場を制限する団体であり、自由市場を念頭におく法的な仕組みでは、違法とされうる存在になるわけです。労働組合法は、それを独占禁止法の適用範囲外とすることが当然の前提になっているという理解でいいかと思います。
わが国では、労働組合と独占禁止法の関係ってあまり意識されていないような感じでしょうか。米国では、1806年には、フィラデルフィア・コードウェイナー事件があって、労働組合に刑事共謀の理論が適用されており、その後、1908年、米国最高裁判所は、ダンバリー帽子工事件で、独占禁止法が労働者にも適用されるとの結論を出しました。米国の労働法は、その後、クレイトン法6条・20条によって、労働組合に対する適用禁止によって、一つの新しい段階に移行したということができます。わが国の文脈に置き換えると、労働組合法自体が、独占禁止法の適用除外に関する特別法として発展してきた、ということになるかと思います。(この部分については、ウイリアム・グールド著 松田保彦訳「アメリカ労働法入門」12頁以下)
参考までに、
クレイトン法(Clayton Act 1914) 第6条
人間の労働は、商品もしくは商業の客体ではない。反トラスト法は、相互扶助 (mutual help)の目的のために設立され、かつ、資本金を有せず(not having capital stock)、もしくは営利を目的としない(not conducted for profit)労働、農業、または園芸団体の存在および運営を禁止し、またかかる団体の各構成員がその適法な目的を適法に遂行することを禁止し、また制限するものと解してはならない。また当該団体もしくはその構成員を、反トラスト法による取引制限の違法な結合(combinations)または共謀 (conspiracies)とみなしてはならない。
(これについては、 独占禁止法適用除外制度に関する資料(増補)堀越 芳昭(山梨学院大学 教授))
クレイトン法20条は、合衆国におけるいかなる裁判所も回復し得ない損害が生ずることが示され、そのため適切な法的救済が存在しないという場合でない限り、「使用者と被用者の間、あるいは被用者間もしくは雇用されているものと雇用を求めているものとの間における雇用ないし労働条件に関する争議のからんだ、もしくは、それより発生した事件」においては、規制的命令もしくは差止命令を裁可してはならない」と定めています(前出 グールド 22頁)
では、雇用主側は、どうでしょうか。この点について、わが国の動向について、詳しく論じたブログがあります。「雇用契約と競争法(2)公取委の見解」では、この経緯が詳細に触れられています。また、「労働契約への独禁法の適用」でも、植村弁護士が検討しています。
IT業界的には、(黒)ジョブスがシュミットにメールを送って、結局、お互いの引き抜きをやめようという合意があり、それから、他の業界にも、これに参加するように誘ったというのが報道されています。
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そして、結局、多額の罰金を支払うことになりました。
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