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英国におけるデジタル市場・競争・消費者法案の動向

英国におけるデジタル市場・競争・消費者法案の動向について見ていきます。当事務所のブログで、英国のデジタル市場に対する対応の動向については、

などで見てきているところです。

英国政府としては、まさに新たな競争促進レジームを採用するという考え方を請け出しているところなので、それが具体的にどのように進化しているのか、というのをフォローしたいと考えています。

この点についての資料としてはアシャースト法律事務所「デジタル市場・競争・消費者法案についての英国政府のアップデート」(2022年11月17日) を参照します。

1 5月10日の女王のスピーチ

Queen’s Speech 2022は、こちらです。

競争を促進し、消費者の権利を強化し、家庭や企業を保護するための法案の草案が発表される予定である。また、デジタル市場や最大手のデジタル企業に対する新たな競争ルールを設けるための措置も公表される【Draft Digital Markets, Competition and Consumer Bill】。

該当部分は、こちらです。

2 11月17日の秋のステートメント

秋のステートメント(Autumn Statement 2022: documents)は、こちらです。HTML版

でもって該当部分は、

競争は成長と生産性のための基本である。政府は、デジタル市場における反競争的行為を促進し、これに対処するための新たな権限を競争市場庁に与えるため、「デジタル市場、競争及び消費者法案」を第3回国会に提出する予定である。これらの市場をより大きな競争に開放することは、新しいチャレンジャー企業を奨励し、イノベーションを促進し、消費者にはより高品質の製品とより多くの選択肢を提供することになる。

ということになります。

3  11月28日のCardell CEO(CMA)のスピーチ

このスピーチスピーチは、こちらです。

このスピーチでは、

第一に、デジタル市場の特徴として、多くの多大な便益をもたらす一方で、放置すれば人々や企業にリスクや課題をもたらすことが挙げられます。
第二に、デジタル市場に潜在する懸念の分類と、現在および過去の事例から、これらの懸念に対処するためにCMAがとっている行動の例です。
第三に、法案によって CMA がどのようにデジタル市場を人々、企業、英国経済にとってより良く機能させることができるようになるか、また、その準備のために我々がとっている実践的なステップの概要です。

3.1 デジタル市場の特徴

この点について

一言で言えば、これらのメリットの多くをもたらす同じ機能が、少なくとも顧客や競合他社に大きな損害を与える可能性をも生み出しているという問題です。

といいます。そして3つの例として

  1. デジタル市場では、1社または2社の超大企業が支配するようになり、集中する傾向がありうること
  2. 技術の進歩は諸刃の剣であるということ
  3. デジタル市場の問題は、その規模、範囲、進化のスピードが驚異的であるため、より重要であること

を挙げて、特にデジタル企業にとっては、

このような前例のない規模と範囲を持つ企業は、戦略的な地位を得て、彼らに依存する人々や企業にとって依存の状況、つまり搾取の可能性を生み出し、また、革新的な競争相手を抑止する行動を取ることができるリスクもあります。

はっきりさせておきたいのは、大きいことはそれ自体悪いことではないということだ。成功した企業が成長し、そのイノベーションから利益を得ることができるのは、まったく正しいことです。しかし、そのような企業が時間とともに成長するにつれ、さらなる革新を促し、顧客にとって持続的に良い結果をもたらすために、効果的な競争の対象となり続けることが重要です。

としています。

3.2 懸念の分類と現在での対応事案例

Cardell CEOは、デジタル市場案件へのアプローチを振り返る中で、潜在的な懸念を6つのカテゴリーに大別することが有効であるとします。図示するとこんな感じです。

その6つとは、

  1. 市場支配力をもたらす可能性のある市場の特徴(例えば、ネットワーク効果、ユーザーによるシングルホーミング、規模の経済、大規模データセットによる優位性など、デジタル広告とモバイルエコシステムの市場調査において存在すると確認されたもの)。
  2. 中核的な市場力を強化しうる行動(オンライン選択アーキテクチャ、データアクセス、相互運用性の制限など)。
  3. 市場力を関連市場に活用する行動(自己優遇、抱き合わせ、バンドル、新サービスをターゲットにしたデータの反競争的利用など)なお、事件としては、上述のGoogle Privacy SandboxやGoogle’s Ad Tech競争法調査、Amazonの第三者データ利用に対する競争法調査の対象になっている、または現在調査中)
  4. 新たな市場やイノベーションを阻害・制限する行為(例えば、補完的なサービスに必要なAPIやハードウェアへのアクセスを制限する行為 – Google Play StoreやApple App Storeに関する競争法上の調査に反映されています)。
  5. 市場原理によらずとも消費者に直接被害を与える行為(ダークパターンやオンライン選択の仕組み、消費者行動を歪める虚偽または誤解を招く情報の提供など-例えば、偽のオンラインレビューやソーシャルメディアのインフルエンサーによる隠れ広告に関する消費者保護活動など)。
  6. 市場力の悪用(高額請求、過剰なデータ抽出、企業ユーザーに対するプラットフォームアクセス条件など-例えば、クラウドゲームやブラウザに関する市場調査など)

