英国におけるGDPR対応の状況-情報コミッショナーの対応

英国の情報コミッショナーにおける対応

(1)概要

情報コミッショナー(ICO)は、GDPRの適用について、「データ保護改革(Data protection reform)」として、専門に解説をなしています。

また、情報コミッショナーは、2017年5月25日に、企業に対して、30年来でもっとも大きなデータ保護法の変革であるとして、準備に遅れることは許されないと(ブログで)発言しています

情報コミッショナーは、GDPRの適用までの準備については、三つのフェーズで準備されるということを明らかにしています(Guidance: what to expect and when
具体的には、
フェーズ1  精通し基礎を固めること(Familiarisation and key building blocks)
フェーズ2 ガイダンス構築およびマッピング、過程の検討および関連ツールの発展( Guidance structure and mapping, process review and initial development of associated tools)
フェーズ3 大量のガイダンスの最新か/提出および検討(Bulk guidance refresh/production and review)
ということになります。

現時点においては、英国は、第1段階から、第2段階に移行する途上であると認識されています。

現時点までに、情報コミッショナーは、
GDPRに備える、現在なすべき12のステップ(Preparing for the GDPR: 12 steps to take now)」
GDPRの概要(Overview of the General Data Protection Regulation (GDPR))」
プライバシー通知、透明性およびコントロール(Privacy notices, transparency and control)」(プライバシー通知実務規範)
同意ガイドライン・パブリックコメント案
プロファイリング・パブリックコメント案
ビッグデータ分析(バージョン2)
を公表しています。

(2)「GDPRに備える、現在なすべき12のステップ(Preparing for the GDPR: 12 steps to take now)」

「GDPRに備える、現在なすべき12のステップ」は、まさにGDPRに備えるために気をつけるべき12のステップを明らかにするものです。
具体的には、
(1)意識(2)保持している情報(3)プライバシー通知(4)個人の権利(5)主体のアクセス要求(6)個人データ処理のための法的根拠(7)同意(8)児童(9)データ侵害(10)データ保護バイ・デザイン、データ保護インパクト評価(11)データ保護責任者(オフィサー)(12)国際関係
にわけて、GDPRに対応するためにとるべき行為をまとめています。

(3)「GDPRの概要(Overview of the General Data Protection Regulation (GDPR))」

GDPRの概要は、組織において、GDPRの重要なテーマを明らかにして、新しい法的枠組を理解するのに一助としようというものです。

具体的に、原則、考慮すべき重要なエリア、個人の権利、説明責任およびガバナンス、データ侵害通知、データ移転、国における適用免除から成り立っています。

原則については、個人の権利/個人データの移転禁止が原則としては記載されていないこと、アカウンタビリティの原則が追加されていることが触れられています。

考慮すべき重要なエリアについては、適法な処理、同意、児童の個人データがあげられています。

個人の権利については、情報を提供されるべき権利、アクセス権、訂正権、消去権、処理制限権、データポータビリティの権利、異議権、自動化された意思決定およびプロファイリングに関する権利について説明がなされています。

説明責任およびガバナンスにおいては、その原則の意義、処理の記録、データ保護バイ・デザイン、データ保護インパクト評価、データ保護責任者(オフィサー)の選任時期、行動規範と認証メカニズムが議論されています。

データ侵害通知においては、その概念、監督機関への通知義務の発生、個人への通知の要否、通知方法、準備について触れられています。

データ移転においては、データ移転が許容されるのが、十分性決定に基づく移転の場合と、適切な保護措置に従った移転があるのか説明されています。

国における適用免除については、GDPR23条が、制限規定を有していること、同9章が、適用除外・例外を定めていることが論じられています。

(4)プライバシー通知、透明性およびコントロール

これは、個人データの取得に際して明らかにされるプライバシー通知(告知されるプライバシーの取扱等に関する情報)に関して、良き実務についてガイダンスを与えようとする行動規範ということになります。

内容としては、効果的なプライバシー情報を提供する理由、プライバシー通知に含まれるべきもの、個人に告知される場所、告知されるべき時機、記載される方式、テストおよび調査、チェックリスト、実際、GDPRとの関係にわけて検討されています。

(5)同意ガイドライン・パブリックコメント案

(6)プロファイリング・パブリックコメント案

これらについては、またの機会ということにしましょう。

ネットワーク中立性講義 その15 ゼロレーティングと利害状況(2)

