プロ人材、移籍制限歯止め 公取委、独禁法で保護 働き方、自由度高く

 「プロ人材、移籍制限歯止め 公取委、独禁法で保護 働き方、自由度高く」という記事が出ています。いくつかの点についてコメントをすることができるかと思います

まずは、この記事の「雇用契約に類するものには独禁法は適用しがたいと考えて運用している」という1978年の発言について、法的には、どのように位置づけられるのか、ということでしょうか。

週刊誌的には、「吠えない番犬」時代の発言ということになりそうですが、法的には、労働市場については、独禁法は適用されるのか、という点が問題になります。

まずは、労働市場における被用者側におけるカルテル行為については、独占禁止法が適用されないということでいいかと思います。そもそも、労働組合は、労働市場を制限する団体であり、自由市場を念頭におく法的な仕組みでは、違法とされうる存在になるわけです。労働組合法は、それを独占禁止法の適用範囲外とすることが当然の前提になっているという理解でいいかと思います。

わが国では、労働組合と独占禁止法の関係ってあまり意識されていないような感じでしょうか。米国では、1806年には、フィラデルフィア・コードウェイナー事件があって、労働組合に刑事共謀の理論が適用されており、その後、1908年、米国最高裁判所は、ダンバリー帽子工事件で、独占禁止法が労働者にも適用されるとの結論を出しました。米国の労働法は、その後、クレイトン法6条・20条によって、労働組合に対する適用禁止によって、一つの新しい段階に移行したということができます。わが国の文脈に置き換えると、労働組合法自体が、独占禁止法の適用除外に関する特別法として発展してきた、ということになるかと思います。(この部分については、ウイリアム・グールド著 松田保彦訳「アメリカ労働法入門」12頁以下)

参考までに、
クレイトン法(Clayton Act 1914) 第6条
人間の労働は、商品もしくは商業の客体ではない。反トラスト法は、相互扶助 (mutual help)の目的のために設立され、かつ、資本金を有せず(not having capital stock)、もしくは営利を目的としない(not conducted for profit)労働、農業、または園芸団体の存在および運営を禁止し、またかかる団体の各構成員がその適法な目的を適法に遂行することを禁止し、また制限するものと解してはならない。また当該団体もしくはその構成員を、反トラスト法による取引制限の違法な結合(combinations)または共謀 (conspiracies)とみなしてはならない。
(これについては、 独占禁止法適用除外制度に関する資料(増補)堀越 芳昭(山梨学院大学 教授))

クレイトン法20条は、合衆国におけるいかなる裁判所も回復し得ない損害が生ずることが示され、そのため適切な法的救済が存在しないという場合でない限り、「使用者と被用者の間、あるいは被用者間もしくは雇用されているものと雇用を求めているものとの間における雇用ないし労働条件に関する争議のからんだ、もしくは、それより発生した事件」においては、規制的命令もしくは差止命令を裁可してはならない」と定めています(前出 グールド 22頁)

 

では、雇用主側は、どうでしょうか。この点について、わが国の動向について、詳しく論じたブログがあります。「雇用契約と競争法(2)公取委の見解」では、この経緯が詳細に触れられています。また、「労働契約への独禁法の適用」でも、植村弁護士が検討しています。

IT業界的には、(黒)ジョブスがシュミットにメールを送って、結局、お互いの引き抜きをやめようという合意があり、それから、他の業界にも、これに参加するように誘ったというのが報道されています。

シリコンバレーの人材引き抜き合戦でスティーブ・ジョブズ、セルゲイ・ブリンなどの談合が明るみに

「スティーブ・ジョブズの「引き抜き電話はやめよう」が、Apple、Googleへの反トラスト訴訟を引き起こした」

そして、結局、多額の罰金を支払うことになりました。
Appleなどの「従業員引き抜き防止」秘密協定に対し534億円の和解金支払い命令が下される

法的な解釈としては、雇用契約か否か、というので、解釈が分かれるということになるでしょう。雇用契約か否かは、どう判断するのか、ということは、「指揮命令関係にもとづく関係か」というメルクマールでもって判断されて、その「指揮命令関係」については、就労時間、就労のための場所・機器の提供、労働の内容などが総合的に判断されることになります。
記事によると有識者会議によって議論が深まるとのことですが、なりゆきが注目されるということになります。

ネットワーク中立性講義 その11 競争から考える(3)

でもって、ゼロレーティングについて考えてみましょう。

そもそも、いわゆるゼロレーティンクというのは、通信に関するサービスの提供者が、消費者にたいして、特定のコンテンツやアプリケーション等の通信料を無料とするサービス(ゼロ・レーティング)を提供することをいうと定義することができるでしょう。このゼロレーティングが、ブロードバンドに関する市場との関係で、どのような影響を及ぼしうるのでしょうか。これは、そもそも、ブロードバンドに関する市場をどう考えるかということにも、関連します。

このような電気通信をめぐる市場については、総務省が、「電気通信市場検証会議」という研究会を開催しており、そこでの資料が興味深いものです。この会議は、「電気通信市場に関する動向の分析・検証を充実させ、電気通信事業者の業務の適正性等に関するモニタリング機能の強化等を図り、効率的かつ実効性の高い行政運営を確保するに当たり、客観的かつ専門的な見地から助言を得ることを目的」とするものです。

とくに、市場の分析については、この会議の「市場分析の対象について」(平成28年11月25日 総務省総合通信基盤局 電気通信事業部事業政策課)という添付資料が参考になります

総務省は、従来、「データ通信」、「音声通信」、「法人向けネットワーク」の3領域について、それぞれ、サービス市場を画定してきました。この状況をしめした図は、以下のとおりです。

それを、この添付資料においては、移動系通信について、「音声通信市場」と「データ通信市場」の区分を廃止する、という判断がなされました。その結果、以下の図のような市場画定を前提に議論することとなっています。

