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無線LANただ乗り、電波法は「無罪」…懸念も

「無線LANただ乗り、電波法は「無罪」…懸念も 」 という記事がでています。

法的な問題にコメントするのは、非常に難しく、判決文がないとコメントできないというのが私の主義なのですが、なんといっても、中学校1年のときのアマチュア無線技師の試験のときからお世話になっている電波法の「通信の秘密」に関する判決なので、すこし考察してみます。

まず、最初に基礎知識です。

1)通信に関する法律として「通信の秘密」とかが、よくいわれますが、電気通信事業法における通信の秘密(4条)と電波法における通信の秘密-秘密の保護(59条、刑罰としては、109条)は、事業法が通信に関して知得、漏えい、窃用を禁止しているのにたいして、電波法は、漏えい、窃用のみが禁止されています。(電波については、その内容についての積極的な取得は、「傍受」といわれます。傍受は、禁止されていませんということがいわれるわけです)

2)暗号通信がなされている場合に、その暗号を復号して通信の内容を復元する行為については、通信の知得のみにかかることもあって、電波法の構成要件に該当することはないと考えられていました。

3)そうはいっても、暗号通信は、通信の機密性を維持するための重要なツールなので、何らかの保護が必要でしょうということ(サイバー犯罪条約の関係もあるし)で、平成16年電波法の改正によって、(暗号通信の秘密を漏らし、又は窃用する目的でもって)通信の内容を復元する行為について、109条の2が制定されています。
109条の2は、「暗号通信を傍受した者又は暗号通信を媒介する者であつて当該暗号通信を受信したものが、当該暗号通信の秘密を漏らし、又は窃用する目的で、その内容を復元したとき」は、処罰されるとしています。

4)したがって、解釈としては、復元は、傍受に含まれませんし、また、漏えいや窃用には含まれないと解されています。

ということで、「近所に住む男性が利用する無線LANを使用するための「暗号鍵」を解読。入手した鍵を自分のパソコンに入力してインターネットに接続したとして、電波法違反」ということについて考えれば、
「検察側は「暗号鍵はそれ自体が無線通信の内容を構成する」と指摘し、「他人の暗号鍵で無線LANを使うただ乗りは、秘密の無断使用にほかならない」と主張」というのは、電波法の解釈からいえば、きわめて異端(試験でこういう解釈書かれたら、もう一年勉強してねレベル)ということがいえるでしょう。

(追加ね)とは、いっても、検察も不勉強だったわけではないと思います。109条の2の条文を見てもらえれば、わかりますが、「通信の秘密を漏らし、又は窃用する目的」が必要になるので、通信のリソースを使うのは、この条文の対象にならないものと考えられます。その意味で、通信の内容の機密性の保護という法益をベースに組み立てられているのが確認されるわけです。その上で、困ってしまって、上のような異端の主張をせざるを得なかったのでしょう。(ここまで)

「個人のネットワークの利用権は法的に保護されるべきで、新たな立法措置に向けた議論を早急に進めるべきだ」という上原先生の議論については、無線のルータの利用しうる立場は、ルータのアクセス制御の無権限利用という見地から保護されるべきように思えます。この点については、判決文を見た段階で、検討したいと思います。

なお、検察官で、ここら辺を研究しなくてはならない方のために、無線法律家協会(無法協)というのがあることをご紹介しておきます(原則は、無線従事者ライセンスがないといけませんけどね)。

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