(2)利用の公平の問題

電気通信事業法6条は、(利用の公平)として「電気通信事業者は、電気通信役務の提供について、不当な差別的取扱いをしてはならない。」としています。

この規定の趣旨は、電気通信役務の提供契約の締結にあたり、また、その提供にあたって、特定の利用者を正当な理由なく差別して有利にまたは不利に取り扱ってはならないという意味であるとされています(2008逐条解説 43頁)。

「不当な差別的取扱い」とは、「国籍、人種、性別、年齢、社会的身分、門地、職業、財産などによって、特定の利用者に差別的待遇を行うことである」と解されています。では、インターネットでのAアプリを使うものだけ、データ量がカウントされないというのは、どうでしょうか。この利用者は、Bアプリを普段使っていても、Aアプリを使えば、データ量がカウントされないので、「特定の利用者」という概念には、当てはまらないようにもおもえます。(この概念自体が、例示も含めて、個人属性によって特定される利用者というのを前提としているようにおもえます)

(3)通信の秘密の保護

電気通信事業法4条は、(秘密の保護)として
「電気通信事業者の取扱中に係る通信の秘密は、侵してはならない。
2  電気通信事業に従事する者は、在職中電気通信事業者の取扱中に係る通信に関して知り得た他人の秘密を守らなければならない。(略)」
としています。

ところで、実際にゼロレーティングを利用するのにあたっては、技術的にDPI技術を利用しなくてはならず、上記の通信の秘密の侵害になるのではないか、という解釈論も出てくるのです。そうは、いっても、利用者は、いつも悩んでいたデータ使用料を気にしなくていいのだから、どう考えたって、同意があるでしょう、ということになるのですが、そうは、いかず、「通信の秘密(通信内容にとどまらず、通信当事者の住所、氏名、発信場所、通信年月日等の通信構成要素及び通信回数等の通信の存在の事実の有無を含む。)に該当する個人情報の取扱いについては、通信の秘密の保護の観点から、原則として通信当事者の個別具体的かつ明確な同意が必要となり、通信当事者の具体的な委任によらない代理人等の同意によることはできない。」とされています(電気通信事業における 個人情報保護に関するガイドライン(平成 2 9 年総務省告示第 152 号 )の解説)31頁。

特定のサービスを特定の利用者Aがいつ利用したのか、いつ利用を終了したのかというのは、上記の「通信の秘密に該当する個人情報」に該当するように思えます。すると、「個別具体的なかつ明確な同意」が必要となると解されます。
「個別具体的」というのは、「利用するその時点」において、「どのような同意をするか、相当程度詳細に情報が提供されて」と解さざる上ないと思われます。すると、ゼロレーティングは、この解釈を厳格に採用する限りにおいて、実際、不可能ではないかと考えられます。もっとも、通信の秘密をめぐる解釈は、金科玉条たる解釈論と、個別に対する解釈論が、遊離している状態(緊急避難の緊急性が非常に緩かったりしますし)ともいえるので、むしろ、利用者にとって、有利になる場合には、「個別具体的」は、「利用する時点」でなくてもいいという解釈が採用されるという日も来ているかもしれません。

個人的には、「窃用」を「自己または他人の利益のために」利用することという枕言葉を復活させるとか、同意の有効性は、文脈によって判断されるとか、通信の秘密は、もっと、大胆に見直すところがあるように思えているのですが、肥大化の解釈をみなおさないでパッチを当てているところで居心地が悪くなっているような気がします。

プロ人材、移籍制限歯止め 公取委、独禁法で保護 働き方、自由度高く

 「プロ人材、移籍制限歯止め 公取委、独禁法で保護 働き方、自由度高く」という記事が出ています。いくつかの点についてコメントをすることができるかと思います

まずは、この記事の「雇用契約に類するものには独禁法は適用しがたいと考えて運用している」という1978年の発言について、法的には、どのように位置づけられるのか、ということでしょうか。

週刊誌的には、「吠えない番犬」時代の発言ということになりそうですが、法的には、労働市場については、独禁法は適用されるのか、という点が問題になります。

まずは、労働市場における被用者側におけるカルテル行為については、独占禁止法が適用されないということでいいかと思います。そもそも、労働組合は、労働市場を制限する団体であり、自由市場を念頭におく法的な仕組みでは、違法とされうる存在になるわけです。労働組合法は、それを独占禁止法の適用範囲外とすることが当然の前提になっているという理解でいいかと思います。