モバイルブロードバンド市場について検討するときに、製品市場というのは、「製品特性やその価格、使用用途によって、消費者が交換可能あるいは代替可能であるとみなす全ての製品及び/又はサービス」は、何なのか、ということを考えることになります。単なる携帯電話の数というわけではなくて、ブロードバンドで、いつでも、どこでも、接続してパケット通信をなしうるのか、という観点から、画定されるような気がします(理屈的には、顧客と競争者の視点、消費者の嗜好から、判断される-需要者の範囲の画定の問題はありますね。白石 「独占禁止法」(3版)51頁-ガラケーの台数は入るのか、とか、UQは、とかの細かい論点はありそう)。

でもって、資料にも記載されているのですが、「携帯電話・PHSサービス(1億6,143万契約〔2016年6月末。以下同じ。〕)のうち、音声・データの両通信機能を兼ね備えた音声通信・データ通信共用サー ビス(1億2,175万契約)が75%と主流を占める中、音声通信とデータ通信を切り離した「音声通信市場」と「データ通信市場」という区分は、現在普及しているサービスの実態にそぐわないものとなっていること、音声通信専用サービス(39万契約、0.2%)は、音声通信・データ通信共用サービスへの代替による減少が続き、僅少となってきていること、通信モジュール等を除く多くのデータ通信専用サービスは、音声通信・データ通信共用サービスとも需要の代替性があること、データ通信専用のサービスであるBWAサービスのほとんどがグループ内取引によりLTEサービスと併せて提供されていること」
から、「音声通信市場」と「データ通信市場」には区分せず、競争状況等の分析の段階で考慮することとする、とされています。音声通信が、風前の灯火ともいえる状態になっていることは、総務省も正面から、認識しているところです。

では、キャリア別のシェアは、というと、
(1)メイン利用者のアンケートでいうと、ドコモ、KDDI、ソフトバンク、Y!mobile、その他MVNO、持っていない、では、32.8%、29.6%、23.3%、3.4%、MVNO 7.4% 持っていない3.5%だそうです。
(2)総務省の資料だと、携帯電話等シェアという計算の仕方だと、ドコモ、KDDIグループ、ソフトバンクグクループで、それぞれ43.3%、28.9%、27.8%となるそうです。

(基本的には、移動系通信の契約数による。資料は、電気通信事業分野における市場の動向(平成28年5月))

電気通信をめぐる具体的な問題は、以下の図のような構造になる、と判断されています。

固定ブロードバンドと移動系通信市場があって、それにいろいろなアプリケーションが絡んでくるのが、競争上の問題の基本的な土俵ということにになります。

それぞれの市場において、支配的地位を有している事業者が排除的な濫用行為をなさないか、というのが、一つの問題になりますが、わが国においては、電気通信事業法によって、非対称的規制が課されているという特徴があります。そのために、諸外国での「ネットワーク中立性」の議論については、競争の維持という観点からも、一定の回答が与えられているということになるのです。

詳しくは、次回に述べることにしましょう。

ネットワーク中立性講義 その10 競争から考える(2)

前のエントリで、現在、ネットワーク中立性が議論されている市場の関係を図示したところです。

では、この市場の関係が、どのような問題を生みうるのか、ということを考えてみる必要があります。

ところで、市場というのを、どのように画定するのか、というのが一大問題であるのは、「アップル信者の存在の科学的証明?」とか、市場の画定の部分で触れました。

インターネット接続の市場というのが、あるというよりも、固定インターネット接続市場とモバイルインターネット接続市場とにわけて考えられるとおもわれます。理屈的には、需要代替性を優先してみるので、需要者からみて、固定は、速いし、パケット量の制限も考えないで済むけど、一方、モバイル接続も、家の外にスマホをもっていっているときには、スマホでのモバイル接続するよね、ということになるかとおもいます。家の場所でのインターネット接続にモバイルインターネット接続が代替的に利用されているかというと、特に、パケット量の制限がある以上、別個の製品として認識されていると考えられます。

ということで、固定インターネット接続市場を考えていくと、この点については、実績先生のアメリカとの比較のスライドが、わかりやすいかとおもいます。(「日本のインターネット政策と ネット中立性」42頁)

物理的なアクセス回線・ブロードバンドアクセスサービス・インターネット接続サービスについて考えると、いわゆる足回りであるNTT東西自体が、個別・具体的なインターネット接続サービスを提供することができない仕組みになっています。固定に関するISPについては、ブロードバンドアクセスサービスの保有者が、その市場における地位を排除的に濫用するというのが制度的にできないということになっているわけです。

一方、モバイルインターネット接続市場についていえば、現実には、NTTドコモ、KDDI、ソフトバンクが、それぞれ、相当なシェアを有しています。一方、契約数による場合には、MVNOのシェアは、5パーセントとされています。モバイルインターネット市場については、上記電気通信事業者は、ISP機能をみずから所有することができます。

また、モバイルインターネット接続市場の上には、検索・SNS・ショッピング・映像・音楽・ゲーム・地図情報などなどの種々のアプリによって発展する個々のアプリ市場が存在すると認識することができます。

実績先生の「メディアとしてのブロードバンド産業の分析:構造変化とコンテンツ振興政策への含意」によると、ファシリティプロバイダ、サービスプロバイダ、コンテンツディストリビューター、コンテンツプロバイダという各プレーヤーが、今後、次第に垂直的に統合されるようになっていくことが示唆されています(以下の図は、同論文のページより)。

そうだとすると、モバイルブロードバンド接続プロバイダーが、その地位を利用して、他の市場における競争相手を排除しうるのではないか、という論点がでてくることになります。この点については、次のエントリで検討することにしましょう。

 

 

第四次産業革命に向けた競争政策の在り方に関する研究会報告書~Connected Industriesの実現に向けて~

第四次産業革命に向けた競争政策の在り方に関する研究会報告書~Connected Industriesの実現に向けて~」がでています。

趣旨としては「データの収集・蓄積(以下「 集積」という。)や活用の現状を俯瞰した上で、競争環境を整備してイノベーションを促進する観点から、どのようにデータの競争力を評価していくのか、今後どのような事態が想定されるのか、またそうした事態が生じた場合にどのような点に着目していくべきか」という点についての報告書になります。

