遺産分割/調停

ここでは、遺産分割とは何で、そのための調停というのは、どのようなものか、ということを説明します。また、調停や審判を円滑に進めるために留意すべき事項についてもふれることにします。

東京家裁の説明書では、前提の話として以下の三つの点についてふれています。ここでも、これらの点について、コメントしていくことにしましょう。

東京家庭裁判所の調停の進行説明書

東京家庭裁判所においては、具体的な進行について段階的進行モデルを採用しています。

(詳細については、三森 仁 東京家庭裁判所委員会報告 「遺産分割事件を適正かつ迅速に解決するための取組について」があります)

段階的進行モデルというのは、

(1)相続人の範囲の確定

(2)遺産の範囲の確定

(3)遺産の評価

(4)各相続人の取得額

(5)遺産の分割方法

という段階を意識して、進行していく方式になります。家庭裁判所では、調停の際の待合室では、これをビデオにして説明しています。

以下において、東京家庭裁判所家事5部の説明書(遺産分割の調停で相手方となった人に送付される参考書類)をもとに、具体的に説明していくことにします(以下、説明書とよぶことがあります)。

そして、その前に、基本的な考え方についてみていくことにしましょう。

遺産分割とは

遺産分割というのは、遺産を構成している個別財産の各共同相続人への帰属を確定する行為ということができます。

まず、人が死亡すると、遺産は、相続人の間で、一次的・暫定的に共有状態になります。説明書では、

人が亡くなると,亡くなられた方(被相続人)の財産(遺産)は,すべて相続人に移ります。相続人が複数いる場合は,遺産は相続人全員の共有になります。

とされています。

もちろん、このような抽象的・暫定的な共有状態では、実際上、いろいろと不便を来します。例えば、不動産の共有持ち分を換価したいといっても、購入者を見つけるのには困難をきたすでしょうし、仮に見つかっても評価としては、非常に低く見積もられてしまうでしょう。そこで、個別財産の帰属を確定することが必要になるのです。それが、遺産分割です。

個々の遺産を相続人一人ひとりのものにしたり,相続分に相当する金銭を分けたりして,財産の共有状態を解消することが必要となります。
これが遺産分割です。

と説明されています。

遺産分割調停とは

遺産分割に関して相続人が協議で定めることを協議分割といいますが、裁判所において、協議を行うのが、遺産分割調停ということができます。

説明書では

遺産分割調停は,遺産分割について,みなさんが話し合って主体的に解決をする手続です。

とされています。

家事事件手続法244条は、
(調停事項等)
第二百四十四条 家庭裁判所は、人事に関する訴訟事件その他家庭に関する事件(別表第一に掲げる事項についての事件を除く。)について調停を行うほか、この編の定めるところにより審判をする。

としています。

そして、この調停で協議が成立しない場合には、
民法907条2項で

遺産の分割について、共同相続人間に協議が調わないとき、又は協議をすることができないときは、各共同相続人は、その分割を家庭裁判所に請求することができる。

と定められており、家事事件手続法 別表2の12にも

遺産の分割
十二 遺産の分割 民法第九百七条第二項

と記載されています。

調停審判を円滑に進めるために

説明書は、

調停では, 「遺産分割調停の進め方」のとおり、順を追って問題を整理,解決しながら最終的な合意を目指します。紛争の背景にある相続人同士の感情的な対立などを調整しつつ調停を進めますが,調停の主眼はあくまでも遺産をどのように分けるかという点にあります。

という記載がなされています。

裁判所の書類なので、直接的な表現はされていませんが、上の表現は、段階的に進行を進めるので、段階的な整理の順番を良く守ってください、また、法的な効果を発生させないことを裁判所でこだわっても、裁判所は、それを聞いて何かするという場所ではありません、ということが書いてあると考えていいかと思います。

昔から、相続事件は、非常に時間がかかるということがいわれていました。それは、法的に、権利義務の争いとそうではない手続が交錯してしまい、手続き上やむを得ないという理由からそうなることもありましたが、むしろ、当事者が、相続人間の現在に至るまでのやりとりから生じる感情的なもつれまでを裁判所で吐露し、場合によっては、必要以上に、感情的なものにこだわってきていたことに起因していたかもしれません。

まさに、裁判所の関心は、あくまでも「遺産をどのように分けるかという点」にしかないと考えた方がいいかと思います。

また、事実関係については、当事者が積極的に資料を裁判所に提出する必要があります。説明書では、

遺産分割調停を円滑に行うためには,手続の主体であるみなさんが,積極的に手続に関わることが必要です。そのため,遺産分割調停を進めるために必要な遺産の内容等についての資料Iは、 当事者のみなさんに収集していただくことになります。

とされています。

 

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