わが国では、労働組合と独占禁止法の関係ってあまり意識されていないような感じでしょうか。米国では、1806年には、フィラデルフィア・コードウェイナー事件があって、労働組合に刑事共謀の理論が適用されており、その後、1908年、米国最高裁判所は、ダンバリー帽子工事件で、独占禁止法が労働者にも適用されるとの結論を出しました。米国の労働法は、その後、クレイトン法6条・20条によって、労働組合に対する適用禁止によって、一つの新しい段階に移行したということができます。わが国の文脈に置き換えると、労働組合法自体が、独占禁止法の適用除外に関する特別法として発展してきた、ということになるかと思います。(この部分については、ウイリアム・グールド著 松田保彦訳「アメリカ労働法入門」12頁以下)

参考までに、
クレイトン法(Clayton Act 1914) 第6条
人間の労働は、商品もしくは商業の客体ではない。反トラスト法は、相互扶助 (mutual help)の目的のために設立され、かつ、資本金を有せず(not having capital stock)、もしくは営利を目的としない(not conducted for profit)労働、農業、または園芸団体の存在および運営を禁止し、またかかる団体の各構成員がその適法な目的を適法に遂行することを禁止し、また制限するものと解してはならない。また当該団体もしくはその構成員を、反トラスト法による取引制限の違法な結合(combinations)または共謀 (conspiracies)とみなしてはならない。
(これについては、 独占禁止法適用除外制度に関する資料(増補)堀越 芳昭(山梨学院大学 教授))

クレイトン法20条は、合衆国におけるいかなる裁判所も回復し得ない損害が生ずることが示され、そのため適切な法的救済が存在しないという場合でない限り、「使用者と被用者の間、あるいは被用者間もしくは雇用されているものと雇用を求めているものとの間における雇用ないし労働条件に関する争議のからんだ、もしくは、それより発生した事件」においては、規制的命令もしくは差止命令を裁可してはならない」と定めています(前出 グールド 22頁)

 

では、雇用主側は、どうでしょうか。この点について、わが国の動向について、詳しく論じたブログがあります。「雇用契約と競争法(2)公取委の見解」では、この経緯が詳細に触れられています。また、「労働契約への独禁法の適用」でも、植村弁護士が検討しています。

IT業界的には、(黒)ジョブスがシュミットにメールを送って、結局、お互いの引き抜きをやめようという合意があり、それから、他の業界にも、これに参加するように誘ったというのが報道されています。

シリコンバレーの人材引き抜き合戦でスティーブ・ジョブズ、セルゲイ・ブリンなどの談合が明るみに

「スティーブ・ジョブズの「引き抜き電話はやめよう」が、Apple、Googleへの反トラスト訴訟を引き起こした」

そして、結局、多額の罰金を支払うことになりました。
Appleなどの「従業員引き抜き防止」秘密協定に対し534億円の和解金支払い命令が下される

法的な解釈としては、雇用契約か否か、というので、解釈が分かれるということになるでしょう。雇用契約か否かは、どう判断するのか、ということは、「指揮命令関係にもとづく関係か」というメルクマールでもって判断されて、その「指揮命令関係」については、就労時間、就労のための場所・機器の提供、労働の内容などが総合的に判断されることになります。
記事によると有識者会議によって議論が深まるとのことですが、なりゆきが注目されるということになります。

ネットワーク中立性講義 その10 競争から考える(2)

前のエントリで、現在、ネットワーク中立性が議論されている市場の関係を図示したところです。

では、この市場の関係が、どのような問題を生みうるのか、ということを考えてみる必要があります。

ところで、市場というのを、どのように画定するのか、というのが一大問題であるのは、「アップル信者の存在の科学的証明?」とか、市場の画定の部分で触れました。

インターネット接続の市場というのが、あるというよりも、固定インターネット接続市場とモバイルインターネット接続市場とにわけて考えられるとおもわれます。理屈的には、需要代替性を優先してみるので、需要者からみて、固定は、速いし、パケット量の制限も考えないで済むけど、一方、モバイル接続も、家の外にスマホをもっていっているときには、スマホでのモバイル接続するよね、ということになるかとおもいます。家の場所でのインターネット接続にモバイルインターネット接続が代替的に利用されているかというと、特に、パケット量の制限がある以上、別個の製品として認識されていると考えられます。

ということで、固定インターネット接続市場を考えていくと、この点については、実績先生のアメリカとの比較のスライドが、わかりやすいかとおもいます。(「日本のインターネット政策と ネット中立性」42頁)