報告書内容としては

(1)データ駆動社会における「競争の特質」(4頁から6頁)(まったく別のタイトルだけど、こういう感じのほうが分かりやすいとおもう)

(2) データ活用事業モデル(同7から12頁)

(3)競争政策の一般論(13頁から27頁)

(4)具体的な事例検討(28頁以下)

となります。

感想になりますが、(1)ないし(3)については、特に、新規なまとめではないので、特にどうのということを考えなくていいかとおもいます。

(4)についてですが、具体的な「市場」との関係で検討もらえると、もうすこし、具体的な感覚がつかめたかなとおもいます。

競争を語るのであれば、具体的な市場を離れては、競争の検討はありえないはずです。まさに、誰が需要者で、供給者は、だれで、その中で、データがどのような役割を果たしているのか、というのが、検討されるべきに思えます。(また、データ、データといっても、仕方がないですね。データには、個人データもあれば、患者のデータ、医療データもあります。ブルドーザーの機械のデータもあれば、AIの教師データもあります。苦労して翻訳したFCCの通知のデータについては、教えてあげたGoogle先生からお駄賃ほしいよね、というのもあるので、それらの性格ごとに法律問題も違うでしょう)。

データが、経済活動のなかで、どのような役割を果たしているのでしょうか。一つは、グーグルの宣伝モデルは、大きいですね。アマゾンのデータから、全消費行動の把握モデルもすごいでしょう。あとは、コマツのブルドーザーの効率化モデルもいいでしょう。ダビンチの手術データ独占モデルも面白いです。コグニティブAPI提供モデルは、どうかな。

こんな感じで考えると、おいしい市場を抑えるために、その競争力の根源であるデータを押さえるというのが、基本的な戦略ですね。そうだとするとそのベースとなるデータをいかにプロプライエタリな形で、「独占」するか、が政策の肝なのかもしれません。

法律的には、公正取引委員会競争政策研究センター「データと競争政策に関する検討会報告書」が、よくできています。近いうちに、検討して、エントリをあげたいです。

公共財(世耕大臣は「Connected Industries」を標語として、共有データを企業や産業の壁を超えて公共財のように持つというビジョン)とかいう考え方は、いま一つ、ピントがずれているように感じます。

アップル信者の存在の科学的証明?-Googleアンドロイド事件

ほとんどEU競争法の部屋になりかけていますけど、それはそれで。でも、駒澤綜合法律事務所は、「ロコでロハスな法律事務所」(死語か)を目指しています。

冗談はさておき、「Google faces a second massive fine from the EU — this time over Android」という記事がでています。欧州委員会が、モバイルOS市場について、アンドロイドOSが、支配的地位の濫用があったとして、7月4日のエントリの比較ショッピングサイト市場に対する検索市場の支配的地位の濫用を根拠とする罰金にもならぶ、罰金を課せられるだろうという記事です。

この事件は、40099 Google Android事件になります。事件の進行状況は、このページからみることができます。

欧州委員会の手続きは、 Statement of Objections(異議告知書)で開始されますが、その際のプレスリリースは、こちらです(2016年4月15日)。ファクト・シートは、こちら。

このファクト・シートによると、

(1)Googleが、自らのアプリケーションやサービスを、排他的にプレ・インストールすることに対して、スマートフォン/タブレットのメーカーに要求またはインセンティブを与えることによって、Googleがライバルのモバイルアプリケーションやサービスの開発と市場アクセスを違法に妨げているかどうか。
(2)Googleが、アプリケーションやサービスをいくつかのAndroid搭載端末にインストールすることを希望するスマートフォンやタブレットメーカーが他のデバイスに修正された競合するAndroidバージョン(いわゆる「Androidフォーク」)を開発したり、販売したりすることを妨げているか、それによって、 競合するモバイルオペレーティングシステムおよびモバイルアプリケーションまたはサービスの開発および市場アクセスを妨げているか、どうか。
(3)Googleが、その他のGoogleアプリケーション、サービス、API(アプリケーションプログラミングインターフェイス)とAndroidデバイス上で配布されている特定のGoogleアプリケーションやサービスを、結びつける/バンドルすることによって、Googleが競合するアプリケーションやサービスの開発や市場アクセスを違法に妨げているかどうか。

が調査の対象ということです。

Statement of Objectionsの内容は、こちら。

「グーグルの市場支配的地位」「委員会の懸念」から構成されています。

「グーグルの市場支配的地位」
「グーグルの市場支配的地位」においては、「dominant in the markets」として、「一般的検索サービス市場」「ライセンス可能なスマートフォンOS市場」「アンドロイド・モバイルOS市場におけるアプリケーション・ストア市場」において、支配的地位を占めていると主張しています。

「一般的検索サービス市場」は、わかるとして「ライセンス可能なスマートフォンOS市場」というのは、第三者の製造業者が、デバイスに利用できるものをいうそうです。逆に言うと、垂直統合された開発者によって、利用される基本ソフトは、含まないそうです。

個人的には、アンドロイドOSとiOSが、同一市場ではないという認識をしめしているのですが、これは、?ですね。どう考えても、iPhoneとアンドロイドは、同一の市場で争っているような気がするので、欧州委員会は、どうしちゃったの、という感じです。ECの見解だと、アンドロイドのライバルは、WindowsMobile、FirefoxOSということになるのでしょうか。さらに「アンドロイド・モバイルOS市場」という細かい市場までいくと、どうなのでしょうか。

「委員会の懸念」
「委員会の懸念」においては、グーグル製アプリのライセンス、断片化防止、排他性の項目のもとにさらに論じられています。

グーグル製アプリのライセンス
これは、Android用Googleアプリストア、Playストアを端末に事前インストールすること、Google検索の事前インストールを希望するメーカーは、これらの端末でのデフォルトの検索プロバイダとしすること、また、GoogleのPlayストアや検索機能を事前にインストールしたいメーカーは、GoogleのChromeブラウザをあらかじめインストールしておく必要があるということを意味しています。

