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デジタル証拠に関する民事訴訟IT化法改正と原本性

「民事訴訟法等の一部を改正する法律案」における司法のIT化に関連する条文 というエントリで、民事訴訟法(IT化関係)等の改正をみてみました。が、そこでは、デジタル証拠という観点からの分析をいれていませんでした。ちょっと確認したいと思います。

1 証拠方法と「情報の内容」

1.1 「情報の内容」の証拠調べの概念

法案自体は、こちらです。 要綱案は、こちら。

第5節の2「電磁的記録に記録された情報の内容に係る証拠調べ」の同231条の2の規定は、前のエントリでも触れておきました。
(電磁的記録に記録された情報の内容に係る証拠調べの申出)
第231条の2

電磁的記録に記録された情報の内容に係る証拠調べの申出は、当該電磁的記録を提出し、又は当該電磁的記録を利用する権限を有する者にその提出を命ずることを申し立ててしなければならない。
2 前項の規定による電磁的記録の提出は、最高裁判所規則で定めるところにより、電磁的記録を記録した記録媒体を提出する方法又は最高裁判所規則で定める電子情報処理組織を使用する方法により行う。

でもって、ここで、電磁的記録に記録された「情報の内容」に係る証拠調べの申出とあり、「情報の内容」が証拠調べの対象となっています。

ところで、従来の「証拠方法」の定義は、

五感によって取り調べることができる有形物

とされていました。そして、

証拠方法の取調べによって感得された内容が証拠資料

と定義されていました。

ここでは、電磁的記録に記録された「情報」(以下、コンピュータ生成記録といます)については、もはや有体物ではなく、これが証拠方法といえるのか、という概念上の問題があるように思います。もっとも、コンピュータ生成記録は、そもそも、書証とどれだけ違うのか、ということもいえるように思います。

ちなみに、証拠方法については、

証拠方法は、ドイツ語のBeweismittelの訳語である。明治23年民訴法では、214条などでこの語が使われていたが、大正15年法では単純に「証拠」の語が用いられ、現行法もこれを引き継いである。これにより、現在では「証拠方法」は、講学上の用語にすぎなくなったが、多義的な証拠の意味を特定する上で、なお重要である。なお、「証拠方法」というよりは、「証明方法」という方がわかりやすいであろう([山内*1931a] 57頁)。

ということです(栗田 隆民事訴訟法講義「証拠1」の注19 )。なので、証拠の媒体(means)という意味になります。むしろ、証拠調べの方法として、コンピュータによって生成された記録に対する「情報内容の取調べ」という手法が証拠の取調べ方法に加わります、ということになると思います。その意味で、証拠方法という用語の定義や名称が問われるということになるのだろうと思います。

従来は、この点について

五感によって取調べをする対象を「証拠方法」といい、それが有形物であることが当然の前提とされています。そして、この証拠方法は、民事、刑事で違いはありますが、基本的には、取調べの対象が人である人証、物体である物証に区別され、さらに、物証は文書と検証物に区別されています。

としていました。しかしながら、むしろ、今後は、媒体・証拠調べの方法・取り扱われるデータ・特徴にわけた議論するほうが合理的であるかもしれません。これをすると以下のようになります。

 

 

 

 

 

 

 

  • 証拠媒体というのは、従来の証拠方法という用語になります。
  • 証拠調べの方法というのは、訴訟法によって準備されている証拠調べの方法です。
  • 取り扱われるデータというのは、証拠媒体に保存されているデータの特徴をまとめています。コンピュータ生成記録について、その証拠調べが、その生成された情報自体(データ)が取り調べの対象とされている-その結果、感得された内容が、証拠資料ということになる、と位置づけられることを意味しています。検証物の有する情報(データ)を証拠とするものというのは、米国法だとリアル・エビデンスといわれているようです。(リアルエビデンスは、米国だと陪審には、直接に見せないといけないとなります)

自分だとしたら、情報のピラミッドに対応して、デジタルデータ対応によって、民事訴訟法の本は、

裁判官がある物体を証拠として取り調べるとき、目やその他の人体機関によって、記載形式、記載内容、色、形など、物体の種々の要素などのデータを取得し、立証の対象となる事実があったかどうか、そのときに事実を認識していたか、事実の存在について合理的な疑いがあるかなど、脳内で一定の判断をなすことになります(図で証拠データとした部分)。このうち、証拠となるデータの媒体は、有体物である場合と人である場合とがあります。記録された証拠は、コンピュータによって生成されたものであるのか、それ自体で、紙に記録されているか、によって、電磁的記録に記録された情報の内容であるのか、書証であるのかにわかれます。また、証拠たるデータが、データの内容が主たるものであるのか、それとも、物の有するデータによるかということでわけてかんがえることができます(後者を米国ではリアル・エビデンスという用語でよんでいます)。これらの種々の証拠の手段の取調べによって感得された内容が証拠資料です。弁論の全趣旨(民事の場合)を加えた証拠原因が、心証形成の原因となり(証拠原因)、判決の基礎が確定されるのです。この過程は上記の情報に関する構造に照らすと、個々のデータが情報として処理され、最終的に事実認定といわれる段階に達する、いわば、ひとつの知恵(wisdom)に至るプロセスであると考えることができます。

と書き換えられるべきではないか、というような気がしています。上の部分は、デジタル証拠本の6頁部分です。これで修正した「情報のピラミッド」はこんな感じです

 