物理的なアクセス回線・ブロードバンドアクセスサービス・インターネット接続サービスについて考えると、いわゆる足回りであるNTT東西自体が、個別・具体的なインターネット接続サービスを提供することができない仕組みになっています。固定に関するISPについては、ブロードバンドアクセスサービスの保有者が、その市場における地位を排除的に濫用するというのが制度的にできないということになっているわけです。

一方、モバイルインターネット接続市場についていえば、現実には、NTTドコモ、KDDI、ソフトバンクが、それぞれ、相当なシェアを有しています。一方、契約数による場合には、MVNOのシェアは、5パーセントとされています。モバイルインターネット市場については、上記電気通信事業者は、ISP機能をみずから所有することができます。

また、モバイルインターネット接続市場の上には、検索・SNS・ショッピング・映像・音楽・ゲーム・地図情報などなどの種々のアプリによって発展する個々のアプリ市場が存在すると認識することができます。

実績先生の「メディアとしてのブロードバンド産業の分析:構造変化とコンテンツ振興政策への含意」によると、ファシリティプロバイダ、サービスプロバイダ、コンテンツディストリビューター、コンテンツプロバイダという各プレーヤーが、今後、次第に垂直的に統合されるようになっていくことが示唆されています(以下の図は、同論文のページより)。

そうだとすると、モバイルブロードバンド接続プロバイダーが、その地位を利用して、他の市場における競争相手を排除しうるのではないか、という論点がでてくることになります。この点については、次のエントリで検討することにしましょう。

 

 

日経トレンディで、法律相談支援チャットボットが紹介されました。

「無人」だから客が集まる、チャットボット接客が続々」という記事で、当事務所の法律相談支援チャットボットが日経トレンディで紹介されました。

「定型化した回答から適切な内容を返す仕組みにとどまっているからだ」というのは、そのとおりです。このあたりの経緯は、「法律チャットボットの作り方 その1-人工知能 対 人工無脳(?)」で触れているのですが、法律相談支援という目的を優先した場合には、「「相談したいのは、何」と聞いて、「相続、離婚、債務、交通事故、不動産、その他」から、タップしてもらったほうがはるかに効率的です。」といえると思います。その意味で、現在の技術のレベルでは、むしろ、このようないわゆるボタン式を採用したのは、合理性があるということになります。

このAIか、ボタン式か、というのは、チャットボット業界で、結構、テーマになっていたりしますので、そのうち、まとめて、再度触れたいとおもっています。それは、さておき、日経トレンディに事務所名が出るとは光栄です。

坂本正幸弁護士が事務所を離れました

坂本正幸法政大学教授が、法政大学の法律相談の指導の関係で、駒澤綜合法律事務所の所属を離れることになりました。

BLT法律事務所の時代から、5年ほど、ご一緒させていただきました。

民事紛争処理の実務のみならず、武力紛争法の研鑽やアマチュア無線に関する電波法規等の研究でもご一緒するのは、今後も変わりません。

とりあえず、ご報告させていただきます。

駒澤綜合法律事務所所長 弁護士高橋郁夫

ネットワーク中立性講義 その2 エンド・ツー・エンド原則と議論の契機

エンド・ツー・エンド原則

インターネットにおいて、電気通信に関する一般的な認識として、E2E原則があります。

これは、ISPは、土管であるとして、利用者から利用者に対する通信について、なんらの変更をなすこともなく、そのまま伝えなければならないという考え方です。
その1で紹介した定義におけるネットワーク中立性も、同様の文脈で語られることになります。

もっとも、具体的に、どのような内容がはいってくるか、という点については、厳密な議論があるわけではありません。網羅的な議論をみていく(C.T.Marsden ” Net Neutrality Towards a Co-Regulatory Solution ”)ときには、①コンテンツによる区別的取扱 ②接続サービスと公平な競争 ③サービスの質と超過価格 ④利用者の権利とテイクダウン、責任の問題 ⑤利用と対価の公平性 などの問題が、ネットワーク中立性の概念のもとに議論されているのがわかります。
(ちなみに、Marsden先生は、前にインタビューしたときにサインをいただきました。)

では、これらの事案は、具体的には、どのようなものであり、どのような観点から議論がなされているのでしょうか。わが国においては、電気通信事業法において、通信の秘密(「秘密の保護」)(電気通信事業法4条)、利用の公平(同6条)が準備されており、上の論点については、それらでカバーされる範囲も相当ありそうに思えます。
また、実際に起こりうる問題を考えるときに、他に適用される規定はないのか、ということを考えることも必要でしょう。