グーグルのアンドロイドをインストールする場合に、一定の条件を課しておくということなのですが、「ライセンス可能なスマートフォンOS市場」「アンドロイド・モバイルOS市場におけるアプリケーション・ストア市場」 などに細分化して、それぞれで、支配的地位を考えていくというのか特徴になりますね。どうも、日本的には、スマートフォンでの経験がポイントなので、その経験として、どのようなものを提供するかは、提供者の裁量がおおきいんじゃないの?という感想をもちそうですが、どうでしょうか。MSのOSと、ブラウザー市場を分けて、IEブラウザつきのWindowsとIEなしのWindowsを発売させたECなわけですが、それが、消費者にとって、どれだけのメリットがあったんでしょうかね。そんなことをしている間に、サービスは、みんなブラウザ上でおこなわれるようになっているわけです。

断片化防止

委員会によると、「Androidはオープンソースのシステムです。つまり、誰でも自由に使用して開発し、変更されたモバイルオペレーティングシステム(いわゆる「Androidフォーク」)を作成することができます。 もちろん、オープンソースモデルは、競争上の懸念を提起しません – 逆に。 委員会の懸念事項は、オープンソースではないAndroid搭載デバイスでのGoogle独自のアプリやサービスの使用条件に関するものです。特に、メーカーがGoogle PlayストアやGoogle検索などのGoogle独自のアプリをそのデバイスにあらかじめインストールしたい場合、Googleは、Androidフォーク実行中のデバイスを販売しないようにする「アンチフラグメンテーション契約」を締結する必要があります。」というのが問題であるということだそうです。

Google独自のアプリやサービスの使用条件として、OS独自の開発をしないという約束をさせることが、OSが、イノベーティブなものになる機会を消費者から奪っているというのが、委員会の主張です。個人的には、Google独自のアプリやサービスを考えるときには、アンドロイド・アプリ/サービス市場(ストアではなくて)を考えるべきでしょうし、そのなかでは、グーグルは、それほど、力があるとは思いません。(私は、純正で使っているのは、ドライブくらいかな。)それによって、イノベーティブなOSの開発を妨げられているというのは、どうも、分析になっとくがいっていないところです。中国製のGマーケットがないところでも、別にイノベーティブな断片化したOSが生まれているとは、おもえないしね、というところです。

どちらにしても、ここらへんの市場画定は、面倒なところです。

排他性

委員会によると、グーグルは、スマートフォンメーカー・タブレットメーカーやネットワークオペレーターに、多額のインセンティブを支払っていて、排他的に、グーグル検索エンジンをプリインストールさせているのを認めている。委員会としては、もし、他の検索サービスがプリ・インストールされていれば、インセンティブが支払われないというのであれば、問題であると考えているとしています。これは、我が国においても、取引の相手方にたいして、取引のライバルと取引しないことを条件として、条件することは、違法とされるので、インセンティブの額・効果が、取引の拒絶なみであれば、そうなるかな、という感じでしょうか。

どうも、「排他性」のところを除いて、微妙な異議告知書のような感じがします。どのようななりゆきになるのでしょうか。

アップル信者の存在の科学的証明?-

ところで、「アップル信者の存在の科学的証明?」というようにエントリの題名を変更しました。これは、上で検討したように、欧州委員会は、iOS市場と、「ライセンス可能なスマートフォンOS市場」とは、別物であるという認識を有しています。通常の市場画定の作業については、別のページで触れているのですが、欧州委員会は、需要代替性を優先して判断するということをいっています。ということは、需要者をもとに考えて、価格が、5パーセント程度上昇しても、需要者は、代替物には、移動せずに、その価格上昇を許容することになります(SSNIPテストです)。要は、iOSの需要者は、「ライセンス可能なスマートフォンOS」を要した製品とは、別物を使っているので、代替製品ではないと考えていると欧州委員会がデータでもって、判断しているということになります。欧州委員会がどのようなデータを取得しているのかは、よくわかりません。私だったら、オンライン調査で、調べてみたいところですが、それは、さておき、踏まれても、蹴られてもついていきますというのが、iOSの需要者ということになりそうです。世間では、それを「信者」というのですね。

欧州委が示す巨大ネット企業の責任

競争法の教科書に紛れ込んだついでに、いま一つエントリを。「欧州委が示す巨大ネット企業の責任」という記事がでています。
EUのプレスリリースは、こちら

ネットワーク中立性でも示しましたが、独占状態にあることが問題になっているわけではなくて(プレスリリースでも、Market dominance is, as such, not illegal under EU antitrust rules.って書いてあるでしょ)、具体的な排除行為が問題となるわけです(この点は、昨日のエントリでもふれておきました)。

市場の認定
ここでは、ヨーロッパ経済圏(EEA)におけるそれぞれの国における検索市場において「支配的地位(ドミナント・ポジション)」であると認識されています。各国での検索市場での支配的地位と高い参入障壁が認定されています。

支配的地位の濫用
これは、同一市場にせよ別市場にせよ、その支配的地位をその市場において固定・拡張したり、他の市場において「テコ」として利用することが禁止されているわけです。
本件においては、比較ショッピング市場において、この検索市場における支配的地位を頻用したと認定されています。具体的には、自分たちのサイトの検索結果を上に表示する(prominent placement)、また、ライバルのショッピングサイトの検索順位が下がる(demotions-格下げ)アルゴリズムを利用していたとされています。

違法行為による結果
この結果、グーグルの検索結果の現れ方が、ユーザのクリックやトラフィックに影響を与えています。また、グーグルの比較ショッピングサービスへのアクセスを増やし、ライバルのサービスへのトラフィックを減らしています。