 

 

 

 

 

 

 

この図は、書証に情報の内容が記載されている場合と、コンピュータによってデータが生成された場合とがあることを示しています。コンピュータ生成データの場合は、データが正確に反映されている限りは、原本については、法的に求められている要件を満たすとされています。原本性について、文書の場合と別個の判断がなされるという特徴があるということができると思います。

1.2 人の主張内容を証拠とする証拠の手段

「人の主張内容を証拠とする証拠の手段」として、人証と記録された証拠を考えることができるのではないか、という問題提起をしました。人証は、さておき、記録された証拠といった場合には、

  1. 真正性の要件
  2. ベスト・エヴィデンス・ルール
  3. 伝聞法則

が、それぞれ問題となってきます。その意味で、書証であると、電磁的記録に記録された情報の内容(データ)であると違いません。実は、書証というのは、書証内容(データ)とでもかかないといけなかったように思います。

以下、民事訴訟に関連して、上のテーマについて考えていきたいと思います。

2 主張内容を証拠とする証拠の手段の論点

2.1 真正性の論点

真正性の論点については、「Identification・Authenticity・Authentication・真正性」で検討しています。

民事訴訟法第228条1項

文書は、その成立が真正であることを証明しなければならない。

となっており、この部分が形式的証拠力といわれています。あと、228条4項においては、

私文書は、本人又はその代理人の署名又は押印があるときは、真正に成立したものと推定する。

とされているのですが、この部分が、電磁的記録に記録された情報の内容に係る証拠調べにおいては、準用されていません。(まあ、署名も押印も考えられないというあたりだと思います)

米国の証拠法の真正性(Authenticity)は、関連性の原則が、文書に関して現れるものとされています。記載された内容が、そのソースに依拠する場合には、十分な証拠によってそのソースにリンクされなければならないということです。

2.2 ベストエビデンスルール

その書類の内容を証明しようとしている場合に限りますが、書類の原本を提出することを要請するというルールがあります。このルールがデジタル証拠の場合にどのようになるのか、ということです。

連邦証拠規則1002条は、

この規則または連邦法に別段の定めがない限り、その内容を証明するためには、オリジナルの文書、記録、または写真が必要です。

といっています。

連邦証拠規則 1001条(3)

データがコンピュータまたは類似した機器に蔵置されている(場合)、いかなる印刷出力あるいは視覚により読むことが可能であるその他の出力も、データが正確に反映されているときは、「原本」である。

と述べています。他の態様においては、「複製」(duplicate)として、オリジナルとは別個の扱いがなされているのに対して、コンピュータのデータの正確な印刷出力は、それ自体がオリジナルとされるという点で異なるということになります。

 なお、ここでのオリジナルとは別個の扱いというのは、同規則1003条で

複製物は、原本の真正性に関して、純正(genuine)に関して疑問がある場合、または複製物を認めることが不当である状況を除き、原本と同程度に認められます。

とされているのを意味します。

なみに、このオリジナルについていえば、国連のUNCITRALの電子商取引モデル法 8 条(原本性)もふれています。

第8条 原本

(1) 法律で情報を原本の形式で提示または保持することが要求されている場合、データメッセージが

(a) 情報が最終的な形で最初に生成された時点から、情報のインテグリティについて信頼できる保証が存在する場合

(b) 情報を提示することが要求されている場合には、その情報が提示されるべき人に表示されることができる場合

その要件は、満たされる。

(2) (1)項は、(1)項の要件が義務の形であるか、または情報が提示されなかったり、元の形で保持されなかった場合の結果を単に法律が規定しているかを問わず適用される。

(3) (1)(a)号において

(a) 情報のインテグリティを評価する基準は、通常の通信、保管、表示の過程で発生する裏書の追加や変更は、別として、情報が完全で変更されていないかどうかである。

(b) 要求される信頼性の基準は、当該情報の生成の目的に照らし、かつ、関連するすべての事情に照らして評価されなければならない。

と定めています。

2.3 伝聞法則

伝聞法則というのは、

人々は自己の体験を誤解しあるいは誤認することがありうるので、人間の主張を、供述者を証人席に座らせ、反対尋問にかけることができる法廷において検証することが必要であるというルール

ということができます。デジタル証拠は、裁判所に提出されるまでの過程庭において、人のこのようなルールは、適用されません。State v. Armstead, 432 So.2d 837, 840 (La. 1983)は、

コンピュータ内部の操作結果の出力は伝聞証拠ではない。法廷外の供述者によってコンピュータのなかへ置かれた供述の出力を表すものではない。出力それ自体が伝聞証拠を構成する「供述」であるということもできない。伝聞証拠の法則の基底的な根拠は、そのような供述が宣誓なしになされており、その真実性を反対尋問によりテストできないということである。重要なことは、証人は、意識的にしろ無意識的にしろ、供述者が自分に言ったことを誤って表現するかもしれず、また、供述者は、意識的にしろ無意識的にしろ、事実や出来事を誤って表現するかもしれないという可能性なのである。しかしながら、機械を使うなら、意識的に誤って表現するという可能性はなく、機械が適切に機能していない場合にのみ不正確なデータや誤解を招くデータの可能性が具体化するにすぎない。

として、人間の手によって触れられていないコンピュータ生成記録が伝聞を含みえないことを必然的に意味することを明らかにしています。

 

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