になります。

3.3 本法律案が成果をさらに向上させる理由

デジタル市場における懸念に対処するために、私たちがすでに行っているさまざまな活動の概要を簡単に説明しましたが、なぜ

現在の権限でできることには限界があり新しいアプローチが必要であるとします。限界の理由として

  1. 既存の競争法および消費者関連法は、主に後方視的であり、被害が発生した後に対処するものです。
  2. 既存の法律には、デジタル市場特有の懸念や新たな懸念に対処するために必要な具体性が欠けている分野があることです。
  3. 現在のツールキットは、急速に発展する市場で見られる問題に対処するために必要な、的を絞った、より参加型で反復的なアプローチではなく、単発の救済や長引く敵対的プロセスに向かう傾向がある。

があげられています。

そして、「デジタル市場・競争・消費者法」(Digital Markets, Competition and Consumer Bill)について

CMAがデジタル市場のリスクをよりよく管理できるようにするもので、より柔軟で協力的、かつ前向きなアプローチを確立し、既存の権限よりも迅速かつ効果的に懸念を特定し対処することができるようにするものです。しかし、これは単に私たちの生活を便利にするということではなく、私がこのスピーチの冒頭で述べた、人々、企業、そして経済全体に対する戦略的成果を効果的に実現するために不可欠なものです。

といっています。政府はこの法案を今国会第3会期に導入することを約束しており、CMAはこのプロセスを支援するため、法案の最終的な形について最新の証拠と助言を提供し、これらの問題について政府と議会に情報を提供する役割を担っているとしています。

彼女によると、この提案は2つの部分から成るとされています

  • 1つは、すべての市場(デジタル市場を含む)における害悪に対処するための新たな権限を導入するものです。
  • もうひとつは、CMAのデジタル市場部門(DMU)に、最も強力な企業、すなわち戦略的市場地位(SMS)を付与された重要かつ定着した市場パワーを持つ企業に対する新しい規制体制を監督する権限を与えるものです。

改革の第一段階は、例えば、オンライン上の偽評価や加入の罠に対処するための、より効果的な権限を与えること、デジタル市場における新しい救済措置の試行と反復を可能にすること、法律違反をより迅速に指摘し、必要に応じて直接執行と罰則で対応することを可能にすることです。

第二の部分であるSMS体制は、デジタル市場における最大手の企業を規制するための新たな事前アプローチを確立し、市場の発展に合わせて行動を形成し、反競争的行為を速やかに終わらせることができるようにするものである。これは、3つの主要な柱によって実現されるとして、

  • 第一に、法的強制力のある行動要件(SMS企業が戦略的市場地位を有する特定の活動において、どのように行動することが期待されるかを明確に規定すること)
  • 第二に、個人データの可動性、相互運用性、データアクセスなどの問題に対処するための競争促進的介入(PCI)
  • 第三に、これらの取引から生じる特別なリスクと潜在的な消費者被害を考慮し、英国の企業や消費者に影響を与える競争の懸念につながる可能性が最も高い合併を早期に可視化すること。

をあげています。

また、

英国におけるこうした変化に備えて、私たちは、人員配置、スキル、専門家によるサポートなど、拡張されたDMUの組織設計を進めています。CMAには法律、経済、政策の専門家という強力な基盤があり、データ、テクノロジー、アナリティクスの専門ユニットも設立されました。DMUは、CMAがマンチェスターで拡大するプレゼンスの一環として、マンチェスターにハブを持つことになります。マンチェスターは、技術だけでなく、法律や金融の分野でも多様で高いスキルを持った労働市場を提供しています。

また、競争や規制の問題、デジタル企業の戦略的優先事項や意思決定プロセスに関する業界知識、デジタル技術に関する技術的専門知識など、いくつかの専門分野にわたって助言する外部のデジタル専門家を起用する予定です。

新体制を運用するために、我々は特定の企業を戦略的市場地位として指定し、その企業が遵守しなければならない個別の行動要件を作成し、それらの行動要件が実際にどのように機能するかについてのガイダンスを公表する必要がある。この作業を完了するための時間枠については、今後数ヶ月のうちに詳細を明らかにする予定です。

ということもアナウンスしています。

現時点においても具体的な法案の内容は、条文としては明らかになっていませんが、今年の注目のテーマになっていくだろうと考えられます。

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