あとは、グーグルに関連するものとして、アンドロイドの基本ソフトと、アドセンスの事件があるようです。

この事件の事実関係をみるときに、別の市場における競争を排除するために、支払的地位を濫用するという形態であるということになります。

ちなみに、わが国でいくと、「排除型私的独占に係る独占禁止法上の指針」における供給拒絶・差別的取扱と同様の構造になるということもできそうです。
該当部分は、「供給先事業者が市場(川下市場)で事業活動を行うために必要な商品を供給する市場(川上市場)において,合理的な範囲を超えて,供給の拒絶,供給に係る商品の数量若しくは内容の制限又は供給の条件若しくは実施についての差別的な取扱い(以下「供給拒絶等」という。)をすることは,川上市場においてその事業者に代わり得る他の供給者を容易に見いだすことができない供給先事業者(以下「拒絶等を受けた供給先事業者」という。)の川下市場における事業活動を困難にさせ,川下市場における競争に悪影響を及ぼす場合がある。このように,供給先事業者が市場(川下市場)で事業活動を行うために必要な商品について,合理的な範囲を超えて供給拒絶等をする行為(以下「供給拒絶・差別的取扱い」という。)は,排除行為に該当し得る」ということなのですが、川下市場が「比較ショッピング市場」で、川上が、「検索市場」だとすれば、(比較ショッピング市場が、完全に検索市場に依存しており、そこからの検索でもって上位にランク付けされるという情報の供給がないのであれば、サービスが成り立たないということになるので、このような比喩もなりたちえそうです)、ランクを下げることは、「合理的な範囲を超えて供給拒絶等をする行為である」、ということもできそうです。

ただし、私たちがオンラインショッピングをするという時の行動が果たして、そうなのかというのは、問題ですね。というか、個人的には、完全にアマゾンに直行してしまいます。なので、委員会の市場の認定については、どうも個人的には、違和感が残ります。ITの分野で、MSのOSと、ウエブブラウザーを分離した法的紛争で、どれだけ役に立つ判断がなされたのでしょうか。イノベーションを敵視している間に、他の形態の競争が生まれて、市場の形が変わりつつあるのに、いまさら、の議論をしているようにも思えます。

(なお、利害関係を明らかにしておくと、アルファベットとアマゾンは、株式を有しています)

ネットワーク中立性講義 その9 競争から考える(1)

ゼロレーティングを電気通信市場における競争という観点から考えてみましょう。

この問題については、総務省と公正取引委員会の「電気通信事業分野における競争の促進に関する指針 」(以下、電気通信ガイドラインといいます)というガイドラインがあります。
(なお、公正取引委員会は、「携帯電話市場における競争政策上の課題について」という報告書も公表しています。が、これは、MVNO(Mobile Virtual Network Operator)の新規参入の促進の観点からのもので、ゼロレーティングに直接コメントしているものではありません)。

まず、電気通信事業分野について、競争環境を考えるのは、なぜかというのが、最初の問題になります。
この点については、電気通信ガイドラインの1ページめに① 不可欠性及び非代替性によるボトルネック独占の可能性 ②ネットワーク効果 ③ 市場の変化や技術革新の速度が大変速いことといった事情があげられています。(もっとも、この3点の指摘は、きわめて重要です。IBM、マイクロソフト、グーグルまで、独占と、その弊害が問われているのは、これらの事情とも関係します)

まさに、電気通信事業分野(インターネット分野まで広げた)ときに、市場の健全な競争がきわめて重大な意味をもってくるのは、これらの事情によるものです。
市場における健全な競争が、きわめて重要なのは、いうまでもないのですが、細かく考えていくと、「市場」って何、健全な競争って何という問題が起こります。そのような大きな観点は、とりあえずさて置くとして、具体的な問題について考えていきましょう。

ちなみに、競争の問題というと、まずは、独占禁止法が思い浮かびます。

独占禁止法がどのような観点から、市場の健全な競争を維持するために規制を準備しているか(違反要件)というと(1) 私的独占(2)不当な取引制限(3)不公正な取引方法の3つの観点から規制を準備しています。これらの具体的な趣旨については、公正取引委員会の「独占禁止法の規制内容」が参考になるでしょう。

(2)不当な取引制限は、カルテル等なので、理解しやすいかと思います。

が、(1)「私的独占」というのは、独占状態自体を規制しているわけではなく、「競争相手を市場から排除したり、新規参入者を妨害して市場を独占しようとする行為」(排除型私的独占の場合)のように、具体的な行為を問題にしているということは留意しておくことが必要になります。独占的状態は、それ自体として、公取委が競争回復措置を命じることができますが、実際には、適用されていませんし、そのような状態に到達すると、イノベーションの手を抜くのが、合理的な競争行動になるので、規制としても合理的なものとはなかなかいえないというのが、一般的な理解に思えます。

(3)「不公正な取引方法」は、独占禁止法2条9項で、具体的な行為を定め、さらに、そのうちの6号については、公取委の指定がなされています(平成21年改正によって変わっています)。電気通信事業については、一般指定の適用が問題とされるので、取引拒絶、排他条件付取引、拘束条件付取引、再販売価格維持行為、ぎまん的顧客誘引、不当廉売などが問題となります。
でもって、一般指定が、どのような趣旨から、どのような行為を規定しているのか、特に、電気通信事業ではどうか、ということを考えることになります。

「不公正な取引方法」に定められている行為は
第1は、自由な競争が制限されるおそれがあるような行為で、取引拒絶、差別価格、不当廉売、再販売価格拘束などです。
第2は、競争手段そのものが公正とはいえないもので、ぎまん的な方法や不当な利益による顧客誘引などです。
第3は、自由な競争の基盤を侵害するおそれがあるような行為で、大企業がその優越した地位を利用して、取引の相手方に無理な要求を押し付ける行為がこれに当たります。
に分けられるとされています。

このなかで、公正な競争という観点からみるときに、上の「優越的地位の利用」というのは、すこし、毛色が違っています。基本的に、公正な競争というのは、多くの競争者が存在する、資源の可動性に対する制約が少ない、主体の情報量が豊富で、情報の取得に対する制約がすくない、市場において、取引参加者が、自由な意思決定のもとに取引を行うことをいうと考えることができます。(この公正な競争のところは、来生新「経済活動と法」-市場における自由の確保と法規制-110頁を参照しました)(判決例的には、東宝新東宝東京高裁判決。自由な意思決定というのは、人と意思を通わせることなくということで、自由市場の前提です。労働組合は、古典的な市場モデルでは、それ自体違法で、その違法性を阻却したのがタフト・ハートレー法だったはず)