そうだとすると、諸外国で議論されている事案にどのようなものがあるのか、というのを洗い出す作業が出来さえすれば、それに対応するわが国の態度が客観的に見えてくることになります。すなわち、諸外国の議論を分析することが、ネットワーク中立性の議論のアルファかつオメガになりうるのです。

歴史的契機

具体的には、1999年などから、ISPによるコンテンツに対する区別は議論されてきました。

ネットワーク中立性という用語のもとに議論されるようになったきっかけは、Tim Wu教授が、2003年の「Network Neutrality, Broadband Discrimination 」という論文で、ネットワーク中立性の概念を提案したことによります。

この論文では、アプリケーション間の中立性、データおよびQoSが要求されるトラフィックに関する中立性を検討し、これらの潜在的課題に対処する立法を提案しています。また、学問的な分析もなされています。

ネットワーク中立性講義 その1 背景

このごろ、ネットワーク中立性という用語を聞くようになっています。G7、G20、OECD、APECといった多国間の枠組みや、TPP等のFTA/EPA(電子商取引章)の枠組み、WTOなどを通じて、グローバルに議論されるようになってきています。

ネットワークの中立性とは、「インターネット接続業者等が、特定のコンテンツやアプリケーション等を差別・区別することなく、インターネット上の全てのデータを平等に扱うことで、全ての者がインターネットを公平に利用できるようにするべきだとする考え方」と定義することができるでしょう。もっとも、ネットワーク中立性の概念は、論者によって、その含む範囲が異なります。また、視点もネットワークを利用する権利という観点からアプローチするものから公平な競争という観点からアプローチするまで種々のものがあります。

また、諸外国で、ネットワーク中立性の概念で論じられている内容の相当部分が、わが国においては、通信の秘密や利用の公平の概念のなかで論じられているという事象も存在しています。

上述のように多国間の枠組み及びWTO等におけるネットワークの中立性の議論のなかでは、我が国の立場を正確に位置づけようとする必要が出てるのかと思います。しかしながら、どうも、専門的な議論のはずが、評論家的な立場からの議論が表に出てくる可能性があるかと思います。

専門的な立場から、単なる表面的な文言のみではなくその背景の法理論・実務と関連づけて深く検討して、客観的に分析する必要があるにもかかわらず、真のシンテリジェンスが提供されないのは、わが国の悲しい現実であるということがいえるでしょう。

また、電気通信市場においては昨今、MVNO や光回線卸などの業態が進展し、複数の通信サービスやその他のサービス・製品とのバンドルによるサービスの多様化が進んでいます。このようなサービスの多様化などのなかで、通信サービスの提供者が、特定のコンテンツやアプリケーション等の通信料を無料とするサービス(ゼロ・レーティング)を提供することをこころみようとしています。

わが国においても、株式会社LINEがLINEモバイルを提供しており、そのゼロ・レーティングである「カウントフリー」機能が大きな特徴となっており、議論を呼んでいます。

このような取扱が、「ネットワーク中立性の概念」に抵触することになるのか、また、それ以外の根拠などから、許容すべきかどうか、という点が議論になってきています。
「ゼロレーティング」はどうすれば実現できるのか――IIJ佐々木氏が語った課題と今後
とか
「ゼロレーティングを支える技術とローカルレギュレーション」
がでています。

これらに対して、既存のサービスの市場力を利用した通信サービスの提供という観点も含めて、冷静かつ客観的な法的な議論を試みたいと考えています。

AIで価格が高止まり? 新しい形のカルテルとは

「AIで価格が高止まり? 新しい形のカルテルとは 
瀬川奈都子・編集委員に聞く 」という記事が出ています。

新規技術が独占的な性格を有する場合に、その技術がハブとなって、他の市場の参加者が直接に連絡をしないでも、実質的にカルテルとなってしまうということになるかと思います。

ハブアンドスポーク・カルテルといわれる類型の進化版でしょうか。
結構、この類型は、論考がでているようです。
「最近のEUカルテル規制と日本企業への影響」とか「ハブアンドスポークに関する英国の判例」は、参考になるかと思います。

