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令和元年民事執行法等の改正は、1 債務者の財産状況の調査に関する規定の整備に加えて、2 不動産競売における暴力団員の買受け防止に関する規定の新設、3 子の引渡しの強制執行に関する規定の整備、4 債権執行事件の終了に関する規律の見直し、5 差押禁止債権に関する規律の見直しを含んでいます。
そして、さらに「等」の部分として、国際的な子の奪取の民事上の側面に関する条約の実施に関する法律の一部改正がなされています。
でもって、ここでは、子の引渡しの強制執行に関する規定の整備と国際的な子の奪取の民事上の側面に関する条約の実施に関する法律の一部改正についてメモします。
これは、改正案の概要によると、 国内の子の引渡しの強制執行は年間100件程度(国際的な子の返還の代替執行は年間1,2件程度)だそうですが、
国内の子の引渡しの強制執行については、現行法において明文なく,動産に関する規定を類推適用しているわけですが、 裁判の実効性を確保しつつ,子の利益に配慮する等の観点から,規律を明確化する必要があるとされました。
明文化された手続は、以下のとおりです。
(子の引渡しの強制執行)
第百七十四条 子の引渡しの強制執行は、次の各号に掲げる方法のいずれかにより行う。
一 執行裁判所が決定により執行官に子の引渡しを実施させる方法
二 第百七十二条第一項に規定する方法2 前項第一号に掲げる方法による強制執行の申立ては、次の各号のいずれかに該当するときでなければすることができない。
一 第百七十二条第一項の規定による決定が確定した日から二週間を経過したとき(当該決定において定められた債務を履行すべ
き一定の期間の経過がこれより後である場合にあつては、その期間を経過したとき)。
二 前項第二号に掲げる方法による強制執行を実施しても、債務者が子の監護を解く見込みがあるとは認められないとき。
三 子の急迫の危険を防止するため直ちに強制執行をする必要があるとき。
3 執行裁判所は、第一項第一号の規定による決定をする場合には、債務者を審尋しなければならない。ただし、子に急迫した危険があるときその他の審尋をすることにより強制執行の目的を達することができない事情があるときは、この限りでない。
4 執行裁判所は、第一項第一号の規定による決定において、執行官に対し、債務者による子の監護を解くために必要な行為をすべきことを命じなければならない。
5 第百七十一条第二項の規定は第一項第一号の執行裁判所について、同条第四項の規定は同号の規定による決定をする場合について、それぞれ準用する。
6 第二項の強制執行の申立て又は前項において準用する第百七十一条第四項の申立てについての裁判に対しては、執行抗告をすることができる。
とされています。そして、実際の執行については、子と債務者が共にいること(同時存在)は不要としつつも、子の利益に配慮し,債権者の出頭を原則化しています。この点は、新聞報道でも触れていますが、「連れ去った親がその場にいることが要件となっている」ために、「親が居留守を使うなどして執行できないケースがある」ことから、この要件がなくなっています。
(執行官の権限等)
第百七十五条 執行官は、債務者による子の監護を解くために必要な行為として、債務者に対し説得を行うほか、債務者の住居その他債務者の占有する場所において、次に掲げる行為をすることができる。
一 その場所に立ち入り、子を捜索すること。この場合において、必要があるときは、閉鎖した戸を開くため必要な処分をすること。
二 債権者若しくはその代理人と子を面会させ、又は債権者若しくはその代理人と債務者を面会させること。
三 その場所に債権者又はその代理人を立ち入らせること。
2 執行官は、子の心身に及ぼす影響、当該場所及びその周囲の状況その他の事情を考慮して相当と認めるときは、前項に規定する場所以外の場所においても、債務者による子の監護を解くために必要な行為として、当該場所の占有者の同意を得て又は次項の規定による許可を受けて、前項各号に掲げる行為をすることができる。
3 執行裁判所は、子の住居が第一項に規定する場所以外の場所である場合において、債務者と当該場所の占有者との関係、当該占有者の私生活又は業務に与える影響その他の事情を考慮して相当と認めるときは、債権者の申立てにより、当該占有者の同意に代わる許可をすることができる。
4 執行官は、前項の規定による許可を受けて第一項各号に掲げる行為をするときは、職務の執行に当たり、当該許可を受けたことを証する文書を提示しなければならない。
5 第一項又は第二項の規定による債務者による子の監護を解くために必要な行為は、債権者が第一項又は第二項に規定する場所に出頭した場合に限り、することができる。
6 執行裁判所は、債権者が第一項又は第二項に規定する場所に出頭することができない場合であつても、その代理人が債権者に代わつて当該場所に出頭することが、当該代理人と子との関係、当該代理人の知識及び経験その他の事情に照らして子の利益の保護のために相当と認めるときは、前項の規定にかかわらず、債権者の申立てにより、当該代理人が当該場所に出頭した場合においても、第一項又は第二項の規定による債務者による子の監護を解くために必要な行為をすることができる旨の決定をすることができる。
7 執行裁判所は、いつでも前項の決定を取り消すことができる。
8 執行官は、第六条第一項の規定にかかわらず、子に対して威力を用いることはできない。子以外の者に対して威力を用いることが子の心身に有害な影響を及ぼすおそれがある場合においては、当該子以外の者についても、同様とする。