そのように考えると、この「優越的地位の利用」というのは、この市場の3要素との関係では、関係が薄いということがいえるでしょう。そうはいっても、実際の競争状態は、上のような公正な競争状態とは、異なっています。その場合に、取引が合理的ではないとしても、新たな取引先・新たな取引市場をもとめて、機動的に活動せよ、というのは、合理的ではない(種々のコストがかかりますね。その意味で市場の合理性は、常に限定的なものです)でしょう。そのような状態を認識して、それにいわば「つけ込む行為」を規制することは、広い意味での「公正」な競争という概念に合致するものと考えられます。(労働基準法が、一定の規律を定めてエンフォースするがごときですね)

ここで、もう一度、ゼロレーティングの関係図をみてみましょう。

消費者から見たときに、スマートフォンを利用して、映像のストリーミングを楽しむ、音楽を楽しむ、SNSを楽しむ、というのが、市場や競争の概念との関係で、どのような意味をもつのか、また、エントリを新たにして、考えていくことにしましょう。

ネットワーク中立性講義 その8 日本における通信法との関係

米国の議論を例にして、広くみたときには、ネットワーク中立性の問題は、①利用者の権利とテイクダウン、責任の問題(ブロッキング、帯域制限の問題)②利用者の利用行動の了知の問題題③利用と対価の公平性の問題 ④サービスの質と超過価格⑤契約における透明性の問コンテンツによる区別的取扱⑥ 接続サービスと公平な競争 ⑦その他の問題  が議論されていることになります。

①利用者の権利とテイクダウン、責任の問題
これは、違法有害トラフィック (わいせつ、チャイルドポルノ、その他の違法有害情報)、著作権侵害トラフィック(Winny・ビットトレントその他)に関して、帯域制限、遮断などをすることができるかという論点です

  ②利用者の利用行動の了知の問題

   これは、DPI技術を利用して、インターネットにアクセスしている利用者の行動履歴を収集し、それを分析し、広告に利用することが許容されるのか、という論点で、わが国においても、議論されていましたが、米国でも、特に2000年代後半に議論されています。

③利用と対価の公平性の問題

これは、少数のヘビーユーザのために、多数の一般ユーザが、多額の利用費を支払っているのではないか、それは、非効率的ではないか、という問題です。米国の議論においては、特に明確に議論されることはないかと思いますが、帯域制限などとは、裏表の関係にあるので、ひとつの論点として議論することが可能かと思います。

(平成29年7月5日追加)ということを書いていたら、総務省は、「携帯契約プラン払いすぎ解消へ 総務省、改善策を検討 」という記事がでています。これについても、具体的に利用者の「ひじをおす」という政策をとることになりそうです。ここまでいくと、ネットワーク中立性の概念でしょうか、という気もします。

④サービスの質と超過価格

 これは、米国において、有料優先サービスの問題として議論されている問題です。料金を払うことで、速度の速いインターネットサービスが提供されるということでいいのか、ということになります。

⑤契約における透明性の問題

 これは、インターネット通信における契約条項が明確になっていないのではないか、消費者が理解するのに困難な条項になっているのではないかという問題点です。特に、2014年以降、透明性原則等の名目のもとで、オーダーでの議論対象となっているということは、ふれたところです。

⑥コンテンツによる区別的取扱

 これは、例えば、ゼロレーティングにするなどの問題です。ネットワークに接続する市場において、市場力をもっている業者が自らの関係する会社を利用する場合に、パケット量を計算しないなどの取扱は、違法になるか、という問題です。また、日本においては、チャットツール市場において、LINEは、非常に力があるので、その市場を利用して、接続市場での競争を有利にすることは許されるのか、という問題になります。

⑦ その他の論点

 米国においては、その他の論点として、プライバシーについての監督権限のあり方、インターネットとユニバーサルサービスの関係、などがあり、これらの論点も、具体的な問題としてわが国で検討しなければならないでしょう。

 これらの問題は、きわめて現代的な問題であり、米国や、その他の世界において重大な問題を惹起しているのは、ある意味、当然ということができます。しかしながら、わが国においては、あまり、注目を浴びていないともいえます。(もっとも、今年になって、この議論が再燃しているとしている論文として 立石聡明「Network Neutrality 再燃」があります)

上の論点のほとんどが、日本においても議論されています。そして、それらについて、一定の枠組みが提案されていて、問題としては、いわば、解決済みとなっているということができます。それらを具体的にみていきましょう。

①利用者の権利とテイクダウン、責任の問題

 この問題についていえば、我が国においては、電気通信事業法4条の「秘密の保護」の条文との関係で議論が整理されてきました。電気通信事業法4条の詳細な解釈については、個々では、省きますが、それらも念頭に、違法有害トラフィック (わいせつ、チャイルドポルノ、その他の違法有害情報)については、「インターネット上の違法・有害情報に関する総務省の取組について」が、具体的な対応がまとめられています。

米国においてタイトルⅡオーダーでも議論されている帯域制御・ブロッキングの問題というのは、わが国では、すでに電気通信事業法4条の解釈論のなかで、整理されていて、「中立性原則」という形で議論する意味はないということがいえます

②利用者の利用行動の了知の問題

これも、具体的な利用者の行動を了知して、広告等に利用するという問題については、「利用者視点を踏まえたICTサービスに係る諸問題に関する研究会・第二次提言」(2010年5月)」において、同意の問題として整理されています。

③利用と対価の公平性の問題

この問題は、いわば、優良なユーザが割を食っているということになるわけですが、それらは、契約の条項が、具体的な利用量等におうじて対応すればいいわけです。そうだとすると、電気通信事業法6条の「電気通信事業者は、電気通信役務の提供について、不当な差別的取扱いをしてはならない。」という文言の解釈になるということかと思います。解釈論としては、「国籍、人種、性別、年齢、社会的身分、門地、職業、財産などによって、特定の利用者に差別的待遇を行う」ことが禁止されるということになります。逆に言うと、「合理的な根拠に基づいて取扱に差を設けることまで禁止されるものではない」ことになります。特別の区分に基づく契約条件を設けるというのであれば、別ですが、むしろ、通信にかかる量に比例するような料金体系をとるべきだということはできないでしょう。その意味で、すでに、この「利用の公平」の規定に反するものではないということで決着がついているように思えます。