英国の一昔前の事件ですが、Hasbro/Argos/Littlewoods事件(2003)というのがあります。

「英国最大手のおもちゃ・ゲームメーカーであるHasbro社(「モノポリー」で有名)が、カタログ販売をも営むおもちゃの販売店であるArgos社、Littlewoods社とそれぞれ再販売価格維持を含む契約(推奨販売価格RRPを守るとする契約)を締結していた。カタログ販売のモデルというのは、それぞれ、春夏号・秋冬号のカタログを発行し、それに選ばれた種類のおもちゃをのせて、消費者が注文したら、それをサービスポイントであるお店に配送し、消費者は、そこでピックアップするというモデルであった。Argos社は、従来型(電子型ではない)のおもちゃの最大手であり、シェアは、17%、Littlewoods社は、業界5位、シャアは、4%であった。Littlewoods社は、カタログ販売でのArgos社の主たる競争相手であった。
公正取引庁は、このモデルにおいて、上記契約を価格維持の協定があるものと判断した。これらの判断については、争われたが、結局、責任と罰金 を認める判断が確定した。」
という事案です(ITリサーチ・アートの調査研究より)。Hasbroが、ハブになって、Argos社、Littlewoods社の間で直接の連絡がなくても、同様の効果が生じていました。(なお、2005年まで、英国では、再販売価格維持は、それ自体で違法とはされていませんでした)

無線LANただ乗り、電波法は「無罪」…懸念も

「無線LANただ乗り、電波法は「無罪」…懸念も 」 という記事がでています。

法的な問題にコメントするのは、非常に難しく、判決文がないとコメントできないというのが私の主義なのですが、なんといっても、中学校1年のときのアマチュア無線技師の試験のときからお世話になっている電波法の「通信の秘密」に関する判決なので、すこし考察してみます。

まず、最初に基礎知識です。

1)通信に関する法律として「通信の秘密」とかが、よくいわれますが、電気通信事業法における通信の秘密(4条)と電波法における通信の秘密-秘密の保護(59条、刑罰としては、109条)は、事業法が通信に関して知得、漏えい、窃用を禁止しているのにたいして、電波法は、漏えい、窃用のみが禁止されています。(電波については、その内容についての積極的な取得は、「傍受」といわれます。傍受は、禁止されていませんということがいわれるわけです)

2)暗号通信がなされている場合に、その暗号を復号して通信の内容を復元する行為については、通信の知得のみにかかることもあって、電波法の構成要件に該当することはないと考えられていました。

3)そうはいっても、暗号通信は、通信の機密性を維持するための重要なツールなので、何らかの保護が必要でしょうということ(サイバー犯罪条約の関係もあるし)で、平成16年電波法の改正によって、(暗号通信の秘密を漏らし、又は窃用する目的でもって)通信の内容を復元する行為について、109条の2が制定されています。
109条の2は、「暗号通信を傍受した者又は暗号通信を媒介する者であつて当該暗号通信を受信したものが、当該暗号通信の秘密を漏らし、又は窃用する目的で、その内容を復元したとき」は、処罰されるとしています。

4)したがって、解釈としては、復元は、傍受に含まれませんし、また、漏えいや窃用には含まれないと解されています。

ということで、「近所に住む男性が利用する無線LANを使用するための「暗号鍵」を解読。入手した鍵を自分のパソコンに入力してインターネットに接続したとして、電波法違反」ということについて考えれば、
「検察側は「暗号鍵はそれ自体が無線通信の内容を構成する」と指摘し、「他人の暗号鍵で無線LANを使うただ乗りは、秘密の無断使用にほかならない」と主張」というのは、電波法の解釈からいえば、きわめて異端(試験でこういう解釈書かれたら、もう一年勉強してねレベル)ということがいえるでしょう。

(追加ね)とは、いっても、検察も不勉強だったわけではないと思います。109条の2の条文を見てもらえれば、わかりますが、「通信の秘密を漏らし、又は窃用する目的」が必要になるので、通信のリソースを使うのは、この条文の対象にならないものと考えられます。その意味で、通信の内容の機密性の保護という法益をベースに組み立てられているのが確認されるわけです。その上で、困ってしまって、上のような異端の主張をせざるを得なかったのでしょう。(ここまで)

「個人のネットワークの利用権は法的に保護されるべきで、新たな立法措置に向けた議論を早急に進めるべきだ」という上原先生の議論については、無線のルータの利用しうる立場は、ルータのアクセス制御の無権限利用という見地から保護されるべきように思えます。この点については、判決文を見た段階で、検討したいと思います。

なお、検察官で、ここら辺を研究しなくてはならない方のために、無線法律家協会(無法協)というのがあることをご紹介しておきます(原則は、無線従事者ライセンスがないといけませんけどね)。