9 執行官は、第一項又は第二項の規定による債務者による子の監護を解くために必要な行為をするに際し、債権者又はその代理人に対し、必要な指示をすることができる。
国際的な子の返還の強制執行については、国内と同様の観点から規律を整備する必要あって、それが定められているのが、「国際的な子の奪取の民事上の側面に関する条約の実施に関する法律の一部改正」ということになります。
ハーグ条約については、こちらになります。非常にサイトが充実しています。
条約の日本語訳については、こちらです。
11条には、「締約国の司法当局又は行政当局は、子の返還のための手続を迅速に行う。」という規定があります。
12条は、返還の申請、13条は、返還を命じる義務を負わない場合などの規定です。
このような規定にあわせるために、今回の改正がなされています。
内容としては、「国際的な子の奪取の民事上の側面に関する条約の実施に関する法律(平成二十五年法律第四十八号)」の136条が、現在は、
(間接強制の前置)第百三十六条 子の返還の代替執行の申立ては、民事執行法第百七十二条第一項の規定による決定が確定した日から二週間を経過した後(当該決定において定められた債務を履行すべき一定の期間の経過がこれより後である場合は、その期間を経過した後)でなければすることができない。
となっているところ、
(子の返還の代替執行と間接強制との関係)
子の返還の代替執行の申立ては、次の各号のいずれかに該当するときでなければすることができない。
一 民事執行法第百七十二条第一項の規定による決定が確定した日から二週間を経過したとき(当該決定において定められた債務を履行すべき一定の期間の経過がこれより後である場合にあっては、その期間を経過したとき)。
二 民事執行法第百七十二条第一項に規定する方法による強制執行を実施しても、債務者が常居所地国に子を返還する見込みがあるとは認められないとき。
三 子の急迫の危険を防止するため直ちに子の返還の代替執行をする必要があるとき。
と改正されることになりました。これによって、前置は、必須ではなくなっています。
今ひとつのポイントは、子と債務者の同時存在が必要とされているのを、同時存在の要件を不要としつつ,子の利益に配慮し,債権者の出頭を原則化するということになります。
現在の同法の140条は、
(執行官の権限)第百四十条 執行官は、債務者による子の監護を解くために必要な行為として、債務者に対し説得を行うほか、債務者の住居その他債務者の占有する場所において、次に掲げる行為をすることができる。一 債務者の住居その他債務者の占有する場所に立ち入り、その場所において子を捜索すること。この場合において、必要があるときは、閉鎖した戸を開くため必要な処分をすること。二 返還実施者と子を面会させ、又は返還実施者と債務者を面会させること。三 債務者の住居その他債務者の占有する場所に返還実施者を立ち入らせること。2 執行官は、前項に規定する場所以外の場所においても、子の心身に及ぼす影響、当該場所及びその周囲の状況その他の事情を考慮して相当と認めるときは、子の監護を解くために必要な行為として、債務者に対し説得を行うほか、当該場所を占有する者の同意を得て、同項各号に掲げる行為をすることができる。3 前二項の規定による子の監護を解くために必要な行為は、子が債務者と共にいる場合に限り、することができる。4 執行官は、第一項又は第二項の規定による子の監護を解くために必要な行為をするに際し抵抗を受けるときは、その抵抗を排除するために、威力を用い、又は警察上の援助を求めることができる。5 執行官は、前項の規定にかかわらず、子に対して威力を用いることはできない。子以外の者に対して威力を用いることが子の心身に有害な影響を及ぼすおそれがある場合においては、当該子以外の者についても、同様とする。6 執行官は、第一項又は第二項の規定による子の監護を解くために必要な行為をするに際し、返還実施者に対し、必要な指示をすることができる。
(執行官の権限等)第百四十条 民事執行法第百七十五条(第八項を除く。)の規定は子の返還の代替執行における執行官の権限及び当該権限の行使に係る執行裁判所の裁判について、同法第百七十六条の規定は子の返還の代替執行の手続について、それぞれ準用する。この場合において、同法第百七十五条第一項第二号中「債権者若しくはその代理人と子」とあるのは「返還実施者(国際的な子の奪取の民事上の側面に関する条約の実施に関する法律(平成二十五年法律第四十八号)第百三十七条に規定する返還実施者をいう。以下同じ。)、債権者若しくは同法第百四十条第一項において準用する第六項に規定する代理人と子」と、「又は債権者若しくはその代理人」とあるのは「又は返還実施者、債権者若しくは同項に規定する代理人」と、同項第三号及び同条第九項中「債権者又はその代理人」とあるのは「返還実施者、債権者又は国際的な子の奪取の民事上の側面に関する条約の実施に関する法律第百四十条第一項において準用する第六項に規定する代理人」と読み替えるものとする。2 執行官は、前項において準用する民事執行法第百七十五条第一項又は第二項の規定による子の監護を解くために必要な行為をするに際し抵抗を受けるときは、その抵抗を排除するために、威力を用い、又は警察上の援助を求めることができる。3 執行官は、前項の規定にかかわらず、子に対して威力を用いることはできない。子以外の者に対して威力を用いることが子の心身に有害な影響を及ぼすおそれがある場合においては、当該子以外の者についても、同様とする。