④サービスの質と超過価格

 これも法的には、③の問題と同様でしょう。

⑤契約における透明性の問題

 電気通信事業法は、26条で提供条件の説明として、「総務省令で定めるところにより、当該電気通信役務に関する料金その他の提供条件の概要について、その者に説明しなければならない。」と定めています。この部分については、電気通信事業分野における消費者保護施策、「電気通信事業法の消費者保護ルール に関するガイドライン」でも詳しく述べられています。

⑥コンテンツによる区別的取扱

 これは、なかなか、困難な問題です。解釈論としては、上記電気通信事業法6条に解釈論と独占禁止法上の解釈論の問題がでてきます。また、ともに重ねて適用されうるのか、両法の関係は、どうか、という問題もでてきます。(FTCとFCCの関係は、どうなの?という米国とも、似ているのかもしれませんが)

 幸い、この問題点については、総務省と公正取引委員会がともに「電気通信事業分野における競争の促進に関する指針 」を公表しています。非常に、興味深い指針であるということができるので、また、別のエントリで検討してみることにしましょう。

⑦ その他の論点

 プライバシについての監督権限のあり方、インターネットとユニバーサルサービスの関係、あと、ネットワーク産業に対する投資を増加させるための通信政策のあり方とか、むしろ、このネットワーク中立性の議論でわが国の観点から興味深いのは、この「その他の論点」のように思えます。

 米国において、プライバシ(通信の秘密)が、情報セキュリティの確保や産業としての投資促進との関係では、トレードオフの側面があるという認識があるように思えます。この理屈はわが国においても、そのとおりなはずですが、プライバシといったとたんに、トレードオフについての思考が停止しているように思えます。ネットワーク中立性の議論のなかで、そのような観点まで議論が発展していくとわが国でも注目されるべき視点になりそうな気がします。

いま一つは、インターネットに接続することのできる地位は、ユニバーサルサービスを受けうる地位なのではないか、という指摘です。そのためには、積極的に公共の支援が正当化されるのではないかということです。ただ、この点は、現在では、固定による接続とモバイルによる接続では、性質も違うでしょうし、そもそも、ユニバーサルサービスといえるものなのか、という点についても、まだ、そこまではいえないようにも思えます。電話がないと生きていけないでしょうというのは、そのとおりの感じなのですが、インターネットがなくても生きていけそうです。(そのほうが、ゆったりと過ごせるとか)。

もっとも、公共の支援が正当化されるのではないかという分野があるのは、そのとおりに思えます。ネットワークの管理を行う作業とか、セキュリティを守る作業、公共機関からの要請に応える作業などを考えることはできるでしょう。ここまでいくと、それらを考えるときに、ネットワーク中立性ということが妥当か、という定義の問題に帰着していくように思えます。

 

 

 

 

 

 

ネットワーク中立性講義 その7 米国の議論(トランプ政権の動き)

2017年1月23日、トランプ米大統領、FCC委員長に規制緩和派のパイ氏を指名した。(記事としては「新FCC委員長はAjit Pai氏?ネット中立性見直しの可能性も」)

パイ委員長は、同4月27日、「インターネットの自由の再構築(Restoring Internet Freedom)」という文書(Notice of Prososed Rulemaking)を公表しました (以下、インターネットの自由NPRMとします)。

この文書は、規則作成についての提案の告知(NPRM)です。

その趣旨は、2015年のFCCのオープン・インターネット・オーダー2015(なお、この文書の元では、タイトルⅡオーダーといっている-ISPをタイトルⅡに位置づけて規制するというアプローチ)によって、イノベーションが危機に瀕しているという判断をもとにしています。

このインターネットの自由NPRMは、具体的には、序、背景、インターネットの公共事業規制の終結、軽いタッチの規制枠組、手続的問題、命令文から成り立っています。

序においては、ISPは、インターネットエコシステムに膨大な投資をしており、それが歓迎されてきていること、2年前にFCCが、その方向性を変更し、基本インフラ型の規制をインターネットに導入し、政府規制型にシフトをしたこと、タイトルⅡオーダーによって、オンラインに対する投資およびイノベーションが危機に瀕したこと、がのべられています。また、プライバシーについてFTCの権限を剥奪しており(タイトルⅡオーダーでFCCが、タイトルⅡにおけるプライバシの適用については、差し控えないとしています)、その意味で、プライバシーを危険にさらしているといえること、もともとの両党派による自由でオープンなインターネットをつくるべきであると考えられていた最初のステップを踏み出すということがのべられています。

背景部分において、

1966年からの基本サービスと拡張サービスの違いが論じられたときから2015年のタイトルⅡオーダーまでの経緯がのべられています。この点については、すでに検討した通りですが、現在にいたるまでの経緯を時系列的にコンパクトにまとめているということができるでしょう。

インターネットの公共事業規制の終結の部分においては、

(1)2015年におけるタイトルⅡ命令の採用までの間に、自由かつオープンなインターネットが栄えたこと、投資額も多かったし、消費者は、高速アクセスを享受していたこと(2)しかしながら、FCCは、ブロードバンド・インターネット・サービスをタイトルⅡのもとで規制される、公共事業規制に従うと判断したこと、という経緯のもと、

これに対して、再度、同サービスを情報サービスに分類し直し、より軽いタッチの規制枠組みで規制されること、を提案しています。この提案は、文言・法の構造、FCCの先例、公共ポリシー(曖昧な規制の撤廃による投資の復活)を根拠とするものです。また、それらに加えて、FCCが、ブロードバンド・インターネット・サービスを情報サービスと分類する法的な権限を有していることについても具体的に論じています。

また、モバイル・インターネット・アクセスサービスは、民間モバイルサービスであるとすることを提案しています。また、タイトルⅡオーダーで明らかにされたFCCの規制の差し控え(forbearance)の適切性、222条規制(FTCからプライバシー規制権限を剥奪したことを改め、権限を戻す)、ライフラインプログラムの提案(ユニバーサルサービスとして、設置、維持、アップグレードについての助力をもらえるようにすること)などについても提案がなされています。

軽いタッチの規制枠組の部分においては、

現存する規則の再評価および体制の執行、ルール採用の権限についての法的権限、コスト・ベネフィット分析の各観点から記述がなされています。

現存する規則の再評価および体制の執行においては、

インターネット行為規範の撤廃、明確な線引きルールと透明性ルールの必要性を決定すること(ブロッキング禁止ルール、帯域制限禁止ルール、優先接続禁止ルール、透明性ルールについてのそれぞれの賛否の意見を求めている)、その余の考察(範囲、モバイルへの適用性、などの意見を求めている)、執行体制が論じられています。これらは、いずれも注目に値するものといっていいと思われます。

ルール採用の権限についての法的権限においては、通信法706条(a)および(b)が、権限を委譲しているというよりも権限を奨励していると解されるとしています。

コスト・ベネフィット分析については、この手続においては、コスト・ベネフィット分析を採用することの是非、また、採用する場合の採用の仕方についての提案を募集すること(Office of Management and Budget, Circular A-4を採用すべきかという点)が議論されています。

手続的問題、命令文については、またの機会にしましょう。

問題は、このインターネットの自由NPRMに対しては、各企業が反対をなしています。特にベンチャー企業が反対をなしています。これは、規制緩和方向への動きであるので、市場(特に接続市場)での実際の力を有しているプレイヤーが、それを有効に行使しうる方向への改正ということを懸念しているからに思われます。

なお、分析としては、「トランプ支持者たちは、自由を望むなら「ネット中立性」を歓迎すべきである」という分析(Wired)もあります。

報道からいうと、「FCCのネット中立性規則見直しに反発 Amazonなどが7月12日に抗議行動」という報道もなされているところです。

米国の動きを、さくっとみておきました。この議論がわが国の議論において、何か参考になることがあるのでしょうか。個人的には、ネットワーク中立性というのが、広範な概念すぎて、米国においては、この概念に、いろいろな問題点を包含しすぎていることの問題点があるように思われます。それらの点については、次の機会に検討してみましょう。

ネットワーク中立性講義 その6 米国の議論(トランプ政権前)

FCCは、2014年5月に、Notice of Proposed Rulemakingで、「インターネットをオープンなままでいることを確かにするために正しい政策は何か」という基本的な質問をなしています。また、ブライト・ライン・ルール(ブロッキングなしルール、帯域制限なし、透明性の増加、および有料優先の禁止を含)を提案して、これを採用すべきか、また、それ以外の標準を用いるべきか、タイトル2が適用されるべきかも含めて諮問をなしています。

2014年11月には、オバマ大統領がインターネットの中立性の保護を訴える声明(Statement on Net Neutrality (Nov. 10, 2014)を発表しました。このステイトメントは「私たちは、インターネット・サーース・プロバイダが、ベスト・アクセスを制限するとき、勝者と敗者を選択することを認めることは許さない。」としています。裁判所のオープン・インターネット・オーダーの一部を無効とした判断については、FCCが、誤った法的アプローチをとっていたからよるとしました。そして、FCCは、ネット中立性を保護するルールのセットを作成すべきであり、ケーブル会社であろうと、電話会社であろうと、ゲートキーパーとして振る舞うことができないように確かにするべきであるとしています。

このステートメントでは、明確な線引きルール(ブライト・ライン・ルール)を提案しています。そして、ステートメントは、これらのルールは、ISPに対してなんら負担を増すものではなく、明確で、合理的なネットーワ―ク管理や、特別のサービスのための例外である、とも述べています。

また、これらのルールは、過去の教訓をもとに構築されなければならないとしました。つまり、もともと、世界に接続する会社は、特別の義務を負っていたとして、独占を貪ることは許されなかったとして、他の重要なサービスと同様の義務を課すべきであり、タイトル2(コモンキャリア)に再分類されるべきであるとしました。

このような経緯のもと、FCCは、2015年2月には、後にタイトルⅡオーダーと呼ばれる新たな規制ルール(REPORT AND ORDER ON REMAND, DECLARATORY RULING, AND ORDER)を公表しました。このタイトルⅡオーダーは、強固なルール、現在のタイトル2における投資の促進、維持しうるオープンインターネットルール、広範囲な規制差し控え(forbearance)を内容としています。

特に、そのうちでもっとも、注目される「強固なルール」は、ブロッキング、帯域制限、有料の優先接続をそれぞれ禁止すること(クリア・ブライトライン・ルール)を特徴としています。これらの規制を正当化するために、インターネットサービスプロバイダをタイトル2で取り扱うように定め直しています。その一方で、FCCは、タイトルにおける30の制定法の規定等の適用を差し控えるものとしました(広範囲な規制差し控え)。なお、プライバシー規定、障害者のアクセス、インフラアクセスの確保などの規定については、適用の差し控えはなされません。

このタイトルⅡオーダーは、2015年6月から効力を有していますが、これに対しても規制権限に関する裁判が提起されました。具体的には、ブロードバントサービスをタイトル2に再指定する権限を有するものではないし、また、仮にその権限があったとしても、その決定は、恣意的であり、また、タイトル2の規定は、憲法の第1修正に違反するというものでした。

ワシントンDC控訴裁判所は、この規制ルールが、FCCに与えられた権限を超過するものとはいえないという判断を下しています(2016年6月14日)。具体的には、実際のブロードバンドの利用は、第三者のコンテンツに対する通信という実質をもつものであって、電気通信サービスであるといえるとしました。

その後、トランプ政権において、これらの議論をめぐる動向は、一変することになります。

(2015年月のオーダーの名称をタイトルⅡオーダーとしました)